会社登記簿に登記された事項が無効だから、抹消して欲しいというご依頼がたまにあります。
これは可能なのでしょうか?
不動産登記では抹消登記が良くあります(抵当権抹消など)が、会社登記では簡単に抹消することはできません。
分類して考える必要があります。
もくじ | |
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会社法等が実施すべきと定めた事項を実施しないまま登記がなされた場合であっても、必ずしも無効とは限りません。
そして、無効でない場合には、抹消登記をすることができません。
したがって、まず、無効か有効かを判断する必要がございます。
最高裁第二小法廷昭和36年3月31日判決(昭32〔オ〕79号、新株発行無効請求事件、民集15.3.645) | |
要旨 ◆有効な取締役会の決議を経ない新株発行の効力(積極) ◆株式会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、これにつき有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発行は有効である。 (要旨はWestlawJapan) |
まずは条文を見てみましょう。
商業登記法第134条 (抹消の申請) | |
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商業登記法第24条 (申請の却下) | |
(柱書略)
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商業登記法第21条 (受付) | |
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第24条第1号、第2号、第3号は、見ての通りですね。
第5号が少し分かりにくいですが、機会があれば例を追加します。
さて問題は「登記された事項につき無効の原因があること。ただし、訴えをもつてのみその無効を主張することができる場合を除く。」です。
まず、ただし書きの「訴えをもってのみその無効を主張することができる場合」には抹消登記を申請できないとなっていますので「訴えをもってのみ無効を主張することができる場合」は何かを見ていきましょう。
会社法第828条が「訴えをもってのみ主張することができる無効」を13個列挙しています。
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同条は、無効を主張できる期間についても定めています(意外と短い)ので、要注意です。
また、会社法第846条の2は「株式等売渡請求に係る売渡株式等の全部の取得の無効」も訴えをもってのみ無効を主張できるとしていますが、登記事項には関係がないので、ここでは説明を割愛します。
要するに、登記事項に無効があったとしても、上記13個に該当すれば、訴訟をしないと抹消登記できないことになります。そして、訴訟の認容判決があった場合には、いずれの抹消登記も裁判所書記官が登記所に嘱託して行うことになります(会社法937Ⅰ①、同Ⅲ)ので、当事者は抹消登記申請をする必要がありません。
例えば、役員選任が無効である場合には、総会決議が無かった、無効であった場合などが考えられます。そして、株主総会決議不存在確認や無効確認は、訴えをもってのみ無効を主張できる場合に含まれていません。
そうすると次は「無効であることを証する書面」を添付できるか否かということになりそうです。
商業登記法第134条 (抹消の申請) | |
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商業登記法第132条 (更正) | |
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申請書または登記簿の記載そのものによって登記に無効原因のあることが判明する場合には、これを証する書面を添付する必要はなく、この場合には、抹消登記の申請書にその旨を記載しなければなりません(商業登記規則100Ⅲ→同98)。
無効原因証書の作成者(作成者のほかに署名者又は記名押印者がいるときは、これらの者を含む。)が、当該申請書に記載された抹消すべき登記事項に係る登記の申請書に添付された書面の作成者と異なる場合(作成者の一部が異なるときを含む。)には、裁判書の謄本その他の公務員が職務上作成した書面が添付されている場合を除き、当該登記の抹消の申請は受理することができない。また、無効原因証書の作成者の名義と抹消すべき登記に係る添付書面の作成者の名義とが同一である場合であっても、これらの書面に押印された印鑑の全部又は一部が異なるときは、当該無効原因証書に作成者が登記所に提出している印鑑が押印されているとき又は当該無効原因証書に押印された印鑑につき市区町村長の作成した証明書が添付されているときを除き、当該登記の抹消の申請は受理することができない
抹消対象登記の添付書類(作成者と押印者) | 無効原因証明情報の作成者 |
株主総会議事録(代表取締役A、取B、取C) |
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就任承諾書(取締役C) |
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【1】BやCが「抹消対象登記の添付書類に押印した印鑑」と同じ印鑑で、無効原因証明情報に押印できないときには、無効原因証明情報には実印を押印し、市区町村長発行の印鑑証明書を添付します。
以下もご参照ください。
以上、青山琢麿(法務省民事局総務課企画第二係長(前法務省民事局商事課商業法人登記第一係長))・服部直樹(法務省大臣官房秘書課政策立案連絡調整政策評価係長(前法務省民事局商事課電子認証係長))/令和3年改正商業登記規則等に基づく商業・法人登記事務の取扱いについて/登記研究882/23頁/R3を参照
法務省のサイトに具体的なひな形がありましたので、掲載します。
ただし(届出印)との記載は、筆者が追記しました。
清算結了登記をしたあとに、会社名義の財産が出てきた場合において、当該財産を処分換金しようとするときには、清算結了登記の抹消登記が必要です。清算結了登記に無効原因があることは当該会社名義のまま残された財産の明細(例えば、不動産の場合には登記事項証明書)がそれに当たりますが、当該財産の明細には、法人印は押印されていないので、上申書が必要になります。
上申書
静岡地方法務局○○支局 御中
当法人は、令和○年○月○日付けで清算結了登記を申請し、登記記録が閉鎖されました。しかし、当法人名義の不動産があることが判明し、残余財産を処分するために清算結了登記を抹消し、登記記録を回復したく上申します。 ※清算結了登記を抹消する具体的な理由を記載してください
令和○年○月○日
申請人 (本店)静岡県○○市○○町○番地の○ (商号)株式会社○○○○ 代表清算人 (氏名)○○○○ (届出印) |
こちらも法務省のサイトより転載しました。
株式会社抹消登記申請書 | |
フリガナ | ○○○○ |
1.商号 | 株式会社○○○○ |
1.本店 | 静岡県○○市○○町○番地の○ |
1.登記の事由 | 登記事項不存在による抹消 |
1.登記すべき事項 | 令和○年○月○日【1】登記した清算結了の登記の抹消 |
1.登録免許税 | 金6,000円 |
1.添付書類 |
残余財産を証する書面【2】 委任状(代理人が申請する場合) |
【1】清算結了の登記をした日を記入します。
【2】上申書及び財産が残っていることが分かる書面(例:不動産の登記事項証明書、預金通帳の写し及び保険証書の写し等(写しは原本証明不要))
下記は、甲野太郎さんの取締役就任登記に何等かの無効事由があり、申請により抹消した場合の登記情報(登記簿)記載例です。
役員に関する事項
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取締役 甲 野 太 郎
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平成○年○月○日就任 平成○年○月○日登記 |
就任の登記 平成□年□月□日抹消 |
*下線のあるものは抹消事項であることを示す。