(債務者が第三債務者に対して有している)債権を差押、仮差押することを債権差押、債権仮差押といいます。
この記事では、①債務者、第三債務者という単語の定義を確認したうえ、②債権に対する差押(仮差押)をした場合に、いつの時点の債務者財産を押さえられるのか(差押の効力の及ぶ時的範囲)について解説しています。
もくじ | |
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債権に対する差押(仮差押)で、登場するのは次の3つの立場です。
用語 | 意味 |
債権者
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債務者に対して、金銭の請求をすることができる人【1】。
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債務者
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債権者に対して、金銭の支払い義務を負っている人。 |
第三債務者
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債権者が「この人(第三債務者)は、債務者に対して、何等かの支払い義務があるのではないか」と考えた人。 |
【1】もう少し詳しく説明すると、次のとおりです。
債権差押命令は、
債務者に対しては、被差押債権の取立てその他の一切の処分を禁止し、
第三債務者に対しては、債務者への弁済を禁止する(民執145Ⅰ、同193Ⅱ)。
債権仮差押命令は、
第三債務者に対して、債務者への弁済を禁止する(民保50Ⅰ)。
第三債務者である銀行は、差押命令・仮差押命令を受け取ったときには、弁済を禁止されます。
具体的には、銀行が、債務者の口座から差押債権額を分離して保管します。
ただし、銀行が命令を受け取ってから、債務者の口座から差押金額を分離するまで若干のタイムラグが生じることもあります。
差押えの効果が及ぶのは、その時点で口座に残っている残高についてのみです。
入金された直後に引き出す債務者の場合には、預貯金の差押(仮差押)は困難です。
差押の効力発生日であれば指定できても、時間までは指定できないからです。
差押後に入金されたお金には、差押の効力は及びません。
差押は、口座の凍結とは異なりますから、債務者自身(口座名義人)による入金や、第三者からの入金も行うことができます。
銀行に相殺されてしまい、(仮)差押が空振りになる可能性があります。
つまり、銀行の債務者に対する貸金返還請求権と、債務者の銀行に対する預金払戻請求権を同額において相殺されてしまい、(仮)差押債権者の(仮)差押は空振りになってしまいます。
民法第511条(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止) | |
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もっとも「債務者が正常取引先のときは,金融機関が相殺権の行使に躊躇することが多く,むしろ金融機関が債務者に働きかけて,債務者をして解放金(民保22条)を積んで仮差押えを解除させたり,債権者と協議をさせ一部弁済をする代わりに差押えを取り下げさせたりすることもある。このため,借入れがある銀行の預金の仮差押え・差押えも回収を促進させる効果がある。(須藤英章・監修、経営紛争研究会・編著『債権回収あの手この手Q&A 各種財産の調査から回収まで』日本加除出版/2020年/39頁以下)」
継続的給付に係る債権に該当すれば、将来(差押、仮差押の後)に発生する債権についても差押、仮差押の効力が及びます。
民事執行法第151条(継続的給付の差押え)
給料その他継続的給付に係る債権に対する差押えの効力は、差押債権者の債権及び執行費用の額を限度として、差押えの後に受けるべき給付に及ぶ。
民事保全法第50条(債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行)
1 民事執行法第143条に規定する債権に対する仮差押えの執行は、保全執行裁判所が第三債務者に対し債務者への弁済を禁止する命令を発する方法により行う。
2~4 (略)
5 民事執行法第145条第2項から第6項まで、第146条から第153条まで、第156条(第3項を除く。)、第164条第5項及び第6項並びに第167条の規定は、第1項の債権及びその他の財産権に対する仮差押えの執行について準用する。
継続的給付に係る債権に | |
該当する | 該当しない |
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