合同会社の社員(業務執行社員、代表社員)が死亡したとき、その相続手続は、株式会社よりも相当複雑です。
株式会社では経営と所有が完全に分離されており(経営は取締役、所有は株式)、なおかつ、取締役の地位は相続の対象にならないため、単に株式について相続手続を行えばすみます。
ところが、合同会社においては、経営と所有が分離されていない「社員という地位」の相続手続になるため、複雑になっているのです。
この記事ではフローチャートを掲載することで、皆様の理解を深めたいと思います。フローチャートⅠから始め、あとは文中の指示に従ってください。
ちなみに「合同会社の社員」とは、従業員という意味ではなく、合同会社に出資したり経営に参加している社員のことをいい、社員が誰であるかは定款に記載されています。
もくじ | |
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まずは定款規定のチェックからです。
合同会社の定款に次のいずれかの規定はありますか?!
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ある |
亡くなった社員の持分を承継して、持分を有する社員になります(会608ⅠⅡ)。 |
ない |
死亡は法定退社事由です(会607Ⅰ③) 。 相続人は社員になることはできず、退社に基づく持分払戻請求権を承継します(会611 )。 |
不明 |
合同会社への開示請求または 法務局への閲覧請求【1】 |
【1】合同会社の定款が見つからないときは・・・
お亡くなりになった社員(以下「被相続人」といいます。)の相続人を確定します。 相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を取得します。 相続人は何人いらっしゃいましたか? |
1名だけ |
その1名の相続人が社員になります。したがって、その1名の相続人が社員として事業承継し、解散することも可能になります。 |
複数名いる |
いったん相続人全員が社員となります。 家庭裁判所へ相続放棄申述をした相続人は社員にはなりません。 |
遺産分割協議の効力は、相続開始時に遡及するのが原則です(民法909条)が、合同会社の「社員の地位」に関する遺産分割協議の効力が相続開始時に遡及するか否かについては、見解が分かれています。
理解の前提として、次の通達先例を頭に入れておく必要があります。
昭和34年1月14日民事甲2723回答 | |
定款に、無限責任社員が死亡したときはその相続人において当然入社する旨の規定のある合資会社の無限責任社員が死亡し、共同相続人間の遺産分割契約により相続人の1人が出資金の全部を取得し、その者のみの入社登記の申請があった場合は、却下する。 |
上記先例は、無限責任社員の地位は権利だけでなく義務を包含しているものである【1】から、いったん相続人全員を無限責任社員として登記することを要求しています。
【1】債権が遺産分割協議の対象になる一方、債務の遺産分割協議は債権者の承諾を得なければ効力を生じないことを思い出してください。
昭和38年5月14日民事甲第1357号回答 | |
有限責任社員の死亡による共同相続人中一部の者の入社による登記は受理しないのが相当である。 |
上記先例は、有限責任社員の地位であっても、無限責任社員の地位と同様であることを明らかにしています。
これらの先例を前提に次のとおり見解が分かれています。
遡及しないとする説 | 遡及するとする説 | |
各説 |
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説の帰結 |
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私も、金子先生同様「法令の改正や明確な先例が現れるまでは、合同会社にあっても先例の見解に従った方が無難(金子登志男・監修/立花宏・著/商業登記実務から見た合同会社の運営と理論/中央経済社/2021年/46頁)」と考えています。
<令和5年12月18日以下追記>
遺産分割協議の効果が相続時点に遡及せず、一旦、全相続人が法定相続分において相続するというのであれば、既にそれは遺産分割協議とはいえないのではないか。
全相続人が法定相続分において確定的に相続した相続人は、相続人全員で協議せずとも、他の相続人との間で、有効に出資持分の譲渡をなし得ると思われる。
社員の中から業務執行社員や代表社員を特に定めている場合には、その地位は特定の社員の能力・信用を基礎として委託されたものであるため、一般に社員の持分が譲渡され、又は相続人に包括承継されたときでも、業務執行社員の地位や代表社員の地位が承継されるものではない(上柳克郎・鴻常夫・竹内昭夫・編集代表/新版注釈会社法⑴/有斐閣/1985年/244頁、314頁)とされていますので、複数相続人が社員持分を承継した場合や他にも社員がいる場合には、社員の中から業務執行社員や代表社員を選定します。
相続人がなることができるのは次の3つのいずれかです。
死亡は法定退社事由です(会607Ⅰ③)ので、相続人は社員になることはできず、退社に基づく持分払戻請求権を承継しています(会611)。それを前提に・・・
合同会社には被相続人以外にも社員がいますか? |
いる。 |
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いません。被相続人が唯一の社員だった。 |
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上記「手順2■相続人の確定」「手順3■相続人間で遺産分割協議」「手順4■社員との協議」を行います。
他の社員が、合同会社への参加を認めてくれるのであれば、持分払戻請求権を現物出資するなどして社員資格を再度取得したうえ、合同会社へ参加することができます。
一方、他の社員が、合同会社への参加を認めてくれないのであれば「手順6■持分の払戻を受ける」しか方法はありません(合同会社へ参加できません。)。
持分の払戻しでは、被相続人による出資のうち資本金の額に計上されていた額が減少することになります(会社計算規則30Ⅱ①)。
退社に伴う「持分の払戻し」では、通常(1か月間または2か月間の)債権者保護手続を要することとなります(会社法635)ので、この手続終了後、払戻を受けることとなります。
合同会社の唯一の社員が死亡し、定款に「社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合においては、当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継するものとする。」との規定がない場合には、その合同会社は、最終的には、事業を継続することができません。その理由は次のとおりです。
まず「社員が欠けたこと」は合同会社の解散事由です(会社法641)。
会社法第641条(解散の事由) | |
持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。
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次に「社員が欠けたこと」を理由に解散した合同会社は、会社継続できません(会社法652Ⅱ)。
会社法第642条(持分会社の継続) | |
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最後に、相続人が(払戻請求権を現物出資するなどして)社員加入することで何とかできないかと思われるかもしれませんが、解散した合同会社は清算をしなければならないとされており(会社法644)、しかも「清算の目的の範囲内において」しか能力を有さない(会社法645)ため、新たな社員加入は認められないというのが通説です。
会社法第644条(清算の開始原因) | |
持分会社は、次に掲げる場合には、この章の定めるところにより、清算をしなければならない。
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会社法第645条(清算持分会社の能力) | |
前条の規定により清算をする持分会社(以下「清算持分会社」という。)は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす。 |
社員が欠けたことを理由に解散した合同会社の場合には、利害関係人の申立により裁判所が清算人になる者を選任します(会社法647Ⅲ)。
以下3冊を参照しました。