第三者のためにする契約(いわゆる三為契約、新中間省略登記)の契約実務・取引実務・登記実務


この記事は、あなまち司法書士事務所の所員のためのマニュアルに加筆して公開したものです。

 

〔汎用〕記事の中で登場するAさん、Bさん、Cさんはそれぞれ次の意味です。

  • Aさん:現在の登記名義人、売主
  • Bさん:中間者
  • Cさん:買主
もくじ
  1. (旧)中間省略登記とは何だったのか?
  2. 第三者のためにする契約とは?!
  3. 三為契約の契約実務
  4. 「三為契約の契約実務」を誤ると、どうなるか?
  5. 三為契約の取引実務・登記実務

(旧)中間省略登記とは、何だったのか?!


不動産の所有権が、Aさん→Bさん→Cさんと移転した場合に、AからCに所有権移転登記をすることができれば、Bは高額な登録免許税を納める必要がなくなります。

登記所(法務省)の見解

登記簿には「権利の移転の経緯を正確に表現する」必要があるので、これを認めない。

裁判所の見解

【当初】所有権移転の経過に適合しない中間省略登記を請求する権利はない(大判明44.5.4)

【その後】

登記名義人及び中間者の同意がある場合に限り、中間省略登記請求権を認め、その合意に基づく登記を有効とする判例変更がなされ(大審院大5.9.12判決)、これが確立した判例となっています(大判大8.5.16、大判大11.3.25、大判昭8.3.15)。

【さらに】整理されていきます。

最高裁昭和40年9月21日第三小法廷判決

  • Cさんには、中間省略登記請求権はない。
  • AさんとBさんの同意があるときは、Cさんには中間省略登記請求権がある。
  • AさんBさんの同意がないときは、Cさんは債権者代位権によって先ずBさんへの移転登記をAさんに訴求し、その後BさんからCさん自身への移転登記を請求しなければならない。

 

 

最高裁昭35年4月21日第一小法廷判決

  • Bさんの同意なくなされた中間省略登記は無効。
  • Bさんの同意を得ずに中間省略登記された場合でも、Bさんに保護すべき正当の利益がないと認められるときは、Bさんは、一旦なされた中間省略登記の抹消請求はできない。

 

 

最高裁昭46年11月30日第三小法廷判決

  • 中間省略登記の合意があったらといって、当然にBさんのAさんに対する所有権移転登記請求権が失われるものではない。

裁判所の見解を受けての登記所(法務省)の登記実務

【原則】登記申請書や添付書類の記載から、中間省略登記であることが分かる登記は、認めない。

【例外】中間省略登記を命じる判決があるときにのみ、中間省略登記を認める。

第三者のためにする契約とは?!


一瞬であっても、Bさんに所有権が移転するから中間省略だと言われるんだから、一瞬たりともBさんに所有権を移さなければ、中間省略登記などと言われなくなるのではないかと、考えた実務家が開発した契約の方法(スキーム)です。

第三者のための契約では、Bさんは、Aさんから所有権を買うわけではありません。

第三者のための契約は、次の条文によって認められた完全に合法な契約方法です。

民法第537条(第三者のためにする契約)

  1. 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
  2. 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
  3. 第1項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。

三為契約の契約実務


民法第538条(第三者の権利の確定)

  1. 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
  2. 前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、同条第1項の契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。

民法第539条(債務者の抗弁)

債務者は、第537条第1項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。

三為契約の契約文例

AB間契約、BC間契約それぞれに「特約」として次の文言を追加ください。

文言は変更せず、そのまま使うことをオススメします。

AB間契約の特約

第1条(第三者のための契約及び所有権の移転先及び移転時期)

①売主及び買主は、本契約が第三者のためにする特約を付した売買契約として締結されるものであることを確認する。

②買主は、本物件の所有権の移転先となる者(買主を含む)を指定するものとし、売主は本物件の所有権を、買主の指定する者に対し、買主の指定及び売買代金全額の支払を条件として、直接移転する。

第2条(所有権の留保)

売買代金全額の支払いがなされたとしても、買主が買主自身を本物件の所有権の移転先に改めて書面をもって指定しない限り、買主に本物件の所有権は移転しないものとする。

第3条(受益の意思表示の受領委託)

売主は、移転先に指定された者が売主に対して行う「本物件の所有権移転を受ける旨の意思表示」の受領権限を買主に与える。

第4条(買主の所有権移転債務の引き受け)

買主以外の者に本物件の所有権を移転させるときは、売主は、買主がその者に対して負う所有権の移転債務を履行する為に、その者に本物件の所有権を直接移転するものとする。

BC間契約の特約(売主はB、買主はC、登記名義人・所有者はA)

第1条(第三者の弁済)

本物件は、未だに登記名義人が所有している為、本物件の所有権を移転する売主の義務については、売主が売買代金を受領したときに、その履行を引き受けた本物件の登記名義人である所有者が、買主にその所有権を直接移転する方法で履行するものとする。

第2条

売主は、売主と登記名義人との間の本物件についての平成○年○月○日付売買契約における債務(買主を所有権の移転先として指名すること、売買代金全額の支払い等)を本契約第○条の所有権の移転及び引渡までに(または同時に)履行し、登記名義人の買主に対する抗弁を除去するものとする。

BC間を仲介する場合の注意事項、Cさんの注意事項

BC間の契約は、AB間の契約が真正に成立していることを前提に締結する必要があります。

よって、BC間を仲介する仲介不動産会社(及びCさん)は、AB間の売買契約書をも事前に確認する必要があります。

 

第三者のための契約を行なった場合、契約当事者にそれぞれの売買金額は分かりますか?

A(所有者・売主)-B(中間者)-C(最終買受人)とした場合、 AB間、BC間の契約は別の契約です。よって、 ①AさんにBC間の売買金額は、わかることはありません。 ②CさんにAB間の売買金額は、わかることはありません。 もっともCさんが「AB間契約が成立している証拠を見せて欲しい」と言えば、AB間契約書を開示するべきです。その場合でも、AB間で成立した売買金額までは示す必要がありません(黒塗りにして提出して結構です。)。

「三為契約の契約実務」を誤ると、どうなるか?


三為契約に不適合な契約書のみで、AからCに移転登記した場合は、公正証書原本等不実記載罪(刑法第157条)が成立します。同罪は、虚偽の登記申請を行うことで、公文書である登記簿に虚偽の登記を行わせたことを罰する罪です。法定刑は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

 

刑法第157条(公正証書原本不実記載等)
 
  1. 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
  2. (略)
  3. 前二項の罪の未遂は、罰する。

 

例えば、AB間又はBC間の契約書に上記のような特約が入っていない場合には、それぞれ変更契約書を作成し、三為契約に適合する文言を追加ください。

 

例えば、BC間で共同事業をする場合であっても、AB間とBC間の売買代金が全く同じであっても、三為不適合の場合には、AからCに直接移転登記をすることはできません。その場合には少なくとも当事者変更合意書をABC間で締結ください。

 

司法書士は、大切なお取引先に対して堅いことを申し上げたくないのですが、お取引先の事業活動が刑法など法律に触れるおそれがある場合には、お取引先のために修正や変更をお願いしております。ご理解とご協力をお願いいたします。

 

三為契約の取引実務・登記実務


通常の不動産登記とは異なり、次の書面が必要となります。

登記原因証明情報

AB(C)が連名で作成した登記原因証明情報を登記所に提出します。

Cの署名が無くても登記は完了しますが、特殊な売買取引であることをABCの三者とも理解している必要があります。Cさんの署名も貰うべきでしょう。

Bさんの必要書類「印鑑証明書・実印」

登記原因証明情報にBさんが押印するのは実印であるか?また印鑑証明書の添付を要するか?

という論点があります。

登記所ではBさんの登記原因証明情報への実印押印も、印鑑証明書の添付も要求されていません。

しかし私は、司法書士の職責として、Bさんにも実印で押印いただいた上、印鑑証明書も原本を確認させていただきたいと思います。

Bさんの必要書類「指定通知書」

「指定通知書」の見本ひな型は次のとおりです。 

              令和年月日 
A様                          
              本店
               株式会社B
              代表取締役 bb bb ㊞ 
所有権を取得する者(受益者)の指定通知書 
当社は、貴殿と締結した令和年月日付売買契約書特約第〇条第〇項に基づき、所有権を取得する者(受益者)として、下記の者を指定したことを通知いたします。
第1.所有権を取得する者(受益者)                           
   本店
   株式会社C
                                                     
第2.不動産の表示
   所  在                          
   地  番                          
   地  目                          
   地  積                          
                           
   所  在                          
   家屋番号                          
   種  類                          
   構  造                          
   床面積                          
                       

Cさんの必要書類「受益の意思表示通知書」

「受益の意思表示通知書」の見本ひな型は次のとおりです。

              令和年月日 
A様                          
株式会社B 様                          
              本店
               株式会社C
              代表取締役 cc cc ㊞ 
受益の意思表示通知書 
当社は、株式会社Bより、令和年月日付所有権を取得する者(受益者)の指定通知書をもって、A様と株式会社B様との間で締結された令和年月日付売買契約書特約第〇条第〇項に基づく「所有権を取得する者」に指名されましたので、これを承諾いたします。
不動産の表示
   所  在                          
   地  番                          
   地  目                          
   地  積                          
                           
   所  在                          
   家屋番号                          
   種  類                          
   構  造                          
   床面積                          
                       

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