民事訴訟では、判決が出るまで最短でも数か月、長いと1年以上かかることもザラです。判決が出るのを待っていたのでは、遅すぎる場合(例えば、財産を隠されてしまう、被害が広がってしまうなど)に、仮に執行してしまう。それが保全処分です。
判決が出ていない段階で、仮に執行するものですので、担保金の供託が必要になります。これが勝訴判決後に強制執行する場合との違いです。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次のとおり略記します。
相手方の意思に反して、法律に基づく解決をするためには勝訴判決(や公正証書)が必要です。
ところが、訴訟をしている間に、相手方が目的物や価値のある財産を処分したり、隠してしまうと、訴訟の結果、勝訴判決を獲得しても、無意味になってしまいます。
そこで、勝訴判決を得ていない段階においても、「仮に」相手方の財産を処分できないようにするのが保全処分です。
仮に押さえるために、こちら側は担保金を納める必要があります。
保全処分には、仮差押と仮処分があり、仮処分には2種類あります。
つまり、保全処分は大きく分けて3種類です。
保 全 処 分 |
仮差押(民保20) | 金銭債権を保全するために、債務者の財産を仮に差し押さえる。 | |
仮処分 |
係争物に関する仮処分 (民保23Ⅰ) |
特定物に関する給付を目的とする請求権を保全する。 | |
仮の地位に関する仮処分 (民保23Ⅱ) |
財産上・身分上の権利関係に争いがある場合において、著しい損害や急迫の危険を蒙る可能性があるとき保全する。 |
保全処分を出してもらうためには、次の要件全てを充たす必要があります。
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以下、詳述します。
下記いずれかの裁判所です(保全処分(=仮差押・仮処分)に共通です。民保12Ⅰ)。
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【1】本案の管轄裁判所とは次のとおりです(民保12Ⅲ)。
【2】簡易裁判所は有り得ません。
【3】仮に差し押さえるべき物又は係争物が債権その他の財産権である場合の所在地とは
債権 (民保12Ⅳ) |
原則 |
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例外 |
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その他の財産権 (民保12ⅤⅥ) |
登記・登録を要するもの |
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登記・登録を要さないもの |
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CF.仮登記仮処分命令:不動産所在地を管轄する地方裁判所(不動産登記法108Ⅲ)
民事保全法第13条は、次のように、定めています。
民事保全法第13条(申立て及び疎明) | |
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まず「疎明」とは、何でしょうか?
どの程度の「疎明」が必要とされるのでしょうか?
疎明すべきものは次の二つです。
保全処分では、口頭弁論が行われず、証拠調べも即時に取り調べられる証拠(つまり書証)に限定されます。
したがって、申立書の段階から「現場を裁判所に届ける」つもりで、陳述書や報告書を提出する必要があります。
一般に被保全権利および保全の必要性の疎明の程度が高ければ、債務者に損害が生ずる可能性自体が小さいから担保の額も低めになる。債権者の資力は、原則として問題にならない。
(中野貞一郎 (大阪大学名誉教授)/著『民事執行・保全入門 補訂版』(有斐閣、2013年)298頁)
仮差押 | 仮処分 | |||
保 全 命 令 |
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保 全 執 行 |
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【1】原則:債務者を審尋しません。
例外:仮の地位を定める仮処分の場合には、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない(民保23Ⅳ)。
【2】仮差押えの執行申立の要否