行政書士試験への合格を目指される方へー行政書士と司法書士との違いー(現役司法書士からのメッセージ)


行政書士バッジ
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司法書士バッジ
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「行政書士」試験合格を目指す皆様、私たちは「司法書士」というよく似た名前の国家資格です。

ひょっとしたら、皆様が目指すべき資格は、行政書士ではなく、司法書士かもしれません。

行政書士試験に合格してから「こんな筈じゃなかった」という方を減らすべく、そして優秀な方には「行政書士ではなく司法書士」を目指していただきたく、この記事を執筆しました。

もくじ
  1. 売上等の比較
    1. 行政書士の年間売上
    2. 司法書士の年間売上
    3. サラリーマン
  2. 働き方
    1. 行政書士
    2. 司法書士
    3. 働き方まとめ
  3. 開業と廃業
    1. 行政書士
    2. 司法書士
  4. やりたい仕事は何ですか?
    1. 行政書士の主たる業務
    2. 司法書士の主たる業務
  5. 司法書士を目指しましょう

売上等の比較


このコラム執筆の契機となった衝撃的な投稿が、令和6年3月、SNS(X。旧・Twitter)上に、行政書士自らの手によってなされました。投稿されたのは、日本行政書士会連合会が出版している「月刊日本行政」に掲載された行政書士の年間売上です。

「売上(収入、年収)」は「所得(自宅に持ち帰って使えるお金。給与所得者の「給与」に相当します。)」ではありません。売上から経費を引いた金額が自宅に持ち帰ることのできる所得になります。

行政書士の年間売上

下表をご覧ください。

行政書士の76.8%が、年間売上500万円未満と回答しています(令和5年度)。

行政書士の87.5%が、年間売上1000万円未満と回答しています(令和5年度)。

 

ここから毎月の事務所家賃、コピー機等のリース代、会費を支払うと、自宅に持ち帰ることのできるお金は、どれくらい残るのでしょうか?

年間売上が500万円や1000万円では、実家がとても裕福でない限り、とても生活が苦しいのではないかと思います。

行政書士の年間売上(日本行政書士会連合会の機関誌「月刊日本行政」令和6年3月号より)
行政書士の年間売上(日本行政書士会連合会の機関誌「月刊日本行政」令和6年3月号より)

司法書士の年間売上

司法書士の売上に関するデータは、見つけられませんでした。

私自身、聞かれた記憶も回答した記憶もありませんので、統計を取っていないのだと思います。

 

AIにも「司法書士の売上に関する情報をソースを日本司法書士会連合会の刊行物や税務署・国税庁などの官公署に限っておしえてください。」と質問してみましたが、やはり「日本司法書士会連合会が発行する出版物の中で、司法書士の売上に関する具体的なデータや情報は確認できませんでした。司法書士の業務や制度に関する資料は多く存在しますが、売上に特化した情報は公開されていない可能性があります。・・・」という回答でした。(https://www.perplexity.ai/)

 

政府が実施している「経済センサス‐活動調査 令和3年経済センサス」においても、司法書士は何故か「公証人役場、司法書士事務所」と公証人と一緒にまとめられて公開されているため、全く実態が分かりません。

 

それでも、私の体感では、司法書士の年間売上は、行政書士の5~10倍前後はあろうかと思います。より正確に申し上げると、司法書士の売上分布は、行政書士の年間売上に関する上記「円グラフ」の数字を5~10倍にすると、ちょうど良い感じだと思います。

サラリーマンはどうか?!

サラリーマンに関する下表は、売上(収入)ではなく、所得です。

サラリーマンの平均給与(国税庁/民間給与実態統計調査結果/令和4年度分)
サラリーマンの平均給与(国税庁/民間給与実態統計調査結果/令和4年度分)

男性サラリーマンの平均給与額がどの年度でも500万円を超えています。

つまり、行政書士の76%が、男性サラリーマンの平均給与以下ということになります。言い換えると、男性の方は、行政書士になると、余程頑張らない限りサラリーマンの平均給与を下回ってしまうことになります。

一方、司法書士は、サラリーマンよりは上でしょうし、頑張れば、もっと・・・ぼちぼち行けます!

働き方


行政書士

司法書士も行政書士も、個人事業で行うこともできます(個人事務所)し、法人化することもできます(法人事務所)。

また、個人事務所も法人事務所も、資格者を雇用することができます。


下表をご覧ください。行政書士は・・・

個人事務所開業が93%。

行政書士法人を設立してその役員を務めるのが4.5%。

勤務(個人事務所勤務+法人事務所勤務)の行政書士が2.3%。

多くの行政書士試験合格者が「行政書士業務を学ぶために就職先を探しても見つからない。やむを得ず即独立する。」などとSNSでつぶやいていますが、その実態が数字としても表れています。

◆登録者数(令和6年12月末日現在)        
合    計       52,965名
内    訳 44,125名 8,840名
個人事務所開業 41,446名 7,876名
行政書士法人社員【1】 1,982名 410名
個人使用人行政書士 349名 267名
法人使用人行政書士 348名 287名
◆法人会員(令和6年1月末日現在)        
法人会員数       1,463
法人事務所数       1,724
 主たる事務所数(行政書士法人数)       1,246
 従たる事務所数       478

(日本行政書士会連合会『月刊日本行政』2025.2/39頁)

【1】行政書士法人社員とは、従業員という意味ではなく、法律上の「社員」で、一般的な言葉に置き換えると「役員」という意味です。

司法書士

公開されている司法書士白書などの数字を、上の行政書士会の表に当てはめようとしましたが、司法書士は公開されている情報が少なくて再現できませんでした。

もっとも近年の司法書士業界が売り手市場(求人数>求職者数)であって、就職先に困らないのは、もはや公知の事実といっても過言ではないかもしれません【1】。

◆登録者数        
合    計(令和7年2月3日現在)【2】       23,296名
内    訳(令和6年4月1日現在)【3】 18,682名 4,474名
個人事務所開業
司法書士法人社員
個人使用人司法書士
法人使用人司法書士
◆法人会員        
法人会員数(令和7年2月3日現在)【2】       1273
法人事務所数      
 主たる事務所数(司法書士法人数)      
 従たる事務所数      

【1】登録司法書士数が多い司法書士事務所のランキングは、民間の人材派遣会社が公開していますので「全国司法書士事務所ランキング」で検索いただければ、分かります。なお、同ランキングによると最大で100名の司法書士が在籍している法人がありますが、必ずしも大きい法人が評判のよい司法書士とは限りません。。。

司法書士専門の求人・求職サイト「司法書士JOBサーチ」をご覧になれば、いかに求人数が多いか、お分かりいただけると思います。

【2】日本司法書士会連合会「全国司法書士会一覧」最終アクセス250211

【3】日本司法書士会連合会「会員数他データ集」最終アクセス250211

働き方まとめ

  • 行政書士:行政書士業務を学ぶために就職先を探しても見つからない。やむを得ず即独立する。独立しても余程能力が高くないとサラリーマン以下の年収にしかならない。
  • 司法書士:売り手市場であって、就職先には困らないので、業務を学んでから独立できる。いざ独立してもボチボチな年収を確保できる。

開業と廃業


行政書士

下表は月刊日本行政に毎月掲載される新規登録者数と登録抹消者数を比較した表です。

概ね新規登録と登録抹消が毎月同数です。一方、毎年3月には廃業する方が大量に出ています。3月は個人の確定申告時期ですので、ここでご自身の数字(売上等)を客観的に見て、廃業される先生が多いのかもしれません。

確かに、専門家の交流会などに出席すると、行政書士の廃業を聞くことは多いですので、実感できる数字です。

それでも、行政書士の登録者数は増加し続けている(年間でみると、新規登録者数が登録取消者数を上回っている。)ので、行政書士は多産多死の資格なのかもしれません。

異動状況(令和6年3月中の処理件数)

新規登録  合計       204名
  内訳 161名 43名
登録抹消 合計       544名
  内訳 476名 68名
  ・廃業   507名    
  ・死亡   37名    
  ・その他   0名    

◆異動状況(令和6年1月中の処理件数)

新規登録  合計       188名
  内訳 153名 35名
登録抹消 合計       172名
  内訳 150名 22名
  ・廃業   139名    
  ・死亡   32名    
  ・その他   1名    

異動状況(令和5年9月中の処理件数)

新規登録  合計       176名
  内訳 141名 35名
登録抹消 合計       262名
  内訳 227名 35名
  ・廃業   231名    
  ・死亡   28名    
  ・その他   3名    

異動状況(令和5年3月中の処理件数)

新規登録  合計       195名
  内訳 156名 39名
登録抹消 合計       421名
  内訳 381名 40名
  ・廃業   383名    
  ・死亡   38名    
  ・その他   0名    

◆異動状況(令和3年12月中の処理件数)

新規登録  合計       163名
  内訳 136名 27名
登録抹消 合計       193名
  内訳 169名 24名
  ・廃業   168名    
  ・死亡   23名    
  ・その他   2名    

◆異動状況(令和3年3月中の処理件数)

新規登録  合計       153名
  内訳 131名 22名
登録抹消 合計       411名
  内訳 359名 52名
  ・廃業   368名    
  ・死亡   42名    
  ・その他   1名    

司法書士

行政書士会と比べて、司法書士会はデータが古く、月ごとの統計が見つけられませんでした。

司法書士は、令和2年度のみ「新規登録者数<登録取消者数」でしたが、他の年度は新規登録者数が登録取消者を上回っています。

「司法書士新規登録者数及び登録取消者数の推移とその内訳」「司法書士白書2024年版」163頁
「司法書士新規登録者数及び登録取消者数の推移とその内訳」「司法書士白書2024年版」163頁
  • 行政書士が【月間】の登録取消者数は、170~500人程度です。
  • 司法書士の【年間】の登録取消者数は、500~600人程度です。

母数の差(行政書士登録者が5万人、司法書士が2万2000人)を差し引いても、行政書士の登録取消し数が、司法書士と比べると相当多いことがお分かりいただけると思います。

やりたい仕事は何ですか?


あなたが資格をとって、やりたい仕事は何でしょうか?

やりたい仕事が下記のいずれかであれば「行政書士」ではなく「司法書士」を目指すべきです。

  • 相続
  • 成年後見
  • 会社設立

いずれも行政書士の資格では途中までしかできないからです。途中までしかできないということは、依頼者は行政書士以外の資格者にも報酬を支払う必要があるということです(司法書士であれば、最初から最後まで全部できます。)。

ここで行政書士と司法書士の主たる業務について、見てみましょう。

  • 相続:行政書士は戸籍を取得できるものの、その先にある相続登記を申請することはできません(相談に乗ることも、司法書士法違反で刑事罰があります。)。また、遺産分割協議書も不動産が含まれる場合には、司法書士法に反し、作成できません。
  • 成年後見:法定後見と任意後見があり、後見制度の両輪を担っています。ところが、法定後見は裁判所への申立が必要であるため、行政書士はできません。後見専門を謳っている行政書士がいますが、任意後見の説明しかできません(法定後見が相応しい方にも、無理やり任意後見に誘導する行政書士もいると聞いています。)。
  • 会社設立:登記が会社設立の効力発生要件となっています。したがって、行政書士は、その添付書類も作成できず、登記が効力発生要件となっている会社設立の相談に乗ること自体が違法です。

 

 

 

行政書士の主たる業務

行政書士の業務については、行政書士法第1条の2などが定めています。

 

行政書士法第1条の2(業務)
 
  1. 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
  2. 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

※ 読みやすさを考え、筆者において、第1項中にある()とその中の文章を削除しました。

 

この規定からは、次の二点が分かります。

  1. 行政書士は「官公署に提出する書類」の作成を業務とすること(1項)
  2. 「官公署に提出する書類」でも他の法律で制限されている書類は作成できないこと(2項)

「官公署」とは、一般に国、地方公共団体及びその他の公的団体の諸機関の総称であり、具体的には、各省庁、都道府県庁、市区町村役場、警察署などが含まれます。したがって、1項だけを読めば行政書士業務が相当広範囲だと勘違いしてしまいます。ところが、実は2項に該当する「他の法律」が多数存在するのです。司法書士法もその一つです。

 

司法書士の主たる業務

一方、司法書士の業務については、司法書士法第3条などが定めています。

 

司法書士法第3条(業務)
 
  1. 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする。
    一 登記又は供託に関する手続について代理すること。
    二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
    三 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
    四 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。
    五 前各号の事務について相談に応ずること。
    六~八 (略)
  2. (以下略)

※ 読みやすさを考え、筆者において、第1項第2号及び第4号中にある()とその中の文章を削除しました。

 

これら規定からは、法務局(登記所)、裁判所に提出する書類の作成は司法書士の独占業務であることがわかります(弁護士を除く)。

つまり、行政書士は、法務局、裁判所に提出する書類は作成できないのです。

また、司法書士法第3条第1項第5号は「法務局、裁判所に提出する書類の相談」についても司法書士の独占業務としていますので、行政書士は、相談にすら応じられません。

 

ここでもう一度、さきほど挙げた相続、成年後見、会社設立について見てみましょう。

  • 相続:行政書士は戸籍を取得できるものの、その先にある相続登記を申請することはできません(相談に乗ることも、司法書士法違反で刑事罰があります。)。また、遺産分割協議書も不動産が含まれる場合には、司法書士法に反し、作成できません。
  • 成年後見:法定後見と任意後見があり、後見制度の両輪を担っています。ところが、法定後見は裁判所への申立が必要であるため、行政書士はできません。後見専門を謳っている行政書士がいますが、任意後見の説明しかできません(法定後見が相応しい方にも、無理やり任意後見に誘導する行政書士もいると聞いています。)。
  • 会社設立:登記が会社設立の効力発生要件となっています。したがって、行政書士は、その添付書類も作成できず、登記が効力発生要件となっている会社設立の相談に乗ること自体が違法です。

行政書士は、許認可を申請するのが主たる業務です。ところが、行政書士には、雇用できるほどの売上がないため、勤務先がなく即独立せざるを得ず、許認可に関して修行できない方が多いと聞いています。

また、許認可のクライアントは企業であるところ、開業直後は、企業から依頼を受けることができず苦労するとも聞いています。

 

これらの事情が相まって相続、成年後見、会社設立などの他士業業務にも手を出されているのだろうと推察します。行政書士が司法書士業務に手を出して告訴告発、逮捕、有罪等となった事例については、下記記事をご参照下さい。

わたし(司法書士佐藤大輔)は、兵庫県司法書士会の非司法書士対策委員を拝命していますが、司法書士法違反を犯す行政書士は、本当に(驚くほど)多いです。そして、これらの行政書士には、積極的に、警告や刑事告発を行っております。

 

私たちの司法書士事務所は、多くの他士業の先生に支えられており、その中には勿論行政書士の先生方もいらっしゃいます。許認可は、複雑なものも多く、都道府県(ときには市町村)によって添付書類が異なることもあると聞いております。複雑な許認可のプロである行政書士の先生方を尊敬しております。

それでも、餅は餅屋、行政書士が相続、成年後見、会社設立などの司法書士業務に手を出すのは、消費者被害を生む可能性もある(一部は違法ですらある。)ため、お控えいただくべきだと思います。

 

そして、相続、成年後見、会社設立などを仕事にしたい方は、是非「司法書士」資格の取得を目指していただきたいと思います。

 

一方、許認可がやりたいから行政書士が良いのだという方は、上記売上比較や業務を覚える環境がないことをご理解いただいたうえ、行政書士試験を目指されれば良いと思います。

司法書士を目指しましょう


司法書士を目指しましょうとは、安易に言いません。司法書士試験の難易度が非常に高いからです。

 

私は、学生時代、割と勉強ができる方でしたが、司法書士試験の範囲の膨大さや難易度には本当に苦労しました。大学在学中に合格できなかったときは本当に不味いと思いました。

合格後も10年以上に渡り、夜「司法書士試験に合格できない」などの不愉快な夢を見てうなされました。おそらく精神的なトラウマになってしまったのでしょう。

 

ただ、司法書士は、本当に素晴らしい仕事ですし、ぼちぼち儲けもあります。

この記事をご覧になった行政書士試験受験生が、司法書士試験に転向されることを、そして、いつの日か同じ業界で働けることを、祈念いたしております。

参考資料等