会社を設立するとき、新規事業を立ち上げるとき、とても大切なのが「事業目的」です。
この記事では、「事業目的の定め方」について、解説しています。
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この記事の内容は、動画でもご確認いただけます。
佐藤大輔司法書士(あなまち司法書士事務所・神戸市灘区)が、スタートアップ支援専門家団体「BAMBOO INCUBATOR」のYouTubeでお話ししています。
この動画は、専門誌「月刊登記情報 2025年2月号(759号)」一般社団法人金融財政事情研究会様に「逐条解説 スタートアップ向けモデル原始定款_v1.1 第1回」と称して寄稿した内容を含んでいます。
■購入方法(月刊登記情報)
一般社団法人金融財政事情研究会様:TEL: 03-3358-0019
事業目的とは、簡単にいうと「何をする会社か」を内外に示すものです。
このように事業目的は、とても大切なものですので、定款に記載され(会社法27、会社法576)、登記もされます(会社法911~914)。
また、事業目的を変更した場合には、2週間以内に登記が必要とされ(会社法915Ⅰ)、この期間に遅れると100万円以下の過料の制裁を課されることがあります(会社法976Ⅰ)。
【1】会社ではない個人事業主であれば、(会社と違って)どんな事業を行うことも自由です。
会社の目的に関するルールは近年大幅に緩和されました【1】。
かつて【2】 | 現在 | ||
適法性 | 違法行為や資格が必要な業務を無資格で行うことは認められません。【3】 | ▶ | 緩和なし。 |
営利性 | 株式会社や合同会社は営利なのだから、非営利はダメ。ただし、公益事業でも利益を得る可能性があれば可能。 | ▶ | 緩和なし。 |
明確性 | 誰でも理解できるよう「明確」であることが必要。辞書に載っている程度には知られている単語を使う必要がある。 | ▶ | 緩和なし。 |
具体性 | 誰でも理解できるよう「具体的」であることが必要。 | ▶ |
大幅に緩和。 商業、工業なども可能になった。【4】 |
【1】かつては、「同一市町村内に、同一事業目的を持つ、類似商号の会社」を設立できませんでした(旧商法19条:類似商号規制)。そこで、会社設立登記をする際には、類似商号規制をクリアしているか調査するためには、他社の事業目的をチェックしていました。
この類似商号規制が撤廃されたため、事業目的に関する規制も大幅に緩和されることとなったのです。
【2】かつては、会社を設立する場合には、下記2冊の書籍で調べたうえ、登記官に事前にチェックしてもらっていました。特に「明確性」や「具体性」は、登記官の裁量範囲が広いため苦労しました。
【3】例えば、司法書士が社長で株主であっても、司法書士業務を行う株式会社は設立できません。司法書士業務を行えるのは個人である司法書士か司法書士法人に限られるからです。
事業が法律で規制されているビジネスであれば、事業活動は違法になり、処罰を受けることもあります。事業開始後になって「えっ?!そんな規制があったの?!」ということの無いよう、慎重に調査する必要があります。事業の適法性を確認する方法についてご興味がおありの方は、記事「ビジネスの適法性の調査方法」をご確認ください。
【4】法律上「1円で会社設立が可能になった」から、実際に1円で作ってみたら、銀行口座を開設できなかった。融資を受けられなかったという事例もあるように、可能なことでも実際やってみると弊害が生じるということがあります。法律は最低限のルールだからです。
司法書士お薦めの「事業目的の定め方」は、次のとおりです。
これまでの経験から、司法書士がお薦めする「事業目的の定め方」は、次のとおりです。
多すぎると、何をする会社なのか分からなくなり、融資などで問題になることがあります。
一方、少なすぎると、将来、新規事業を展開するたびに、事業目的の変更手続(株主総会や登記)が必要になり面倒です。
中小企業であれば、10個前後をお薦めします。
現時点では許認可がない場合であっても、入れておいて支障ありません。
ただし、将来、許認可を取得する際には「事業目的の文言(表現方法)」が問題になることがありますので、許認可庁に確認のうえ、文言(表現方法)を決めてください。
(司法書士にご依頼の場合には、司法書士が確認します。)
将来、行う可能性がある事業も入れておくと、その事業を開始しようとした時に、事業目的の変更手続(株主総会や登記)をする必要がなく、コスト的にもお得です。
お金と時間を使って行うメインの事業を一番上に置くようにしてください。
「前記各号に附帯関連する一切の事業」または「前記各号に附帯関連する一切の業務」などと入れておくと、関連する事業を行えるのでお薦めです。
事業目的の決定は、簡単そうでとても難しいです。
ジャンル別にご紹介します。
新品しか売らないという場合には、必要ありませんが、中古品を売る場合には警察で「古物商の許可」を取得する必要があります。その時に必要になりますので、次の目的を入れておきましょう。
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建設業の許可は全部で29種類あります。建設業の事業目的に、どのように表現すれば良いかは都道府県によって異なります。すなわち⑴単に「建設業」又は「建設工事業」と記載すれば29種類全ての許可が取れる都道府県と、⑵具体的に許可を取得する目的を「建築工事業」「大工工事業」「左官工事業」「とび・土工工事業」などと記載しなければならない都道府県があります。
そこでオススメは、自社のメイン事業を下記「1.~29.」の中から選んで入れたうえ(下記のとおりの法令に規定された言葉を使うことをオススメします。)、最後に包括的な「建設工事業」を入れておくことです。
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【1】「建設工事業」は、建設関係では一番広い意味です。追加で許認可を取得することを想定して、主要な工事以外にも入れておくことをオススメしています。
「建設工事」は「建築工事」よりも大きい概念です。
建設工事 > 建築工事(建物を建てるの意味) + 土木工事(建築以外) |
【2】建設関係では、後日許可を取得することも多いためオススメしています。
不動産仲介(売買や賃貸)だけを行う場合には、下記「1.」「8.」を入れておけば良いと思います。
それに加えて、分譲等も行っていく場合には、将来の建設業許可の取得を見据えて、下記を全てを入れておいた方が無難です。
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【1】「建設工事業」は、建設関係では一番広い意味です。追加で許認可を取得することを想定して、主要な工事以外にも入れておくことをオススメしています。
「建設工事」は「建築工事」よりも大きい概念です。
建設工事 > 建築工事(建物を建てるの意味) + 土木工事(建築以外) |
建設業の許可は全部で29種類あります。
都道府県の申請窓口によって、単に「建設業」と記載すれば28種類全ての許可が取れる場合と、具体的に許可を取得する目的を「建築工事業」「大工工事業」「左官工事業」「とび・土工工事業」などと記載しなければならない場合がございます。許可を取得される窓口や行政書士に確認ください。もちろん当グループで、行政書士をご紹介することも可能です。
【2】建設関係では、後日許可を取得することも多いためオススメしています。
【3】火災保険・地震保険ついでに自動車保険・生命保険なども入れるのが通常です。
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【1】中古自動車を扱う場合には、所轄警察署で「古物免許」を交付してもらう必要がありますので、この事業目的は必須です。
【2】自賠責や自動車保険を扱う場合には、必要になります。
【事業持株会社(=HD自身も事業を行う)の場合】 当会社は、当会社自身が次の事業を営むことを事業目的とするとともに、次の事業を営む会社の株式または持分を所有することにより、当該会社の事業活動を支配及び管理することを事業目的とする。
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【純粋持株会社(=HD自身は事業しない)の場合】 当会社は、次の事業を営む会社の株式または持分を所有することにより、当該会社の事業活動を支配及び管理することを目的とする。
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【持株会社であることを余り匂わせない場合】
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これらも多い事業目的です。
司法書士にご相談ください。
貴社サービスに応じた「格好良い事業目的」をご提案させていただきます。
客の隣に座って接客するスナックやクラブの場合、風営法の許可を取得する必要があります。ついつい事業目的に「風営法に基づく・・・」と入れてしまいがちですが、出来るだけ回避すべきです。
「風営法に基づく・・・」と事業目的に入れてしまうことで、金融機関に借入を渋られたり、会社自体がうさん臭く見られたりすることのデメリットがあるためです。
詳細は、こちらのページ(法律文書作成のルール)の接続詞の項目をご覧ください。
新規事業を始めるにあたり必ずしも事業目的の変更を行う必要があるとは限りません。
今ある事業目的の範囲内であれば、何ら問題はありません。最後の事業目的に「前記各号に付帯関連する一切の事業」と入っていますよね。これが入っていれば、結構大丈夫です。
何といっても3万円も登録免許税だけでも掛かってしまいます。
本当に必要なのかは、司法書士に問い合わせましょう。
事業目的を変更するタイミングは、整理すると次のようなものになります。
「登録免許税3万円に司法書士報酬が必要?そんなもの大したことないでしょ。それよりも新規事業を始めるにあたりビシッと入れたい」という方は、是非ビシッと入れて、新規事業を目立たせましょう♪
融資銀行の依頼を断わるのは、あまり得策とは言えません。ここは言うことを聞いておきましょう。
ただし、後日いちゃもんを付けられないよう「こういう文言で入れるよ。いいね?」と言質をとっておきましょう。
他の登記と同時に申請することで、登録免許税が安くなることもあります。
商業登記では、課税根拠ごとに登録免許税の額が決定されます。
登録免許税の課税根拠が「目的の変更」と同じとき、つまり次のような登記を行なうときに「目的変更登記」を一緒に申請すれば3万円の経費削減ができます。
以上、登録免許税法「別表第一」の24(一)ツ
ある事業が「会社の事業目的」の範囲内か否かについては、次の二つとの局面で問題となりえます。
このあたりについては「加藤政也司法書士編集/Q&A商業登記と会社法/新日本法規/2022/106頁以下」にまとめられているので、ご興味がおありの方はご参照ください。
業務 | 司法書士の報酬 | 費用 |
目的変更の登記 登記に必要な議事録作成 |
41,030円(税込) | 34,072円 |
【1】変更後の事業目的を追記した定款の作成費用は含まれておりません。WORDファイルをご提出いただければ追記いたします。
紛失した定款の再現や、定款見直しは、38,500円(税込)~で承ります。