不動産賃貸借契約で「中途解約を禁止する条項」は有効か?


不動産賃貸借契約に関するご相談には、次のような「中途解約」に関するものがあります。

  • 賃貸借契約に「中途解約」について何も記載がない場合、賃借人は契約期間中には解約できないのでしょうか?!
  • 「中途解約禁止にしたい」場合には、どうすれば良いのでしょうか?!
  • 「中途解約によって損害が発生するのを予防したい」という場合には?!

このコラムでは、不動産賃貸借契約の「中途解約」に焦点を当てます。

もくじ
  1. 法律の定め(民法、借地借家法)
  2. 中途解約権を与える特約は有効か?
  3. 中途解約を禁止にしたい場合、契約書に記載しなくて良いか?!
  4. 違約金条項はどうか?!
  5. 賃貸実務で多く採用されている方法
  6. 賃貸借契約が賃借人から消費者契約にあたる場合の注意点
  7. 人気の関連ページ

法律の定め


中途解約の可否については、賃借人の立場から考えると分かりやすいと思います。

【設問】

次のような不動産賃貸借契約書がある場合、賃借人はいつでも中途解約できるでしょうか?

  1. 契約期間は2年間。
  2. 中途解約については何も記載がない(「中途解約できる」とも「中途解約を禁止する」とも記載がない)。

条文を見るとすぐに答えがわかります。

民法第618条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)

当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。

 

民法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)

  1. 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
    1. 土地の賃貸借 1年
    2. 建物の賃貸借 3か月
    3. (略)
  2. (略)

中途解約の原則と例外

上記民法の条文をまとめると下表のような原則と例外になっていることが分かります。

契約期間の定めあり 原則 中途解約できない
例外

中途解約できると契約したとき

☞中途解約できる(民618)。

契約期間の定めなし いつでも解約できる(民617)。

なんと設問の場合には、中途解約できないんですよね。

そうすると、賃貸人が中途解約されたくない場合には、わざわざ「中途解約禁止」と契約書に書く必要はなさそうにも思えますが・・・もう少しお付き合いください。

賃貸人だけをさらに縛る法律(借地借家法)

ついでに、賃貸人だけを縛る借地借家法の条文をご紹介しておきます。

借地借家法第27条(解約による建物賃貸借の終了)
  1. 建物の賃貸人が賃貸借の解約の申入れをした場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から6月を経過することによって終了する。
  2. 前条第2項及び第3項の規定は、建物の賃貸借が解約の申入れによって終了した場合に準用する。

借地借家法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。【1】

 

借地借家法第29条(建物賃貸借の期間)

  1. 期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。
  2. 民法(明治29年法律第89号)第604条の規定は、建物の賃貸借については、適用しない。

借地借家法第30条(強行規定) 

この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効【1】とする。

【1】この解約に正当事由を要求している借地借家法28条、特約で借地借家法よりも賃借人に不利なものは無効とする借地借家法30条が、賃貸人を厳しく制限しています。

中途解約権を与える特約は有効か?


「賃借人」に中途解約権を与える特約

有効です。

なぜなら、中途解約条項を設けた場合、賃借人には賃貸借契約を終了させたいときに終了できるメリットがある賃借人の利益となる規定ですので借地借家法上の制約は存在しません。したがって、契約書どおりに中途解約ができることとなります。

「賃貸人」に中途解約権を与える特約

一応有効です。

その有効性につき争いがありましたが、解約権留保特約に基づく解約申入れの場合にも正当事由(借地借家法28)が必要ですから、必ずしも賃借人に不利にならないとして、特約の有効性を認めるのが通説です。

最高裁判例はありませんが、下級審の裁判例も同じ立場です(東京地判昭和55.2.12判時965号85 頁など)。

中途解約を禁止にしたい場合、契約書に記載しなくて良いか?!


二つの考え方

  • 契約期間の記載のみがあり、中途解約に関する条項がない場合には、その期間は契約が継続し、中途解約できないのが原則ですので、わざわざ契約書に「中途解約禁止」と表現して悪目立ちし、賃借人に注目されるのを避けるのも一つの方法でしょう。
  • もっとも「契約書に記載されていない事情を持ち出して、契約の意思解釈として中途解約が認められると主張されることも皆無ではないと思われるため、争いの芽を摘んでおくためにも、明確に中途解約禁止条項を規定しておくことが望ましい(阿部・井窪・片山法律事務所/編『契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説』第2版(有斐閣、2021年)109頁)」ともいえます。

どちらを採用するかは、大家さん次第になります。

私個人的には、争いの芽は摘んでおいた方が良いと考えています。「数か月前に通知さえすれば、いつでも解約できる」と考えている賃借人が多いからです。

 

「中途解約禁止」としたい場合に、工夫できることはないでしょうか?

違約金条項はどうか?!


実務でも、一定期間必ず賃貸借契約を継続させたい場合には中途解約禁止条項を設けることが多いです。

ある賃借人に賃貸することを前提に、賃借人仕様にして建物を建設し賃貸する場合、「その」賃借人からの賃料で建設費などを賄う必要があります。「その」賃借人の要望に応じて建設した「その」建物には汎用性がないため、「その」賃借人が退去したら、次の賃借人を探すのは困難だからです。

こういう場合、短期間で賃貸借契約を解除されないためには、工夫が必要です。

阿部・井窪・片山法律事務所/編『契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説』第2版(有斐閣、2021年)118頁

は、次の2つの方法を提案なさっています。

賃貸借期間は投下資本を回収できるだけの期間に設定した上で・・・

  • 中途解約禁止条項を設けておく
  • 中途解約は認めた上で、中途解約の場合には、契約期間満了までの賃料相当額を違約金として回収できる条項を定めておく

佐藤大輔の私見

上記書籍のご提案のうち特に2つ目には違和感を感じます。すなわち、中途解約という「権利」を認めながら、権利行使に「違約金」を必要とすることに関する違和感です。

それならいっそ「中途解約を禁止して」(違約として)、違約した場合に違約金の方が良いのではないでしょうか。

賃貸実務で多く採用されている方法


次の定め方は、実務でもよく見受けられる契約書対応ですが、一番無難かと思います。

賃貸借期間は投下資本を回収できるだけの期間に設定した上で・・・

  • 「敷金」ではなく、あえて「保証金」という文言を使う。
  • 中途解約の可否は、あえて記載しない。「記載してない場合には中途解約は禁止」となることは上記のとおりです。
  • 契約期間途中の解約を行わなかった場合に、保証金が満額返ってくるという恩恵を与える。

契約書文言に落とし込むと次のとおりです。

第7条(保証金)    
 
  1. 乙は甲に対し、本契約の締結時に、賃料その他本契約から生じる一切の債務を担保するため、保証金として賃料○か月分に相当する金○万円を交付する。保証金には利息を付さない。
  2. 賃料の増額があった場合、乙は甲に対して、直ちに、増額された賃料の★か月相当額に満つるまで保証金の差額を追加で交付する。
  3. 乙に賃料の支払地帯等、本契約に基づく乙の債務の不履行があるときは、甲は、任意に保証金の一部又は全部を賃料その他の債務の弁済に充当できるものとする。この場合、乙は、甲より保証金の不足分の補填について通知を受けた場合、7日以内に保証金の不足分を甲に支払うものとする。
  4. 乙は、本物件を明け渡すまでの間、保証金をもって賃料、共益費その他の債務と相殺することはできない。
  5. 乙は、保証金返還請求権を第三者に譲渡し又は担保に提供してはならない。
  6. 甲は、乙が本物件を明渡した後1か月以内に、第1項の保証金を乙に返還する。但し、本契約締結時から明渡しに至るまでの期間に応じて、下表記載の割合を保証金から差し引いた残額を返還する。ただし、甲は、本物件の明渡し時に、賃料の滞納、第20条に規定する原状回復に要する費用の未払いその他の本契約から生じる乙の債務の不履行が存在する場合には、当該債務の額を敷金から差し引くことができる。 
 
  本契約締結から明渡しにいたるまでの期間 返還する保証金から控除すべき割合  
        5年未満のとき 保証金の80%  
   5年以上10年未満のとき 保証金の60%  
  10年以上15年未満のとき 保証金の40%  
  15年以上20年未満のとき 保証金の20%  
  20年以上のとき 保証金の 0%(保証金全額を返還する。)  
  7.前項ただし書の場合には、甲は、敷金から差し引く債務の額の内訳を乙に明示しなければならない。  

賃貸借契約が賃借人から見て消費者契約にあたる場合の注意点


事業用の賃貸借の場合には問題ありませんが、居住用の賃貸借契約を一般消費者と締結する場合には違約金の定めには消費者契約法の適用がありますので、注意が必要です。

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