義父母の遺産を受け取れるかも?!特別寄与料制度新設(2019.7.1以降開始相続)


義父母の世話をした妻には、相続権はありません。

夫が生存していれば、夫(側)の寄与分として認められることもありましたが、夫が義父母よりも先に死亡していた場合には、妻は義父母の相続人ではありませんから、何も受け取ることが出来ませんでした。

こういう不合理を解消するため、民法改正が行なわれ2019(平成31、令和元)年4月1日以降に開始した相続では「特別寄与料」の制度が新設されました。

もくじ
  1. 特別寄与料(以前の制度との比較)
  2. 特別寄与料はどういう場合に請求できるか(要件)
  3. 特別寄与料を請求できる期限(とても短いので速やかに専門家へ相談必要)
  4. 特別寄与料と他の請求権との関係

特別寄与料(従来の制度との比較)


 

従来の制度

(2019.6.30まで開始相続)

改正制度

(2019.7.1以降に開始した相続)

効果

妻は相続人ではないので、遺産を受け取ることはできません。

夫の寄与分として、夫の相続分が上乗せされることはあっても、貰えるのは、あくまで夫でした。

妻は相続人ではありませんが、無償の介護により義父母の財産維持に特別に寄与したといえる場合には、義父母の相続人に対して、「特別寄与料」を請求できることになりました。

 

次のような事例で考えてみましょう。

 

     ┌(亡)長男(被相続人よりも先に亡くなった)

     │    ||   

     │   長男の妻(長男死後も被相続人を一生懸命介護した)

     │

被相続人─┼ 二男(一切介護せず)

     │

     └ 長女(一切介護せず)

 

従来の制度

(2019.6.30まで開始相続)

改正制度

(2019.7.1以降に開始した相続)

長男の妻

相続人ではないので、遺産を受け取ることはできない。

二男・長女に対して特別寄与料を請求することができる。 

二男

長女

介護をしなくても法定相続分を貰える。

長男の妻に何等請求されない。

長男の妻から、特別寄与料の請求をされることがある。

介護などの貢献に報いることができ、実質的公平が図られることになる。

言葉は似ていますが、「寄与分」「特別縁故者への分与」とは全く異なる制度です。

特別寄与料はどういう場合に請求できるのか(要件)


民法第1050条(特別の寄与)
  
  1. 被相続人に対して無償で【2】療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした【3・4・5】被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)【1】は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
  2. 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りでない。
  3. 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
  4. 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
  5. 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する【6】。

【1】請求できる者

次の者を除く、被相続人の親族(6親等内の血族、3親等内の姻族)
× 相続人
× 相続放棄をした者
× 相続欠格者(民891)
× 廃除された者

【2】無償で

×被相続人から、労務の実質的対価を受け取っている(生前贈与、遺贈など)

△被相続人以外から一定の金銭等を受領している→寄与料算定の中で事情として考慮(減額)される。

△被相続人が、寄与者の生活費を負担していた→直ちに無償性の否定には繋がらない。

【3】寄与の方法

寄与分より限定される。紛争の複雑化・長期化防止、制度目的などからと説明される。

特別の寄与料 寄与分(民904の2)
× 被相続人の事業に関する労務の提供
× 被相続人の事業に関する財産上の給付
被相続人に対する療養看護 被相続人の療養看護
その他の労務の提供 その他の方法

【4】寄与の程度

「特別」であることが必要とされ、身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献である必要がある。

【5】寄与の結果(相続財産の維持・増加との因果関係)

行為:特別の寄与

 ⇅ 因果関係が必要

結果:相続財産の維持・増加

【6】請求の相手方

  • 相続人が、法定相続分又は(遺言による)指定相続分に応じて負担する。
  • 被相続人の債務ではなく、相続人固有の債務である。

特別寄与料の請求期限


民法第1050条(特別の寄与)
  
  1. (略)
  2. 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りでない。

特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき

<又は>

相続開始の時から1年を経過したとき

は、

家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができない。

期限がとても短いので、迷っている暇はありません。

速やかに専門家へ相談する必要があります。

特別寄与料と他の請求権との関係


二つの法律構成

相続人でない親族(非相続人)が被相続人(他の相続人)に対して、金銭を請求しうる二つの法律構成(訴訟物)は、次のとおりです(日弁連編/Q&A改正相続法のポイントー改正経緯をふまえた実務の視点ー/新日本法規/2019/270p以下参照。)

家族法上の請求 財産法上の請求

従来:相続人である夫(妻)の寄与分として請求(民904の2)

改正:特別寄与料の請求(民1050)【6】

  1. 被相続人・非相続人間に準委任契約【1】が締結されている場合→報酬請求(民648)【2】
  2. 被相続人・非相続人間に雇用契約が締結されている場合→報酬請求(民623)【3】
  3. 事務管理→事務管理に基づく費用償還請求(民697)【4】
  4. 何等の法律上の原因に基づかない労務の提供である場合→不当利得返還請求(民703)【5】
形成権 形成権ではない
家庭裁判所 簡易裁判所・地方裁判所

【1】法律行為でない事務の委託だから「準委任(民656)」

【2】準委任契約に基づく報酬請求権(訴訟物)

要件事実① 委任契約の成立

要件事実② 報酬支払い合意☛(準委任を訴訟物にしたときの問題点)立証困難か?

要件事実③ 委任事務の履行or報酬支払期間の約定 

【3】雇用契約に基づく賃金請求権(訴訟物)

 要件事実① 雇用契約の成立

 要件事実② 雇用に対応する期間における労働義務の履行

 要件事実③ 請求に対応する期間の賃金額、賃金締日、支払日の定め☛(賃金請求権を訴訟物にしたときの問題点)立証困難か?

【4】事務管理に基づく費用償還請求(訴訟物)

 要件事実① 本人のためにする意思をもって最も本人の利益に適合する方法によって本人の事務をしたこと

 要件事実② 本人のために有益費を支出したこと及びその額☛(事務管理費用償還請求権を訴訟物にしたときの問題点)金額が制限されるか?

【5】不当利得に基づく利得金返還請求(訴訟物)

 要件事実① 原告の損失

 要件事実② 被告の利得

 要件事実③ ①②の因果関係

 要件事実④ ②が法律上の原因に基づかないこと

(以上、訴訟物、要件事実については、全て「岡口基一・要件事実マニュアル」より)

【6】無償であるという明らかな合意のもと行なわれた労務の提供であっても、「特別寄与料」は請求可能(第19回議事録32.33頁)

二つの法律構成の関係(請求権競合)

  1. 財産法上の請求権が認められそうなときも、特別寄与料を請求可能=特別寄与料が請求されたとき、相手方は財産法上の請求権が認められることを抗弁にできない
  2. 特別寄与料が認められそうなときも、財産法上の請求可能=財産法上の請求がなされたとき、相手方は特別寄与料が認められることを抗弁にできない
  3. 「財産権上の請求権」を訴訟物とするか、「特別寄与料」を訴訟物とするか、その選択権は、請求権者にある。
  1. 特別寄与料が認められた場合には、その限度で財産法上の請求は認められない。
  2. 財産法上の請求が認められた場合には、その限度で特別寄与料の請求は認められない。

人気の関連ページ