債権者保護手続(旧・債権者異議手続)を要する手続では、公告及び催告が必要とされています。
本コラムでは、この「催告」に焦点をあてて説明します。催告は到達が必要で、到達から債権者保護手続期間が開始するので、スケジュールは余裕をもって設計をしてくださいねというお話しです。
この記事は、司法書士ほか専門家向けの記事です。
もくじ | |
|
債権者保護手続に関する規定(会449条、789条、799条など)は、株主に対する通知(会126条)のような民法97条に対する例外規定になっていません。
したがって(意思表示に関する)原則通り「到達主義」が採用されています(下記文献同趣旨)。
【比較】会社法126条 |
|
|
官報公告と催告書で債権者保護手続を行うと、債権者の異議申述期間が二重になる場合があります。
すなわち①官報公告の掲載日を起算点とする申述期間と②催告書の到達日を基準とする申述期間の二つが存在することになります。
上記を解消する方法としては、下記の方法が考えられます。
|
【1】官報と催告書に定める異議申述期間は必ずしも一致する必要はない(神﨑満治郎他編著『商業・法人登記360問』テイハン/2018/314頁)。
【2】司法書士・電子広告調査株式会社代表取締役土井万二/最近の債権者保護手続の傾向と問題点『登記情報682号』金融財政事情研究会/2018/6頁
【3】 債権者保護手続の期間は1か月を下回ることができないとされているので、1か月を超える分には問題が無い(会社法449条ほか)。
【4】ダブル公告とは、「官報」と「定款規定の公告方法」の両方に債権者に対する公告を行う方法で、個別催告を省略することが可能です。
上の方法を比較すると次のとおりです。
メリット | デメリット | |
① |
|
|
② |
|
|
③ |
|
|
④ |
|
|
【1】各債権者に到達した時期から少なくとも1か月を要する。
【2】催告書に記載する申述期間を官報掲載から2か月後弱に設定すればよく、会社法上の期間も満たせるため。
【3】債権者保護手続が完了していない場合は、資本金の減少手続、合併は効力を生じない。また、合併等の場合は効力発生日より前に手続を完了させる必要がある(会449Ⅵ①、750Ⅵほか、江頭憲治郎著『株式会社法』有斐閣/2021/724頁、913頁)。
【4】「個別催告発送代行費用+郵送費 > 公告方法変更登記費用+日刊紙公告費用」という方程式が成立する場合にはじめてダブル公告の予算上のメリットが発生します。当グループの場合には、次のとおり債権者数220人以上のとき、はじめてダブル公告に予算上のメリットが発生します。
(個別催告の発送代行1,100円+特定記録郵送費164円)×債権者数X >
(公告方法の変更登記報酬約5万円+実費約4万円)+日刊紙公告(日刊工業新聞の場合は約19万円)
1,264円×債権者数X > 28万円
【5】下記の場合には、ダブル公告はできず、個別催告を行う必要があります。
上記スキームの中から、最も都合の良いものを選択いただければ幸いです。
いずれにしましても、公告・催告開始時期は、期日の2か月ほど前に設定しておくのが、専門家としては賢明だと思われます。
さらに公告と催告が完了していたとしても、会社法第810条(債権者の異議)が完了しないと、登記をすることができません。
会社法第922条(新設合併の登記) | |
|
会社法第924条(新設分割の登記) | |
|
会社法第810条の手続とは何かと言いますと、その第5項に「異議を述べた債権者に対する弁済・担保提供・信託」が定められています。第810条に定められている以上、これらも完了させなければ組織再編登記は申請できないということになってしまいます。
会社法第810条(債権者の異議) | |
|
本コラム執筆のため下記文献を参考にしました。
あなまち司法書士事務所在籍。
中央大学・法学部・法律学科(国際政治学ゼミ)卒業。
平成28年埼玉と東京の司法書士事務所に勤務。徹底的に不動産登記を学ぶ。
令和4年8月神戸へ転居と同時に「あなまち司法書士事務所」に入所
令和4年11月司法書士試験合格
令和5年2月司法書士登録(組織再編、スタートアップ資金調達を担当)
令和5年11月開業。同時に「あなたの街の司法書士事務所グループ」へ参画
特技:英語原典の推理小説を読むこと、独学で英検準1級を取得。
会社・法人に共通
株式会社の登記
登記以外の企業・事業者向けメニュー