特殊事情(株主総会欠席、議案への反対、相続、株主権行使代表者、自己株など)があるときの株主リストの記載方法


「株主リスト」は、司法書士ではない方にとっては、聞き慣れない言葉だと思いますが、株主名簿のことです。

ただし、貴社の株主名簿を法務局提出用に加工しなければなりません。

この記事では「株主リストの基本」から、「特殊事情があるとき株主リストはどう加工すべきか」についてまで解説しています。

もくじ
  1. 株主リストが必要な場合
    1. 提出が必要な「会社法人の種類」
    2. 提出が必要な「登記の種類」
  2. 一般的な株主リスト
    1. 何番目の株主まで記載するか?
    2. 法務局の書式は、どうなっているか?
  3. 特殊事情があるときの株主リスト
    1. 株主が株主総会を欠席したとき
    2. 株主が議案に対して反対(棄権)したとき
    3. 書面決議をしたとき
    4. 種類株式があるとき
    5. 種類株主総会決議が必要であるとき
    6. 自己株式(金庫株)があるとき
    7. 株式持ち合いの結果、議決権がない株主がいるとき
    8. 持株会があるとき
    9. 会社の組織再編(合併、分割など)で用いるとき
    10. 普通株の一部を種類株に転換するとき
    11. 株主に相続があったとき
  4. 補正指示への対応

株主リストが必要な場合


提出が必要な「会社法人の種類」

下記3種類の会社法人について、会社法人登記を申請する場合、株主リストの提出が必要になることがあります。

  • 株式会社(商業登記規則61ⅡⅢ)
  • 投資法人(投資法人登記規則3)
  • 特定目的会社(特定目的会社登記規則3)

提出が必要な「登記の種類」

下記2種類の登記について、株主リストの提出が必要になります。

  • 登記事項について、株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合
  • 登記事項について、株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合

一般的な株主リスト


何番目の株主まで記載するか?

下記の少ない方を記載する(商業登記規則61Ⅲ)。

  1. 議決権割合が2/3に達するまでの株主
  2. 議決権数上位10名

議決権数が多い順に記載する。

法務局の書式は、どうなっているか?

法務局が公開している書式は下記のとおりです。

下記リンクから書式と記載例をダウンロードできます。

株主リスト(法務省HPより。250117ダウンロード)
株主リスト(法務省HPより。250117ダウンロード)

特殊事情があるときの株主リスト


株主が株主総会を欠席したとき

株主リストは、出欠表ではありません。

欠席株主であっても、株主リストに記載します。

欠席した旨の記載は、不要です。

株主が議案に対して反対(棄権)したとき

株主リストは、賛成者一覧ではありません。

議案に反対した株主も、株主リストに記載が必要です。

議決権を行使しなかった株主(棄権した株主)も、株主リストに記載が必要です。

反対した旨、棄権した旨の記載は、不要です。

書面決議をしたとき

株主が物理的に集まって株主総会を開催しない「書面決議(=みなし決議。会社法319、320)」の場合であっても、株主リストの提出は必要です。

書面決議は、議案に対する全株主の同意があって始めて成立(可決)しますが、全株主を記載する必要はなく(商業登記規則61Ⅲかっこ書き内を参照。)、通常どおり2/3以上又は10名以上を記載すれば結構です。

(書面決議では、決議成立のために株主全員の同意が必要なだけで)「登記すべき事項」自体には、本来、株主全員の同意(種類株主全員の同意)が必要な場合ではないこともその理由です。

株主リスト「対象」欄の「株主総会」「種類株主総会」「株主全員の同意」「種類株主全員の同意」も、「株主総会」を選択します。 

商業登記規則第61条(添付書面)
  3 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の総株主)の議決権(当該決議(会社法第319条第1項(同法第325条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があつたものとみなされる場合を含む。)において行使することができるものに限る。以下この項において同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であつて、次に掲げる人数のうちいずれか少ない人数の株主の氏名又は名称及び住所、当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株主総会の決議を要する場合にあつては、その種類の株式の数)及び議決権の数並びに当該株主のそれぞれが有する議決権に係る当該割合を証する書面を添付しなければならない。

一 10名

二 その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が3分の2に達するまでの人数

種類株式があるとき

株主リスト(種類株式があるとき)法務省HPより
株主リスト(種類株式があるとき)法務省HPより

種類株式発行会社は、「株式数」欄に、種類株式の種類及び種類ごとの数も記載する。
種類株式の種類は、登記された名称のとおりに記載する。

種類株主総会決議が必要であるとき

株主リスト(種類株主総会)法務省HPより
株主リスト(種類株主総会)法務省HPより

種類株主総会の株主リストは、当該種類の株主のみを記載する。
「株式数」欄に、種類株式の種類及び数を記載する。
種類株式の名称は、登記された名称のとおりに記載する。

自己株式(金庫株)があるとき

会社が、その会社の株式を自分で保有していること(または保有している株式)のことを自己株式(じこかぶしき)や金庫株(きんこかぶ)といいます。

自己株は、株主総会において議決権を有しません(会社法308Ⅱ)ので、次のとおり処理します。

株主総会の決議(種類株主総会の決議)に関する株主リストの場合

  • 自己株については「氏名又は名称」「住所」「株式数(株)」「議決権数」「議決権数の割合」の各欄に何も記載しません。
  • 「合計」欄の下にある「総議決権数」欄の数字も、自己株の数を除いた議決権数を記載します。

株主全員の同意(種類株主全員の同意)に関する株主リストの場合

  • 自己株についても「氏名又は名称」「住所」「株式数(株)」「議決権数」「議決権数の割合」の各欄に記載が必要です。

株式持ち合いの結果、議決権がない株主がいるとき

株式会社がその総株主の議決権の4分の1以上を有することその他の事由を通じて株式会社がその経営を実質的に支配することが可能な関係にあるものとして法務省令で定める株主は、議決権を有しません(会社法308Ⅰかっこ書き)。

株式持ち合いの結果、議決権がない株主は、株主総会において議決権を有しません(会社法308Ⅰ括弧書き)ので、自己株式と同じ処理をします。

相互保有株式については、記事「株式持ち合い(相互保有株式)によって制限されること/持ち合い解消のルールはあるのか?!」もご参照ください。

持株会があるとき

『理事長名(XYZ従業員持株会)』と記載することをオススメします。

持株会を設立する場合、日本証券業協会『持株制度に関するガイドライン』を参考にします。同ガイドラインでは、持株会の株主名簿への記載は「理事長名義」にするとなっています。 ただし、理事長名のみだと、理事長個人が株主なのか、理事長名を借りた持株会が株主なのか分かりづらいという問題が残ります。

そこで、株主名簿や株主リストには『理事長名(XYZ従業員持株会)』と記載することをオススメいたします。

従業員持株会や役員持株会については、記事「持株会の設立・運用」をご参照ください。

 

会社の組織再編(合併、分割など)で用いるとき

普通株の一部を種類株に転換するとき

株式数と議決権数の合計は記載する必要はありません。
本文は次のとおり記載します。

令和年月日付で発行済株式の一部をA種類株式【1】に転換することにつき同意した株主全員の氏名又は名称及び住所、各株主の有する株式の数及び議決権の数は次のとおりであることを証明します。

【1】種類株式の名称は、議事録どおりに記載する必要があります。

株主に相続があったとき

株主に相続があったときと一言でいっても、色々な段階があります。

下のフローチャートは、法務省HP「主要な株主Aが死亡した場合の株主リストの記載」からダウンロードしたものに、解説を加えたものです。

法務省HP「主要な株主Aが死亡した場合の株主リストの記載」250117ダウンロードに加筆
法務省HP「主要な株主Aが死亡した場合の株主リストの記載」250117ダウンロードに加筆

【1】基準日とは、会社が株主の権利行使を確定するために定める特定の日付です。この日に株主名簿に記載または記録されている株主が、特定の権利を行使できる者として認められます(会社法124条)。

基準日の主な特徴

  • 目的:株主総会での議決権行使、配当金の受け取りなど株主権を行使できる株主を確定するために使用されます(会社法124Ⅰ)。
  • 設定方法:定款で定めるか、個別に設定して公告することで効力が生じます(会社法124Ⅲ)。
  • 期間制限:基準日株主が行使できる権利は、基準日から3か月以内に行使するものに限られます(会社法124Ⅱ括弧書き)。
  • 公告義務:定款に定めがない場合、基準日の2週間前までに公告する必要があります(会社法124Ⅲ)。

基準日の具体例

  • 定時株主総会:多くの会社が定款で「当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を有する株主(以下「基準日株主」という。)をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。」と定めています。
  • 臨時株主総会:中小企業では株主の変動が少ないため、基準日を設定しない(すなわち臨時株主総会当日の株主名簿に記載された株主が臨時株主総会において議決権を有する株主として扱う)ことが多いです。
  • 剰余金の配当:多くの会社が定款で「当会社は、株主総会の決議によって、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録ある株主又は登録株式質権者(以下「株主等」という。)に対して剰余金の配当を行う。」と定めています。

【2】会社法は「会社が株主に対してする通知などは、株主名簿に記載された株主の住所にあてて発すれば足りる」と定めています(会社法126Ⅰ)。さらに「会社が、株主名簿に記載された株主の住所に対して発した通知などは、(株主が会社に対して住所変更届け出を失念していたために、株主の手元に届かなかったとしても)通知が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす」とも定めています(会社法126Ⅱ)。

また、ほとんどの会社はその定款に「当会社の株主及び登録株式質権者又はその法定代理人若しくは代表者は、当会社所定の書式により、その氏名又は名称、住所及び印鑑を当会社に届け出なければならない。届出事項に変更を生じたときも、その事項につき、同様とする。」と定めています。

何を申し上げたいかと言いますと、住所変更届や相続開始届は株主の義務で、これを株主が怠った不利益は株主が負ってくださいよということなんです。

【3】「株主Aの相続人の全員が誰であるのか」を会社が知る方法は、次の2つです。

〔方法A〕株主Aの相続人から「株主Aの出生から死亡までの全ての戸籍・除籍・原戸籍の謄本すべて」の提出を受ける

〔方法B〕株主Aの相続人から「株主Aについて作成された法定相続情報証明書」の提出を受ける。

〔方法A〕は、貴社において戸籍を読み解く必要があります。戸籍を読み慣れた方が社内にいる場合、または司法書士にチェックを依頼した場合でないと不可能だと思います。戸籍謄本は個人情報のかたまりですので、チェックした後の戸籍の管理も大変です。

一方〔方法B〕は、法務局が戸籍の束をA4用紙1枚程度の証明書にしたものですから、貴社は楽です。

断然〔方法B〕法定相続情報証明書の提出を受けることをお薦めします。なお、法定相続情報証明書について、より詳しく知りたい方は記事「法定相続情報~ややこしい戸籍を読むのは司法書士が一回で十分です。銀行預金の相続手続前に司法書士にご依頼ください。」をご参照ください。

【4】遺産共有が解消されている=「遺産分割協議が成立している」ことを会社が確認するためには、遺産分割協議書(相続人全員の実印押印)と印鑑証明書の提出を受け、これをチェックする必要があります。会社は、株主Aの相続人に対して「遺産分割協議書のひな形」を交付し、記載させる必要があります。

【5】遺産分割協議書と印鑑証明書を確認できた場合、会社は、株主Aの相続人に対して「名義書換請求書」の提出を求めます。株式の相続手続については、記事「株式・株券の相続手続」もご参照ください。

【6】会社法106条による株主権行使代表者とは、株主Aの相続人全員が、会社に対して「遺産分割協議が成立するまでの間、暫定的に株主権を行使する者」を指定することです。

株主権行使代表者について、より詳しく知りたい方は記事「株式の相続/株主権行使代表者」をご参照ください。

補正指示への対応


株主リストは本来、法人印が必要な書類ではありません。

司法書士は、法人の許可を得て、法人印押印のないものと差し替えることにより対応可能です。

なお、オンライン申請している場合において、補正書にPDFを添付しようとするときは、会社の電子署名が必要です。