無免許者が宅建業者から名義を借りて不動産取引を行ない、利益を両者で分配する合意は無効【最高裁令和3年6月29日判決】が不動産業界に与える激震


令和3年6月29日最高裁判所第三小法廷は「無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、宅地建物取引業法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして、公序良俗に反し、無効」との判決(以下「令和3年最判」といいます。)を下しました。

 

不動産も今やインターネットに売却物件が掲載され、それを見た購入希望者が問合せるという時代になってきました。

しかし、売主の中には売りに出していることを知られたくない人【1】もおり、このような不動産は「広告不可物件」として広く情報公開をされることなく、人と人とのつながりによって、転々流通してきました。中には宅建業免許を取得していなくても、自らの人脈を紹介することによって報酬を得ている不動産ブローカーと言われる方も存在します。

これを令和3年最判は明確に否定しました。不動産業界に与える影響を考えました。

 

なお、本記事の筆者は、令和3年最判の事件当事者との面識はなく、公開された最判、原審及び第1審の裁判例から判明した事実に基づいて本記事を執筆しています。


【1】次のような物件が「広告不可」とされていることが多いようです。

  • 売りに出されていることが知られると、事業に悪影響を及ぼす「ホテル」など
  • 住みながら売りに出す場合や、離婚のために売却する場合には、近隣に悪い噂が経つのを嫌がり、売却し引っ越しが終わるまで知られたく無いようです。
もくじ
  1. 事案の概要
    1. 登場人物
    2. 本件不動産
    3. 時系列
  2. 裁判所の判断(第1審、控訴審、最高裁)
  3. 令和3年最判を読み解く前提知識
  4. 不動産業界への影響(私見)
  5. 提言
    1. 不動産会社の方へ
    2. 一般の方へ
  6. 疑問点

事案の概要


以下の概要は、令和3年最判、その原審である令和元年9月26日東京高裁判決、第1審である平成30年11月30日東京地裁立川支部判決の判決文中で「争いのない事実」などとして認定された事実である。

登場人物

本記事における「略号」と人物 審級ごとの呼び名
第1審 原審 最高裁

x・yの元上司で、xとyを結びつけ、

xとyに不動産共同事業を持ちかけた人物。

     

Aの元部下。

自身が専任宅建士をしている不動産会社に在籍中、

当該不動産会社と関係ないA・yと不動産共同事業を始めた。 

原告 1審原告 被上告人

Aの元部下。

開業税理士で宅建士資格も持つ。後にY社を設立し社長となる。

Y社の専任宅建士。

被告 1審被告  
A・xと不動産共同事業を行なうためyが設立した不動産会社。 被告 1審被告会社 上告人
 

株式会社緑友

【第1取引】の仲介会社

     
 

緑総合地所株式会社

【第1取引】の売主

     

【第2取引】の買主

     

本件不動産

宇都宮市所在の土地建物(6階建ての賃貸マンション)で非公開物件

時系列

日時

事件

H28.10

Aがxを誘って不動産共同事業を計画した。

xの担当:投資対象の不動産や転売先の情報収集等を担当

H28.11

Aがyに不動産共同事業の話をしたところ、yも計画への参加を希望した。

H28.12.6

Aがxとyを引き合わせる。

yが上記計画に加わり、yを新たに設立する会社の専任の宅地建物取引士とすることとなる。

H29.1.13

yが不動産会社Yを設立。設立費用はyが負担。

H29.2まで

xが株式会社緑友から本件不動産を紹介される。

 

xは、yが余りにも不動産事業に無知なことなどからyへの不信感を募らせ「本件不動産に係る取引に限ってY名義を使用し、その後はyとYを不動産共同事業に関与させないようにしよう」と考え、Aを通じてyと協議した。

H29.3.7

AxYとの間で次の合意成立〔争いあり〕

  1. 本件不動産の購入・売却にはY名義を使うが、xが売却先選定のうえ売買に必要な一切の事務を行ない、本件不動産売却によって生ずる責任もxが負う。
  2. 本件不動産売却代金はxが取得し、Yには名義貸し料として300万円を分配する。Yは【第2取引】の売却代金受領後、売却代金から【第1取引】の購入代金、諸費用、名義貸し料を控除した残額をxに支払う。
  3. 本件不動産に係る取引終了後、xYは不動産共同事業を行なわない。
H29.3.15 緑総合地所株式会社を売主、Yを買主として本件不動産を1億3000万円で売買する売買契約が締結された【第1取引】
H29.4.19 Yを売主、訴外Bを買主として本件不動産を1億6200万円で売買する売買契約が締結された【第2取引】
H29.4.26 決済日(=残代金支払日・物件引渡日・所有権移転日)が翌日に迫ったため、xはYに対して「売却代金受領後2319万円余を支払うよう」求めた。
H29.4.27

【第1取引】【第2取引】が実行された。

【第2取引】の実行に基づき、YはBから売買残代金1億6104万9913円の支払いを受けた。

【第1取引】の実行に基づき、Yは緑総合地所に対して売買残代金1億2797万2546円を支払った。

Yは、【第1取引】を仲介した緑友に対して仲介手数料として427万6800円を、【第2取引】を仲介した有限会社ESP及びCに対してそれぞれ210万6000円と50万円を支払った。

H29.5.2

Yはxに対して1000万円を支払った。

H29.5.5頃 Yはxに対して、5/11までに1000万円を返還するよう催告した。
 

xがYyを提訴:1319万円を支払え。

Yがxに反訴提起:支払い済み1000万円を返還せよ。

H30.11.30

東京地裁立川支部判決

R1.9.26 東京高裁判決
R3.6.29 最高裁第三小法廷判決

裁判所の判断


 

H29.3.7付業務委託契約の成否

(x→Yへの報酬請求権の有無)

Yがxに支払った1000万円

(Y→xに対する不当利得返還請求)

第1審

業務委託契約の成立を認められない

⇒xの報酬支払い請求棄却

有償と合意された業務が現に遂行され、相当と認められる範囲を超えない対価が任意に支払われたのであるから、その取得に法律上の原因がないとはいえない。

⇒Yの返金請求棄却

控訴審(原審)

成立が認められる

⇒xの報酬支払い請求を認容

業務委託契約に基づく支払いである。

⇒Yの返金請求棄却

最高裁

無免許者が宅建業者から名義を借りて、その利益を両者で分配する合意は公序良俗に反し、無効である。

⇒Yの敗訴部分を破棄し、差し戻し。

差戻後の原審

最高裁は、次のように述べています。少し長い目に引用しましたのでご参照ください。

また、最高裁は「事実認定をしっかりするように」と高裁へ差し戻しましたので、事件はまだ終わっていません。さて、高裁はどういう事実認定をするのでしょうか。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
    (1) 宅地建物取引業法は、第2章において、宅地建物取引業を営む者について免許制度を採用して、欠格要件に該当する者には免許を付与しないものとし、第6章において、免許を受けて宅地建物取引業を営む者(以下「宅建業者」という。)に対する知事等の監督処分を定めている。そして、同法は、免許を受けない者(以下「無免許者」という。)が宅地建物取引業を営むことを禁じた上で(12条1項)、宅建業者が自己の名義をもって他人に宅地建物取引業を営ませることを禁止しており(13条1項)、これらの違反について刑事罰を定めている(79条2号、3号)。同法が宅地建物取引業を営む者について上記のような免許制度を採用しているのは、その者の業務の適正な運営と宅地建物取引の公正とを確保するとともに、宅地建物取引業の健全な発達を促進し、これにより購入者等の利益の保護等を図ることを目的とするものと解される(同法1条参照)。

以上に鑑みると、宅建業者が無免許者にその名義を貸し、無免許者が当該名義を用いて宅地建物取引業を営む行為は、同法12条1項及び13条1項に違反し、同法の採用する免許制度を潜脱するものであって、反社会性の強いものというべきである。そうすると、無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者との間でするその名義を借りる旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反し、公序良俗に反するものであり、これと併せて、宅建業者の名義を借りてされた取引による利益を分配する旨の合意がされた場合、当該合意は、名義を借りる旨の合意と一体のものとみるべきである。

したがって、無免許者が宅地建物取引業を営むために宅建業者からその名義を借り、当該名義を借りてされた取引による利益を両者で分配する旨の合意は、同法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものとして、公序良俗に反し、無効であるというべきである。

(2) 前記事実関係等によれば、本件合意は、無免許者である被上告人が宅建業者である上告人からその名義を借りて本件不動産に係る取引を行い、これによる利益を被上告人と上告人で分配する旨を含むものである。そして、被上告人は本件合意の前後を通じて宅地建物取引業を営むことを計画していたことがうかがわれる。これらの事情によれば、本件合意は上記計画の一環としてされたものとして宅地建物取引業法12条1項及び13条1項の趣旨に反するものである疑いがある。

上告人は、原審において、本件合意の内容は同法に違反する旨を主張していたものであるところ、原審は、上記事情を十分考慮せず、同主張について審理判断することなく本件合意の効力を認めたものであり、この判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。

令和3年最判を読み解く前提知識


宅地建物取引業法の規定

宅地建物取引業法第12条(無免許事業等の禁止)
 
  1. 第3条第1項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。
  2. 第3条第1項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営む旨の表示をし、又は宅地建物取引業を営む目的をもつて、広告をしてはならない。
宅地建物取引業法第13条(名義貸しの禁止)
 
  1. 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
  2. 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に、宅地建物取引業を営む旨の表示をさせ、又は宅地建物取引業を営む目的をもつてする広告をさせてはならない。 

宅建免許がなければ仲介だけでなく、自ら当事者となってする仕入や転売も不可

令和3年最判におけるxyは、【第1取引】【第2取引】ともに仲介をした訳ではありません。

宅建免許がなければ自ら当事者となってする仕入も転売もすることはできないとされています。

(国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」第2条第2号関係をご参照。)

宅地建物取引士と宅地建物取引業者の違い

令和3年最判で「無免許者」とされたxは、宅地建物取引士ではありましたが、宅地建物取引業免許を取得していませんでした。

宅地建物取引士と宅地建物取引業者の違いも理解しておく必要があります。

  宅地建物取引士 宅地建物取引業者
別名・通称 

宅建士

旧・宅地建物取引主任者

宅建業者

不動産会社

試験 あり なし
登録 あり なし
営業保証供託 なし 必要
免許

なし∵宅建士試験に合格すれば宅建士に登録申請ができ、宅建士になるために新たに免許を取得する必要はない。

宅建業免許
両者の関係 宅建士が失敗すると、その所属している不動産会社がペナルティを受ける。

従業員5人に1人は専任の宅建士である必要がある(宅建業法31の3Ⅲ、宅建業法施行規則15の5の3)

宅地建物取引士を雇用していれば、社長自身は宅地建物取引士である必要はない。

令和3年最判の不動産業界への影響


宅地建物取引業者の免許なく、物件を紹介して、仲介手数料などの一部を報酬にしていた不動産ブローカーは、違法です。

今後、コンプライアンスに厳しい不動産会社を中心に、不動産ブローカーが持ち込んだ案件を受けないところも出てくるでしょう。

一方、不動産ブローカーは、紹介をしても報酬を受け取ることができませんので、いずれかの不動産会社に所属して、その人脈を活かす必要があります。

フルコミッションの方を雇っている不動産会社への影響

不動産会社が営業マンを確保するための方法は、次のいずれかです。

給与形態がいずれであるかによって、身分や契約形態は次のとおりです。

給与形態   身分 契約形態 雇う側の注意点
基本給+出来高   従業員

雇用契約。

指揮命令下にある。

基本給部分の最低賃金法違反に注意
フルコミッション   非従業員

業務委託(請負)契約。

指揮命令下にない

下請法注意。

令和3年最判は社外の無免許者に報酬を払う旨の合意を無効としたものですが、フルコミッションで働く方は会社に所属しているようにも見えますが、厳密には社外の人です。社外の人ということは最判のyと同じ立場になってしまう(報酬請求権を否定される)可能性があるのです。

 

よって、令和3年最判を見たフルコミッションの方が、動揺する可能性があります。全く売上に貢献できていない担当者であれば、この機会に業務委託契約を解除することも一つでしょう。しかし、有能な担当者とフルコミで契約していた場合には、その方を自社従業員として雇用する必要性が生じるかもしれません。

提言


不動産会社の方へ

売主であれ、買主であれ、当事者の知らないところでお金が動くのは健全なこととは言えません。令和3年最判を契機に、より一層、貴社のコンプライアンス体制を整え、それを広く広報していけば、新しい客層のハートをつかむことができるかも知れません。

一般の方へ

  • 何かオカシイなと思う不動産会社には物件を預けたり、購入したりしないことです。
  • もし不動産会社を信用できないという方は、まずは当司法書士事務所グループへご相談いただければ結構です。司法書士は紹介の対価を支払うことも、受け取ることも禁止されておりますが、私たち司法書士が信用のおける不動産会社をご紹介させていただきます。

疑問点


筆者が、この裁判例を読んで疑問に思ったのは次の二点です。

xが不動産会社在職中に他社に物件情報を流した行為

xが単なる従業員であっても背任罪(刑法第247条。懲役5年以下又は罰金50万円以下)が成立する可能性があり、仮に会社の役員や支配人の立場であった場合には特別背任罪(会社法第960条1項、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科)が成立する可能性もありました。

こういう状況で、よく裁判所に訴えたなと。業界内ですぐに噂が回って勤務先に知られるリスクもあるのに。勤務先にバレてしまうと、刑事告訴されたり、被害弁償を請求されてしまう可能性があります。

Aはなぜ巻き込まれていないのか?!

xとyを不動産共同事業に巻き込んだA。

xは、Aからの誘いさえなければ、勤務先不動産会社を裏切ってyに不動産を紹介することもなかったでしょう。

yも、Aからの誘いさえなければ、「不動産」という素人が手を出すべきではない事業に手を出して訴訟にまで巻き込まれることはなかったでしょう。税理士事務所の経営への悪影響もあったかも知れません。

それでも、xもyも(裁判例を見る限りでは)Aを何ら悪く言っていません。恐らく別訴などもおこしていないでしょう。xy両方にとって、Aは大恩人だったのか、それ以外のAを裏切れない理由があったのか、これは本当に分かりません。

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