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民事訴訟では、判決が出るまで最短でも数か月、長いと1年以上かかることもザラです。判決が出るのを待っていたのでは、遅すぎる場合(例えば、財産を隠されてしまう、被害が広がってしまうなど)に、仮に執行してしまう。それが保全処分です。

判決が出ていない段階で、仮に執行するものですので、担保金の供託が必要になります。これが勝訴判決後に強制執行する場合との違いです。

もくじ
  1. 保全処分とは
  2. 保全処分の種類
  3. 保全処分の要件
  4. 保全処分の管轄
  5. 「被保全権利」「保全の必要性」の疎明
    1. 「疎明」とは
    2. 疎明すべきもの
    3. 疎明の方法
  6. 担保の提供
  7. 保全処分の流れ
  8. 人気の関連ページ

〔凡例〕この記事では、次のとおり略記します。

  • 民保:民事保全法(平成元年法律第九十一号)
  • 民保規則:民事保全規則(平成二年五月十六日最高裁判所規則第三号)。裁判所の規則ですので、イーガブには掲載されていません。「最高裁 規則」で検索ください。
  • 民訴:民事訴訟法(平成八年法律第百九号)

保全処分とは


相手方の意思に反して、法律に基づく解決をするためには勝訴判決(や公正証書)が必要です。

ところが、訴訟をしている間に、相手方が目的物や価値のある財産を処分したり、隠してしまうと、訴訟の結果、勝訴判決を獲得しても、無意味になってしまいます。

そこで、勝訴判決を得ていない段階においても、「仮に」相手方の財産を処分できないようにするのが保全処分です。

仮に押さえるために、こちら側は担保金を納める必要があります。

保全処分の種類


保全処分には、仮差押と仮処分があり、仮処分には2種類あります。

つまり、保全処分は大きく分けて3種類です。

仮差押(民保20) 金銭債権を保全するために、債務者の財産を仮に差し押さえる。
仮処分

係争物に関する仮処分

(民保23Ⅰ)

特定物に関する給付を目的とする請求権を保全する。

仮の地位に関する仮処分

(民保23Ⅱ)

財産上・身分上の権利関係に争いがある場合において、著しい損害や急迫の危険を蒙る可能性があるとき保全する。

保全処分の要件


保全処分を出してもらうためには、次の要件全てを充たす必要があります。

  1. 管轄
  2. 「被保全権利」の疎明
  3. 「保全の必要性」の疎明
  4. 担保の提供

以下、詳述します。

保全処分の管轄


下記いずれかの裁判所です(保全処分(=仮差押・仮処分)に共通です。民保12Ⅰ)。
  1. 本案の管轄裁判所【1】
  2. 仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所【2.3】

【1】本案の管轄裁判所とは次のとおりです(民保12Ⅲ)。

  • 第一審を管轄する裁判所(簡易裁判所もあり得ます。
  • 本案が控訴審に係属するときは、控訴裁判所

【2】簡易裁判所は有り得ません。

【3】仮に差し押さえるべき物又は係争物が債権その他の財産権である場合の所在地とは

債権

(民保12Ⅳ)

原則
  • 第三債務者の普通裁判籍所在地
例外
  • 船舶の引渡しを目的とする債権→その物の所在地
  • 動産の引渡しを目的とする債権→その物の所在地
  • 物上担保権付→その物の所在地

その他の財産権

(民保12ⅤⅥ)

登記・登録を要するもの
  • 登記又は登録の地
登記・登録を要さないもの
  • 第三債務者又はこれに準ずる者あり→その者の普通裁判籍
  • 第三債務者又はこれに準ずる者なし→当該財産権の目的物の所在地

CF.仮登記仮処分命令:不動産所在地を管轄する地方裁判所(不動産登記法108Ⅲ)

「被保全権利」「保全の必要性」の疎明


民事保全法第13条は、次のように、定めています。

民事保全法第13条(申立て及び疎明)
 
  1.  保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
  2. 保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。

「疎明」とは

まず「疎明」とは、何でしょうか?

どの程度の「疎明」が必要とされるのでしょうか?

  • 「訴訟事件では、事実の存否について高度の蓋然性をもって裁判官に心証を得させる「証明」が求められるのに対して、保全事件では、その暫定性、迅速性に鑑み、相当程度の蓋然性で足りる「疎明」で足りるとしているのです。」編集/田辺総合法律事務所 弁護士法人色川法律事務所『Q&A 民事保全・執行 実務の勘どころ110 申立てから事件終了まで』(新日本法規出版、2023年)14頁
  • ここにいう疎明とは,申立人の主張に係る事実について裁判官が一応確からしいとの心証を持つ状態であり,裁判官にその心証を持たせるために申立人が提出する証拠が疎明資料です。恩田剛 著『民事保全・証拠保全等プラクティス』(司法協会、2021年)15頁

疎明すべきもの

疎明すべきものは次の二つです。

  1. 保全すべき権利又は権利関係:契約書がある場合や、相手方が債務の存在を認めている場合は良いのですが、それ以外の場合には、とても苦労します。
  2. 保全の必要性:保全処分の種類によって異なります。また、何を押さえるかによっても、難易度が上下します。それぞれの保全処分の記事でご紹介します。

疎明の方法

保全処分では、口頭弁論が行われず、証拠調べも即時に取り調べられる証拠(つまり書証)に限定されます。

したがって、申立書の段階から「現場を裁判所に届ける」つもりで、陳述書や報告書を提出する必要があります。

担保の提供


担保金の額

一般に被保全権利および保全の必要性の疎明の程度が高ければ、債務者に損害が生ずる可能性自体が小さいから担保の額も低めになる。債権者の資力は、原則として問題にならない。

(中野貞一郎 (大阪大学名誉教授)/著『民事執行・保全入門 補訂版』(有斐閣、2013年)298頁)

保全処分の流れ


    仮差押   仮処分

 
  1. (債権者が)仮差押申立て
  2. (債権者が)裁判所で裁判官と面接【1】。担保金の額の決定を受ける。
  3. (債権者が)担保金を供託
  4. (債権者が)供託した旨を裁判所に報告
  5. 仮差押命令発令
 
  1. (債権者が)仮処分申立て
  2. (債権者が)裁判所で裁判官と面接【1】。担保金の額の決定を受ける。
  3. (債権者が)担保金を供託
  4. (債権者が)供託した旨を裁判所に報告
  5. 仮処分命令発令
     

 
  1. (債権者が)仮差押の執行申立【2】
  2. 仮差押の登記など
  3. (債権者が)本案訴訟を提起
  4. (債権者が)本案訴訟で勝訴
  5. 担保金(供託金)の取戻しなど
 
  1. (債権者が)仮処分の執行申立
  2. 仮処分の登記など
  3. (債権者が)本案訴訟を提起
  4. (債権者が)本案訴訟で勝訴
  5. 担保金(供託金)の取戻しなど

【1】原則:債務者を審尋しません。

例外:仮の地位を定める仮処分の場合には、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない(民保23Ⅳ)。

【2】仮差押えの執行申立の要否

  • 不動産に対する仮差押えの執行=不動産登記簿に仮差押がなされた旨を登記してなされますが、裁判所が自動的に、登記所に嘱託することによって行われますので、執行申立は不要です。
  • 動産に対する仮差押えの執行=裁判所の執行官が動産を占有してなされますが、動産仮差押命令が発令されても、執行官が自動的に行ってくれるわけではないので、執行官に対して執行申立を行う必要があります。
  • 債権に対する仮差押えの執行=裁判所が自動的に仮差押決定正本を第三債務者と債務者に送達して行いますので、執行申立は不要です。

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