司法書士は「簡裁訴訟代理業務において作成する裁判所提出書類」と「裁判所提出書類作成業務として作成する裁判所提出書類」のクオリティ(レベル)に差異を設けるべきなのか、司法書士の皆さんは、疑問に思ったことありませんか?!
私は、司法書士が受託した以上、その作成する裁判所提出書類は、地裁でも簡裁でも100%の能力を発揮して作成すべきと考えてきましたが、その根拠が薄弱でした。そんな折、先輩の司法書士より日本司法書士会連合会が編集した「再考・司法書士の訴訟実務」(民事法研究会・2019年)をご紹介いただき、ようやく合点がいきましたので、皆さんにもご紹介します。
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〔凡例〕本コラムでは、次のとおり略記します。
司法書士の裁判所提出書類作成権限が争点になった裁判例(判例)としては、次の7つが知られています。
重要なのは「高松高裁」と「大阪高裁」です。再考によりますと、これら二つの高判と司法書士法改正、この時間軸が特に重要だということです。
以下、少し長い目に判決文を抜粋します。
司法書士が作成する書類は、訴状、答弁書、告訴状、登記申請書類等、いずれをとつてみてもこれに記載される内容が法律事件に関係するものであるから、右書類作成については相当の法律的素養を有し法律知識がなければできないこと勿論である。国が司法書士法を規定して一定の資格を有する者のみを司法書士としその書類作成業務を独占的に行わせ、他の者にその業務の取扱いを禁止しているのは、結局これら国民の権利義務に至大の関係を有する書類を一定の資格を有し、相当の法律的素養のある者に国民が嘱託して作成してもらうことが国民の利益公共の福祉に合致するからである。従つて、司法書士は書類作成業務にその職務があるのであるが、他人の嘱託があつた場合に、唯単にその口述に従つて機械的に書類作成に当るのではなく、その嘱託人の目的が奈辺にあるか、書類作成を依頼することが如何なる目的を達するためであるかを、嘱託人から聴取したところに従い、その真意を把握し窮極の趣旨に合致するように法律的判断を加えて、当該の法律事件を法律的に整理し完結した書類を作成するところにその業務の意義があるのであり、そこに法的知識の涵養と品位を向上させ、適正迅速な業務の執行ができるよう努力すべく、よつて以て国民の身近な相談役的法律家として成長してゆくことが期待されるところである(因みに、司法書士法第一条の「書類を代つて作成する」旨の規定が「書類を作成する」と昭和四二年法律第六六号によつて改正され、「代つて」が削除された)。けだし、法治国家においては、国民が啓蒙され一定の法律的知識ないし常識を有していることを建前としているが、現実は個別的具体的事件について国民一般の法律的知識は全く乏しいものといわなければならず、例えば裁判所提出の書類作成を依頼するについても単に表面的機械的に事情を聴取した上では何をどのように処理して貰いたいか全く不可解なことも多いのであり、これを聴取してその意を探り、訴を提起すべきか、併せて証拠の申出をすべきか、仮差押、仮処分等の保全の措置に出るべきか、執行異議で対処するかを的確に把握し、その真意に副う書類を作成するについて法律的判断がなされるべきは当然であるからであり、このような判断を怠つて、いたずらに趣旨曖昧不明の書類を作成して裁判所に提出させることをすれば、却つて裁判所の運営に支障を来すことは明らかであり、殊に弁護士の数が比較的少い僻地ではかようにして司法書士が一般大衆のために法律問題についての市井の法律家としての役割を荷なつているといえるのである。
かように見て来れば、弁護士と司法書士はともに国民の法律生活における利益を保護し、併せて司法秩序を適正に保護し、以て法律生活における分業関係に立つものといえる。沿革的にも、明治五年八月三日太政官無号達の司法職務定制に代言人、代書人の区別がみられ、明治六年七月一七日太政官布告第二四七号の訴合文例をみれば、代書人をして裁判所に持ち込まれる多様な形態の紛争を文例に従つてこれを整理し裁判所に導入する役目を果させ、且つこれに法的評価を加えさせているのであつて、代言人が訴訟上の口頭主義を担保すべき役割を果すべき存在として性格規定されていることに比べ、代書人は書面主義を担保する役割を与えられていたのである。
而して、本人の嘱託ないし委嘱、依頼は、かたや書類の作成であり、他は法律事務を行うことの依頼であり、その内容は異なるにせよ、司法書士、弁護士の両者ともにその法律上の性質は委任された事務の処理(民法第六四三条の委任)であることには変りがなく、弁護士に対しては包括的な法律事務を取扱うことの事務処理であり、司法書士に対しては個々の書類の作成という個別的な委任事務の処理が普通であろうが、依頼の趣旨によつては司法書士に対し或る程度包括的な書類作成事務の処理という包括的なものも考えられないではなく、従つて、右両者の区別を委任事務の個数によつて区別することは出来ないものといわなければならない。
もとより、前記司法書士の期待像からすれば、右書類作成の嘱託を受けるに当つて、依頼人から法律事件について法律相談を受ける場合もあるが、これが報酬を得るのではなく、又右書類作成嘱託の目的に反しない限り司法書士がその有する法律知識を活用して法律相談に応ずることは何ら差支えなく、弁護士法第七二条の規定は何も国民を法律的に無知蒙昧、即ちこれを法律的につんぼさじきに置こうとするものではない。
然しながら、右書類作成の域を超えて他人間の法律的紛争に立ち入つて書類作成に関係のないことまで法律事務を取扱うことは司法書士の業務に反し弁護士法第七二条に背反する場合も出てくるものといわなければならない。そこで、同条の解釈をする。
同条に所謂法律事件とは広く法律上の権利義務に関し争があり、疑義があり、または新たな権利義務関係の発生する条件を指し、法律事務を取扱うとはこのような法律事件についてその紛議の解決を図ることを謂い、鑑定、代理、仲裁、和解等がその例として設けられている。鑑定とは法律上の専門的知識に基いて具体的な事案に関して判断を下し、代理とは本人に代わり本人の名において案件の処理にあたり、仲裁とは自らの判断による解決案を以て本人を納得させ紛議を解決し、和解とは自らの判断による説得を以て本人の紛議の解決を助成することを謂う。従つて、このことから法律事件紛議の解決は自らの意志決定によつて法律事件に参与し、右のような手段方法を以て自らの判断で事件の解決を図ろうとすることを謂うと解され、又それは報酬を得る目的を以て業とすることを必要とするが、現実にこれを得たと否とを問わない(そうすると、司法書士法第九条第二一条は訴訟を為す目的を以て他人の権利を信託的に譲渡を受けるとか、自己が代表者である会社に他人の権利を譲渡させるとか、司法書士が右弁護士法第七二条以外の態様によつて他人間の訴訟に関与することをいうと解される)。
このように、司法書士が右法律相談に応じることはできるにせよ、法律事件の解決はその委任を受けた弁護士の他は、専ら右事件の紛争主体である依頼人自身が自らの判断でこれを決すべきところであり、司法書士がたとい依頼人の委任を受けたところでこれをさしおいて自らの判断で事の処理に当ることはその職務に反し到底許されるところではない。
従つて、被告人の所為が弁護士法第七二条に違反するかどうかは、被告人のしたことが、右書類作成嘱託の窮極の趣旨を外れ、職制上与えられた権限の範囲を踰越し自らの意志決定により自己の判断を以て法律事件の紛議の解決を図ろうとしたものであるかどうかによつて判断すべきもの、即ち、右の権限踰越か否かが区別の本質的基準と考えられるのである。弁護士、司法書士ともその与えられた職務についてはこれを業とし報酬を得るものであり、又営利性も業務性も司法書士がその職制の範囲を踰越したことを前提としてその事項につきこれが営利を目的とし業とした時に問題となるものであるから、いずれも弁護士法第七二条の本質的基準となし難い。
司法書士の業務である右の訴訟関係書類の作成は、前述のとおり、弁護士の主要業務の一部と全く同一であることからして、右書類作成については相当な法律知識を必要とすることは司法書士法一条の二の規定をまつまでもなく明らかであり、また国が司法書士法を制定して一定の資格を有する者のみを司法書士としてその書類作成業務を独占的に行わせ、他の者にその業務の取扱を禁止している趣旨からして、司法書士が他人から嘱託を受けた場合に、唯単にその口述に従つて機械的に書類作成に当るのではなく、嘱託人から真意を聴取しこれに法律的判断を加えて嘱託人の所期の目的が十分叶えられるように法律的に整理すべきことは当然であり、職責でもある。
けれども、弁護士の業務は訴訟事件に関する行為その他一般の法律事務の取り扱いにわたる広範なものであるのに対し、司法書士の業務は書類作成に限定されていること、弁護士は通常包括的に事件の処理を委任されるのに対し、司法書士は書類作成の委任であること、前述のように訴訟関係書類の作成が弁護士業務の主要部分を占めているのに対し、司法書士の業務は沿革的に見れば定型的書類の作成にあつたこと、以上の相違点は弁護士法と司法書士法の規定のちがい特に両者の資格要件の差に基くこと、並びに弁護士法七二条の制定趣旨が前述のとおりであること等から考察すれば、制度として司法書士に対し弁護士のような専門的法律知識を期待しているのではなく、国民一般として持つべき法律知識【1】が要求されていると解され、従つて上記の司法書士が行う法律的判断作用は、嘱託人の嘱託の趣旨内容を正確に法律的に表現し司法(訴訟)の運営に支障を来たさないという限度で、換言すれば法律常識的な知識【1】に基く整序的な事項に限つて行われるべきもので、それ以上専門的な鑑定に属すべき事務に及んだり、代理その他の方法で他人間の法律関係に立ち入る如きは司法書士の業務範囲を越えたものといわなければならない。
(中略)
司法書士が、他人の嘱託を受けた場合に、「訴を提起すべきか、併せて証拠の申出をすべきか、仮差押、仮処分等の保全の措置に出るべきか、執行異議で対処すべきか」などまで判断するとともに、「資料の収集、帳簿の検討、関係者の面接調査、訴訟維持の指導」をもなすことが、司法書士の業務ないしこれに付随する業務であるかどうかは、その行為の実質を把握して決すべきである。例えば訴状を作成する段階でも証拠の存在内容を念頭に置く必要があるし、前示の一般的な法律常識の範囲内で助言指導をすることは何ら差支えない。これを一率に基準を立てて区分けすることは困難であつて、結局はその行為が嘱託に基く事務処理全体から見て個別的な書類作成行為に収束されるものであるか、これを越えて事件の包括的処理に向けられ事件内容についての鑑定に属する如き法律判断を加え、他人間の法律関係に立ち入るものであるかによつて決せられると解すべきである。
【1】「国民一般として持つべき法律知識」「法律常識的な知識」が何を意味するのかについては「裁判例の検討」をご参照ください。
特別研修の全講座を受講し、認定試験に合格した司法書士に対して、簡裁訴訟代理権を付与する法改正が行なわれた。
「高松高裁判決の表現は実態にそぐわない側面も生じている。・・・高松高裁判決の表現を逆手に取り、・・・司法書士の裁判書類作成関係業務の範囲を狭めるかのような主張も散見されるようになってきた(再考1頁)」
民事訴訟法五四条一項本文は、いわゆる弁護士代理の原則を規定し、地方裁判所以上の裁判所の訴訟事件について訴訟代理人が弁護士であることを訴訟代理権の発生・存続の要件とし、この要件を欠いた訴訟行為の効力を否定するものであるが、その趣旨は、訴訟の技術性・専門性を重視し、訴訟の効率的運営のために訴訟代理人を弁護士の有資格者に限定するとともに、いわゆる事件屋などの介入を排除するという公益的目的を図ることにある。
もっとも、紛争の当事者以外の第三者の訴訟関与の形態は訴訟代理に限られないところ、法律上の定めなく、実質的当事者である被担当者が訴訟担当者に訴訟追行権を授与し、訴訟担当者の名において訴訟追行をさせる、いわゆる任意的訴訟担当は、弁護士代理の原則を回避、潜脱するおそれがなく、合理的な必要がある場合に限り認められるものと解されているほか、非弁護士で法律事務の取扱いを業とする者を補佐人とすることも、弁護士代理の原則の趣旨に反して許されないものと解されており、民事訴訟法五四条一項本文により効力が否定されるべき訴訟行為は、非弁護士が当事者本人を代理して行ったものに限られず、実質的にこれと同視できるもの、すなわち、当事者が非弁護士に対して訴訟行為を策定する事務を包括的に委任し、その委任に基づき非弁護士が策定したものと認められる訴訟行為を含むものと解すべきである。
司法書士法三条一項四号は、裁判所に提出する書類を作成する事務を司法書士の行う事務と定める一方、弁護士法七二条は、弁護士又は弁護士法人でないものによる報酬を得る目的での訴訟事件に係る法律事務の取扱いを禁止する旨定めているところ、司法書士法三条一項四号所定の書類作成事務の限界と弁護士法七二条により禁止される法律事務の範囲については、訴状、答弁書又は準備書面等の作成は、他人から嘱託された趣旨内容の書類を作成する場合であれば、司法書士の業務範囲に含まれ、弁護士法七二条違反の問題を生ずることはないが、いかなる趣旨内容の書類を作成すべきかを判断することは、司法書士の固有の業務範囲には含まれないと解すべきであるから、これを専門的法律知識に基づいて判断し、その判断に基づいて書類を作成する場合には同条違反となるものと解されており、民事訴訟法五四条一項本文の適用範囲につき上記のとおり解釈することは、紛争の当事者からの委任を受けていかなる趣旨内容の訴訟行為を行うべきかを判断し、訴訟行為を策定する事務は弁護士の固有の業務範囲とされ、非弁護士がそのような事務を業として行うことが弁護士法七二条により禁止されていることと整合的である。
イ 司法書士に許容される司法書士法3条1項4号及び5号所定の裁判所宛提出書類作成業務等について
裁判所宛提出書類作成業務等を行うには相応の法律知識を要することや,司法書士法が制定され,一定の資格を有する者のみが司法書士として裁判所宛提出書類作成業務等を行うことができるとされていることからすると,裁判所宛提出書類作成業務等には,依頼者からその意向を聴取した上で,法律常識的知識を用いて,依頼者の目的を十分達成できるように整序することも含まれていると解される。
他方,弁護士法が制定され,司法書士とは異なる法律専門家として弁護士が想定されているところ,弁護士資格の取得要件は厳格であり,高度な専門的法律知識を有していることが必要であることに鑑み,弁護士及び弁護士法人以外の者が法律事件の法律事務を行うことが原則として禁止されている(弁護士法72条)。
そうすると,司法書士に許容された裁判所宛提出書類作成業務等は,法律常識的な知識に基づく整序的な事項に限って行われるべきものと解するのが相当である。
司法書士法3条1項4,5号で許された裁判書類作成関係業務及びこの事務について相談に応じる業務の範囲については,同項6,7号の代理権とは異なり,何ら限定が付されていない。それは司法書士が裁判書類の作成そのもの及びこの事務に付随する必要不可欠な業務のみを行うことが予定されているからであると解される。したがって,司法書士が裁判書類作成関係業務を行うに当たって取り扱うことができるのは,依頼者の意向を聴取した上,それを法律的に整序することに限られる。それを超えて,法律専門職としての裁量的判断に基づく事務処理を行ったり,委任者に代わって実質的に意思決定をしたり,相手方と直接交渉を行ったりすることは予定されていないものと解され,司法書士の裁判書類作成関係業務としての行為がこれらの範囲に及ぶときは,同項4,5号の権限を逸脱することになるものと解すべきである。
法律専門職として債務整理を受任する以上,権限の大小に関わらず,善管注意義務として,事案に即して依頼者の正当な利益を最大限確保するために最も適切・妥当な事務処理を行う義務を負うというべきであり,当事者の意向いかんにかかわらず,法律専門職として最善の手続について説明・助言すべき義務があるというべきである。その上で,当事者があえて自らの選択で他の手続を選ぶのであれば,それは自己の責任であるが,そのような説明・助言をすることなく,委任者が一定の意向を有するからといって,それに対応する事務処理を単に行うだけでは足りないというべきである。なぜなら,委任者は,そもそも高度な専門的知識を必要とする状況下にあるからこそ,その状況を的確に把握し,問題点・解決方法を得るために法律専門職に一定の事務処理を委任しているのであり,法律専門職が適切な説明・助言をしないまま本人に意思決定をさせた場合,委任の趣旨に反するからである。
証言,供述によれば,控訴人X1は,報酬は司法書士の方が安いこと,訴額140万円を超える事件では,弁護士に委任する場合と違って自身が法廷に立つ必要があることは理解できたと認められるが,それ以上に,弁護士と司法書士のどちらに委任するかで,債務整理の目的を達成する上でいかなるメリット,デメリットがあるのか等,その違いを理解するための説明は受けていないことが認められる。
最高裁は「司法書士の裁判外和解代理権の範囲」のみを審理対象(上告受理)とし、「司法書士の裁判書類作成権限」については審理対象としなかった(上告不受理)ため、「司法書士の裁判書類作成権限」については大阪高裁判決で確定した。
過払い金返還請求事件の原告裁判書類作成を行なった司法書士に対し、貸金業者である被告から裁判書類作成関係業務の範囲を超えて紛争に関与し、弁護士法に違反すると争われた事案。
同地判は、司法書士が専門的知識を用いた裁判書類を作成したことを認定し、この事情を踏まえてもなお「原告による本件訴訟の追行につき、実質的には司法書士による訴訟追行と評価すべき特段の事情を認めることはできない」とした。
WestlawJAPAN未掲載
高松高裁は「国民一般として持つべき法律知識」「法律常識的な知識」を同義として使っています。
そして「『国民一般として持つべき法律知識』であって、『国民一般として持っている法律知識』ではないのである。これを言い換えると『法律常識的な知識』というのは、法治国家で生活をするうえで国民が本来は知っていなければならない種々の法律や、膨大な判例知識、裁判実務等を包含する法律知識ということができる。つまり『法律常識的な知識』とは、一般用語の意味する『常識』とは異なり、高度な法律知識を意味していると考えられる。(再考4頁以下)」
したがって、司法書士は「簡裁訴訟代理権を行使する際に作成する裁判所提出文書」と「裁判所提出書類作成業務としての裁判所提出文書」において、クオリティに差異を設ける必要などなく、いずれも全力で作成すれば良いのです。
しかし、再考9頁以下によると大阪高判は「説明」「理解」「選択」というハードルを設けているといっています。
すなわち、いかに司法書士自身が良くできたと自己満足できる書面を作成したとしても説明して、依頼者の理解を得られなかったり、その文書を提出するという「選択」を得られなければ、司法書士が作成した文書は「無に帰する」のです。
その点では、司法書士が「裁判書類作成業務として作成する裁判所提出書類」には「簡裁代理の一環として作成する裁判所提出書類」よりも、より「分かりやすさ」が要求されていると言えると思います。
高松高判と大阪高判のうち、司法書士の裁判書類作成について述べている部分を比較します。
高松高判 | 嘱託人から真意を聴取しこれに法律的判断を加えて嘱託人の所期の目的が十分叶えられるよう法律的に整理すべき |
大阪高判 | 依頼者の意向を聴取した上,それを法律的に整序することに限られる。 |
大阪高判は「司法書士が法律的判断を加える」ことは許されないと読むことも可能です。
しかし、その一方で、大阪高判は司法書士に対して「事案に即して依頼者の正当な利益を最大限確保するために最も適切・妥当な事務処理を行う義務を負うというべきであり,当事者の意向いかんにかかわらず,法律専門職として最善の手続について説明・助言すべき」という重い善管注意義務を課しています。
以上整理の結果、再考8頁は、司法書士の行なう裁判書類作成関係業務は、次のように整理できるとしています。
高松高判 | 法的判断を加えたうえで、法的整序を行なう業務である。 |
大阪高判 | 法的整序に限られるが、依頼者の意向にかかわらず、依頼者にとって最善の手続を説明助言して本人の意思決定を支援する業務である。 |
ここまでは、私(司法書士佐藤大輔)も賛成です。
ところが「そうすると、司法書士がする法的判断の部分について、委任契約上の善管注意義務まで含めて解釈すると、大阪高裁判決は、高松高裁判決をより広く判断していると考えられる。」との結論には賛成できません。
私は、大阪高判と高松高判では(その間に簡裁訴訟代理権を与えられたとはいえ)司法書士の権限は拡大も縮小もしていないと読むべきと考えます。私は「(簡裁訴訟代理権を超える)法的判断」を司法書士が行なうのは、権限を越えるものであると考えます。法的判断をするのはあくまで依頼者ご本人であって、ご本人が「法的判断」をするために必要な一切の情報を提供するのが司法書士の裁判書類作成関係業務の限界であると、大阪高判は高松高判をさらに誤解を生じないように整理したものと解釈するのが妥当だろうと考えています。
そして、そう考えることが、非弁などという不名誉な誹りを司法書士が受けないで済む最善の解釈であろうとも考えます。
高松高裁と大阪高裁から、次のような指針が導かれるのではないかと思います。
この時点では、主に「①弁護士との違い」と「②作成する書類内容」について
を行うべきです。
この時点では、主に「作成した文書内容」について
のうえで、依頼者に署名押印いただき、裁判所への提出を行うべきです。