従業員が不正行為や違法行為を行なったときには、会社から次のようなペナルティを受ける可能性があります。
一つの行為が、民事事件にも刑事事件にも当てはまることもあります。
『えっ?!こんなことで処分されるの?!』とならないよう、気をつけましょう。
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懲戒処分には、戒告・譴責・減給・出勤停止・降格・諭旨解雇・懲戒解雇があり、重い処分では従業員の身分を失ったり、将来の出世に悪影響を受けます。
どのような行為が懲戒処分の内容になるのかは、会社の就業規則によります。
民事訴訟を起こされ敗訴すると、会社に被害を弁償する必要が生じます。
会社からの刑事告訴が受理され、刑事事件になると警察に逮捕され取り調べを受けます。さらに刑事裁判で有罪になると罰金・禁錮・懲役などの処罰を受けることもあり得ます。
刑事罰に該当する場合には、上の民事罰にも該当する可能性があると考えて支障ありません。
【刑事罰】ありません。
【民事罰】東京地裁H24.12.28判決は、内定者が会社を「会社から黙示の内定取消又は内定辞退の強要を受けたことにより、内定辞退の意思表示を余儀なくされた」として不法行為に基づく損害賠償請求(本訴)を提起したのに対し、被告会社が内定辞退は信義にもとるとして採用費用などの損害の賠償を求め、反訴を提起したものです。この裁判例では本訴・反訴ともに棄却されていますが、裁判例はその理由中で次のように述べています。
入社日までに上記条件成就を不可能ないしは著しく困難にするように事情が発生した場合,原告は,信義則上少なくとも,被告会社に対し,その旨を速やかに報告し,然るべき措置を講ずべき義務を負っているものと解されるが,ただ,その一方で,労働者たる原告には原則として「いつでも」本件労働契約を解約し得る地位が保障されているのであるから(民法627条1項),本件内定辞退の申入れが債務不履行又は不法行為を構成するには上記信義則違反の程度が一定のレベルに達していることが必要であって,そうだとすると本件内定辞退の申入れが,著しく上記信義則上の義務に違反する態様で行われた場合に限り,原告は,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。 |
内定辞退がよほど悪質な場合には、損害賠償が認められる可能性も示唆されています。
【刑事罰】他人の財物を盗んだ場合、窃盗罪(刑法235条)が成立します。同罪の法定刑は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
【刑事罰】紙やペンなどを一時的に利用する程度であれば、罰せられることはありません(使用窃盗)が、無断で自宅用に持ち帰った場合には窃盗罪(刑法235)が成立します。窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
【刑事罰】廃棄される前であれば窃盗罪(刑法235)、廃棄後であっても占有離脱物横領罪(刑法254)が成立する可能性があります。窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」、占有離脱物横領罪の法定刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する」です。
【刑事罰】無断で持ち帰った場合、占有離脱物横領罪(刑法254条)が成立する可能性があります。法定刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料」です。
【刑事罰】電気を会社から盗んだ場合にも、窃盗罪(刑法245、235)が成立します。窃盗罪の法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
【刑事罰】預かっている物に手をつけたということになり、窃盗罪ではなく、業務上横領罪(刑法253)が成立します。業務上横領の法定刑は「10年以下の懲役」です。
【刑事罰】業務上横領罪(刑253)に該当する可能性があります。同罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
【民事罰】会社から不当利得の返還請求(民703)を受ける可能性があります。
【税金】従業員に所得税が課税される可能性があります。
獲得するポイントが小さいときは会社が問題にしなくても、大きいポイントであるときには、問題にされる可能性があります。
【刑事罰】会社経費ではないのに、経費であると偽って会社からお金を取る行為は詐欺罪(刑法246)に該当します。詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。
【刑事罰】人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った場合には、電磁的記録不正作出及び供用罪(刑法161の2)が成立します。同罪の法定刑は「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
【刑事罰】不正の利益を得る目的や、損害を与える目的があるときには営業秘密侵害罪(不正競争防止法21)が成立します。同罪の法定刑は「10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」です。
【刑事罰】アクセス権限がないにも関わらず、持ち出した時点で不正アクセス罪(不正アクセス行為の禁止等に関する法律3、11)が、利用した段階で営業秘密侵害罪(不正競争防止法21。)が成立する可能性があります。不正アクセス罪の法定刑は「3年以下の懲役又は100万円以下の罰金」、営業秘密侵害罪の法定刑は「10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」です。
【民事罰】持ち出した顧客リストが、営業秘密に該当しているものであれば、損害賠償請求を受ける可能性が充分あります。
顧客リストを持ち出さない場合でも、自分が担当していた顧客の住所や連絡先を覚えていることは通常ありえることです。これを利用した場合には、何か問題があるのでしょうか?
【刑事罰】顧客リストを利用しなくても、その他営業秘密(秘密として管理されている製品原価・仕入値など)を利用して営業をした場合には営業秘密侵害罪(不正競争防止法21)が成立する可能性があります。同罪の法定刑は「10年以下の懲役若しくは2000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」です。さらに海外に営業秘密を漏らした場合には更に重く「10年以下の懲役若しくは3000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」です(不正競争防止法21Ⅲ)。
【民事罰】退職した勤務先との間で「適法な競業避止義務【1】」を負っている場合、又は不公正な競争に該当する営業活動を行なった場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。
【1】適法な競業避止義務:人には憲法上保障された「職業選択の自由」があります。これを不当に侵害する競業避止義務、例えば「当社退職後、一生、日本中どこでも当社同種営業を行なわない」旨は、職業選択の自由を侵害するものとして、無効とされるでしょう。
【刑事罰】行為の態様により、次のような罪が成立します。
【民事罰】セクハラが違法となる(損害賠償請求の対象になる)要件を示した次の裁判例が有名です。
名古屋高裁金沢支部H8.10.30判決(金沢セクシャル・ハラスメント事件) | |
職場において、男性の上司が部下の女性に対し、その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく、その行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となるというべきである。 |
【刑事罰】行為の態様により、次のような罪が成立します。
【民事罰】行為の態様によって金額はマチマチです。従業員が会社にも相談していた場合、会社が見て見ぬフリをしていた場合には、会社も損害賠償義務を負うことになります。
【刑事罰】公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合、その事実の有無にかかわらず、名誉毀損罪(刑法230条)が成立します。同罪の法定刑は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。
【刑事罰】事実を摘示せず、公然と人を侮辱した場合、侮辱罪(刑法231)が成立します。侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」です。なお、 侮辱罪は、法人を被害者とする場合においても成立する(最高裁S58.11.1決定)とされています。
【刑事罰】許可なく会社アカウントでログインすると不正アクセス罪(不正アクセス行為の禁止等に関する法律3条)が成立します。同罪の法定刑は「3年以下の懲役又は100万円以下の罰金」です。
【刑事罰】
【民事罰】
従業員が社用車で交通事故を起こし、第三者に損害を与えたときには、民法715条1項に従って、会社も損害賠償の責任を負います。被害者側から見ると、被害者は、直接の加害者である従業員又はその使用者である会社どちらから被害の弁償を受けても良いということです。
┌─賠償請求→ 運転していた従業員(民法709条) 被害者┤ └─賠償請求→ 従業員の会社(民法715Ⅰ、自賠法3) |
従業員は、❶会社が被害弁償をしてくれたときは、被害者から請求されることはなくなります。
一方で、従業員は、会社から「❷会社が全額負担した一部を支払え」と請求されることもあり得ます(求償:民法715条3項)。負担の割合は、会社が払った額の1/4~1/2とされることが多いようですが明確な基準はありません。
┌──→ 運転していた従業員(民法709条) 被害者┤ ↑ ❷民法715条3項により「求償」可能 └─❶→ 従業員の会社(民法715Ⅰ、自賠法3) |
条文を確認しましょう。
民法第715条(使用者等の責任)
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従業員が被害弁償をしたときに、従業員から会社に対して求償できるかについては、説が分かれていました(民法715条には求償できる旨の規定がないため出来ないという説と、できるという説)が、令和2年2月28日最高裁判所判決は、この求償を認めています。
┌─❶→ 運転していた従業員(民法709条) 被害者┤ ↓ ❷令和2年2月28日最高裁判決により「逆求償」可能 └──→ 従業員の会社(民法715Ⅰ、自賠法3) |
刑法以外の法律でも刑罰規定が設けられていることがあります(一般に、刑法以外で刑事罰を定めた法律を「特別刑法」と呼んでいます。)。法律の専門家ではない皆さんが、刑法だけであればまだしも、特別刑法の内容まで把握することは不可能です。それにも関わらず「法の不知は恕せず」というルールがあります。これは「法律で禁止されていることを知らなくても許しませんよ」という意味です(刑法38条3項)。
よって、身を守るために大切なことの【一つ目】は
ということをしないことです。
身を守るために大切なことの【二つ目】は