ここ20年で、司法書士の仕事内容は大きく変貌しました。
第三者が作ったスキームを実行する仕事から、スキームを提案する仕事へと。
振り返ってみると、平成11年の成年後見制度開始、同年司法書士による「成年後見センター・リーガルサポート」設立、平成15年簡裁代理権付与、平成18年信託法改正などが司法書士に与えた影響がとても大きかったのでしょう。
司法書士に求められる役割は大きくなり、今や司法書士実務のレベルは、司法書士試験で問われる内容を遥かに凌駕しています。
そこで、このコラムでは「勤務のうちに司法書士が身につけるべき能力は何か」についてお伝えしたいと思います。
もくじ | |
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司法書士の仕事には大きく分けて2種類あります。
一つは、他士業などが考えたスキームを着実に実行する仕事。不動産取引が最たる例です。これを【手続業務】といいます。
この手続業務は、AIに取って代わられるなどと言われていますし、簡単な部分についてはその通りだと思います。それでも司法書士は必ず習得すべきです。M&Aのクロージングなども司法書士の仕事ですが、これも不動産取引の発展型であり、不動産取引を円滑に執り行なう能力がなければできないからです。
もう一つは、顧客に「スタートとゴール」のみを示され、ゴールに至るまでの「ルート設計」を依頼される仕事です。スタートは「自社・自分の現状」であり、ゴールは「こうして欲しい」又は「どうしたら良いか」です。
事業承継や資産承継のプランニング、こういうことで困っている(スタート)からどうにかして欲しい(ゴール)という法律相談、簡裁代理、他士業への引継ぎ・協業などが例となるでしょう。
これらを【構築業務】といいます。
もちろん一つの仕事に「構築業務」と「手続業務」の両方が含まれているということも、よくあります。
私は、この二つの仕事を両方できるようになってこそ、司法書士として一人前といえると考えます。
この二つの仕事で、それぞれ必要な能力は次のとおりです。
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【1】実務の運用を知っていること。
業務マニュアルがある事務所と、それがない事務所では教え方が異なると思います。
試験には出ないけれど、実務では重要な運用を思いつくままに書くと、次のような感じです。
〔不動産登記〕
〔会社登記〕
〔民事事件〕
まだまだ多数の「実務ならでは」があります。 |
〔身につける方法〕
【2】顧客の依頼内容を的確に理解し、必要に応じて質問するコミュニケーション能力。
実務の運用をだいたい理解すると、電話応対を任されます。司法書士が打合せをする相手方は次のとおりです。通常下へ行けば行くほどハードルが高くなります。
また、用件を的確に伝えるメールの作り方などを含みます。社会人経験があったとしても、なかなか短文かつ要領を得たメールを作るのは難しいようです。
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〔身につける方法〕
一通りの【手続業務】は、勤務すれば身につけることが可能です。
ところが【構築業務】を自由自在に扱うようになるためには、そうはいきません。また、全ての構築業務を勤務時代に学ぶことは到底できません。20年以上司法書士をしていても初めて聴く相談が来るほど相談内容は多種多様だからです。では、何をどうやって学べばよいのか?!
私は、次の5つだと思います。
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【1】調べ尽くす能力(徹底的なリサーチ力)
一度、中途半端に調べる癖をつけてしまうと、なかなか治りません。また、出題範囲が限定されている試験と異なり、実務は全ての法律を(場合によっては、県や市町村の条例をも)調べる必要があります。集めた資料を読み込み整理する能力も必要です。
また、商売である以上、時間をどれだけ掛けても良いという訳にはいきませんので、上長に調査に掛けても良い時間を確認してから始めることが肝要です。
〔身につける方法〕
調査方法は、調査者のレベルによって調査すべき書籍・媒体からして異なります。
調査が必要な仕事を担当させてもらい数をこなし、上長にアドバイスをもらうしか身につける方法はないと思います。
【2】考え抜く能力(作戦立案の能力)
調べ尽くした資料やこれまでの経験から、顧客や相手方を納得させる作戦を考える必要があります。
一度、中途半端に考えて回答する癖をつけてしまうと、なかなか治りません。
〔身につける方法〕
思考のためのフォーマットを準備して更新していくと、進歩が速いかもしれません。
じっくり考える癖をつけ、数をこなす必要はあろうかと思います。
【3】顧客へのプレゼン能力
これは慣れだと考えがちですが、違います。
〔身につける方法〕
プレゼン資料はまずはベースになるものを作成して、日々磨き上げていきます。
それによって、提案が通り易くなっていくのです。
【4】業際に関する知識。
業際違反は、顧客に迷惑を掛けるばかりか、刑事事件になりかねません。
〔身につける方法〕
書籍を読み、研修を受講し、事務所内外の「この人なら間違いない」という先輩に意見を求めます。
【5】必要に応じて他士業の協力を得るために必要な「他士業の業務内容」に対する理解
他士業との良い連携関係を構築する方法も学ぶ必要があります。
押さえておくべき士業の仕事内容は下表のとおりです。
〔身につける方法〕
事務所の人脈は、事務所の人脈です。事務所事件の場合には、事務所人脈を使わないといけませんが、徐々に気の合う他士業の先生との人脈を作っていきましょう。異業種交流会などに出席して同年代の先生と懇意になさるのが良いと思います。
弁護士 |
日本最高の文系国家資格の一つで、訴訟のスペシャリスト。 「相続」「離婚」「交通事故」「企業法務」「労働」「医療」「知的財産」など分野が細分化されており、一人の弁護士が全分野でスペシャリストということは通常ありえない。 司法書士であれば多くの弁護士と懇意にしておくと、顧客に紹介しやすい。 |
税理士 |
言わずとも知れた租税法に関するスペシャリスト。 企業の顧問を中心に活動する方(法人税の専門家)と、資産税申告を中心業務とされる方(資産税の専門家)がいる。 司法書士が案件を紹介してもらうことが一番多い士業。 弁護士についで案件を紹介することが多い士業。 |
公認会計士 |
会計監査や株式公開の専門家。M&Aなどの価格を算定する。 市中にいる公認会計士は、税理士兼業が多い。 |
行政書士 |
行政庁への許認可・届出のスペシャリスト。 司法書士が案件を紹介することが多い士業。 非弁(示談交渉)・非司(会社設立、相続登記など)に手を出す行政書士も存在する。 案件を紹介するのは、許認可に絞った行政書士にすべき。 また、会社設立や事業目的変更の際には、許認可が取得できる文言であるか意見を求める必要がある。 |
不動産鑑定士 |
不動産価格算定のスペシャリストで、唯一、公的な不動産鑑定をすることができる。 CF.不動産会社が売却見込額を提示するのは「査定」である。 司法書士が依頼することがあるのは、次のような案件です。
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土地家屋調査士 |
不動産の表示登記(調査・測量・境界など)のスペシャリスト 土地の分筆・合筆・地目変更 建物の新築・増築・滅失・区分登記 不動産登記が多い事務所では依頼することも多い。 |
一級建築士 |
建築設計のスペシャリスト 司法書士が依頼することがあるのは、次のような案件です。
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ファイナンシャル・プランナー |
ライフプラン設計のスペシャリスト 終活・事業承継に伴い商品の選定などを依頼することがある。 |
社会保険労務士 |
社会保険・雇用・年金のスペシャリスト 会社分割手続や顧問先・関与先企業の雇用関係でお世話になることが多い。 近年、障害年金に特化した社会保険労務士も存在する。 |
弁理士 |
著作権・特許・意匠など知的財産のスペシャリスト 司法書士が依頼することがあるのは、次のような案件です。
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中小企業診断士 |
国家資格であるコンサルタント 売上向上(商品開発、販路開拓など)、工場の効率化など様々に特化した中小企業診断士が存在する。 上記のほか、司法書士からは補助金・助成金の申請を依頼することがある。 |
これは、司法書士事務所を経営する方法です。事務所経営とは、すなわち
などですが、ここでは深くは触れず、別の機会にお話しします。
企業経営の実績がある方は別ですが、即独すればこれらをも同時に一人で学び実行しないといけません。
司法書士の仕事をする上で、本当に学ばねばならないことを「本学」、枝葉のテクニックを「末学」といい、これらが逆転してしまうことを「本末転倒」といいます。
独立を見据えて研鑽する勤務司法書士が「本末転倒」を起こさないように見守り育てること。それこそが、人を育てる立場になった我らの大切な役割だと思います。
「守破離」という言葉があります。
Twitterの弁護士だったか司法書士だったかで、これを上手く表現されていた方がいました。
これから司法書士になろうというあなたも、司法書士150年の歴史を重んじ、諸先輩方が苦労して形作ってきたその「型」を習得したうえで、守破離することで「型」を破り新しい司法書士となっていただきたいと思います。
このコラムを読んだ新人司法書士が、いかに独立前に学ぶべきことが多いか、したがって如何に勤務経験が必要か、少しでもお分かりいただければ幸いです。 |
(守破離の解説につき、一番分かりやすかったWikipediaを参照した。)
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