労働者協同組合の運営と手続


もくじ
  1. 労働者協同組合の機関
    1. 必須機関(機関設計)
    2. 組合員総会
    3. 理事
    4. 理事会
    5. 監事
  2. 労働者協同組合の役員(代表理事)変更手続(登記・届出)
  3. 労働者協同組合の「パート・アルバイト雇用」
  4. 労働者協同組合の「出資一口の金額」の変更
  5. 労働者協同組合の「出資総口数」及び「払込済出資総額」の変更
  6. 「出資総口数」「払込済出資総額」に変更が生じる理由
  7. 「出資総口数」「払込済出資総額」に変更が生じた場合の登記時期
  8. 司法書士の報酬・費用
  9. 人気の関連ページ
  10. 参考文献

労働者協同組合の機関


必須機関(機関設計)

労働者協同組合の機関設計は、以下の三通りです。

  1. 総会+理事会+監事
    理事は組合員である必要があります(法32Ⅳ)が、監事はその必要はありません。
    なお、監事は組合の理事又は使用人にはなれません(法43)。
  2. 総会+理事会+組合員監査会(法54)
    組合員が20人を超えない場合に、定款の定めを設けることで監事の代わりに組合員による監査会を置く形式。組合員監査会は監査報告書を作成する義務を負う(法54Ⅲ)。
    小規模な組合で、監事のなり手が見つからない場合向け。
  3. 総会+総代総会(法71)+理事会+監事
    →組合員が200人を超える場合に、定款で別段の定めを設けることにより、総代会を設置することができる(=大規模組合向け)。

組合員総会

総会のルールは次のとおりです。

  • 組合員は、各一個の議決権及び役員又は総代の選挙権を有します(法11Ⅰ)。
  • 組合員は、定款で定めるところにより、書面又は代理人をもって、議決権又は選挙権を行うことができます(法11Ⅱ)。
  • 他の組合員でなければ、代理人となることができない(法11Ⅱ)。
  • 代理人は、五人以上の組合員を代理できません(法11Ⅴ)。
  • 代理人は、代理権を証する書面を組合に提出しなければなりません(法11Ⅵ)。

理事

  • 理事は、組合の職務執行を行います(法38Ⅰ)。株式会社の取締役のような地位です。
  • 理事は、3名以上必要で(法32Ⅱ)、定数の1/3超の欠員が生じたときは、3か月以内に補充が必要です(法32Ⅵ)。
  • 理事は、組合員でならなければなりません(法32Ⅳ)。
  • 次のものは理事となることができません(法35、施行規則8)
    1. 法人
    2. 精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
    3. この法律等の法令に違反し、刑に処せられてから2年を経過していない者等
    4. 暴力団の構成員等
  • 理事は、総会で選びますが、選ぶ方法が何種類かありますので、下表を参照ください。 
      適用されるルール

総会において「選挙」

(法32Ⅲ)

無記名投票の方法(法32Ⅶ)
  • 投票は、一人一票(法32Ⅷ)

指名推薦の方法(法32Ⅸ)

  • 出席者中に異議がないときは、指名推薦の方法によって行うことができる(法32Ⅸ)
  • 被指名人をもって当選人と定めるべきかどうかを総会に諮り、出席者の全員の同意があった者をもって当選人とする(32Ⅹ)。
  • 一の選挙をもって二人以上の理事又は監事を選挙する場合においては、被指名人を区分して前項の規定を適用してはならない(法32Ⅺ)。

総会において「選任」

(法32Ⅻ) 

 
  • 理事の任期は、2年以内において定款で定める期間です(法36Ⅰ)。
  • 設立時理事の任期は、1年以内において創立総会において定める期間です(法36Ⅲ)。
  • 定款によって、これらの規定の任期を任期中の最終の決算期に関する通常総会の終結の時まで伸長することができます(法36Ⅳ)。

理事会

理事会に関するルールは次のとおりです。

  • 労働者協同組合は、全ての理事で組織する理事会を必ず置かなければならず、理事会は労働者協同組合の業務執行を決定し(法39)、代表理事を選定します(法42)。
  • 理事会の決議は、議決に加わることができる理事の過半数(これを上回る割合を定款又は規約で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款又は規約で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行います(法40Ⅰ)。
  • 理事会の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができません(法40Ⅱ)。
  • 定款で定めるところにより、理事が書面又は電磁的方法により理事会の議決に加わることができるものとすることができます(法40Ⅲ)。
  • 定款で定めることにより、理事会の書面決議を行なうことができます(法40Ⅳ)。
  • 理事会への報告も書面報告で良いことになっています(法40Ⅴ)。
  • 理事会は、議事録を作成し、出席した理事及び監事は、これに署名し、又は記名押印します(法41Ⅰ)。議事録を、主たる事務所においては理事会の日から10年間、従たる事務所においては理事会の日から5年間、備え置く必要があります(法41ⅢⅣ)。組合員及び組合の債権者は、組合に対して、その業務取扱時間内は、いつでも、理事会議事録の閲覧又は謄写の請求をすることができます(法41Ⅴ)。

監事

  • 監事は、理事による職務執行を監督します(法38Ⅱ)。株式会社の監査役のような地位です。
  • 監事は、1名以上必要で(法32Ⅱ)、定数の1/3超の欠員が生じたときは、3か月以内に補充が必要です(法32Ⅵ)。
  • 監事は、組合員でなくても結構ですし、理事又は組合の使用人と兼ねてはなりません(法43)。
  • 組合員数が1000人を超える大規模な労働者協同組合の場合には、監事のうち1名以上は、次の条件をすべて充たす者である必要があります(法32Ⅴ、施行令2)。
    1. 当該労働者協同組合の組合員以外の者であること。
    2. 監事就任前5年間、当該労働者協同組合の理事、使用人又は労働者協同組合の子会社の取締役、会計参与、執行役若しくは使用人でなかったこと。
    3. 当該労働者協同組合の理事・重要な使用人の配偶者・二親等内の親族以外の者であること。
  • 次のものは監事となることができません(法35、施行規則8)
    1. 法人
    2. 精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない
    3. この法律等の法令に違反し、刑に処せられてから2年を経過していない者等
    4. 暴力団の構成員等
  • 監事は、総会で選びますが、選ぶ方法が何種類かありますので、下表を参照ください。
      適用されるルール

総会において「選挙」(法32Ⅲ) 無記名投票の方法(法32Ⅶ)
  • 投票は、一人一票(法32Ⅷ)

指名推薦の方法(法32Ⅸ)

  • 出席者中に異議がないときは、指名推薦の方法によって行うことができる(法32Ⅸ)
  • 被指名人をもって当選人と定めるべきかどうかを総会に諮り、出席者の全員の同意があった者をもって当選人とする(32Ⅹ)。
  • 一の選挙をもって二人以上の理事又は監事を選挙する場合においては、被指名人を区分して前項の規定を適用してはならない(法32Ⅺ)。

総会において「選任」

(法32Ⅻ) 

 
  • 監事の任期は、4年以内において定款で定める期間です(法36Ⅱ)。
  • 設立時監事の任期は、1年以内において創立総会において定める期間です(法36Ⅲ)。
  • 定款によって、これらの規定の任期を任期中の最終の決算期に関する通常総会の終結の時まで伸長することができます(法36Ⅳ)。

労働者協同組合の役員(代表理事)変更手続き(登記・届出)


役員は、定款で定めるところにより、総会において選挙するが(法32Ⅲ)、定款で定めるところにより、総会において選任することもできるとされています(法32Ⅻ)。

役員は、定款又は規約に別段の定めがある場合を除き、総会の普通決議で、いつでも解任することができる(法務省民商第439号/9頁)。

 

法務局への登記:労働者協同組合において登記されているのは代表理事の資格氏名住所のみであり(登記令2Ⅱ④)、理事や監事に変更があっても登記する必要はありません。

労働者協同組合の役員変更登記については下記書籍が詳しいのでご参照ください。

 

神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介 編著『商業・法人登記500問』(テイハン、2023年)578頁

 

行政庁への届出:役員(理事、代表理事又は監事)の氏名住所に変更があったときには、変更の日から2週間以内に行政庁に対して届出が必要です(法33)。

労働者協同組合の「パート・アルバイト雇用」


労働者協同組合には次のルールがあります。

  • 総組合員の4/5以上が組合の事業に従事すること(法8Ⅰ:5分の4要件)。
  • 事業に従事する者の3/4以上が組合員であること(法8Ⅱ:4分の3要件)。

それでは、組合員数10人の労働者協同組合の場合、パート・アルバイト等の非組合員を何人まで雇えるでしょうか?

組合員10人のうち8人以上が組合の営む事業に従事する必要があります(5分の4要件)ので、

組合員のうち8~10人が事業に従事している筈です。

事業従事者の3/4以上が組合員である必要があります(4分の3要件)ので、

事業に従事している組合員数ごとに雇用することができる非組合員の数は次表のようになります。

      検算
従事する組合員の人数 雇用する非組合員の上限数   従事者の総数 左のうち組合員割合
10人 3人   13人 10÷13=76.92%OK
9人 3人   12人 9÷12=75%OK
8人 2人   10人 8÷10=80%OK

労働者協同組合の「出資一口の金額」の変更


出資一口の金額を「増額する」場合

「各組合員に対し、追加出資の義務を負わせることになります。そのため出資一口の金額の増加のための定款の変更は、総会の特別の議決(法65)では足りず、組合員全員の同意が必要だと考えられます。信用協同組合についての先例(昭和31年3月27日民事甲635号)」

👉追加出資の義務を負わせるということは、払込済出資総額も増加することになるのではないか?

 

「なお、出資一口の金額を増加する方法として、各組合員の出資口数に端数を生じないときは、総会の特別の議決により、出資口数の併合の方法により行なうことも可能であると考えられます。農業協同組合についての先例(昭和38年7月15日民事甲1020号)」

👉払込済出資総額は増加しないということで良いか?

ともに、立花宏・西山義裕(著)『法人登記実務から見た労働者協同組合の運営』中央経済社/2023/107頁。

 

出資一口の金額は定款記載事項なので、登記完了後、行政庁への届出が必要です(法63Ⅲ)。

出資一口の金額を「減額する」場合

定款変更の総会の特別の議決

債権者異議手続(法73)

 

出資一口の金額は定款記載事項なので、登記完了後、行政庁への届出が必要です(法63Ⅲ)。

労働者協同組合の「出資総口数」及び「払込済出資総額」の変更


「出資総口数」「払込済出資総額」に変更が生じる理由

組合員の持分は、他の組合員に対して譲渡することができず(法13)、労働者協同組合に対しても譲渡することができません(法79)ので、組合を脱退する際には、払い戻しを受けることになります(法16)。

「出資総口数」「払込済出資総額」に変更が生じる理由は、次のとおりです。

増加する場合
  • 組合員の加入
  • 組合員の出資口数の増加
減少する場合 
  • 組合員の脱退(法16)
  • 組合員の出資口数の減少(法19)

「出資総口数」「払込済出資総額」に変更が生じた場合の登記時期

変更の都度、登記することも可能ですが・・・

毎事業年度末日現在より、末日から4週間以内に登記すれば良いとされています(登記令3Ⅱ)。

司法書士の報酬・費用


手続の種類 司法書士の報酬
役員(代表理事)変更登記    
「出資一口の金額」の増額変更の登記    
「出資一口の金額」の減額変更の登記    
「出資総口数」「払込済出資総額」の変更登記    

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