判決による登記(登記引取請求認容判決)


登記名義を寄こせという「登記請求」だけではなく、「登記を引き取れ」という請求も認められます(最高裁昭和36.11.24判決)。

 

自分の所有物ではなくなっても、登記名義が残っていると、

✔ 固定資産税を負担しなければならなかったり、

✔ 土地の工作物責任(民717)を負う可能性があったり、

という不利益があるからです。

もくじ
  1. 判決とれても登記できない?!
  2. 間違いなく登記できる理由

判決とれても登記できない?!


最高裁昭和36.11.24判決以降、あるいは法務局の昭和55.3.4民三1196回答以降、「登記引取請求認容判決」に基づく登記の可否について触れた判決・先例はほとんど存在していません。

これをもって、本当にできるのかとご心配される方が多いのです。

 

安心してください。登記をするために適切な判決を獲得できれば登記できます。

提訴前に管轄法務局と「請求の趣旨」について調整してから提訴なさることをオススメします。

間違いなく登記できる理由


旧・不動産登記法27条(明治32年6月16日~平成17年3月31日)

判決又は相続による登記は登記権利者のみにて之を申請することを得。 

この条文そのままでは、登記義務者が登記権利者に対する「登記引取請求認容判決」を添付して登記義務者単独で登記できるかは、明らかでは、ありません。

条文そのまま読めば、できなさそうです。

最高裁昭和36.11.24判決(昭和33〔オ〕1128号)

登記引取請求権が実体法上存在していることを認めた最高裁判例

真実の権利関係に合致しない登記があるときは、その登記の当事者の一方は他の当事者に対し、いずれも登記をして真実に合致せしめることを内容とする登記請求権を有するとともに、他の当事者は右登記請求に応じて登記を真実に合致せしめることに協力する義務を負うものというべきである。本件において、被上告人は上告人からその所有にかかる本件宅地を買い受けその旨の所有権取得登記を経由したが、上告人において売買契約の条件を履行しないためこれを解除したことを理由として、右登記の抹消登記手続を求めるものであるから、上告人は之に対応して右抹消の登記に協力する義務ある旨の原審の判断は、前判示に照して正当である。

昭和55.3.4民三第1196号回答

旧・不登法27条の規定にもかかわらず、登記義務者は登記権利者に対する判決をもって登記できるとした登記先例

元本の確定後に、代位弁済を原因とする根抵当権移転の登記を申請する場合において、根抵当権設定者がその前提となる元本の確定の登記の申請に協力しないときは、代位弁済者は、根抵当権者に代位して根抵当権設定者に対して確定の登記手続を命ずる判決を得て、代位により、単独で元本の確定の登記を申請することができる。

【解説】マニアックなので、一般の方はスルーして結構です。

根抵当権の元本確定後に、代位弁済することによって根抵当権移転登記請求権を取得した代位弁済者は、根抵当権設定者がその前提となる元本確定登記に協力しないときは・・・

〔第1段階〕代位弁済者は、根抵当権者が根抵当権設定者に対して有している元本確定登記請求権(元本確定登記では、設定者が登記権利者、根抵当権者が登記義務者であるので、根抵当権者の設定者に対する元本確定登記請求権は登記引取請求権である。)を債権者代位で行使して、設定者(登記権利者)に元本確定登記をすることを命ずる判決を取得することができる。

〔第2段階〕代位弁済者は、根抵当権者に代位して、単独で元本の確定の登記を申請することができる。

      

 

判  決

 

原告:代位弁済者

被告:設定者

主文:被告は、原告に対して、別紙物件目録記載の不動産について〇〇法務局〇〇出張所令和年月日受付第〇〇号で登記された根抵当権を令和年月日確定を原因とするの元本確定登記手続をせよ

登記申請書①

登記の目的:〇番根抵当権元本確定

登記原因:年月日確定

権利者:根抵当権設定者

義務者(被代位者):根抵当権者

代位者(登記申請人):代位弁済者

代位原因:年月日代位弁済の根抵当権移転登記請求権

添付書類:登記原因証明情報たる判決書正本

登記申請書②

登記の目的:〇番根抵当権移転

登記原因:年月日代位弁済

登記権利者:代位弁済者

登記義務者:根抵当権者

平成6年3月27日初版「新訂不動産登記書式精義上巻」123頁・香川保一編

旧・不登法27条の規定にかかわらず、権威ある書籍(法務局ならどの出張所にでもある、司法書士なら誰もが持っている)も、登記引取請求認容判決に基づく登記義務者による単独登記申請を認めています。

登記義務者が登記権利者に対し登記申請の意思表示を求める訴えを提起した場合に、その訴えの利益が肯認されて、登記申請手続を命ずる判決がなされた場合、登記義務者が単独で登記所に出頭し、登記原因を証する書面としての判決正本を添付して申請書を提出すれば、登記権利者の登記申請の意思表示が登記法に従ってなされているものとみなされるのであるから、共同申請の原則に合致している適法な申請と考えてさしつかえないわけである。このように解すれば、右の本来の登記義務者の判決による登記の単独申請も、これを許してさしつかえないものと解される。

同書には、登記引取請求認容判決に基づく登記申請においても、登記権利者と登記義務者が逆転するわけではない旨も記載されている。

新・不動産登記法63条(平成17年4月1日施行)

ようやく法改正され、登記引取請求認容判決に基づき、登記義務者が単独で登記申請できることが明示されるに至りました。

(条文冒頭省略)申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。  

改訂補訂版 設問解説 判決による登記(奈良明夫著/日本加除出版/平成29.4.26発行)35頁

旧法27条は、判決による登記は登記権利者のみで申請することができる旨を規定していましたが、改正後の法63条1項は、「申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続を命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。」と規定しています。

【結論】登記手続法上も、登記引取請求認容判決に基づく登記義務者単独による登記申請は受理されます。

「請求の趣旨」だけ、事前に打ち合せをお願いいたします。

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