代表取締役住所の非表示措置の是非


令和6(2024)年10月1日、会社登記事項のうち代表取締役、代表執行者、代表清算人(以下「代表取締役等」といいます。)の住所の一部を非表示にすることができるようになります(商業登記規則の改正です。)。

X(旧・Twitter)などでは、起業家からは歓迎する声が多いものの、司法書士、弁護士など士業からは会社代表者を特定できなくなるなどと反対の声も多い模様です。

このコラムでは問題点や手続きをざっと説明したうえ、現時点の私見を述べたいと思います。

もくじ
  1. 概要
    1. 現在の登記事項
    2. 背景
    3. 施行時期
    4. 対象となる会社・法人
  2. 非表示措置のデメリット
    1. 日常取引における不都合
    2. 融資を受ける場合における不都合
    3. 不動産取引等の不都合
    4. 会社登記を申請するうえでの不都合
    5. その他の不都合
  3. 犯罪による移転収益の防止に関する法律との関係
  4. 非表示にする方法
  5. 非表示後の登記情報(イメージ)
  6. 非表示措置の終了
    1. 登記官による調査
    2. 非表示措置が終了されることとなる者の同意書等は不要。
    3. 第三者からの情報提供を契機とする非表示措置の終了
  7. 第三者が非表示の代表取締役住所を確認する方法
  8. 非表示措置実施後の会社登記の注意点
  9. よくある誤解
  10. 佐藤大輔の私見(貴社はどうすべきか?)
  11. 参考資料

〔凡例〕このコラムでは、以下のとおり略記します。

  • 規31の3Ⅰ①:商業登記規則第31条の3第1項第1号
  • 会:会社法
  • パブコメ:「商号登記規則等の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について/法務省民事局商事課/令和6年4月16日(いわゆる「パブリックコメント」)

概要


  • すべての会社の代表取締役等の住所が、自動的に非表示になる訳ではなく「非表示申出」が必要です。
  • 単に「非表示申出」をすれば良いというわけではなく、担保措置(それなりの手間)が必要です。
  • 「非表示申出」は、一定の登記申請と同時に行う必要があります。

現在の登記事項

現在、株式会社の役員について登記されている情報は、次のとおりです。

  • 取締役、執行役、監査役及び清算人については氏名のみ(会911Ⅲ⑬、㉓ロ、⑰ロ、928Ⅰ①)
  • 代表取締役、代表執行役、代表清算人については氏名と住所(会911Ⅲ⑭、同㉓ハ、928Ⅰ②)

そして、これらの登記事項は、誰でも【1】、閲覧することができます。

法務局に行き「登記事項証明書」を取得する方法【2】や、インターネット経由で「登記情報提供サービス」【3】を取得する方法があります。 


【1】「誰でも」というのは、言葉どおりで、登記されている事項を確認するために「正当事由」や「利害関係」を証明する必要もありません。

【2】正確な商号と本店が分かっていれば、全国の会社の登記事項を、全国どこの法務局でも取得することが可能です。登記事項を取得するために必要な申請書も法務局にあります。

【3】登記情報提供サービスは、法務局が保有する最新の登記情報をインターネットを通じてパソコン等の画面上で確認できる有料サービスです。最初に利用登録が必要ですが、一度登録してしまえば法務局に行かずに確認できるので便利です。詳細は、登記情報提供サービスをご確認ください。

背景

代表取締役等の住所が、商業登記簿に公示されていることは重要なことです。

もっとも悪意のある第三者が、正当な理由もないのに、代表者の住所にアクセスすることができるのも問題です。さらに登記情報はオンラインで公開されている(上記の登記情報提供サービス)ため誰でも容易にアクセスできます。これによって、ストーカー被害に遭ったり、無意味にSNSに晒されたりするという被害を聞きます。

本改正は、代表取締役等の住所の役割と代表取締役のプライバシーの保護のバランスを図ったものです。

施行時期

公布:令和6(2024)年4月16日、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号)

施行:令和6(2024)年10月1日(火)

対象となる会社・法人

非表示措置を「選択できる法人」は次のとおり

  • 株式会社の「代表取締役」
  • 株式会社のうち指名委員会等設置会社の「代表執行役」
  • 株式会社のうち解散手続中の会社の「代表清算人」
  • 特例有限会社の「取締役」「監査役」「清算人」(パブコメ31参照。通達に期待)

 

非表示措置を「選択できない法人」は次のとおり

  • 合同会社の「代表社員」(商業登記規則31の3に記載なし。)
  • 一般社団法人(一般社団法人等登記規則3で商業登記規則31の3を準用せず。)
  • 各種法人等登記規則が適用される法人(司法書士法人、弁護士法人ほか士業法人、医療法人、学校法人、管理組合法人、社会福祉法人、NPO法人、農業協同組合など。各種法人登記規則5で商業登記規則31の3を準用せず。)
  • 特定目的会社(特定目的会社登記規則3で商業登記規則31の3を準用せず。)
  • 投資事業有限責任組合、有限責任事業組合(投資事業有限責任組合契約及び有限責任事業組合契約登記規則8で商業登記規則31の3を準用せず。)
  • 投資法人(投資法人登記規則3で商業登記規則31の3を準用せず。)
  • 限定責任信託(限定責任信託登記規則8で商業登記規則31の3を準用せず。)

非表示措置のデメリット


非表示措置を採用した場合には、採用した会社自身にも多数のデメリットが生じます。

その点を指摘したパブコメへの回答で、法務省は非表示措置のデメリットを「法務省ホームページ等において周知」する(パブコメ24)とし、次のようなデメリットを伝えています。

 ※ 注意 ※  
  • 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。
    そのため、代表取締役等住所非表示措置の申出をする前に、このような影響があり得ることについて、慎重かつ十分な御検討をお願いいたします。
  • 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法(平成17年法律第86号)に規定する登記義務が免除されるわけではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があります。

以下、デメリットについて、一つずつ説明します。

1.日常取引における不都合

  • 会社の登記は、目に見えない「会社」と実在する「代表取締役個人」とを①代表取締役の氏名と②代表取締役の住所という2つの情報で紐付けています。同姓同名の人は多く存在しても、同姓同名の人が同じ住所に存在していることは、まず考えられないためです。そこで、ある個人の本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)と、会社登記に記載された①氏名と②住所が一致すれば、「ある個人」が「当該会社の代表取締役」であると証明できることになるのです。
    一方、非表示措置を採用した会社は、会社印鑑証明書を登記事項証明書とセットで提出することで、登記事項証明書を補おうとすることが考えられます。しかし、会社印鑑証明書には代表取締役の生年月日の記載はありますが、住所の記載はありません。したがって、非表示措置を施された会社が、登記事項証明書と会社印鑑証明書を提出することで、代表取締役住所が全部記載された登記事項証明書の代替となるか否かは、取引相手次第ということになります。
  • この点、法務省も(非表示措置を採用するのは)「登記事項証明書等に行政区画以外の代表取締役等の住所が記載されないことで、当該会社の取引に支障のない場合に申し出ることを想定している」としています(パブコメ35)。

2.融資を受ける場合における不都合

  • 金融機関には「犯罪による収益の移転防止に関する法律」によって厳しい取引時確認義務が設けられています。
  • 非表示措置を採用した会社に対する取引時確認義務が緩和されるか、代替的な確認書類が必要となるかは、現時点では不明です。

3.不動産取引における不都合

  • 不動産取引をつかさどる司法書士には「犯罪による収益の移転防止に関する法律」によって厳しい取引時確認義務が設けられています。
  • 非表示措置を採用した会社の場合には、追加で確認書類が必要となると思われます。例えば、融資を利用しない買主の場合には、通常印鑑証明書は不要ですが、非表示措置を採用した会社の場合には提出を求めることになろうかと思います。また、他の書類も提出を求めることがあり得ます。

4.会社登記申請における不都合

  • 色々と面倒になります。下の「非表示実施後の会社登記の注意点」で詳しく説明しています。

5.その他の不都合

  • 「今回の改正について、財務省など関係各所の了解をとっているものなのか」という意見に対して「今回の改正案は、法務省において検討し、作成したものです」との回答(パブコメ23)がなされていることからも、財務省など関係各所の了解などをとっていないことが明らかです。
  • また「代表取締役住所非表示措置を講じることにより、取引等に支障が生じることも考えられ、当該措置を講じるか否かについては会社自身によって判断することが相当(パブコメ45)」としています。
    その他の不都合、不測の不利益が生じることもあり得るかもしれないけれど、法務省としては「会社の自己責任で決めてくれ」ということです。

犯罪による移転収益の防止に関する法律との関係


  • 「今回の改正について、財務省など関係各所の了解をとっているものなのか」という意見に対して「今回の改正案は、法務省において検討し、作成したものです」との回答(パブコメ23)がなされていることからも、財務省など関係各所の了解などをとっていないことが明らかです。
  • 追って、財務省など関係各所も通達等を発出すると思われますので、追記していきます。

非表示にする方法


登記申請と同時に申し出が必要

住所非表示措置を単体で申し出することはできず、下記の登記とともに非表示申出を行う必要があります(規31の3Ⅰ、パブコメ25)。

  • 株式会社設立の登記
  • 本店を他の登記所の管轄区域内に移転した場合の新所在地における登記
  • 代表取締役・代表執行役・代表清算人の就任の登記
  • 代表取締役・代表執行役・代表清算人の住所移転の登記

上記のような登記事由が発生しない限り、ずっと表示されたままになります。例えば、役員任期を10年としている会社が、役員就任登記した直後の場合、役員が引っ越さない限り、当分の間この申出はできないことになります。

上記のような登記を資格者代理人(司法書士等)が代理して行う場合には、当該資格者代理人が非表示申出を代理して行うことが可能です。非表示措置の終了申出も同様です(パブコメ34)。

非表示申出の費用

DV被害者である代表取締役の住所非表示措置申出の費用が、無料である(令和4年8月25日民商第411号通達)ことから、今改正の非表示措置も無料で実施されるものと予想しています(パブコメ4参照)。

所定の書面を添付すること

下記区分に応じた添付書類が必要です(規則31の3Ⅰ)。

上場会社である株式会社

上場会社以外の株式会社
  • 株式会社の株式が上場されていることを認めるに足りる書面【1】

以下⑴から⑶までの書類すべて

  • ⑴ 株式会社が受取人として記載された書面がその本店の所在場所に宛てて配達証明郵便により送付されたことを証する書面等(規31の3Ⅰ①イ)【1】
  • ⑵ 代表取締役等の氏名及び住所が記載されている市町村長等による証明書(例:住民票の写しなど)(規31の3Ⅰ①ロ)
  • ⑶ 株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面(例:資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面【4】など)(規31の3Ⅰ①ハ)【1】【2】【3】

【1】既に代表取締役等住所非表示措置が講じられている場合は、不要です(規31の3Ⅰ②③)。

【2】株式会社が一定期間内に実質的支配者リストの保管の申出をしている場合は、不要ですが、その旨を登記の申請書に記載する必要があります(規31の3Ⅰ①ハ)

【3】実質的支配者リストの添付提出を求める趣旨は、消費者被害対策として、会社の実質的支配者が本来の行為者である場合において、被害者等がその責任を追及することを可能とするためです(パブコメ15)。

【4】資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面の記載例については、通達において明らかにされます(パブコメ28)。

登記官による調査

登記官は、非表示措置を講じるために必要であると認めるときは、株式会社の代表取締役等に対し、出頭を求め、質問をし、又は文書の提示その他必要な情報の提供を求めることができます(規31の3Ⅵ)。

非表示申出又はその添付書類に不備があった場合

補正の機会を付与することを想定しています(パブコメ30)。

登記官による措置

登記官は、非表示措置の申出が適当と認めるときは、非表示措置を講じます(規則31の3Ⅱ)。

住所非表示措置申出書類つづり込み帳

「住所非表示措置申出書類つづり込み帳」に申出書とその添付書類をつづり込みます(規34)。

非表示後の登記情報(イメージ)


法務省HPで公開されているイメージは下記のとおりです。

現行の登記情報

役員に関する事項 取締役 甲 野 太 郎
 

東京都大田区東蒲田二丁目3番1号

代表取締役  甲 野 太 郎

 

監査役 乙 野 次 郎

非表示措置後の登記情報

役員に関する事項 取締役 甲 野 太 郎
 

東京都大田区

代表取締役  甲 野 太 郎

 

監査役 乙 野 次 郎

  • 代表取締役等の住所の全部が非表示となるわけではありません。
  • 代表取締役等の住所は最小行政区画【1】までしか記載されません。
  • 代表取締役等住所非表示措置の対象となる住所は、申出と併せて申請される登記によって記録される住所に限られます。
  • 同一氏名の代表取締役2名がいる場合において、最小行政区画以下を非表示にすることによって区別がつかなくなるときには、生年月日を記載する(パブコメ40)。

【1】市区町村まで(東京都、政令指定都市は区まで)記載されます。「行政区画を表示することにより、会社の事務所がないときの会社の普通〔裁判〕籍が明らかになるとともに、代表取締役等の特定に資するものと考え」たためです(パブコメ42。民事訴訟法4Ⅳ参照。〔〕はコラム筆者が付記。)。

 

下記は、法令パブコメを読み込んだ後に、私が作成したイメージです。

重任登記のみ

重任登記+非表示申出

甲野太郎さんの重任前の住所が消えないことがポイントです。

非表示措置の終了


次の場合には、非表示措置が終了します(規則31の3Ⅳ)。

  1. 非表示措置が講じた株式会社から当該措置を希望しない旨の申出があったとき【1】【2】
  2. 当該株式会社が本店所在場所に実在すると認められないとき【3】
  3. 上場会社であった株式会社が上場会社でなくなったと認められるとき(ただし、株式会社の登記記録が閉鎖された場合を除く)【4】
  4. 閉鎖された登記記録について復活すべき事由があると認められるとき(ただし、株式会社から当該事由がある旨の申出があった場合を除く)【5】

【1】非表示措置終了の申出は、登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができます。

【2】非表示措置を希望しない申出書の注意事項(規31の3Ⅴ)

  • 非表示措置を希望しない代表取締役等の氏名・住所を記載する。
  • 株式会社の届出印を押印する。

【3】「実在すると認められないとき」の具体的判断基準は、通達によって明らかにされます(パブコメ38)。

【4】上場会社でなくなった場合、金融商品取引所を通じた会社情報の公開が担保されないことから、終了の要件としています(パブコメ43)。

【5】実務では清算結了後に財産が発見された等の理由から清算手続をやり直さなければならないこともあり、非表示措置会社が解散清算する場合に、非表示措置が講じられたままであると清算手続のやり直しに支障をきたしかねないという指摘を踏まえて、追加された条項とのことです(パブコメ17)。

登記官による調査

  • 登記官は、非表示措置を終了するために必要であると認めるときは、株式会社の代表取締役等に対し、出頭を求め、質問をし、又は文書の提示その他必要な情報の提供を求めることができます(規31の3Ⅵ)。
  • 登記官からの連絡方法について「携帯番号等の連絡先に直接連絡するのが合理的であり、これらの連絡を試みることによっても連絡が取れない場合には、速やかに非表示措置を終了させるべきである」との意見については、法務省は、消極的(パブコメ37参照)。
  • 消費者被害対策が十分図られるような運用に努めてまいります(パブコメ39)。

非表示措置が終了されることとなる者の同意書等は不要。

  • 代表者以外の者で非表示措置がされている者がいる場合に、非表示措置終了について当該役員の同意を証する書面は不要です。非表示措置の申出主体が当該会社としているからです(パブコメ31)。

第三者からの情報提供を契機とする非表示措置の終了

  • 第三者からの情報提供を契機として登記官が代表取締役等住所非表示措置を終了することも想定されますが、詳細については通達において明らかにすることを予定しています(パブコメ32、39)。
  • 立証の程度や、審査期間についても詳細が知りたいところです。
  • 本制度は詐欺業者等に悪用される可能性があるため法令違反により処分を受けた株式会社などに対して処分後に非表示措置が取り消される方策は、今後の参考とします(パブコメ33)。現時点ではそのような方策は予定していないとのことです。
  • 登記官の調査結果に基づき、株式会社が本店所在場所に実在すると認められないときには、その旨を登記情報のうち「本店」欄にも反映させるべきとの意見には、今後の参考とします(パブコメ41)。現時点ではそのような方策は予定していないとのことです。

第三者が非表示の代表取締役住所を確認する方法


「閲覧しようとする部分」について「利害関係を明らかにして」登記簿の附属書類の閲覧をすることによって確認できます(商業登記規則21)。 

商業登記規則第21条(附属書類の閲覧)
 
  1. 登記簿の附属書類の閲覧の申請書には、請求の目的として、閲覧しようとする部分を記載しなければならない。
  2. 前項の申請書には、第18条第2項各号(第3号を除く。)に掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載しなければならない。
    一 申請人の住所
    二 代理人によつて請求するときは、代理人の住所
    三 前項の閲覧しようとする部分について利害関係を明らかにする事由
  3. 第一項の申請書には、次に掲げる書面を添付しなければならない。
    一 申請人が法人であるときは、当該法人(第1項の申請書に会社法人等番号を記載したものを除く。)の代表者の資格を証する書面
    二 前項第三号の利害関係を証する書面
商業登記規則第32条(閲覧)
 
  1. 登記簿の附属書類の閲覧は、登記官の面前でさせなければならない。
  2. 法第11条の2の法務省令で定める方法は、当該電磁的記録に記録された情報の内容を用紙に出力して表示する方法とする。

「住所非表示措置申出書類つづり込み帳」は、利害関係人による閲覧対象となる「登記簿の附属書類(規則21)」といえるのか?

代表取締役等住所非表示措置の申出に当たって添付されて実質的支配者を証する書面等については、当該書面を閲覧することについて法律上の利害関係を有する者は、利害関係を有する部分を登記簿の附属書類として閲覧することが可能です(パブコメ15、26)。

非表示実施後の会社登記の注意点


代表取締役等の住所が変わった場合

代表取締役の住所変更登記が必要です。

必要に応じて、非表示措置を再度申し出る必要があります(規則31の3Ⅲ)。

すでに非表示措置が講じられている代表取締役等の住所と同一のものを登記するとき(規則31の3Ⅲ)

非表示措置は継続されるため、非表示措置の申し出は不要。

すでに非表示措置が講じられている代表取締役等の住所と異なる住所を登記するときは、必要に応じて、非表示措置を再度申し出が必要となる(規則31の3Ⅲ)

非表示措置は継続されないため、必要に応じて、非表示措置の申し出が必要。

同姓同名の代表取締役等がいる場合において非表示措置によって、区別が付かなくなるときには、生年月日の登記も必要。

パブコメ40を参照。

よくある誤解


非表示措置の代表取締役等の住所は、銀行業や法律職に限って公開されるものではありません。

会社に対し、法律上の利害関係を有する者は、登記簿の附属書類の利害関係を有する部分を閲覧することによって代取住所の確認が可能となるものです(規則21、パブコメ8、15、26)。

業種や職種によって開示されるわけではありませんので、ご注意ください(パブコメ10,11,13)。

非表示措置を採用した会社自身が、自社の登記事項証明書等の交付請求をした場合においても、代表取締役住所が表示されるわけではありません(パブコメ16)

登記官が非表示申出を適当と認めない(規則31の3Ⅰ)ときとは?

必要な書面が添付されるなど、規定された要件を充たしているかの観点から判断することを想定しており、登記官による恣意的な運用は想定されません(パブコメ14)。

退任した過去の代表取締役の住所も非表示とされるのか?

代表取締役等住所非表示措置の対象は、併せて申請される登記において記録される住所に限られます(パブコメ8)とあり、商業登記規則31の3Ⅳ括弧書きからも、非表示にはなりません。

(パブコメ12、36)。

既に抹消事項となっている代表取締役の(過去の)住所も非表示とされるのか?

代表取締役等住所非表示措置の対象は、併せて申請される登記において記録される住所に限られます(パブコメ8)とあり、商業登記規則31の3Ⅳ括弧書きからも、非表示にはなりません。

(パブコメ36)

非表示措置を実施した場合でも、会社印鑑証明書を提出すれば補完されるのではないか?

  • 会社の登記は、目に見えない「会社」と実在する「代表取締役個人」とを①代表取締役の氏名と②代表取締役の住所という2つの情報で紐付けています。同姓同名の人は多く存在しても、同姓同名の人が同じ住所に存在していることは、まず考えられないためです。そこで、ある個人の本人確認書類(マイナンバーカードや運転免許証など)と、会社登記に記載された①氏名と②住所が一致すれば、「ある個人」が「当該会社の代表取締役」であると証明できることになるのです。
    一方、非表示措置を採用した会社は、会社印鑑証明書を登記事項証明書とセットで提出することで、登記事項証明書を補おうとすることが考えられます。しかし、会社印鑑証明書には代表取締役の生年月日の記載はありますが、住所の記載はありません。したがって、非表示措置を施された会社が、登記事項証明書と会社印鑑証明書を提出することで、代表取締役住所が全部記載された登記事項証明書の代替となるか否かは、取引相手次第ということになります。
  • この点、法務省も(非表示措置を採用するのは)「登記事項証明書等に行政区画以外の代表取締役等の住所が記載されないことで、当該会社の取引に支障のない場合に申し出ることを想定している」としています(パブコメ35)。
  • なお、会社の印鑑証明書に代表取締役住所も表示すべきではないかとの意見に対し、仮に実現する場合には、大規模なシステム改修が想定されますが、今後の参考とさせていただきます(パブコメ9)。

佐藤大輔の私見(貴社はどうすべきか?)


  • 私自身が経営する株式会社では非表示措置を採用しません。また、私の「顧問先企業」、「関与先企業」が、非表示措置の申出を依頼してきた場合には、当面は、全力で止めると思います。

  • 常日頃、銀行融資と本人確認の対象となる「不動産会社」は、非表示にすべきではないと思います。
  • 代表取締役住所を非表示にすると、胡散臭い会社だと思われる可能性もあります。実際、胡散臭い会社は代表取締役住所を非表示にしようとするでしょう。
  • 予想外のデメリットであって、誰も想像しなかったレベルのものもあるかもしれません。
  • それ以外の会社には、意外とデメリットはないかもしれません(わかりません。)。
  • 貴社自身が、実験的に採用して、制度の善し悪しを判断するというなら、お止めしません。

結局、実際に運用が始まってみないと、是非は分かりません。SNS等で非表示にした会社の阿鼻叫喚を見ることになるのか、ならないのか。令和6年10月1日の施行後、このコラムを追記していきたいと思います。

参考資料