会社登記事項が無効であるときの抹消登記


会社登記簿に登記された事項が無効だから、抹消して欲しいというご依頼がたまにあります。

これは可能なのでしょうか?

不動産登記では抹消登記が良くあります(抵当権抹消など)が、会社登記では簡単に抹消することはできません。

分類して考える必要があります。

もくじ
  1. 本当に無効なのかの峻別
  2. 抹消登記ができる場合
  3. 訴えをもってのみ無効を主張することができる場合とは?
  4. 登記事項に無効原因があり、訴え以外で無効主張できる場合とは?
  5. 抹消登記の添付書類
  6. 無効原因証明情報とは別に必要になることがある上申書
  7. 抹消登記の申請書

本当に無効なのかの峻別


会社法等が実施すべきと定めた事項を実施しないまま登記がなされた場合であっても、必ずしも無効とは限りません。

そして、無効でない場合には、抹消登記をすることができません。

したがって、まず、無効か有効かを判断する必要がございます。

最高裁第二小法廷昭和36年3月31日判決(昭32〔オ〕79号、新株発行無効請求事件、民集15.3.645)
 

要旨

◆有効な取締役会の決議を経ない新株発行の効力(積極)

◆株式会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、これにつき有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行は有効である。

(要旨はWestlawJapan)

抹消登記ができる場合


まずは条文を見てみましょう。

商業登記法第134条 (抹消の申請)
 
  1. 登記が次の各号のいずれかに該当するときは、当事者は、その登記の抹消を申請することができる。
    1. 第24条第1号から第3号まで又は第5号に掲げる事由があること。
    2. 登記された事項につき無効の原因があること。ただし、訴えをもつてのみその無効を主張することができる場合を除く。
  2. (略)
商業登記法第24条 (申請の却下)
  (柱書略)
  1. 申請に係る当事者の営業所の所在地が当該申請を受けた登記所の管轄に属しないとき。

  2. 申請が登記すべき事項以外の事項の登記を目的とするとき。

  3. 申請に係る登記がその登記所において既に登記されているとき。

  4. (略)

  5. 第21条第3項に規定する場合において、当該申請に係る登記をすることにより同項の登記の申請書のうち他の申請書に係る登記をすることができなくなるとき。

  6. (以下略)

商業登記法第21条 (受付)
 
  1. (略)

  2. (略)

  3. 登記官は、二以上の登記の申請書を同時に受け取つた場合又は二以上の登記の申請書についてこれを受け取つた時の前後が明らかでない場合には、受付帳にその旨を記載しなければならない。

第24条第1号、第2号、第3号は、見ての通りですね。

第5号が少し分かりにくいですが、機会があれば例を追加します。

 

さて問題は「登記された事項につき無効の原因があること。ただし、訴えをもつてのみその無効を主張することができる場合を除く。」です。

まず、ただし書きの「訴えをもってのみその無効を主張することができる場合」には抹消登記を申請できないとなっていますので「訴えをもってのみ無効を主張することができる場合」は何かを見ていきましょう。

訴えをもってのみ無効を主張することができる場合とは?


会社法第828条が「訴えをもってのみ主張することができる無効」を13個列挙しています。

  1. 会社の設立
  2. 株式会社の成立後における株式の発行
  3. 自己株式の処分
  4. 新株予約権(当該新株予約権が新株予約権付社債に付されたものである場合にあっては、当該新株予約権付社債についての社債を含む。以下この章において同じ。)の発行
  5. 株式会社における資本金の額の減少
  6. 会社の組織変更
  7. 会社の吸収合併
  8. 会社の新設合併
  9. 会社の吸収分割
  10. 会社の新設分割
  11. 株式会社の株式交換
  12. 株式会社の株式移転
  13. 株式会社の株式交付

同条は、無効を主張できる期間についても定めています(意外と短い)ので、要注意です。

また、会社法第846条の2は「株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得の無効」も訴えをもってのみ無効を主張できるとしていますが、登記事項には関係がないので、ここでは説明を割愛します。

 

要するに、登記事項に無効があったとしても、上記13個に該当すれば、訴訟をしないと抹消登記できないことになります。そして、訴訟の認容判決があった場合には、いずれの抹消登記も裁判所書記官が登記所に嘱託して行うことになります(会社法937Ⅰ①、同Ⅲ)ので、当事者は抹消登記申請をする必要がありません。

登記事項に無効原因があり、訴え以外で無効主張できる場合とは?


例えば、役員選任が無効である場合には、総会決議が無かった、無効であった場合などが考えられます。そして、株主総会決議不存在確認や無効確認は、訴えをもってのみ無効を主張できる場合に含まれていません。

そうすると次は「無効であることを証する書面」を添付できるか否かということになりそうです。

抹消登記の添付書類=無効原因証明情報


法令の定め

商業登記法第134条 (抹消の申請)
 
  1. 登記が次の各号のいずれかに該当するときは、当事者は、その登記の抹消を申請することができる。
    1. 第24条第1号から第3号まで又は第5号に掲げる事由があること。
    2. 登記された事項につき無効の原因があること。ただし、訴えをもつてのみその無効を主張することができる場合を除く。
  2. 第132条第2項の規定は、前項第2号の場合に準用する。
商業登記法第132条 (更正)
 
  1. (略)

  2. 更正の申請書には、錯誤又は遺漏があることを証する書面を添付しなければならない。ただし、氏、名又は住所の更正については、この限りでない。

申請書または登記簿の記載そのものによって登記に無効原因のあることが判明する場合には、これを証する書面を添付する必要はなく、この場合には、抹消登記の申請書にその旨を記載しなければなりません(商業登記規則100Ⅲ→同98)。

平成24年4月3日民商898号民事局商事課長通知

無効原因証書の作成者(作成者のほかに署名者又は記名押印者がいるときは、これらの者を含む。)が、当該申請書に記載された抹消すべき登記事項に係る登記の申請書に添付された書面の作成者と異なる場合(作成者の一部が異なるときを含む。)には、裁判書の謄本その他の公務員が職務上作成した書面が添付されている場合を除き、当該登記の抹消の申請は受理することができない。また、無効原因証書の作成者の名義と抹消すべき登記に係る添付書面の作成者の名義とが同一である場合であっても、これらの書面に押印された印鑑の全部又は一部が異なるときは、当該無効原因証書に作成者が登記所に提出している印鑑が押印されているとき又は当該無効原因証書に押印された印鑑につき市区町村長の作成した証明書が添付されているときを除き、当該登記の抹消の申請は受理することができない

平成24年通知を表にすると・・・

抹消対象登記の添付書類(作成者と押印者) 無効原因証明情報の作成者
株主総会議事録(代表取締役A、取B、取C)
  • 代表取締役A、取B、取C【1】
  • 用意できなければ、裁判所の謄本その他の公務員が職務上作成した書面
就任承諾書(取締役C)
  • 代表取締役A、取締役C【1】
  • 用意できなければ、裁判所の謄本その他の公務員が職務上作成した書面

【1】BやCが「抹消対象登記の添付書類に押印した印鑑」と同じ印鑑で、無効原因証明情報に押印できないときには、無効原因証明情報には実印を押印し、市区町村長発行の印鑑証明書を添付します。

 

以下もご参照ください。

  • 神﨑満治郎/商業・法人登記実務上の諸問題(第9回)/登記研究794/35頁/H26
  • 神﨑満治郎/商業・法人登記実務上の諸問題(第57回)/登記研究845/33頁/H30

令和3年押印規定の見直し(登記添付書類の一部については押印省略が認められる)がなされたが、無効原因証明情報への影響はあるか?

  • 「無効原因証書」については,作成者全員の印鑑につき,登記の抹消の申請書に記載された抹消すべき登記事項に係る登記の申請書に添付された書面に押印された印鑑と同一の印鑑若しくは登記所届出印を押印し,又は無効原因証書に押印された印鑑につき市町村長の作成した証明書の添付を要するとする取扱い(平成24年4月3日付け法務省民商第898号民事局商事課長通知)に変更はない。これは,一旦適法とされた登記事項を当事者の意思によって覆すという重大な効果を生じさせることから,慎重な手続を確保する必要があるとされたものと考えられる。
  • 今後は、押印規定の見直しに伴い,押印されない添付書面の存在が想定されるところ,抹消すべき登記事項に係る登記の申請書に添付された書面に押印がなかった場合には,無効原因証書に登記所届出印又は市町村に登録した印鑑の押印(市町村長の印鑑証明書添付)がされていれば,登記官が無効原因証書の真正を効率的に判断することができるとされたものと考えられる。

以上、青山琢麿(法務省民事局総務課企画第二係長(前法務省民事局商事課商業法人登記第一係長))・服部直樹(法務省大臣官房秘書課政策立案連絡調整政策評価係長(前法務省民事局商事課電子認証係長))/令和3年改正商業登記規則等に基づく商業・法人登記事務の取扱いについて/登記研究882/23頁/R3を参照

無効原因証明情報とは別に必要になることがある上申書


法務省のサイトに具体的なひな形がありましたので、掲載します。

ただし(届出印)との記載は、筆者が追記しました。

 

清算結了登記をしたあとに、会社名義の財産が出てきた場合において、当該財産を処分換金しようとするときには、清算結了登記の抹消登記が必要です。清算結了登記に無効原因があることは当該会社名義のまま残された財産の明細(例えば、不動産の場合には登記事項証明書)がそれに当たりますが、当該財産の明細には、法人印は押印されていないので、上申書が必要になります。

具体的なひな形

上申書

静岡地方法務局○○支局 御中

 

当法人は、令和○年○月○日付けで清算結了登記を申請し、登記記録が閉鎖されました。しかし、当法人名義の不動産があることが判明し、残余財産を処分するために清算結了登記を抹消し、登記記録を回復したく上申します。

※清算結了登記を抹消する具体的な理由を記載してください

 

令和○年○月○日

 

申請人 (本店)静岡県○○市○○町○番地の○

    (商号)株式会社○○○○

    代表清算人 (氏名)○○○○  (届出印)

抹消登記の申請書


こちらも法務省のサイトより転載しました。

株式会社抹消登記申請書
フリガナ ○○○○
1.商号 株式会社○○○○
1.本店 静岡県○○市○○町○番地の○
1.登記の事由 登記事項不存在による抹消
1.登記すべき事項 令和○年○月○日【1】登記した清算結了の登記の抹消
1.登録免許税 金6,000円
1.添付書類

残余財産を証する書面【2】

委任状(代理人が申請する場合)

【1】清算結了の登記をした日を記入します。

【2】上申書及び財産が残っていることが分かる書面(例:不動産の登記事項証明書、預金通帳の写し及び保険証書の写し等(写しは原本証明不要))