非訟事件とは何か?!【司法書士が解説】


非訟事件は、訴訟事件以外の裁判事件です。非訟事件は種類が多く、しかも様々な法令に散らばって規定されているため、その全体像が分からないという方が多いと思います。

概要をまとめましたのでご参照ください。

もくじ
  1. 非訟事件の類型と法令
  2. 非訟事件の種類
  3. 非訟事件と訴訟事件の違い
  4. 非訟事件に関する各法令の関係性
  5. 非訟事件手続に共通する注意点
  6. 人気の関連ページ

〔凡例〕この記事では次のとおり略記することがあります。

  • 非訟法=非訟事件手続法
  • 非訟規則=非訟事件手続規則
  • 会=会社法
  • 会社非訟規則=会社非訟事件等手続規則
  • 借=借地借家法
  • 借地非訟規則=借地非訟事件手続規則
  • 家=家事事件手続法
  • 家規則=家事事件手続規則
  • 民訴法=民事訴訟法

非訟事件の類型と法令


非訟事件手続法を見ても、借地非訟や会社非訟について書かれていません。

ではどこに書いてあるのかと言いますと、それぞれ別の法律と裁判所規則で定められています。

 

裁判所規則は、裁判所が定めたものですが、イーガブ(eーGOVポータル)には出てきません。リンクをクリックするか、規則名をそのまま検索すると、PDFで見ることができます。

非訟事件手続法に定められた非訟事件

     民事非訟事件(非訟法92以下)

公示催告事件(非訟99法以下)

過料事件(非訟109法以下)

会社非訟事件(商事非訟ともいいます。)

借地非訟事件

家事事件(家事非訟とはいわず「家事事件」といいます。)

非訟事件の種類


非訟事件を上の4類型ごとに整理し、具体例を列挙しますと、次のとおりになります。

非訟事件手続法に定められた非訟事件(非訟事件手続法、非訟事件手続規則
  民事非訟事件(非訟法92以下)
   
  • 共有物分割の証書の保存者の指定(非訟法92)
  • 動産質権の実行の許可(非訟法93)
  • 供託所の指定及び供託物の保管者の選任等(非訟法94)
  • 競売代価の供託の許可(非訟9法5)
  • 買戻権の消滅に係る鑑定人の選任(非訟法96)
 

公示催告事件(非訟99法以下)

 

過料事件(非訟109法以下)

   
会社非訟事件(商事非訟ともいう。会社法/第7編雑則/第3章非訟/868~906。会社非訟事件等手続規則
  株式に関する事件
   
  • 現物出資に関する検査役選任(会33、207)
  • 株式売買価格決定申立事件(会144Ⅱ、会177Ⅱ等)
  • 所在不明株主の株式売却許可申立事件(会197Ⅱ等)
  • 端数株式の任意売却許可申立事件(会234Ⅱ等)
  株主総会に関する事件
   
  • 少数株主の株主総会招集許可申立事件(会297Ⅳ)
  • 総会検査役の選任申立事件(会306)
  役員に関する事件
   
  • 仮役員等の選任申立事件(会346Ⅱ等)
  • 取締役等の職務代行者の常務外行為の許可(会352)
  取締役会議事録に関する事件
   
  • 取締役会議事録等の閲覧謄写等許可申立事件(会371Ⅲ等)
  会計帳簿閲覧
   
  • 親会社社員の子会社会計帳簿の閲覧許可申立事件(会433Ⅲ等)
  社債に関する事件
   
  • 社債権者集会の決議認可申立事件(会732)
  清算に関する事件
   
  • 清算人選任申立事件(会478Ⅱ等)
  • 清算人解任申立事件(会479)
  • 債務弁済許可申立事件(会500Ⅱ等)
  • 帳簿資料保存者選任申立事件(会508Ⅱ等)
  • 特別清算(会510等)
  過料事件(会976-979)
   
借地非訟事件(借地借家法、借地非訟事件手続規則
   
  • 借地条件の変更(借地借家17Ⅰ)  
  • 借地上建物の増改築等の承諾に代わる許可(借地借家17Ⅱ)
  • 借地契約更新後の建物再築の承諾に代わる許可(借地借家18Ⅰ)
  • 土地の賃借権の譲渡又は転貸の承諾に代わる許可(借地借家19Ⅰ)
  • 建物及び土地賃借権の譲受等の命令(介入権)(借地借家19Ⅲ)
  • 建物競売等に係る賃借権の譲渡等の許可(借地借家20Ⅰ)
     
家事事件(家事非訟とはいわず「家事事件」といわれます。家事事件手続法、家事事件手続規則
  別表第一事件
   
  • 成年後見:後見開始、後見開始の審判の取消し、成年後見人の選任、成年後見人の辞任についての許可、成年後見人の解任、成年後見監督人の選任、成年後見監督人の辞任についての許可、成年後見監督人の解任、成年後見に関する財産の目録の作成の期間の伸長、成年後見人又は成年後見監督人の権限の行使についての定め及びその取消し、成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可、成年被後見人に関する特別代理人の選任、成年被後見人に宛てた郵便物等の配達の嘱託及びその嘱託の取消し又は変更、成年後見人又は成年後見監督人に対する報酬の付与、成年後見の事務の監督、第三者が成年被後見人に与えた財産の管理に関する処分、成年後見に関する管理の計算の期間の伸長、成年被後見人の死亡後の死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為についての許可
  • 保佐:保佐開始、保佐人の同意を得なければならない行為の定め、保佐人の同意に代わる許可、保佐開始の審判の取消し、保佐人の同意を得なければならない行為の定めの審判の取消し、保佐人の選任、保佐人の辞任についての許可、保佐人の解任、臨時保佐人の選任、保佐監督人の選任、保佐監督人の辞任についての許可、保佐監督人の解任、保佐人又は保佐監督人の権限の行使についての定め及びその取消し、被保佐人の居住用不動産の処分についての許可、保佐人又は保佐監督人に対する報酬の付与、保佐人に対する代理権の付与、保佐人に対する代理権の付与の審判の取消し、保佐の事務の監督、保佐に関する管理の計算の期間の伸長
  • 補助:補助開始、補助人の同意を得なければならない行為の定め、補助人の同意に代わる許可、補助開始の審判の取消し、補助人の同意を得なければならない行為の定めの審判の取消し、補助人の選任、補助人の辞任についての許可、補助人の解任、臨時補助人の選任、補助監督人の選任、補助監督人の辞任についての許可、補助監督人の解任、補助人又は補助監督人の権限の行使についての定め及びその取消し、被補助人の居住用不動産の処分についての許可、補助人又は補助監督人に対する報酬の付与、補助人に対する代理権の付与、補助人に対する代理権の付与の審判の取消し、補助の事務の監督、補助に関する管理の計算の期間の伸長
  • 不在者の財産の管理:不在者の財産の管理に関する処分
  • 失踪の宣告:失踪の宣告、その取消し
  • 婚姻等:夫婦財産契約による財産の管理者の変更等
  • 親子:嫡出否認の訴えの特別代理人の選任、子の氏の変更についての許可、養子縁組をするについての許可、死後離縁をするについての許可、特別養子縁組の成立、特別養子縁組の離縁
  • 親権:子に関する特別代理人の選任、第三者が子に与えた財産の管理に関する処分、親権喪失・親権停止又は管理権喪失、これらの審判の取消し、親権又は管理権を辞し又は回復するについての許可
  • 未成年後見:養子の離縁後に未成年後見人となるべき者の選任、未成年後見人の選任、未成年後見人の辞任についての許可、未成年後見人の解任、未成年後見監督人の選任、未成年後見監督人の辞任についての許可、未成年後見監督人の解任、未成年後見に関する財産目録の作成の期間の伸長、未成年後見人又は未成年後見監督人の権限の行使についての定め及びその取消し、未成年被後見人に関する特別代理人の選任、未成年後見人又は未成年後見監督人に対する報酬の付与、未成年後見の事務の監督、第三者が未成年被後見人に与えた財産の管理に関する処分、未成年後見に関する管理の計算の期間の伸長
  • 扶養:扶養義務の設定、設定の取消し
  • 推定相続人の廃除:推定相続人の廃除、その取消し、推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分
  • 相続の承認及び放棄:相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長、相続財産の保存又は管理に関する処分、限定承認又は相続の放棄の取消しの申述の受理、限定承認の申述の受理、限定承認の場合における鑑定人の選任、限定承認を受理した場合における相続財産の管理人の選任、相続の放棄の申述の受理
  • 財産分離:財産分離、財産分離の請求後の相続財産の管理に関する処分、財産分離の場合における鑑定人の選任
  • 相続人の不存在:相続人の不存在の場合における相続財産の管理に関する処分、相続人の不存在の場合における鑑定人の選任、特別縁故者に対する相続財産の分与
  • 遺言:遺言の確認、遺言書の検認、遺言執行者の選任、遺言執行者に対する報酬の付与、遺言執行者の解任、遺言執行者の辞任についての許可、負担付遺贈に係る遺言の取消し
  • 遺留分:遺留分を算定するための財産の価額を定める場合における鑑定人の選任、遺留分の放棄についての許可
  • 任意後見契約法:任意後見契約の効力を発生させるための任意後見監督人の選任、任意後見監督人が欠けた場合における任意後見監督人の選任、任意後見監督人を更に選任する場合における任意後見監督人の選任、後見開始の審判等の取消し、任意後見監督人の職務に関する処分、任意後見監督人の辞任についての許可、任意後見監督人の解任、任意後見監督人の権限の行使についての定め及びその取消し、任意後見監督人に対する報酬の付与、任意後見人の解任、任意後見契約の解除についての許可
  • 戸籍法:氏又は名の変更についての許可、就籍許可、戸籍の訂正についての許可、戸籍事件についての市町村長の処分に対する不服
  • 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律:性別の取扱いの変更
  • 児童福祉法:都道府県の措置についての承認、都道府県の措置の期間の更新についての承認、児童相談所長又は都道府県知事の引き続いての一時保護についての承認、児童相談所長の申立てによる特別養子適格の確認
  • 生活保護法等:施設への入所等についての許可
  • 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律:保護者の順位の変更及び保護者の選任
  • 破産法:破産手続が開始された場合における夫婦財産契約による財産の管理者の変更等、親権を行う者につき破産手続が開始された場合における管理権喪失、破産手続における相続の放棄の承認についての申述の受理
  • 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律:遺留分の算定に係る合意についての許可
  別表第二事件
   
  • 婚姻等:夫婦間の協力扶助に関する処分、婚姻費用の分担に関する処分、子の監護に関する処分、財産の分与に関する処分、離婚等の場合における祭具等の所有権の承継者の指定
  • 親子:離縁等の場合における祭具等の所有権の承継者の指定
  • 親権:養子の離縁後に親権者となるべき者の指定、親権者の指定又は変更
  • 扶養:扶養の順位の決定及びその決定の変更又は取消し、扶養の程度又は方法についての決定及びその決定の変更又は取消し
  • 相続:相続の場合における祭具等の所有権の承継者の指定
  • 遺産の分割:遺産の分割、遺産の分割の禁止、寄与分を定める処分
  • 特別の寄与:特別の寄与に関する処分
  • 厚生年金保険法:請求すべき按分割合に関する処分
  • 生活保護法等:扶養義務者の負担すべき費用額の確定

非訟事件と訴訟事件の違い


  非訟事件 訴訟事件
性格 国家が私人間の生活関係に介入するために命令・処分をする民事行政 法令を適用して紛争を解決する民事司法
口頭弁論 口頭弁論を開かなくてよい 公開の口頭弁論を開く
主義 裁判の基礎資料につき必要があれば裁判所が職権で探知することができる(職権探知主義) 当事者が提出した資料のみを裁判所の資料とする建前(弁論主義)
終局 決定 判決

決定に対する不服申立ても抗告 判決に対して不服があるときは、さらに控訴、上告という二度の不服申立てを認められている
具体例
  • 非争訟的非訟事件:紛争性が低い非訟事件。司法には該当せず、むしろ行政に含まれるが、沿革的・政策的な理由により裁判所の権限に属する。
    • 非訟事件手続法に規定された事件
    • 家事事件手続法の別表第一事件
  • 争訟的非訟事件:紛争性が高い非訟事件のことである。紛争性の高さゆえ訴訟との区別が問題となる。
    • 借地非訟事件
    • 会社非訟事件
    • 家事事件手続法の別表第二事件
    • DV防止法に規定する保護命令
 

非訟事件に関する各法令の関係性


非訟事件手続法

非訟事件手続法第1条(趣旨)
  この法律は、非訟事件の手続についての通則を定めるとともに、民事非訟事件、公示催告事件及び過料事件の手続を定めるものとする。 
   
非訟事件手続法第2条(最高裁判所規則)
  この法律に定めるもののほか、非訟事件の手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
  >最高裁判所規則とは「非訟事件手続規則」のことです。

会社非訟

会社法第875条(非訟事件手続法の規定の適用除外)
  この法律の規定による非訟事件については、非訟事件手続法第40条(筆者注:検察官の関与)及び第57条第2項第2号(筆者注:終局決定への理由の要旨の記載)の規定は適用しない。 
 

>除外された条文以外は、会社非訟事件にも非訟事件手続法が準用されます。

 

会社法第876条(最高裁判所規則)
  この法律に定めるもののほか、この法律の規定による非訟事件の手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
  >最高裁判所規則とは「会社非訟事件等手続規則」のことです。
   
会社法第233条(適用除外)
  非訟事件手続法第四編の規定(筆者注:公示催告)は、株券については、適用しない。

借地非訟

借地借家法第41条(非訟事件手続法の適用除外及び最高裁判所規則)
 
  1. 前条の事件(筆者注:借地非訟事件全て)については、非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第27条(筆者注:手続費用の国庫立替)、第40条(筆者注:検察官への通知)、第42条の2(筆者注:当事者に対する住所、氏名等の秘匿)及び第63条第1項後段(筆者注:終局決定後の取下に関する裁判所の許可)の規定は、適用しない。
  2. この法律に定めるもののほか、前条の事件に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
 

>除外された条文以外は、借地非訟にも非訟事件手続法が適用されます。

>最高裁判所規則とは「借地非訟事件手続規則」のことです。

家事事件

家事事件手続法第1条(趣旨)
  家事審判及び家事調停に関する事件(以下「家事事件」という。)の手続については、他の法令に定めるもののほか、この法律の定めるところによる。
 

>(会社非訟事件や借地非訟事件には非訟事件手続法を適用されますが)家事事件の場合には、非訟事件手続法はそのまま適用されません。【1】

 

家事事件手続法第3条(最高裁判所規則)
  この法律に定めるもののほか、家事事件の手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
   
家事事件手続法附則第1条(施行期日)
  この法律(以下「新法」という。)は、非訟事件手続法の施行の日から施行する。 

 

【1】「家事審判法の下では,家事審判・家事調停に関しては,特別の定めがある場合を除き,その性質に反しない限り,旧非訟事件手続法第1編(総則)の規定が準用される旨が定められていたが(家審7条),家事事件手続法においては,家事審判・家事調停に特別の規定が自己完結的に設けられているので,新たな非訟事件手続法(平成23法51)の規定の準用はされていない。(梶村太市・徳田和幸(編著)『家事事件手続法 第3版』(有斐閣、2016年)8頁」

非訟事件手続に共通する注意点


非訟事件では、まず裁判所HPや、裁判所職員が編集に加わった書籍(「○○の実務」など)を参照することが大切です。

これらは現在の実務の到達点であり、適宜改訂も行われており、目録や運用に沿った申立てをすることで発令が迅速に行われるためです。

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