民事訴訟で判決が出るまで最短でも数か月、長いと1年以上かかることもザラです。判決が出るのを待っていたのでは、価値のある財産を隠されてしまう、逃げられてしまう。そんな場合には、仮に相手方の財産を押さえてしまうことができます。それが仮差押です。
仮差押は、判決手続きを経ず、しかも数日で結果が出る大変強力なものです。
この記事では、そんな仮差押のあれこれを解説します。
もくじ
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- 仮差押とは
- 仮差押命令の要件
- 被保全権利の要件
- 仮差押命令の対象物の要件
- 保全の必要性
- 担保の提供
- 仮差押命令の管轄
- 保全の必要性
- 仮差押命令の「保全の必要性」
- 本案訴訟での請求の放棄・認諾と「保全の必要性」
- 最高裁H16.8.30決定〔住友信託銀行対UFJホールディングス事件〕
- 仮差押の目的物選択の相当性
- いきなり売掛金や預貯金を仮差押できるのか?!
- 給与債権
- 被保全債権が連帯債務や連帯保証である場合
- 仮差押債権は、継続的給付に係る債権に該当するか?
- 仮差押債権目録の期間限定
- 継続的売買取引から生じる売買代金債権を仮差押する場合
- 賃料債権
- 仮差押の流れ
- 追加の仮差押
- ご注意事項(仮差押をご依頼いただく方へ)
- すぐにご連絡がつくようにしておいてください。
- 相手方財産の調査
- 仮差押の失効
- 担保金
- 司法書士の報酬・費用
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〔凡例〕この記事では、次のとおり略記します。
- 民保:民事保全法(平成元年法律第九十一号)
- 民保規則:民事保全規則(平成二年五月十六日最高裁判所規則第三号)。裁判所の規則ですので、イーガブには掲載されていません。「最高裁 規則」で検索ください。
- 民訴:民事訴訟法(平成八年法律第百九号)
あなたが相手方に対して、金銭の支払いを請求できる場合でも、相手方の意思に反して、強制的に回収することはできません。
相手方の意思に反して、強制的に回収するためには、勝訴判決(や公正証書)が必要です。ところが、訴訟をしている間に、相手方が価値のある財産を処分したり、隠してしまうと、訴訟の結果、勝訴判決を獲得しても、結局回収できず、無意味になってしまいます。
そこで、勝訴判決を得ていない段階においても、「仮に」相手方の財産を差し押さえておく。それが、仮差押です。勝訴判決を得ていない段階で、仮に押さえるので、相手方が仮差押によって蒙る可能性のある損害を担保するため、あなたは担保金を納める必要があります。
判決に基づく差押の場合には、担保金を納める必要はありません。
なお、仮差押は「かりさし」と略称されることが多いです。
一方、判決に基づく差押えは、仮差押と比較する際には「本差押」「ほんさし」といわれます。
仮差押命令を裁判所に発令してもらうためには、次の要件を全てみたす必要があります(民保13)。
「被保全権利」とは仮差押によって、守る(保全する)権利のことです。
被保全権利とすることができるのは、次の権利です。
- 金銭の支払いを目的とする債権であること(民保20Ⅰ)。
- (金銭の支払いを目的とする債権であれば)条件付や期限付であってもよい(民保20Ⅱ)
何を仮に差し押さえるか、その対象物です。
仮差押の対象物は・・・
原則
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特定することが必要です(民保21本文)
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例外
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動産を対象物とする場合には、特定を要しません(民保21ただし書き)
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次のいずれかの要件を「疎明」する必要があります(民保20Ⅰ)
- 強制執行をすることができなくなるおそれ
- 強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれ
保全の必要性には、色々な論点がありますので、後ほど詳しく、ご説明します。
仮差押命令は、債権者だけの意見を聞いて発令される(債務者には反論の機会が与えられていない)ため、仮差押命令の発令によって、万一、債務者に損害が発生した場合には、速やかに債務者の損害を回復する必要があります。
そこで、裁判所は、仮差押命令の発令する条件として担保金を定めることが多いです(民保14)。
担保の要否と金額は、裁判所が裁量で決定します(民保14)。
担保提供の方法は、供託(民保4)か支払保証委託契約の締結(民保4、民保規則2)です。
供託により担保提供する場合の管轄供託所(法務局)は、次のとおりです。
原則
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発令裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所(民保4Ⅰ)
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例外
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遅滞なく上記供託所に供託することが困難な事由があるときは、裁判所の許可を得て、債権者の住所地又は事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所(民保14Ⅱ)
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- 本案の管轄裁判所【1】
- 仮に差し押さえるべき物又は係争物の所在地を管轄する地方裁判所【2.3】
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【1】本案の管轄裁判所とは次のとおりです(民保12Ⅲ)。
- 第一審を管轄する裁判所(簡易裁判所もあり得ます。)
- 本案が控訴審に係属するときは、控訴裁判所
【2】簡易裁判所は有り得ません。
【3】仮に差し押さえるべき物又は係争物が債権その他の財産権である場合の所在地とは
債権
(民保12Ⅳ)
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原則
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例外
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- 船舶の引渡しを目的とする債権→その物の所在地
- 動産の引渡しを目的とする債権→その物の所在地
- 物上担保権付→その物の所在地
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その他の財産権
(民保12ⅤⅥ)
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登記・登録を要するもの
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登記・登録を要さないもの
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- 第三債務者又はこれに準ずる者あり→その者の普通裁判籍
- 第三債務者又はこれに準ずる者なし→当該財産権の目的物の所在地
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金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがある(民保20Ⅰ)ことです。
保全の必要性の「具体例」については、多くの書籍で言及されています。いくつかご紹介します。
- 「具体的には、債務者による財産の隠匿等である(園部厚・著『実務解説民事執行・保全〔第2版〕』民事法研究会/2022年/296頁)」。
- 「保全の必要性の疎明は、抽象的な必要性を述べるのではなく、必要性を基礎付ける具体的事実を明らかにする必要があります。例えば、仮差押えであれば、具体的に判明している限りでの債務者の所有資産や負債の状況、債権者の請求の態様とこれに対する応答、営業の状況等が疎明され、それらの事実を総合することによって、本執行の時点までに当該仮差押えの目的物が失われ本執行ができないことを疎明する必要があります(瀬木比呂志『民事保全法〔新訂第2版〕』日本評論社/2020/215頁)。」
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「具体的には、債務者の仮差押債権以外の資産や負債の状況、職業の有無(自営の場合には、営業状態)、債権者による支払いの催告の有無とこれに対する債務者の応答状況、その他の事情により、債務者が自身の財産を隠匿、廉売、放棄する等して、債権者が、強制執行により債権の満足が得られない状態に至ることが客観的に予想されるものであることを、具体的な事実をあげて主張しなければならない(単に、仮差押えの対象となる債権以外にみるべき資産はないという主張だけでは足りない)。たとえば、債権者に任意整理の通知がされたことや債務者が財産の一部について処分したといったことは、保全の必要性を推認させる事実であるが(その一方で、任意整理が順調に進んでいるということは保全の必要性を否定する方向に働く事実であるということにも留意が必要である)、単に、債権者への支払いを1回拒否したというだけでは、保全の必要性があるとまではいえず、たとえば、特に説明もないまま、ある程度の期間にわたって支払いを拒絶し続けている場合、他の同様な債権者に対しても、特別な理由もなく、支払いを拒否しており、仕事もあまりしているようにはみえない、あるいは、債務者と連絡がとれなくなっている、などといった債務者の責任財産の減少や強制執行に対する事実上の障害が生じるおそれにつながるような事情でなければならない。もっとも、このような事情は、債権者として通常調査できる範囲によって知りうる事情で足りる。(近藤基・著『簡裁民事ハンドブック4<民事保全編>』民事法研究会/2018/18頁)」
- 「少額債権を被保全権利とする仮差押命令の申立ての場合、本案の判決を得てからでも十分に債権の回収が可能であると考えられることが多いため、通常の被保全権利以上に保全の必要性が問題となる。前記のような具体的な事情をあげて疎明することになるが、より具体的な疎明が必要になる場合も多い。(近藤基・著『簡裁民事ハンドブック4<民事保全編>』民事法研究会/2018/19頁)」
- 「債務者が,廉売,浪費,隠匿,毀滅等して,責任財産が量的質的に減少を来すおそれがあること,また不動産売却のように換価により捕捉し難い状態(費消しやすい金銭)となること,債務者の逃亡転居等により責任財産の把握が困難になること,などの事情を主張することになる。京野哲也/著『クロスレファレンス 民事実務講義 第2版』(ぎょうせい、2015年)96頁」
- 保全の必要性が否定されるか否かは,債務者の負債の状況,債務の履行状況,当該不動産を売却して代金を隠匿・費消するおそれの有無等の事情によっても異なる。(須藤英章/監修 経営紛争研究会/編著『債権回収あの手この手Q&A 各種財産の調査から回収まで』日本加除出版/2020/239頁)」
- 保全の必要性の検討に当たって、仮差押え命令が発令されれば、債務者が倒産する可能性があることは勘案されるべきか?
> 最高裁H16.8.30決定(民集58-6-1763)住友信託銀行 対 UFJホールディングス事件〔後掲〕に従って、発令によって債権者が得る利益と債務者の不利益、却下によって債権者が蒙る不利益と債務者の利益を衡量して結論すべきと考える(佐藤大輔私見)。
「本案訴訟での請求の放棄・認諾と保全命令申立てに対する裁判本案訴訟で原告(債権者)が請求を放棄しているときは、保全命令の理由を欠き、保全命令申立てについては却下の裁判がなされる。本案訴訟で被告(債務者)が請求を認諾すると、本案訴訟が給付判決の場合認諾調書が執行力を有し(民訴267条)、原告(債権者)は債務名義を取得することになり(民執22条7号)、保全の必要性が失われ、保全命令申立ては却下となる」(松本「執行保全法」487頁)。
「保全の必要性の判断に当たっては,債権者の損害や不利益の程度だけでなく,仮処分により債務者の受ける損害・不利益等を総合的に考慮しなければならない」
(中野貞一郎 (大阪大学名誉教授)/著『民事執行・保全入門 補訂版』有斐閣/2013年/343頁)
最高裁H16.8.30決定(民集58-6-1763)住友信託銀行 対 UFJホールディングス事件
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甲社と乙社らとの間で乙社らグループから甲社グループに対する乙社の営業の移転等から成る事業再編等に関して交わされた基本合意書中に、第三者との間で基本合意の目的と抵触し得る取引等に係る協議を行わないことなどを相互に約する旨の条項があり、甲社が、乙社らにおいてこの条項に違反したことなどを理由として、乙社らが第三者との間で上記営業の移転等に関する協議を行うことなどの差止めを求める仮処分命令の申立てをした場合において、乙社らが上記条項に違反することにより甲社が被る損害は、上記基本合意に基づく最終的な合意が成立するとの期待が侵害されることによるものにとどまり、事後の損害賠償によっては償えないほどのものとまではいえないこと、甲社と乙社らとの間で上記最終的な合意が成立する可能性は相当低いこと、上記申立てが認められた場合に乙社らが被る損害は相当大きなものと解されることなど判示の事情の下では、上記申立ては、保全の必要性を欠く。
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仮差押は、判決が確定していない段階で、他人の財産を仮に押さえるものであるため、裁判所の運用は次のとおりです。
預金や売掛金の仮差押は、事業者にとって影響が大きいため、まずは不動産の仮差押をするよう要請されます。相手方の住所地不動産が本人名で、かつ、担保がついていない場合にはそちらを仮に差し押さえるよう要請されます。
不動産以外の債務者財産に対して仮差押しようとする場合には、相手方住所地(本店所在地)の不動産(土地・建物)が相手方名義ではないことを証明する登記簿などを添付して申立します。
したがって、不動産調査から仮差押の目的物選択は始まります。
- 「仮差押えの場合、対象財産の選択が重要です。より効率的な換価・回収が可能なものを選択するという側面もありますが、保全の必要性との兼ね合いによって、仮差押えをする財産の順序がある程度決まってきますので、こうした要素を考慮しながら、対象財産を選択することになります(編集/田辺総合法律事務所 弁護士法人色川法律事務所『Q&A 民事保全・執行 実務の勘どころ110 申立てから事件終了まで』(新日本法規出版、2023年)5頁)。」
- 「仮差押対象財産として、債務者に与える影響が大きい財産を選択するほど、保全の必要性について高度の疎明が必要となります。・・・保全の必要性についての疎明の程度は、被保全権利の疎明との関係で相対的に決まる部分があります。・・・債権の仮差押えの場合には、不動産の仮差押えの場合に比して保全の必要性について高度の疎明を要し、一般に、仮差押え可能な不動産の不存在やその他の財産状態がひっ迫していることの疎明が必要となります。・・・動産の仮差押えの場合にも、不動産の仮差押えの場合に比して保全の必要性について高度の疎明が必要となります。(編集・田辺総合法律事務所・弁護士法人色川法律事務所『Q&A民事保全・執行 実務の勘どころ110 申立てから事件終了まで』新日本法規/2023/30頁以下)。」
- 仮差押えは暫定的・仮定的なものであるため、仮差押えの目的物については、発令により債務者が被るおそれのある不利益・損害がより少ないと考えられるものを対象とするべきとされています。そのため、仮差押えの目的物の選択に当たっては、発令により債務者が被るおそれのある不利益等がより少ないと考えられるものにしなければならないという「目的物選択の相当性」が要求されており、相当でない場合には保全の必要性を欠くとされています(江原健志=品川英基編『民事保全の実務〔第4版〕(上)』242頁(金融財政事情研究会、2021)参照)。
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目的物選択の相当性は、個々の事案において経験則に照らして判断されており、具体的な基準が設定されているわけではありませんが、通常、仮差押えの目的物が債権・動産である場合は、不動産を目的物とする場合よりも慎重な判断が必要とされています。特に仮差押えの目的物が、債務者の営業や生活等の継続に大きく関わるような債権・動産である場合(企業の預金債権や主要な取引先に対する債権、個人の給料債権・退職金債権、商品、営業に必要不可欠な機械・什器備品等)には、発令による信用低下によって債務者が極めて大きな損害を被ることが予測されますので、保全の必要性について高度の疎明が必要とされています。/以上のような事情から、債権や動産を目的物とする仮差押えの申立てにおいては、債務者の資産状態、保全余力の審査のため、原則として、債務者が保全余力のある不動産を所有していないことについての一応の疎明が求められます。具体的には、債務者の本店所在地や自宅のある住所地といった債務者が不動産を所有している可能性の高い場所について、土地建物の不動産登記事項証明書を提出することが求められています。上記の場所に債務者所有の不動産が存在する場合には、更に固定資産評価証明書の提出も必要となります。債務者が他に保全余力のある不動産を所有していることが判明し、保全の必要性が認められない場合には、仮差押命令の申立てを取り下げるか、併せて不動産仮差押命令の申立てを行うなどの対応が必要となります。ただし、債務者の業種や状況、動産や債権の種類によっては、不動産よりも債権や動産の方が債務者の被る損害が小さく、そのまま保全の必要性が認められるケースもあり得ますので、そのような場合には慎重な検討が必要となります。(編集/田辺総合法律事務所 弁護士法人色川法律事務所『Q&A 民事保全・執行 実務の勘どころ110
申立てから事件終了まで』新日本法規出版/2023年/25頁)
売掛金と預貯金を仮差押の目的物にするときの先後関係は次のように考えます。
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「売掛債権を仮に差し押さえようとする際には、まず、債務者の営業への影響がより少ないと考えられる預金債権の有無を確認し、預金債権への仮差押えによって債権を十分に保全できないときに、売掛債権の仮差押えを行うことが基本となります。ただし、預金債権に対する仮差押えによって、銀行から仮差押債務者との取引停止等の不利益な取扱いを受けるおそれもありますので、具体的事情によっては売掛債権を優先すべき場合もあります。/債務者が2回目の不渡りで銀行取引停止処分を受けた場合や、その他客観的に債務者の経営破綻が証拠上明らかであるという場合には、例外的に、仮差押えが債務者に与える打撃の程度に関する調査を経なくとも仮差押命令が発せられることもありますが、依然債務者が営業を継続していて、単に債権者への弁済を拒絶しているような場合には、保全の必要性の疎明に備えて、事前に調査を行うことが必要でしょう。(編集/田辺総合法律事務所 弁護士法人色川法律事務所『Q&A 民事保全・執行 実務の勘どころ110
申立てから事件終了まで』新日本法規出版/2023年/71頁)」
給与債権の差押えについては、保全の必要性の点から、債務者所有の不動産がないことなどに加えて「退職の可能性があること」の疎明も必要となります。
「実体法上の権利と保全の必要性は必ずしも一致しない。例えば,連帯債務者が3人いる場合,実体法上はそれぞれの債務者に対して債権全額を請求できるが,仮差押えにおいて,それぞれの債務者に対して債権の全額を請求債権(⇒§154)にできるかどうかは,個々の事案毎に保全の必要性の関連を判断する必要がある*321。また,連帯保証人の資産に対する仮差押えを行う場合,主たる債務者が無資力でないと連帯保証人に対する保全の必要性がないものと判断されることが多いと思われる
(京野哲也・著『クロスレファレンス 民事実務講義 第2版』ぎょうせい/2015年/97頁)」
継続的給付に係る債権に該当すれば、将来(仮差押えの後)に発生する債権についても仮差押えの効力が及ぶことになります。
民事保全法第50条(債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行)
5 民事執行法第百四十五条第二項から第六項まで、第百四十六条から第百五十三条まで、第百五十六条(第三項を除く。)、第百六十四条第五項及び第六項並びに第百六十七条の規定は、第一項の債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行について準用する。
民事執行法第151条(継続的給付の差押え)
給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付に及ぶ。
継続的給付に係る債権に
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該当する
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該当しない
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- 給与債権
- 役員報酬
- 議員報酬
- 賃料
- 保険医療機関、指定機関等の指定を受けた病院または診療所が社会保険医療報酬支払基金に対して取得する診療報酬債権(最決H17.12.6民集59-10-2629)
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「売買代金債権の仮差押え・差押えをする場合,通常は,契約日,売買の目的物,売買代金額等を記載して仮差押・差押債権を特定する。ところが,継続的売買取引の場合,少額の売買取引が多数行われることがあり,その都度個別に仮差押え・差押えをしなければならないとすると,債権者の負担が過大になってしまう。継続的売買取引から発生する売買代金債権は「給料その他継続的給付に係る債権」(民執151条,民保50条5項)には当たらないが,その発生の基礎となる法律関係があり,近い将来に発生する可能性が高い場合には,継続的給付に係る債権に準じて取り扱うことが相当である。そこで,継続的な取引に基づく売買代金債権については,以下のように,債権の発生原因となる取引の期間(始期及び終期)や,取引の目的物の種類によって仮差押・差押債権を特定する方法が認められている。「支払方法を毎月○日締切り,翌月○日払いと定めた債務者と第三債務者間の○○(※商品の種類等)の継続的売買契約に基づき,債務者が第三債務者に対して○○年○月○日から○○年○月○日までの間に売り掛けた○○の売掛代金債権のうち,支払期の早いものから順次頭書金額に満つるまで」差押えに関しては,東京地裁民事執行センターの実務では,将来発生する継続的売買代金債権については6か月分の差押えが認められている(『民事執行の実務債権執行編(上)』131頁,150頁)。」
- 仮差押えに関しては,債権の特定の点に加えて,保全の必要性との関係からも債権の発生原因となる取引の期間の限定が必要になる。継続的給付に係る債権に準じて期間を1年とすることも考えられるが,事案に応じて1年よりも短期あるいは長期になることもあり得る(菅野・田代『民事保全の実務』85頁〔松長一太〕)。
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賃料債権は,継続的給付に係る債権(民執151条,民保50条5項)に当たるので,将来(仮差押え・差押えの後)に発生する債権についても(仮)差押えの効力が及ぶ。差押えの場合には,対象となる賃料債権の発生期間については特に制限はなく,差押債権額に満つるまで差し押さえることができる。他方,仮差押えの場合には,保全の必要性の観点から,本案訴訟の平均審理期間を考慮して1年間程度の期間に見合う金額を仮差押債権額とするのが実務の取扱いである(菅野・田代『民事保全の実務』83頁〔松長一太〕)。
保全処分では、口頭弁論が行われず、証拠調べも即時に取り調べられる証拠(つまり書証)に限定されます。したがって、申立書の段階から「現場を裁判所に届ける」つもりで、陳述書や報告書を提出する必要があります。
特定の日に仮差押をしたい場合において、指定日送達を行っていない裁判所であるときには、書記官と日程を調整してから申し立てします。
疎明資料の原本持参をします。
裁判官から口頭で「担保金の額」「納期」を伝えられる。
仮差押命令では、債務者の審尋は行われない∵密行性の確保
供託申請用の委任状は、訴訟委任状を使うことができますが、供託申請書に記載すべき事項をすべて追記させられるので、供託申請用の委任状を別途作成して持参しておくのが賢明です。
供託書の正本と写しを提出して、担保金の供託完了をお知らせします。
- 不動産に対する仮差押えの執行は、裁判所が自動的に、登記所に仮差押の登記を嘱託することによって行われますので、執行申立は不要です。
- 債権に対する仮差押えの執行は、裁判所が自動的に、仮差押決定正本を債務者と第三債務者に送達して行いますので、執行申立は不要です。
- 動産に対する仮差押えの執行は、裁判所の執行官が動産を占有してなされますが、動産仮差押命令が発令されても、執行官が自動的に行ってくれるわけではないので、執行官に対して執行申立を行う必要があります。
- 不動産に対する仮差押えの執行は、不動産登記簿に仮差押がなされた旨を登記してなされます。
- 債権に対する仮差押えの執行は、裁判所が仮差押決定正本を債務者と第三債務者に送達して行います。
- 動産に対する仮差押えの執行は、裁判所の執行官が動産を占有して行います。
この時点で、仮差押が成功したのか、否かがハッキリと分かります。
「最高裁(前記最決平成15・1・31)は,ケース29と同様の事案において,追加仮差押えを肯定する立場を宣明した(破棄自判)。「特定の目的物について既に仮差押命令を得た債権者は,これと異なる目的物について更に仮差押えをしなければ,金銭債権の完全な弁済を受けるに足りる強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき,又はその強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときには,既に発せられた仮差押命令と同一の被保全権利に基づき,異なる目的物に対し,更に仮差押命令の申立てをすることができる」。その理由として,ある被保全権利に基づく仮差押命令が発せられた後であっても,異なる目的物についての強制執行を保全しないと完全な弁済が得られないとして仮差押命令の必要性が認められるときは,「既に発せられた仮差押命令の必要性とは異なる必要性」が存在する,としている。追加仮差押えを認めると,同一の被保全権利につき二重の仮差押解放金が債務者にかぶさることになるが,追加の仮差押命令を発するさいに,裁判所が仮差押解放金の額を定めたうえ,その供託は先行仮差押命令における仮差押解放金の供託によってもすることができる旨を付記すれば,二重に支払うことはなくなり,問題はない(北川裁判官の補足意見。法務局は,すでに,対応する供託上の取扱いを認めている)。(中野貞一郎
(大阪大学名誉教授)著『民事執行・保全入門 補訂版』有斐閣/2013年/314頁)」
保全処分の申立書は、特急で起案(ご準備)いたします。起案中(土日祝日であっても)は、司法書士からの連絡がすぐにつくようにしていただければ幸いです。また、債権者の陳述書を提出いたします。作文にご協力ください。
司法書士が、お預かりした事件記録の記載から、相手方財産を見つけることはありますが、あくまでたまたま見つけただけです。
くれぐれも司法書士が相手方財産を調べることはできませんので、ご注意ください。
相手方から示談の協議があった場合には、財産を開示させる意味でも、しばらく付き合った方が良いかもしれません。
- 債務者の破産:仮差押が成功した場合であっても、その後に債務者が破産宣告を受けると仮差押えは効力を失います(破産法42条)。これを回避するには、本案訴訟で勝訴し、(本)差押えを行う必要があります。
- 仮差押解放金の供託:仮差押が成功した場合であっても、債務者が仮差押解放金を供託すると、仮差押の効果が供託金の取戻し請求権のうえに移動します。
- 保全異議訴訟:仮差押が成功した場合であっても、債務者が保全異議訴訟を提起し、甲が敗訴すると、仮差押えが失効します。
仮差押では、裁判所が指定する金額の『担保金』を指定期限内に納付する必要があります。担保金は、正式な裁判手続きを経ずに、仮に債務者の財産を差押えするため、債務者に損害が生じたときにその損害を賠償するためのものです。担保金に関する注意点は次のとおりです。
- 担保金の据え置き:担保金はその必要性が無くなる(例えば、裁判で債権者が勝訴した場合、債務者の同意がある場合など)まで、据え置かれます。
- 担保金の没収:仮差押が違法であった場合には、担保金は没収され返却されません。仮差押が違法とは、債務者に十分な資力があるにも関わらず売掛金を差押えた場合などで、本案訴訟での敗訴が直ちに違法とはなりません。
あなたが相手方に請求できる金額(被保全債権の金額)によって、次のとおりです。
司法書士が、あなたの代理人として、裁判所に出頭します。その場合の報酬は、次のとおりです。
【着手金】15万円(税別)~※ 証拠の有無によって、加算いたします。
【報酬金】仮差押え命令を獲得した場合
├仮差押えを契機として回収できたときは、回収額できた額の16%(税別)
└本案訴訟を要することとなったときは、認められた額の8%(税別)
【実費】追って、お知らせします。
【担保金】裁判所から指示されます。見込み額をお伝えします。
司法書士は、代理人になれません。
司法書士は、裁判所に提出する書類の作成をお受けすることもできます(その場合、裁判所とのやり取りは、あなたご自身で行っていただく必要があります。本人訴訟支援といいます。)。
ところが、保全命令申立は、緊急性が高く、裁判所とのやり取りも頻繁に行っていただく必要があるため、本人訴訟支援には馴染みません。基本的には弁護士をご紹介します。