ときどき問題となる私道の通行権をめぐる問題は、複雑です。
わかりやすく解説します。
もくじ | |
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道路は何故重要なのか?それは主に次の二つの理由からです。
土地を所有していても、その土地に至るまでの土地が第三者所有で通れなければ、あなたが所有している土地は、役に立ちません。
また、公道があっても、公道を通ると遠回りになる場合、どなたかの土地を横切らせて欲しいと思うのは人情でしょう。
など多数の論点があります。
さらに、便利な道路の有無は、所有なさっている不動産の価格にも影響します。
原則4m以上の道路【1】に、敷地が2m以上接していないと、建物は建築できません(建築基準法43Ⅰ)。
なお、接道義務を満たす目的の囲繞地通行権は認められません(最高裁S37.3.15判決)。
【1】次のいずれかの道路です(建築基準法42Ⅰ)。
通行権について問題になることが多いのは下表の「私道」のうち、「位置指定道路」「みなし道路(二項道路)」です。いずれの私道であるかによって、通行問題に対する結論が異なることがありますので、あらかじめ説明します。
公道 | 道路法による道路 | 高速自動車国道 |
一般国道 | ||
都道府県道 | ||
市町村道 | ||
私人所有地でも国などが使用権を取得し供用開始した場合(道路法4) | ||
土地改良法による農道 | ||
森林法による林道 | ||
里道リドウ・赤道アカミチ |
公共用財産であるが道路認定を受けず今日に至っているもの。 道路としての体をなしていないものも少なくない。 公図上、赤線で記載されていることから赤道アカミチともいう。 |
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私道 【1】 |
位置指定道路 (建築基準法42Ⅰ⑤) |
分譲会社が宅地造成等の際に新設する道路で、分譲会社が指定を申請する。 一部は、市町村に移管され公道になる場合もある。 |
計画道路 (建築基準法42Ⅰ④) |
道路法、都市計画法等による事業計画道路で、特定の行政庁から2年内にその事業計画が執行予定と指定された道路。 将来、公道になる予定の土地。 |
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みなし道路・2項道路 (建築基準法42Ⅱ) |
例外的に幅員4m未満であっても接道要件を充たす道路として認められている道路。 建替え時には、中心線から2mセットバックを要する。 みなし道路の指定は、住民の意思や申請に基づいてなされるものではなく、行政庁によって一方的になされる。 |
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上記以外の私道 |
【1】私道は公道に対する概念ですが、法律上の定義規定はありません。
「私道というのは、私人が築造管理し、私権の行使対象となる道路だといってよいでしょう(野辺博編著/私道・境界・日照の法律相談/学陽書房/2003/19p)」
また、私道の権利関係を規定する法律は一つではありません。
私道所有者による私道の処分(利用・管理・廃止)の自由と、それに対する制限は次のとおりです。
原則 |
私道は所有者が自由に処分(利用・管理・廃止)してよい【1】【2】【3】。 これは所有権は、その物を全面的に支配できる権利ですので、当然です。 〇他人の通行を禁止する。 〇人は通行を許すが、車の通行を許さない。 〇私道を廃止して宅地にする。 |
例外 |
囲繞地通行権が成立している場合(民法210.211)【4】 通行権を主張できる【4】 |
例外 |
通行地役権の設定契約をした場合(民法280) 登記まですれば、承役地所有者が変わっても、要役地所有者は通行できる【5】。 |
例外 |
通って良いという債権契約をした場合 裁判で「書面がなくても黙示の通行契約の成立」が認められている事例も少なくありません【6】。 |
例外 |
建築基準法上の道路になっている場合 位置指定道路、計画道路、みなし道路【7】 |
【1】登記地目が「公衆用道路」になっている。
登記地目は、土地の主な用途を登記したものに過ぎず、土地利用方法に制限を受けることはない。
【2】固定資産税・都市計画税などが非課税になっている。
非課税とされたのは「公共用道路」の認定を受けたからであって、認定後ずっと公共用道路にしておく義務があるわけではない。
【3】長期間通行が認められていたというだけでは、その後も通行を認める義務があるわけではない。
【4】他の土地に囲まれて公道と接していない土地を「袋地ふくろじ」、袋地を取り囲んでいる土地を「囲繞地いにょうち」といいます。
・所有権取得の登記をしなくても、囲繞地通行権を主張できる(最高裁S47.4.14判決)
・接道義務を満たす目的の囲繞地通行権は認められない(最高裁S37.3.15判決)。
【5】誰でも通って良いという訳ではなく要役地所有者が「ある土地のこの部分」を通って良いという権利です。通行させてもらう土地を「要役地」、通らせてあげる土地を「承役地」といいます。
【6】裁判例は、このコラムの「通行権の種類」の項目でピックアップして検討します。
【7】ただし「みなし道路(2項道路)の場合」には、次のような点に注意が必要です。
・みなし道路及びその道路を利用している宅地の全てが買収されて一筆になった場合には、みなし道路が消えてしまうこともあり得ます(建築基準法45参照)。
例えばAさんが南の公道に抜けるのに便利だった「みなし道路」は...
他人の土地を通行できる権利の種類は次のとおりです。
★印をつけた権利については、表のうしろに説明を加えていますので、ご参照ください。
物権として(私道が第三者に売却されても、第三者にも主張できる) | |
囲繞地通行権★ | |
通行地役権(契約により成立し、登記もできる)★ | |
通行地役権(黙示の契約により成立する)★ | |
通行地役権(時効取得により成立する)★ | |
債権(契約)として(私道が第三者に売却されたら、第三者には主張できない) | |
有償で契約した場合=賃借権 | |
無償で契約した場合=使用借権 | |
賃借権・使用借権(黙示の契約により成立するか?)★ | |
それ以外(主に私道所有者が通行を妨害した場合に主張) | |
「位置指定道路」「みなし道路・二項道路」の「通行の自由権」★ |
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権利濫用★ | |
慣習上の通行権?★ |
●最高裁S37.3.15判決
接道義務を満たす目的の囲繞地通行権は認められない。
●最高裁H10.2.13判決
通行地役権の承役地が譲渡された場合において、譲渡の時に、右承役地が要役地の所有地によって継続的に通路として使用されていることがその位置、形状、構造等の物理的状況から客観的に明らかであり、かつ、譲受人がそのことを認識していたか又は認識することが可能であったときは、譲受人は、通行地役権が設定されていることを知らなかったとしても、特段の事情がない限り、地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者に当たらない。(要約はWestlawJAPAN)
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地役権設定時にしっかりとした通路が開設できていないなら、地役権設定登記をしておくべきです。
通行地役権設定契約は、書面で取り交わさなくても(口頭でも)有効に成立します。
また、通行地役権は、隣近所どおしのことであるため書面にしないことの方が多いように思われます(もっとも、書面にしておかなかったからトラブルになっていることを忘れてはいけませんが・・・)。
ここでは口約束すら取り交わさなかった場合に、黙示で設定契約が成立したのかどうか判断した裁判例を紹介します。
●東京地裁R2.3.31判決【積極。但し通水地役権】
●東京地裁H20.4.24判決
●大阪高裁H2.6.26判決【積極。分譲マンションの出入口の土地】
●大阪高裁S62.3.18判決【積極。分譲地】
●京都地裁S60.9.24判決【積極。分譲地】
●東京地裁S60.4.30判決【積極】
●神戸簡裁S50.9.25判決【積極。分譲地】
●東京高裁S49.5.9判決【積極。分譲地】
●東京地裁S46.10.8判決【積極】
●東京地裁S41.6.25判決【積極。分譲地】
●東京高裁S32.6.17判決【積極。物納された不動産を国が分筆して払い下げた事例】
●東京地裁令和2.3.27判決【消極】
●東京高裁R2.1.16判決【消極】
●東京地裁R1.11.27判決【消極】
●さいたま地裁R1.6.28判決【消極】
●東京地裁H31.1.15判決【消極】
●東京地裁H30.3.16判決【消極】
●東京高裁S62.6.3判決【消極】
●札幌高裁S58.6.14判決【消極】
●東京高裁S51.11.25判決【消極】
●東京高裁S49.1.23判決【消極】
黙示の契約を認めるためには前示のような通行の事実があり通行地の所有者がこれを黙認しているだけでは足りず、さらに、右(承役地)所有者が通行地役権または通行権を設定し法律上の義務を負担することが客観的にみても合理性があると考えられるような特別の事情があることが必要であると解する(例えば、一筆の土地を分譲する際、通路を利用する譲受人に対しその通路敷所有権を分割帰属させるとか、通路敷所有権をもとの分譲者に留保した場合の如し)。けだし、他人が法律上の権限なく通路として土地を通行しているに拘らず土地所有者がこれに対し異議を述べないで黙認しているだけの場合は、単に好意的黙認にすぎないか、または、通行地役権時効取得の要件である事実状態の一つをみたすだけだと考えないと、これら二つの場合と通行権設定の暗黙の合意とを区別できなくなるし、所有者が異議をいわないだけのことで通行権を設定するという不利益を負担させることは妥当でないからである。
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黙示の通行地役権が認められるか否かは・・・
❶単に黙認していただけでは、認められない。 ❷設定された経緯が、分譲などの場合は認められやすい ❸現在までの利用状況(誰が見ても「通路」という状況は、認められる理由の一つになる) ❹地役権設定の必要性 ❺当事者の認識 などに左右されています。 |
以下全ての要件を全て満たせば、通行地役権を時効取得できます。
❶自己のためにする意思をもって |
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❷平穏かつ公然と |
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❸継続かつ表現と |
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「継続」とは、自ら通路を開設すること(最高裁S30.12.26判決)。 「表現」とは、権利行使が外部から認識できる。 |
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❹善意無過失で10年通行した、又は20年通行した。 |
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時効取得は所有権者、地上権者が可能ですが、賃借権者は不可能です(東京高裁S62.3.18判決)。 |
使用借権より強い通行地役権が主張されることが多いようです。
「通行地役権(黙示の契約により成立するか)」をご参照ください。
●最高裁H9.12.18判決
私道が「位置指定道路」である場合、位置指定道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、右道路の通行をその敷地の所有者によって妨害され、又は妨害されるおそれがあるときは、敷地所有者が右通行を受忍することによって通行者の通行利益を上回る著しい損害を被るなどの特段の事情のない限り、敷地所有者に対して右妨害行為の排除及び将来の妨害行為の禁止を求める権利(人格権的権利)を有するものというべき
→学説はこの権利を「通行の自由権」と言います。
→最高裁は、誰でも通って良いと言っている訳ではないことに注意。
●最高裁H12.1.27判決
私道が「二項道路」である場合にも、道路を通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は「通行の自由権」を有する。
徒歩で通行するのは良いが、自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているとはいえないとして、自動車の侵入を防止するポールの撤去は認めなかった。
これまで利用を許していたのに、嫌がらせ目的で通路を閉鎖した場合などに「私道所有者の権利濫用だ」との主張が認められれば、反射的な効果として私道を通行する権利が確保されます。
●東京地裁H19.2.22判決【権利濫用にあたる】
二項道路の所有者からの近隣土地所有者等に対する通行権不存在確認・通行禁止請求について、権利の濫用であって許されないとし、その請求が棄却された事例(要約はWestlawJAPAN)
「自己の所有地がいわゆる二項道路として指定され、当該二項道路に接することにより自己所有の建物が建築基準法上の接道義務を満たしている場合には、その土地の所有者は、私法上、他人の通行権を一般的に否定したり、一般的な通行禁止を命ずる裁判を求めたりすることは、特段の事情のない限り、権利の濫用であって許されないものというべきである。けだし、道路は、本来公共の需要を満たすために存在するものであり、自己が建築確認を受けることができたのも、自己のみならず、他人の通行も許容し、その結果都市の安全さ、快適さを確保することを社会一般に対して許容したからなのであって、そのような者は、自己所有の二項道路を他人が通行することも受忍すべき地位にあるからである。二項道路の所有者が通行妨害行為をした場合に私法上妨害を受けた者が所有者に対してその妨害排除請求をすることができるかどうかはともかく、二項道路の所有者が私法上自ら通行妨害行為をすることができる地位にあることの確認を司法機関に求めることはできないものというべきである。」判決抜粋
●東京地裁S45.1.20判決【権利濫用にあたる】
一部の者だけの通行を禁止したのが権利濫用にあたり許されないとされた事例
●神戸地裁H8.9.4判決【権利濫用にあたらない】
往来するのが最も便利であり、その便利な往来が長年にわたって継続されてきたとしても…その便利な往来を保障すべき法的責任があり、したがって、・・・一定の法的な制約が課せられているとまで考えなければならない根拠を見いだすことは困難である。
・・・往来が従前よりも不便になることは明らかであるが、・・・墓参が不可能になるとか著しく困難になるというわけではなく、せいぜい、坂道の道路や墓地内の通路をある程度登り降りしなければならなくなるというだけであって、春日野墓地の立地条件からすれば、その程度のことは春日野墓地に墓参しようとする墓地使用者が総じて受けている負担にすぎない。
六 以上の次第で、被告が係争土地部分の通行権があるとか、原告協会や原告近盛において、被告との関係で係争土地部分を往来に使用することを許さなければならない事情も見当たらない・・・
余程特殊な事情がなければ、「慣習」を持ち出すことは少ないと思われます。
●岡山地裁倉敷支部S50.2.28判決【積極】
宅地造成地内道路における通行障害物撤去仮処分の被保全権利として、自動車通行可能の通路につき囲繞地通行権、慣行上の通行権が認められた事例(参照:WestlawJAPAN)
慣行上の通行権を被保全権利として認めている点であるが、通行権なるものの性質が判文上は必ずしも明確ではないがおそらく通行地役権を考えていると思われる。従来慣行ないし慣習にもとづく地役権の取得につき、判例は、厳格な立場をとつていること(中尾・註釈民法(7)四八七頁)を考えると、本件は事例的意義を有するものであるといえるが、なお議論の余地もあろう(判例タイムズ332号323頁)。
●東京地裁S30.9.12判決【積極。国道でもある参道をトラックで通られる寺が運送会社を提訴したもの】
原告寺は年代を遡ること遠くその開山以来前記国道敷に当る部分を参道として専用してきたものであり、大正末年区画整理のため撤去せられるに至るまでは右参道の入口に屋根葺き有扉の表門及び門番所が存していた次第であつて、今日に至るまで引続き右参道は原告寺への出入、檀信徒の参詣用等の唯一の通路として使用されてきていることを認めることができる。原告寺の右沿革に徴すれば、原告寺は永年に亘る慣行により前記国道敷上に公法上の参道私用権を取得しているものというに妨げない。(公の流水等については慣習による使用権例えば灌漑用水利権、流木権等の取得がつとに肯認せられているが、道路についても慣習による使用権の取得を特に排斥すべき理由はない。)而してかゝる公法上の権利はその性格上妨害排除の権能を具有するものというべきである。・・・原告寺は前記参道の使用権及び境内地の所有権に基き被告運送会社に対し右の如き各所為の禁止を求め得るものといわなければならない。
●京都地裁S58.7.7判決(消極)
●東京高裁S49.1.23判決(消極)
「徒歩」「自転車」による通行が認められても、より周囲への影響が大きい「自動車」による通行が認められるとは限りません。
●最高裁H9.12.18判決
被上告人らは、道路位置指定を受けて現実に道路として開設されている本件土地を長年にわたり自動車で通行してきたもので、自動車の通行が可能な公道に通じる道路は外に存在しないというのであるから、本件土地を自動車で通行することについて日常生活上不可欠の利益を有しているものということができる。
●最高裁H12.1.27判決
みなし道路であっても、専ら徒歩・自転車による通行に供されてきた未舗装の道路で自動車が通行したことが無い場合、自動車での通行求める側に日常生活上不可欠の利益がない場合、自動車の侵入を予防するポールの設置は許される。
妨害を排除するためには、まずは「証拠集め」からです。
市区町村役場の建築課で「道路位置指定図」を閲覧やコピーの交付を請求することができます。
当該道路部分が「非課税」になっているだけでは、あなたに通行権があるということに直結しませんが、理由の一つになります。
当該道路部分が「公衆用道路」になっているだけでは、あなたに通行権があるということに直結しませんが、理由の一つになります。
周囲の方に通行を禁止された方がいないか聞いてみましょう。
「禁止されたのは、あなただけ」という事であれば、嫌がらせ目的ということで、私道所有者の行為が「権利濫用」に該当する理由の一つになります。
道路内に塀を建てようとしている場合には、道路が位置指定道路でも、みなし道路(二項道路)であっても、違法建築になります(建築基準法44、42)。違法建築として市町村役場の建築課に相談して行政指導をしてもらいましょう。応じないときには行政代執行により強制撤去してくれることもあります。
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裁判所に訴訟を提起して判決を待っていたのでは、不便で仕方ありません。
そのため、裁判所には保全処分も申立てますが、保全処分も時間が掛かります。
市区町村役場などの行政や、場合によっては警察にも協力を要請しましょう。