新しく設立できないけれど実は優れもの?有限会社の特徴


2006(平成18)年、会社法の施行と同時に廃止された有限会社法。根拠法律がなくなったからといって、有限会社がなくなった訳ではありません。有限会社は、特例有限会社という株式会社の一形態として残っています。

この記事では、今後も残っていく「有限会社」の歴史と特徴について解説しています。

もくじ
  1. 有限会社とは
  2. 有限会社に適用される法律
  3. 無限責任と有限会社
  4. 有限会社の歴史
  5. 有限会社の特徴
  6. 参考文献
  7. 執筆者の紹介
  8. 人気の関連ページ

〔凡例〕

この記事では、次のとおり略記します。

  • 有:有限会社法【廃止日:平成18年5月1日】
  • 整備法:会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律【施行日:平成18年5月1日】
  • 会:会社法【施行日:平成18年5月1日】 

有限会社とは


  1. 有限会社とは、旧商法時代の有限会社が会社法制定時に整備法により存続を認められた「株式会社の一形態」です【1】。
  2. 特例有限会社は、新規設立できません。【2】
  3. 特例有限会社は、役員の任期がなく、計算書類の開示義務もないなど、通常の株式会社にはない特徴(小規模かつ閉鎖性が強い)があります。

【1】旧商法時代には、有限会社法という法律で有限会社のルールが規定されていましたが、会社法の施行と同時に、有限会社法は廃止されました。

有限会社は、特例で存在が認められている存在ですので「特例有限会社」といわれます。

【2】現在存在している有限会社がなくなれば消滅する法人形態です。

有限会社に適用される法律


有限会社について規定していた有限会社法は廃止されました。

有限会社に適用される法律は次の通りです。

原則
  • 有限会社は株式会社の一形態となったので・・・
    会社法の株式会社に関する規定
    が適用されます。
例外
  • 株式会社の規定をそのまま全部適用すると、具合が悪い場合もあるので・・・
    そういう場合には、整備法で会社法の適用を除外しています。

つまり、有限会社のルールを確認したいときには、会社法と整備法、2つの法律を確認する必要があります。

 

次は、栄枯盛衰の歴史をたどった有限会社の歴史を紐解きます。

無限責任と有限責任


「有限会社の歴史」についてご説明する前に、無限責任と有限責任について、押さえていただく必要があります。

 

無限責任とは

無限責任とは、文字通り、債権者に対して「無限の責任を負う」ことをいいます。

→ 会社法では合名会社・合資会社の無限責任社員が該当します(会576ⅡⅢ)。

→ これらの会社はその性質上、起業には不向きです。

有限会社とは

有限責任とは、債権者に対して「出資した財産の価格を限度として責任を負う」ことをいいます。

→ 株式会社、合同会社(会576Ⅳ)は出資者を有限責任とすることで、出資を集めやすくした会社形態です。

→ これらの会社は、起業向きです。

→ 特例有限会社も株式会社の一形態ですので、有限責任制です。

有限会社の歴史


法律 沿革

旧商法

(1899年施行)

  • 合名会社、合資会社:小規模な会社でも設立できるものの、無限責任社員が必要で、責任が重い。【1】
  • 株式会社:小規模な組織として運用することを想定していない。【2】

有限会社法

(1940年施行)

  • 小規模で閉鎖的な組織でも有限責任制度を利用できる法人が必要ということで、有限会社を創設。

会社法

(2006年施行)

  • 整備法の制定に伴い有限会社法が廃止。
  • 有限会社は、現在の特例有限会社制度に移行し、株式会社として扱われることになる。
  • (合同会社を創設)

【1】合名会社には、次のような例があります。

  • 合名会社三井銀行(現・三井住友銀行)
  • 渋沢貿易合名会社(渋沢栄一の関係した会社)

【2】日本における初期の株式会社は国立銀行でした。 いわゆるナンバー銀行です。香川の百十四銀行、新潟の第四北越銀行、長野の八十二銀行など、現在も商号にその名残を留めている銀行がああります。。

なお、私立銀行は株式会社の形態を採れず、無限責任制を国から要求されていました(『我が国の株式会社誕生と上場の道のり』月間資本市場395号/資本市場研究会/2018年/51頁)。

有限会社の特徴


会社名に「有限会社」という文字使用(整備法3条)

会社名には「有限会社」という文字を使用する義務があります(整備法3Ⅰ)。

株式会社の一形態になったからといって、「株式会社」の文字を使ってはいけません(整備法3Ⅱ)

必ず非公開会社(整備法9条)

法律により、全ての株式について、株式の譲渡制限規定があるものとみなされます。

有限会社は、株式の譲渡制限を撤廃することはできません(整備法9Ⅱ)。

機関設計に制限(整備法17条)。

株主総会、取締役、監査役のみ設置できます。

取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等の設置はできません。

取締役、監査役に任期なし(整備法18条)。

任期なしということは、一度就任したら、辞任・解任・死亡などが発生しない限り、ずっと取締役・監査役のままということです。

役員に住所・氏名の変更、辞任・解任・死亡などが発生しない限り、基本的に役員変更登記は不要です。

監査役は会計監査権限のみ(整備法24条)

監査役は、①取締役の業務執行を監督する権限と、②会計を監査する権限の両方を持っているのが原則です。

有限会社の監査役は、②会計監査の権限しか持っていません。

株式会社は定款に定めれば、会計監査権限のみにすることができます。

計算書類等の公告義務なし(整備法28条)。

コスト削減することができます。

休眠会社のみなし解散の不適用(整備法32条)

株式会社は10年以上登記をしないと、休眠会社とされ、登記官によって職権で解散登記を入れられてしまいます(みなし解散。会472)。

有限会社には、みなし解散が適用されません。

グループ会社の形成は不可(整備法37条、38条)

有限会社は、合併、会社分割することはできますが、存続会社、承継会社になることができません(整備法37)。

有限会社は、株式交換、株式移転、株式交付することができません(整備法38)。

つまり、有限会社を中心としたグループ会社を形成することはできません。

参考文献


以下の書籍等を参照いたしました。

  • 田中亘著『会社法 第4版』東京大学出版会/2023年
  • 江頭憲治郎著『株式会社法第9版』有斐閣/2024年
  • 『我が国の株式会社誕生と上場の道のり』月間資本市場395号/資本市場研究会/2018年

執筆者の紹介


司法書士 河村 賢一(かわむら・けんいち)

あなまち司法書士事務所在籍。

中央大学・法学部・法律学科(国際政治学ゼミ)卒業。

 

平成28年埼玉と東京の司法書士事務所に勤務。徹底的に不動産登記を学ぶ。

令和4年8月神戸へ転居と同時に「あなまち司法書士事務所」に入所

令和4年11月司法書士試験合格

令和5年2月司法書士登録(組織再編、スタートアップ資金調達を担当)

令和5年11月開業。同時に「あなたのまちの司法書士事務所グループ」へ参画。

特技:英語原典の推理小説を読むこと、独学で英検準1級を取得。



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