不動産賃貸借契約に関するご相談には、次のような「中途解約」に関するものがあります。
このコラムでは、不動産賃貸借契約の「中途解約」に焦点を当てます。
もくじ | |
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中途解約の可否については、賃借人の立場から考えると分かりやすいと思います。
【設問】
次のような不動産賃貸借契約書がある場合、賃借人はいつでも中途解約できるでしょうか?
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条文を見るとすぐに答えがわかります。
民法第618条(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保) 当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。
民法第617条(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
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上記民法の条文をまとめると下表のような原則と例外になっていることが分かります。
契約期間の定めあり | 原則 | 中途解約できない |
例外 |
中途解約できると契約したとき ☞中途解約できる(民618)。 |
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契約期間の定めなし | いつでも解約できる(民617)。 |
なんと設問の場合には、中途解約できないんですよね。
そうすると、賃貸人が中途解約されたくない場合には、わざわざ「中途解約禁止」と契約書に書く必要はなさそうにも思えますが・・・もう少しお付き合いください。
ついでに、賃貸人だけを縛る借地借家法の条文をご紹介しておきます。
借地借家法第27条(解約による建物賃貸借の終了)
借地借家法第28条(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件) 建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。【1】
借地借家法第29条(建物賃貸借の期間)
借地借家法第30条(強行規定) この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効【1】とする。 |
【1】この解約に正当事由を要求している借地借家法28条、特約で借地借家法よりも賃借人に不利なものは無効とする借地借家法30条が、賃貸人を厳しく制限しています。
有効です。
なぜなら、中途解約条項を設けた場合、賃借人には賃貸借契約を終了させたいときに終了できるメリットがある賃借人の利益となる規定ですので借地借家法上の制約は存在しません。したがって、契約書どおりに中途解約ができることとなります。
一応有効です。
その有効性につき争いがありましたが、解約権留保特約に基づく解約申入れの場合にも正当事由(借地借家法28)が必要ですから、必ずしも賃借人に不利にならないとして、特約の有効性を認めるのが通説です。
最高裁判例はありませんが、下級審の裁判例も同じ立場です(東京地判昭和55.2.12判時965号85 頁など)。
どちらを採用するかは、大家さん次第になります。
私個人的には、争いの芽は摘んでおいた方が良いと考えています。「数か月前に通知さえすれば、いつでも解約できる」と考えている賃借人が多いからです。
「中途解約禁止」としたい場合に、工夫できることはないでしょうか?
実務でも、一定期間必ず賃貸借契約を継続させたい場合には中途解約禁止条項を設けることが多いです。
ある賃借人に賃貸することを前提に、賃借人仕様にして建物を建設し賃貸する場合、「その」賃借人からの賃料で建設費などを賄う必要があります。「その」賃借人の要望に応じて建設した「その」建物には汎用性がないため、「その」賃借人が退去したら、次の賃借人を探すのは困難だからです。
こういう場合、短期間で賃貸借契約を解除されないためには、工夫が必要です。
は、次の2つの方法を提案なさっています。
賃貸借期間は投下資本を回収できるだけの期間に設定した上で・・・
上記書籍のご提案のうち特に2つ目には違和感を感じます。すなわち、中途解約という「権利」を認めながら、権利行使に「違約金」を必要とすることに関する違和感です。
それならいっそ「中途解約を禁止して」(違約として)、違約した場合に違約金の方が良いのではないでしょうか。
次の定め方は、実務でもよく見受けられる契約書対応ですが、一番無難かと思います。
賃貸借期間は投下資本を回収できるだけの期間に設定した上で・・・
契約書文言に落とし込むと次のとおりです。
第7条(保証金) | |||
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本契約締結から明渡しにいたるまでの期間 | 返還する保証金から控除すべき割合 | ||
5年未満のとき | 保証金の80% | ||
5年以上10年未満のとき | 保証金の60% | ||
10年以上15年未満のとき | 保証金の40% | ||
15年以上20年未満のとき | 保証金の20% | ||
20年以上のとき | 保証金の 0%(保証金全額を返還する。) | ||
7.前項ただし書の場合には、甲は、敷金から差し引く債務の額の内訳を乙に明示しなければならない。 |
事業用の賃貸借の場合には問題ありませんが、居住用の賃貸借契約を一般消費者と締結する場合には違約金の定めには消費者契約法の適用がありますので、注意が必要です。