無価値な不動産は処分に困ります。中でも、共有不動産については、共有者全員の意見が一致しないと処分できないなど、特に処分に困ります。ところが、その一方で共有不動産ならでは処分方法もあります。
ここでは、他の共有者にあなたの持分を引き取って貰う方法をご紹介します。
もくじ | |
「土地を共有しているんですけれど、どの部分が自分の土地かわからない」とのご相談があります。
共有とは、「一つの物を複数人が所有している状態」です。
ですから、共有物の全てを共有者全員が使用することができます。
一筆の土地のこの部分は、自分が使って良いというのではなく、一筆の土地全体を使って良いのです。
「皆で持っている物の処分は、皆で決める。」というのは、当たり前のことです。
共有者全員にとって得になるような(共有物が壊れそうなときにチョット修理する。共有者の権利が侵害されている場合にこれを排除する)ことは、共有者が単独で出来るのも当たり前のことです。
ただ、この中間にある「ちょっと得になるようなこと」は、共有持分の過半数で決めましょうと法律がルールを定めているのです。
意味 | 具体例 | 決定方法 | |
保存行為 (民252Ⅴ) 【1】 |
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各共有者単独 |
管理行為 (民252Ⅰ) 【2】 |
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持分の過半数 【1】 |
変更行為 (民251) |
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全員の同意 |
【1】令和5年4月1日次のとおり民法が改正されています。
民法252ただし書→民法252Ⅴ
【2】令和5年4月1日次のとおり民法が改正されています。
民法252本文→民法252Ⅰ
共有物「全体」を処分するときには、処分内容によって、「一人で出来たり」「全員の同意が必要」だったりします。
しかし、「ご自身の共有持分だけ」を第三者に対して処分するときには、一人ですることが出来るのです。
分譲マンションの底地(特に「敷地権化」されていないもの)を思い浮かべてください。マンション住民全体で底地は共有していますが、底地の自分の持分を売却するのに、他の住民の承諾は要りません。
【1】単独の所有権の場合(特に不動産の場合)には、所有権の放棄は認められていません。司法書士が「山林所有権を放棄したから、国は所有権登記を引き取れ」と訴えたのに対して、所有権放棄は権利濫用等に当たるとして敗訴した事例(広島高裁松江支部H28.12.21判決、平成28〔ネ〕51号、土地所有権移転登記手続請求控訴事件)を参照。
【2】法制審議会(民法・不動産登記法部会資料48、17頁)では「他の共有者に一方的に負担を押し付ける目的で共有持分を放棄した場合には、通常は権利濫用(民法第1条第3項)に該当する」とされるので、実際に実行する際には、注意が必要です。
動産・不動産を問わず、他の共有者に一方的に負担を押し付ける目的で共有持分を放棄した場合には、通常は権利濫用(民法第1条第3項)に該当すると思われ、早い者勝ちで負担を他に押し付ける事態が生ずるおそれは限定的であるとも考えられる。
また、不動産は、管理の負担が相対的に重く、共有持分を放棄して早い者勝ちで負担を他に押し付けることを許容することによる弊害が取り分け大きいと考えられ、権利濫用と判断される可能性は動産に比べて高いといえる。加えて、権利に関する登記の申請は、登記義務者である共有持分の放棄者と登記権利者である他の共有者の共同申請によらなければならない(不動産登記法第60条)ことに鑑みると、不動産の共有持分登記を有する共有者が持分を放棄する旨の意思表示をしたとしても、例えば持分の移転の登記をしない限り固定資産税の納税義務を免れることはできないし(地方税法第343条第2項参照)、他の共有者は共有持分権の一部不存在や登記引取請求権の不存在の確認を求めて争うことが可能であるなど、他の共有者に与える影響は比較的小さいと思われる。 |
(法制審議会民法・不動産登記法部会第19回会議/法務省/最終アクセス220510)
他の共有者に対して、問答無用に押しつける場合を「共有持分放棄」と言います。
一方、他の共有者がもらってくれる場合には、「共有者への贈与」と言います。
その比較は次の通りです。
共有者への贈与【1】 | 共有持分放棄 | |
法律上 の性質 |
贈与契約(他の共有者の同意必要) | 単独行為(他の共有者の同意不要。問答無用に押しつける) |
元々共有者がABC3名で Aが贈与/放棄する場合 |
Aは、次の3つから選択して贈与できる。 ①Bだけに贈与 ②Cだけに贈与 ③BC両方に贈与 |
Aが放棄すると、BCの共有持分ともに増える(Aに選択権はない。) |
不動産登記 |
B、C又はBCを登記権利者 、Aを義務者とする共同申請 |
BCを登記権利者、Aを義務者とする 共同申請 |
課税関係 |
贈与税の対象となる。 |
贈与税の対象となる(相続税基本通達9-12) |
譲渡所得税 |
贈与された物を売却した場合、贈与者Aの取得費を承継して経費として主張できる。 【お得】 |
持分放棄された物を売却した場合、放棄者の取得費を承継できない。 【損】 |
【1】共有者に持分を渡して、対価をもらう場合には、「共有者への売買」になります。
不動産の登記名義人が亡くなって、遺産分割協議が完了するまでの間は、相続人全員が遺産である不動産を法定相続分で共有する「遺産共有」という状態になっています。
遺産分割協議で、複数で共有することを決定すると、複数人が一つ不動産を共有する「(普通の)共有」状態になります。
未だ遺産分割協議が完了していない「遺産共有」の時点では、「相続分の放棄」を行うことも、当該不動産のみについて「共有持分の放棄」を行なうことも可能です【1】。
相続分の放棄 | 共有持分の放棄 | |
内容 |
遺産分割前【2】の「遺産共有」の状態において、相続人が遺産分割協議に参加する資格を他の相続人に対して放棄すること。 「相続放棄」とは異なり、遺産債務を負担する場合があります。 相続分を特定の相続人に譲る場合は「相続分譲渡」手続があります。 |
遺産分割前【2】の「遺産共有」の状態又は「(普通の)共有」状態において、共有者が共有物に関する権利義務を他の共有者に対して放棄すること。
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手続 |
【遺産分割協議の場合】 ⑴他の相続人に対して、相続分は要らない旨を伝えます。 ⑵他の相続人が用意する(a)あなたの相続分をなしとした遺産分割協議書又は(b)あなたが相続分を放棄した旨の書類に署名押印(印鑑証明書付)します。 【遺産分割調停の場合】 家裁に対して、①相続分放棄書、②即時抗告権放棄書【3】、③印鑑証明書を提出します。 |
➊内容証明郵便で他の共有者全員に対して「共有持分の放棄」の意思表示を行ないます【4】。 ❷他の共有者が登記名義の引取に協力しないときには、「登記引取請求訴訟」を提起します。
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【1】この記事では、従来「遺産共有の時点では『共有持分の放棄』はできない」としておりましたが、当グループの大庭義理司法書士の指摘により「遺産共有時点でも『共有持分の放棄』は可能」と修正しました。大庭司法書士の理由は次のとおりです。
その他、修正の根拠は次のとおりです。
確定的な共有持分になっていないものをどうやって処分するのかという問題はさておき「遺産共有時点でも『共有持分の放棄』が可能」ということは間違いがなさそうです。お詫びして訂正いたします。
【2】遺産分割協議が成立した場合には、相続分の放棄はできません。
【3】「即時抗告権放棄書」というのは、あなたが「相続分放棄書」を提出したことに伴って、裁判所が出す「(あなたを調停当事者から除外する旨の)排除決定」に対して、あなたは異議を申しませんという意思表示です。
【4】共有持分放棄は単独行為ですので、本来であれば、意思表示を相手方(他の共有者)に対して行なう必要はありません(最判昭和42年6月22日)。それでも、内容証明郵便で送るのは、「共有持分の放棄は、早い者勝ち」だからです(共有物について、共有者が順次、共有持分の放棄を行ない、最後の一人になると最早単独所有ですので、共有持分の放棄を行なうことはできません。)。また、登記の引取を請求する必要もあるからです。
なお、相続分放棄については、記事「相続分の譲渡・相続分の放棄」で詳細に説明していますので参照ください。
業務の種類 | 司法書士の報酬・費用 | 実費 | |
共有持分放棄の内容証明郵便作成・発送 | お客様名(司法書士の職・名を記載せず) | 11,000円(税込)~/共有者一人 | 1,200円~/共有者一人 |
司法書士の職・名を記載 | 16,500円(税込)~/共有者一人 | 1,200円~/共有者一人 |
※ ①共有持分放棄に基づく所有権移転登記報酬・実費、②相手方が登記の引取を拒否した場合の登記引取請求訴訟の報酬・実費は、別途必要になります。