「敷金」は、賃貸マンションを借りたことがある方には、馴染みがある言葉だと思います。
一方、よく似た意味を持つ「保証金」「建設協力金」という言葉もあります。
契約書を作成する方は、これらの定義をキッチリと理解し、間違えた意味にとられないよう表現を注意する必要があります。
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これまで「敷金」について定義した法律はありませんでしたが、改正民法は、これを定義しました。
改正民法第622条の2 | |
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「敷金」を定義しているのは括弧書きの部分、すなわち「敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)」です。
「相殺」は相手方に対して、相殺の意思表示をしなければなりませんが、「債務の弁済に充てることができる」(民法622の2Ⅱ)と、当然充当できること、すなわち相手方に対して何らの意思表示をすることなく賃貸人が帳簿上、充当処理すれば良いと規定されているのは大きいです。
これまでも判例は、明渡しを受けた後、敷金を返還すれば良いとしていました(最判S49.9.2民集28.6.1152)。「賃借人の明渡し」と「賃貸人の敷金返還」は同時履行ではなく、明渡しが先履行であると。
改正民法はこの考え方を明文化しています(改正民法622の2Ⅰ①)。
その他、適法に賃借権が譲渡されたときにも、「前賃借人に」敷金を返還すべきと定めています(改正民法622の2Ⅰ②)。
「敷金」「保証金」「建設協力金」どのような言葉を使っていても、実質的な中身で判断する必要があります(民法6222Ⅰ括弧書き部分に「いかなる名目によるかを問わず」とあります。)。
最高裁も「保証金」という名目で賃貸人が預かった金員について「本件保証金は、その権利義務に関する約定が本件賃貸借契約書の中に記載されているとはいえ、いわゆる建設協力金として右賃貸借とは別個に消費貸借の目的とされたものというべきであり、かつ、その返還に関する約定に照らしても、賃借人の賃料債務その他賃貸借上の債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付され、賃貸借の存続と特に密接な関係に立つ敷金ともその本質を異にするものといわなければならない。」と判断しています(最判昭和51年3月4日民集30.2.25)。
単語 | 意味 | 結論 |
建設協力金 | 金銭消費貸借の意味で使われる。 | 相殺禁止特約がない限り,相殺適状に達してさえいれば,賃貸人・賃借人いずれの側からも相殺することができる。 |
敷金 | 担保の意味で使われる。 |
賃貸人は未払い賃料に敷金を「充当」できる。 賃借人は未払い賃料への敷金の充当を主張できない。 |