会社本店ではなく、社長のご自宅に突然届きます。特別送達ではなく、普通郵便で届きます。
しかも、文書には「会社法違反事件」という恐ろしいタイトルがついています。
通常詐欺ではありませんが、詐欺かもと思った場合には電話で確認してください【1】。
ここでは、本物の「会社法違反事件」として過料に処せられた場合の対処方法をご説明します。
まずは「登記懈怠(けたい)なのか」「選任懈怠なのか」を区別して対応する必要があります【2】。
次に「裁判所も間違えることがある【3】ので、間違っている場合には異議を述べることができる」がこの期間は『決定を受け取ってから1週間という極めて短い期間である』ことを念頭に対応する必要があります。
【1】これまで「会社法違反事件」を利用した詐欺を聴いたことはありません。しかし、詐欺は年々巧妙になっています。したがって、いつ詐欺に利用されるか分かりません。
よって、送付された書類に書かれた電話番号ではなく、当メディアのリンク集から管轄裁判所の電話番号を検索して、電話してみてください。
【2】過料相場を確認するために、過料について記載された社長ブログなども拝見しましたが、これを区別できている方はとても少なく感じました。対応方法が異なりますので、注意が必要です。
【3】裁判所も間違えることがあるのは、裁判所が貴社の定款を保管していないからです。裁判所のよくある間違いは、10年任期の会社であるにもかかわらず1年任期などと計算されることによって10万円などと過大な過料が課されるケースです。10年任期の会社でも、1年任期として計算され過料額が決められている例が多いと思います。適切な異議を出せば、半分以下に減額できるケースもあろうかと思いますので、司法書士にご相談ください。
会社や法人は登記すべき事項が発生した場合、2週間以内に登記する義務があります(会社法911、同915)
そして、この義務を怠ったときのペナルティは、会社法976条に規定されています。
主なものは次の二つです。
登記懈怠とは、役員選任などの登記すべき事項が発生したのに、2週間以内に登記しない場合です。
具体的に言うと・・・
選任懈怠とは、役員を選任するべき時期(役員が退任する時期)を過ぎても新役員が選任されていないので、役員がいない状態です。
具体的に言うと・・・
正式手続による過料決定 (非訟事件手続法120.121) |
過料決定前に被審人の意見を聴く 告知から2週間は、即時抗告ができる(非訟120Ⅲ→非訟67Ⅰ) |
略式手続による過料決定 (非訟事件手続法122) |
過料決定前に被審人の意見を聴かない 告知から1週間は、異議申立ができる(非訟122Ⅱ) ●会社法違反はほとんど全部がこの略式手続です |
非訟事件の詳細については「非訟事件とは何か?!」をご参照ください。
過料の額については、最高額が100万円と規定されている(会社法976条)ほか、運用の基準などは公開されていません。当職が担当した案件のほか同業司法書士のページなどから抜粋して、統計化を試みました。
役員変更登記懈怠の相場は2~3万円ですね。
検出できた事例は1件だけですが商号という重要事項の登記懈怠は高い目の金額が出ています。
株式会社に限らず、有限会社・一般社団法人・農事組合法人も過料に処されています。
役員総数による過料額の増減はデータ不足で検討出来ませんでしたが、あまり関係なさそうです。
代表取締役数が多いと、代表取締役一人当りの過料額が減少するか否かは、データ不足で検討できませんでした。
種類 | 懈怠期間 | 役員総数 | うち代取 | 過料額 | 法務局 | 裁判所 |
過料が通知された時期 (括弧内は過料決定日) |
登記懈怠 |
7か月 |
9人 | 1人 | 1万円 | 神戸 | 伊丹 |
登記申請から3か月後 (R6.6決定) |
登記懈怠 |
11か月 |
1人 | 1人 | 3千円 | 神戸 | 尼崎 |
医療法人代表者の就任登記懈怠 (H27決定)【1】 |
登記懈怠 |
1年 |
不詳 | 不詳 | 1万円 | 不詳 | 不詳 |
代表取締役の住所変更登記懈怠 (R4.9決定) |
登記懈怠 |
1年1月 |
不詳 | 不詳 | 4万円 | 不詳 | 大阪 |
登記申請から6か月後 (H24.6決定) ※商号変更の登記懈怠 |
選任懈怠 登記懈怠 |
1年 2か月 |
不詳 | 不詳 | 2万円 | 神戸 | 神戸 |
登記申請から2か月後 (H29.4決定) ※選任懈怠と登記懈怠の両方 |
登記懈怠 | 1年半 | 1名 | 1名 | 2万円 | 神戸 | 明石 |
登記申請から2か月後 (H29.11決定) ※一般社団法人 |
登記懈怠 | 1年8月 | 不詳 | 不詳 | 2万円 | 不詳 | 不詳 |
登記申請から3か月後 (H20.2決定) |
登記懈怠 | 1年9月 | 不詳 | 不詳 | 3万円 | 不詳 | 八王子 |
登記申請から4か月後 (H18.9決定) |
登記懈怠 | 2年2月 | 不詳 | 不詳 | 3万円 | 不詳 | 相模原 |
登記申請から3か月後 (R2.2決定) |
登記懈怠 | 2年半 | 不詳 | 不詳 |
3万円 |
不詳 | 東京 |
登記申請から4か月後 (H28.11決定) |
登記懈怠 | 2年半 | 不詳 | 不詳 | 3万円 | 神戸 | 神戸 |
(H25決定) ※有限会社 |
登記懈怠 | 2年半 | 不詳 | 不詳 | 3万円 | 不詳 | 前橋 |
登記申請から2か月後 (H21決定) |
登記懈怠 登記懈怠 |
4年半 1年半 |
不詳 | 不詳 | 3万円 | 青森 | 青森 |
登記申請から2か月後 (H31.1決定) ※農事組合法人 ※2件の登記懈怠 |
【1】過料の額が、相場よりも安いのは、医療法に定める過料上限が20万円と会社よりも安いためかもしれません(医療法93、組合等登記令1→同3)。医療法人の過料については、記事「医療法違反事件ー医療法人の義務違反(選任懈怠や登記懈怠)についての過料」を参照ください。
役員選任を1年以上忘れれば2~4万円、10年以上忘れれば10万円という感じです。
役員総数による過料額の増減はデータ不足で検討出来ませんでしたが、あまり関係なさそうです。
代表取締役数が多いと、代表取締役一人当りの過料額が減少するか否かは、データ不足で検討できませんでした。
種類 | 懈怠期間 | 役員総数 | うち代取 | 過料額 | 法務局 | 裁判所 |
過料が通知された時期 (括弧内は過料決定日) |
選任懈怠 登記懈怠 |
1年/ 2か月 |
不詳 | 不詳 | 2万円 | 神戸 | 神戸 |
登記申請から2か月後 (H29.4決定) ※選任懈怠と登記懈怠の両方 |
選任懈怠 |
1年3月 | 不詳 | 不詳 | 3万円 | 不詳 | 東京 |
(R1.12決定) |
選任懈怠 | 1年半 | 不詳 | 不詳 | 2万円 | 不詳 | 札幌 | (R1.11決定) |
選任懈怠 | 1年半 | 不詳 | 不詳 | 4万円 | 京都 | 京都 |
選任懈怠登記申請から2か月後 (H24.7決定) |
選任懈怠 | 2年半 | 不詳 | 不詳 | 6万円 | 和歌山 | 和歌山 |
選任懈怠登記申請から4か月後 (H22決定) |
選任懈怠 | 3年 | 3名 | 1名 | 3万円 | 神戸 | 神戸 |
(R2決定) |
選任懈怠 | 3年2か月 | 1名 | 1名 | 3万円 | 神戸 | 神戸 |
当初10万円(R4.6決定) 異議申立により3万円(R4.10) |
選任懈怠 | 4年 | 不詳 | 不詳 |
4万円 |
不詳 | 尼崎 |
選任懈怠登記申請から4か月後 (H21決定) |
選任懈怠 | 10年5月 | 不詳 | 不詳 | 11万円 | 不詳 | 松山 |
(R2決定) |
選任懈怠 | 10年9月 | 3名 | 1名 | 10万円 | 神戸 | 神戸 |
登記申請なく過料 (R2決定) |
選任懈怠 | 12年 | 不詳 | 不詳 | 10万円 | 横浜 | 川崎 |
登記申請から2か月半後 (R2.3決定) |
選任懈怠 | 12年 | 不詳 | 不詳 | 10万円 | 不詳 | 不詳 |
(H31決定) |
選任懈怠 | 13年 | 2名 | 1名 | 10万円 | 神戸 | 神戸 |
設立から13年半経過した時点 (R2.8決定) |
次のような場合には異議を申し立てることができます。
裁判所の決定であっても間違えていることはありますので、ご確認ください。
〇=異議として認められうる理由。×=異議として認められない理由。
〇 | 記載されている内容が事実と異なっている |
〇 | 退任されたとされる時期が間違っている(法務局・裁判所ともに貴社定款を保管していないためこの間違いが多いです。) |
〇 | 登記手続が遅れたことについて特別の理由がある |
〇 | 過料決定に理由が記載されていない(非訟事件手続法120Ⅰ) |
× | 手続しなければならないことを知らなかった |
× | うっかり手続を忘れていた |
× | 依頼していた司法書士等のミスで遅れてしまった |
ご紹介する「流れ」は、「みなし解散後の過料決定」に対して異議を述べる場合の流れです。
1週間という極短期間に異議を述べる必要があるため、迅速な対応が必要です。
司法書士であれば、時間を掛けて調べれば誰でもできる手続ですが、あまりに短期間であるため、実際に異議を申立てた経験のある司法書士にご依頼することを強くお勧めいたします。
通常は普通郵便で郵送されます。
過料決定額の半額をお預かりさせていただきます。
司法書士が異議申立書を作成します。
内容ご確認のうえ、押印ください。
司法書士が異議申立書を管轄裁判所に提出します。
提出期限が残っているかに応じて、郵送または持参で提出します。
異議申立から数日で裁判所が異議を認めるか否かを決定し通知します。
預り金から報酬・実費を控除して、ご返金いたします。
過料決定に記載された過料をお支払いください。
過料を支払っただけでは、登記の申請義務が免除されるわけではありませんので、必要な登記を申請します。
先に登記申請を完了させ、その登記申請受領書とともに異議を申立てた方が良い場合もあります。ご相談した司法書士にご確認ください。
業務内容 | 司法書士の報酬 | 実費 |
過料決定に対する異議申立書の作成・提出 |
減額された額の半額 (税別)【1】 (完全成功報酬制) |
管轄裁判所への交通費・郵送費 |
【1】完全成功報酬制
受け取った過料決定額が10万円で、異議の結果4万円に減額された場合には、差額6万円の半分+消費税を報酬としていただきます。