【図解】フリーランス保護法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)


ニュースなどでお聞き及びかもしれませんが「フリーランス保護法(正式名称は、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律といいます。)」が令和6(2024)年11月1日から施行されます。

フリーランスは、法人や個人事業主から仕事を受注するものの「独立の事業者」です。あくまで独立の事業者であって、顧客との間で雇用契約を締結することはありませんので、フリーランスには労働法は適用されません。このままでは、フリーランスの保護が足りないということで「フリーランス保護法」が制定されました。契約書を作成する場合など、従来からの独禁法・下請法に加えて、「フリーランス保護法」に反しないよう注意が必要です。

事業者は、施行日までにフリーランス保護法に準拠したものに契約書や業務方法を改訂する必要があります。

〔凡例〕この記事では、次のように略記します。

  • 新法:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)別名:フリーランス・事業者間取引適正化等法。略称:フリーランス保護新法
  • 施行令:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(令和6年政令第200号)
  • 厚労省規則:厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(令和6年厚生労働省令第94号)
  • 公取規則:公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則(令和6年公正取引委員会規則第3号)
  • フリーランスガイドライン:フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン/令和3(2021)年3月26日公表/内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省 
  • 下請法:下請代金支払遅延等防止法
  • 独禁法:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

法律の目的


  • 我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、
  • 個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備する(新法1条)

要するに、フリーランスの方が、規模の大きな発注者に隷属しないで良いように(振り回されないで良いように)制定されたのが、フリーランス保護法です。

フリーランス保護法による保護の対象


フリーランス保護法では、発注側は保護されない。

フリーランス保護法で保護されているのは、業務を受託する(受注する)側の事業者のみです。

業務を委託する(発注する)側の事業者は保護されていません。

フリーランスに仕事を発注する事業者は、フリーランス保護法が適用され遵守する義務があります。

受注側フリーランスの定義

新法の保護対象となる受託事業者は次のとおりです(新法2Ⅰ)。

  • 個人事業主:従業員を雇用している【1】場合には、新法による保護の対象外です。
  • 法人:社長の他に役員や従業員がおらず【1】、社長一人で事業を行っている場合には、新法の保護対象です。

【1】「従業員を使用」とは、週所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用することをいいます。

政府の説明資料にわかりやすい図がありましたので、以下引用します。

フリーランス保護法と下請法との比較(まとめ)


フリーランス保護法は、下請法では保護されないフリーランスをも保護するためのものです。

そこで「フリーランス保護法」と「下請法」を比較すると下表のとおりです。

    フリーランス保護法 下請法

  • すべての事業主(下請法のような資本金要件はありません。)【0】

(ざっくり申し上げますと)【1】

  • 資本金が(受注者よりも)大きい法人

  • 従業員を雇っていない個人事業主
  • 代表者以外に役員も従業員もいない法人

(ざっくり申し上げますと)【1】

  • 資本金が(発注者よりも)小さい法人
     又は
  • 個人事業主

  • 幅広く適用される【2】(法2Ⅲ)
  • 下表ⅰⅱに制限される。
       

  • 直ちに書面等での契約内容【3】の明示(新法3)
  • 報酬の60日以内の支払期日を具体的に定める【3-2】(新法4)
  • 長期間【4】の業務委託の場合、以下の行為の禁止(新法5)
    • (フリーランスの帰責性ないのに)納品物の受領拒否
    • (フリーランスの帰責性ないのに)報酬減額
    • (フリーランスの帰責性ないのに)返品
    • 通常相場に比べ著しく低い報酬額を不当に定めること
    • 不当な経済上の利益の提供要請
    • (フリーランスの帰責性ないのに)給付内容の変更およびやり直しをさせること
  • 広告でフリーランスを集める際には、募集情報【5】の的確な表示(新法12)
  • ハラスメント対策(新法13、14)
  • 契約解除は30日前までに予告(新法16)
  • 3条書面の交付義務(下請法3)
  • 5条書面の作成・保存義務(下請法5)
  • 下請代金の60日以内の支払い(下請法2の2)【3-2】
  • 遅延利息14.6%の支払義務(下請法4の2、下請代金支払遅延等防止法第四条の二の規定による遅延利息の率を定める規則)
  • 以下の行為の禁止(下請法4ⅠⅡ)
    • 納品物の受領拒否(Ⅰ①)
    • 下請代金の支払遅延(Ⅰ②)
    • 下請代金の減額(Ⅰ③)
    • 返品(Ⅰ④)
    • 買いたたき(Ⅰ⑤)
    • 購入・利用強制(Ⅰ⑥)
    • 報復措置(Ⅰ⑦)
    • 有償支給原材料などの対価の早期決済(Ⅱ①)
    • 割引困難な手形の交付(Ⅱ②)
    • 不当な経済上の利益の提供要請(Ⅱ③)
    • 不当な給付内容の変更および不当なやり直し(Ⅱ④)

 

  • 国は、委託事業者に対して、検査や必要な措置を勧告、命令することができる(新法6~11)。
  • 勧告は公表される可能性があるため、世間からの貴社に対する評価が下がる可能性があります。勧告を受け、公正取引委員会のサイトに掲載されると、分かりやすいのでSNSで拡散されるリスクがあります。
  • 命令違反、報告拒否、虚偽報告、検査拒否等には、50万円以下の罰金(新法24)。
  • 委託事業者が法人の場合には行為者と法人両方を罰します(新法25)。
  • 公正取引委員会は、違反親事業者に対して違反行為是正やその他必要な措置をとるべきことを勧告できる(下請法7)。
  • 勧告は公表されるため、世間からの貴社に対する評価が下がります。下請法勧告一覧(公正取引委員会HP)
  • 勧告を受け、公正取引委員会のサイトに掲載されると、分かりやすいのでSNSで拡散されるリスクがあります。
  • 公正取引委員会は、親事業者・下請事業者に対し報告させ、又は事業所に立入検査できる(下請法9)。
  • 3条書面・5条書面の不交付等には、50万以下の罰金(下請法10)
  • 報告拒否、虚偽報告、検査拒否等には、50万円以下の罰金(下請法11)
  • 法人の場合には、行為者と法人の両方を罰します(下請法12)

【0】発注者が下記に該当する場合または業務委託の期間が長期にわたる場合には、発注者の義務や規制が加重されます(新法2Ⅵ)

  • 個人事業主でも従業員を使用するもの(新法2Ⅵ①)
  • 法人で、2以上の役員又は従業員を使用するもの(新法2Ⅵ②)

『義務が加重される要件(発注者の規模、契約期間)と、加重される義務との関係』については、政府の説明資料にわかりやすい図がありましたので、引用します。

  親事業者 下請事業者

・物品の製造委託

・修理委託

・情報成果物委託(プログラムの作成に限る)

・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る)

資本金3億円超の法人事業者 資本金3億円以下の法人事業者(又は個人事業者)
資本金1000万円超3億円以下の法人事業者 資本金1000万円以下の法人事業者(又は個人事業者)

・情報成果物委託(プログラムの作成を除く)

・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く)

資本金5000万円超の法人事業者 資本金5000万円以下の法人事業者(又は個人事業者)
資本金1000万円超5000万円以下の法人事業者 資本金1000万円以下の法人事業者(又は個人事業者)

【2】新法2条3項では次のとおり定められています。

3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
  

一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。

二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。

4 前項第一号の「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。

 

一 プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)

二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの

三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの

 

四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの

【3】明示すべき契約内容は次のとおりです(新法3Ⅰ)。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

  1. 給付の内容(新法3Ⅰ)
  2. 報酬の額(新法3Ⅰ)
  3. 支払期日(新法3Ⅰ)
  4. 委託事業者とフリーランスの「商号・氏名・名称」又は「事業者別番号・記号その他の符号であって委託事業者及びフリーランスを識別できるもの」(新法3Ⅰ→公取規則1①)
  5. 業務委託をした日(公取規則1②)
  6. フリーランスの仕事内容(公取規則1③)
  7. フリーランスの納期(公取規則1④)
  8. フリーランスの納品場所(公取規則1⑤)
  9. 検査する場合、検査完了日(公取規則1⑥)
  10. 報酬額、支払期日(公取規則1⑦)
  11. 報酬の全部又は一部を手形で支払うときは、手形の金額及び満期(公取規則1⑧)
  12. 報酬の全部又は一部の支払につき、委託事業者、フリーランス及び金融機関の間の約定に基づき、特定受託事業者が債権譲渡担保方式又はファクタリング方式若しくは併存的債務引受方式により金融機関から当該報酬の額に相当する金銭の貸付け又は支払を受けることができることとする場合は、イ当該金融機関の名称、ロ当該金融機関から貸付け又は支払を受けることができることとする額、ハ当該報酬債権又は当該報酬債務の額に相当する金銭を当該金融機関に支払う期日(公取規則1⑨)
  13. 報酬の全部又は一部の支払につき、委託事業者とフリーランスが電子記録債権の発生記録をし又は譲渡記録をする場合は、イ当該電子記録債権の額、ロ電子記録債権法第十六条第一項第二号に規定する当該電子記録債権の支払期日、(公取規則1⑩)
  14. 報酬の全部又は一部の支払につき、委託事業者が、資金移動業者の口座への資金移動を行う場合は、イ当該資金移動業者の名称、ロ当該資金移動に係る額(公取規則1⑪)

【3-2】報酬の支払期日は具体的に記載する必要があります(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方2第2部第1の1⑶キ)。「●日まで」や「●日以内」などはNGです。また、支払期限は(委託者による検査の有無を問わず)納品後60日以内、かつ、できるだけ短い期間内(新法4Ⅰ)。

支払期限は(親事業者による検査の有無を問わず)納品後60日以内、かつ、できるだけ短い期間内(下請法2の2)。

【4】長期間の業務委託の場合の「長期間」とは、「(更新する場合を含めて)1月以上にわたる業務委託の場合」を意味します(新法5Ⅰ→特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令1)。

【5】明示すべき募集内容(新法12Ⅰ→特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令2)。

  1. 業務の内容
  2. 業務に従事する場所、期間又は時間に関する事項
  3. 報酬に関する事項
  4. 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項
  5. 特定受託事業者の募集を行う者に関する事項