医療法人社団の「持分」は、相続財産とされますので、次世代への事業承継を控えた「持分あり」医療法人社団は「持分なし」医療法人社団への移行を検討する必要があります。
また、「持分」を相続した相続人様は、医療法人が持分なし医療法人に移行することによって、持分を相続税の課税価格から除外してもらうことが可能です。
移行に際しては、各種の優遇措置がありますが、優遇措置は令和5年9月30日までとされ(延長される可能性もあります。)手続には時間がかかりますので、早い目に検討する必要があります。
なお、この記事は、医療法人「社団」に関する記事です。医療法人「財団」の場合には、持分あり又は持分なしの区別はありません。
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医療法人社団に出資した方は、医療法人の資産に対して、出資額に応じた財産権を保有しています。
なお、医療法人の出資持分は、株式会社等とは異なり、社員の地位と結合した概念ではないことに要注意です。したがって、出資持分を放棄しても、社員として議決権を行使することが可能です。
議決権:社員は、各一個の議決権を有する(医療法46の3の3Ⅰ)。
出資者 | 社員 |
医療法人を運営するための資金の提供者 | 医療法人に関する重要事項(例えば年一回の決算承認、理事・監事の選任など)を決定する社員総会で議決権を行使する方 |
医療法人社団に対して出資持分を有する方は、医療法人の定款の定めに従い、医療法人に対して、自己の持分に相当する財産の払戻しを求めることができ、これを「持分払戻請求権」といいます。
実際の払戻し額は、退社時点における医療法人の純資産額に、退社時点における退社社員の持分割合を乗じて算定されるのが原則です。
一方、株式会社の株式とは異なり、持分を持っていても「剰余金の配当」を請求することはできません(医療法54)。
出資持分は、財産価値を有するものとして、相続税の課税対象とされています。
医療法人の財産状況等によっては、持分の相続財産としての評価額が巨額になり、医療法人の円滑な事業承継の阻害要因になりえます。
「持分あり」医療法人の場合、その定款に「払戻し」や「残余財産の分配」の定めがあります。
例えば、①社員の退社に伴う持分の払戻し、②医療法人の解散に伴う残余財産の分配に関する定めがある場合には、「持分あり」医療法人であると判断できます。
定款がない場合には、法人設立日をチェックすることで、推測できます。
医療法改正により、平成19年4月1日以降、持分あり医療法人は設立できなくなりました。
ただし、「認可申請日」が施行日前であれば、「登記申請日」が施行日後になっても、持分あり医療法人も設立できました(良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律附則第10条)。
なお、医療法人の設立は、①設立認可申請→②設立認可→③設立登記申請という流れですので、認可申請は平成19年4月1日までに行ったが、設立登記申請はこの日以降に提出しましたという場合もございます。
したがって、法人設立日が
と整理できます。
また、平成19年4月1日以前に設立された「持分あり」医療法人でも、その後「持分なし」医療法人へ移行している場合がありますので、ご注意ください。
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【1】相続税法第66条(人格のない社団又は財団等に対する課税)第4項
前三項の規定は、持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合において、当該贈与又は遺贈により当該贈与又は遺贈をした者の親族その他これらの者と第六十四条第一項に規定する特別の関係がある者の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときについて準用する。この場合において、第一項中「代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団」とあるのは「持分の定めのない法人」と、「当該社団又は財団」とあるのは「当該法人」と、第二項及び第三項中「社団又は財団」とあるのは「持分の定めのない法人」と読み替えるものとする。
メリット | デメリット |
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【1】相続税・贈与税
医療法人の出資持分も財産価値がありますので、原則として相続税算定の基礎となる財産です。
ところが、持分なし医療法人に移行し、税制優遇措置の適用を受けることで、相続税の納税期限10か月以内に①移転計画の認定を受け、②納税猶予手続を行なえば、医療法人の出資持分を相続税の課税対象から除外することができます。
【2】持分のない医療法人への移行に伴う贈与税
持分のある医療法人が定款変更を行って持分のない医療法人に移行する際に、持分を有する社員がその持分を放棄した場合、一定の要件を満たさないときは、相続税法第66条第4項の規定により「医療法人に対して」贈与税が課税されることになります。このような贈与税の課税は、規制のない医療法人への移行に際して、大きな障害となります。
ところが、持分なし医療法人に移行し、税制優遇措置の適用を受けることで、贈与税課税を免除を受けることができます。
【3】持分なし医療法人の残余財産の帰属権利者
医療法第44条第5項
第2項第10号(解散に関する規定)に掲げる事項中に、残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、国若しくは地方公共団体又は医療法人その他の医療を提供する者であつて厚生労働省令で定めるもののうちから選定されるようにしなければならない。
定款記載例
本社団が解散した場合の残余財産は、合併及び破産手続開始の決定による解散の場合を除き、次の者から選定して帰属させるものとする。
(1) 国
(2) 地方公共団体
(3) 医療法第31 条に定める公的医療機関の開設者
(4) 都道府県医師会又は郡市区医師会(一般社団法人又は一般財団法人に限る。)
(5) 財団たる医療法人又は社団たる医療法人であって持分の定めのないもの
(株式会社のように)現経営陣から後継者に対して出資持分を譲渡していく方法もございます。
ただし、次の場合には、「持分なし」への移行を検討ください。
資料を提供し、アドバイスいたします。
厚生労働省に対して「移行計画の認定」を申請します。
整えておくべき要件は次のとおりです。
認定の要件(主なもの)は次のとおりです。
運営に関する要件は次のとおりです。この要件は、移行後6年間満たさなければなりません。
<運営方法>
<事業状況>
申請から認定までの所要時間は、概ね2~3か月です。
認定後には、次の手続が必要です。
移行計画の内容に変更が生じた場合 | 移行計画の変更認定を受ける必要があります。 |
出資者が持分を処分(放棄・払戻・譲渡・相続・贈与)が生じた場合 |
処分の日から3か月以内に厚労大臣宛に報告が必要です(施行規則附則60Ⅲ)。 |
認定から1年経過した場合 | 経過した日から3か月以内に厚労大臣宛に進捗状況の報告が必要です(施行規則附則60Ⅰ)。 |
認定から2年経過した場合 | 経過した日から3か月以内に厚労大臣宛に進捗状況の報告が必要です(施行規則附則60Ⅰ)。 |
相続税の納税期限まで(相続開始後10か月以内)に行なう必要があります。
移行計画の認定通知書、移行計画、定款、出資者名簿を添付します。
また、担保提供が必要ですが、出資持分自体を担保に提供することができます。
認定の日から3年以内に「持分なし」医療法人へ移行が必要です。
移行しない場合には認定を取り消され、遡及して課税されます。
具体的な手続は次のようなものです。
【1】出資持分の一部または全部の払戻しを受けた場合には、猶予税額は免除されません。
また、医療法人において払戻し資金に不足が生じるときは、独立行政法人福祉医療機構による経営安定化資金貸付(優遇措置)を受けることができます。
都道府県に対して「定款変更の認可」を申請します。
認可がでると「持分なし」医療法人への移行が完了します。
都道府県から「定款変更の認可」を受けた日から3か月以内に、厚生労働省に対して実施状況の報告を行なう必要があります(施行規則附則60Ⅱ)。
移行完了後6年間、毎年、法人の運営状況を厚生労働省に報告する必要があります。
厚生労働省HP「持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について(認定医療法人制度)」には、次のような資料が用意されているので、ご参照ください(最終アクセス221218)。
●制度概要
●認定要件、手続きの詳細
●その他参考資料
医療機関に関する法人登記(独自の論点)
全ての法人に共通