株式会社など会社の場合、役員を選任すべき期間内に選任しなかった場合(「選任懈怠ケタイ」といいます。)や、決まったことを期限内に登記しなかった場合(「選任懈怠」といいます。)には過料が科せられます。
医療法人の場合にも、同様にこのような過料はあるのでしょうか?
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〔凡例〕この記事では次のとおり略記します。
(46Ⅱ):医療法第46条第2項。法律名・法律略称の記載なく数字のみの場合。
登記令:組合等登記令(昭和三十九年政令第二十九号)
一般法人法:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)
結論だけ知りたい方は、次のとおりです。
過料の有無/内容 | |
登記すべき事項を登記しなかった (=登記懈怠) |
20万円以下の過料(医療法93、組合等登記令1→同3) |
期限内に選任すべき理事を選任しなかった (=選任懈怠) |
過料はかからない(医療法に規定がない) |
登記懈怠に過料がかかる根拠規定はすぐに発見できます。
医療法第93条第1号です。
医療法第93条 | ||
次の各号のいずれかに該当する場合においては、医療法人の理事、監事若しくは清算人又は地域医療連携推進法人の理事、監事若しくは清算人は、これを20万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
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【1】組合等登記令(昭和39年政令第29号)のことです(組合等登記令1、同別表に「医療法人」が含まれています。)。
「登記漏れ」や「登記遅滞」が発生しないように、登記すべき事項と時期を確認しておきましょう。
登記すべき事項 | 登記すべき時期 |
目的及び業務 | 変更発生後2週間以内(登記令3Ⅰ) |
名称 | 変更発生後2週間以内(登記令3Ⅰ) |
事務所の所在場所 | 変更発生後2週間以内(登記令3Ⅰ) |
代表権を有する者の氏名、住所及び資格 |
二年に一回(46の5) 変更発生後2週間以内(登記令3Ⅰ) |
存続期間、解散事由(定めたときのみ) | 変更発生後2週間以内(登記令3Ⅰ) |
資産の総額 |
毎年(53) 毎事業年度末日現在により当該末日から3か月以内(登記令3Ⅲ) |
似たような法律は、似たような構造(条文の並びなど)になっています。
会社法と一般法人法は、それぞれ会社と一般社団法人について規定した法律で、医療法人について規定している医療法と似ています。
そこで、役員の選任を怠った場合の過料について、会社法と一般法人法ではどのように規定しているか確認してみます。
会社法976条(過料に処すべき行為) | |||
発起人、設立時取締役、設立時監査役、設立時執行役、取締役、会計参与若しくはその職務を行うべき社員、監査役、執行役、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人、(略)、代表取締役、(略)、外国会社の日本における代表者又は支配人は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
1.~21.(省略) 22.取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くこととなった場合において、その選任(一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を含む。)の手続をすることを怠ったとき。
23.~35.(省略) |
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一般社団法人及び一般財団法人に関する法律342条(過料に処すべき行為) |
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設立時社員、設立者、設立時理事、設立時監事、設立時評議員、理事、監事、評議員、会計監査人若しくはその職務を行うべき社員、清算人、(略)、代表理事(略)は、次のいずれかに該当する場合には、100万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。 1.~12.(省略) 13.理事、監事、評議員又は会計監査人がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くこととなった場合において、その選任(一時会計監査人の職務を行うべき者の選任を含む。)の手続をすることを怠ったとき。 14.~22.(省略) |
会社法、一般法人法ともに役員が過料を科される場合としてまとめて規定されています。
また「役員の選任漏れ」についてもここに規定されています。
医療法では、第93条に役員が過料を科される場合がまとめて規定されています。
ところが、会社法や一般法人法には規定されている「役員がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くことになった場合において、その選任の手続をすることを怠ったとき。」が、医療法では規定されていません。
念のため、周辺の条文も引用して確認します(条文そのままでは、読み慣れてない方には苦痛でしょうから、条文に司法書士が適宜コメントを加えています。)。
医療法第9章 罰則 |
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医療法第77条~医療法第86条 |
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社会医療法人に関する罰則であるため省略(77-85) 医師等から提出を受けた診療録を受け取った公務員の守秘義務違反等のため省略(86) |
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医療法第87条 |
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次の各号のいずれかに該当する者は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
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医療法第88条 | ||
医療事故調査・支援センターの役員又は職員に対する罰則であるため省略 | ||
医療法第89条 | ||
次の各号のいずれかに該当する者は、20万円以下の罰金に処する。
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医療法第90条(両罰規定) | ||
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して第87条又は前条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても各本条の罰金刑を科する。 | ||
医療法第91条 | ||
社会医療法人に関する罰則であるため省略 | ||
医療法第92条 | ||
第30条の13第5項(知事による病床機能報告対象病院等の管理者に対する報告命令、報告是正命令)又は第30条の18の2第2項(知事による外来機能報告対象病院等の管理者に対する報告命令、報告是正命令)の規定による命令に違反した者は、30万円以下の過料に処する。 |
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医療法第93条 | ||
次の各号のいずれかに該当する場合においては、医療法人の理事、監事若しくは清算人又は地域医療連携推進法人の理事、監事若しくは清算人は、これを20万円以下の過料に処する。ただし、その行為について刑を科すべきときは、この限りでない。
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医療法第94条 | ||
医療法人でないのに名乗った者(40)、地域医療連携推進法人でないのに名乗った者(70の5Ⅳ)、地域医療連携推進法人が不正目的で他の地域医療連携推進法人と類似の名称・商号を使用した者(70の5Ⅴ)は、これを10万円以下の過料に処する。 | ||
やはり医療法には「役員がこの法律又は定款で定めたその員数を欠くことになった場合において、その選任の手続をすることを怠ったとき。」に過料を科す旨の規定がないことが明らかです。
したがって、「医療法人では、役員の選任を失念しても過料に処せられない」こととなります。
医療機関に関する法人登記(独自の論点)
全ての法人に共通