内部通報者を保護する公益通報者保護法

(令和4年6月1日改正法施行)


企業の不正行為は、利用者・取引先などの利益を害し、企業の競争力も奪います。そこで内部から通報させる公益通報者保護法が平成18年施行されました。

しかし不正行為は無くならず不正が長年に渡っていた事例もあります。そこで同法は改正され令和4年6月1日から施行されます。

この法律によって内部通報される可能性があるのは「全事業者」です。

 

この記事では、内部通報制度について分かりやすくご紹介します。

もくじ
  1. 公益通報者保護のイメージ
  2. 適用される事業者
  3. 内部通報者とは
  4. 内部通報者の動機など
  5. 通報の対象となる事実は?
  6. どういう保護を受けられるか?
  7. 通報の方法
  8. 事業者の義務
  9. 窓口担当者の責任

〔凡例〕この記事内では、次のとおり略記します。

  • 改正法:令和4年6月1日施行公益通報者保護法
  • 指針:公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針

公益通報者保護のイメージ


公益通報者保護のイメージ(公益通報ハンドブック/消費者庁/H29.9版)
公益通報者保護のイメージ(公益通報ハンドブック/消費者庁/H29.9版)

公益通報ハンドブック/消費者庁/H29.9版/最終アクセス220503

上記公益通報ハンドブックは少し古いので、詳しい情報は「公益通報者保護制度」/消費者庁HP/最終アクセス220503でご確認ください。

適用される事業者


次のとおり定義されています。

  • 事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)(改正法2)
  • 「事業者」とは、法第2条第1項に定める「事業者」をいい、営利の有無を問わず、一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行を行う法人その他の団体及び事業を行う個人であり、法人格を有しない団体、国・地方公共団体などの公法人も含まれる。(指針第2用語の説明)

つまり適用される(内部通報を受ける可能性がある)のは、全事業者です。

内部通報者とは


内部通報できる人の範囲が改正により拡大します。

  1. 労働者が「勤務先」を通報する場合(改正法2Ⅰ①)
  2. 派遣労働者が「派遣先」を通報する場合(改正法2Ⅰ②)
  3. 事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行っている場合において、当該事業に従事していた者が当該「他の事業者」を通報する場合(改正法2Ⅰ③)
  4. 退職者(退職後1年以内)が「元勤務先」を通報する場合 ※令和4年6月1日(改正法2Ⅰ①②③に)追加
  5. 役員が「勤務先」を通報する場合 ※令和4年6月1日(改正法2Ⅰ④)追加

内部通報者の動機など


  • 内部通報者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的で通報した場合は「公益通報」にはなりません(改正法2)。
  • 公益通報をする者は、他人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めなければならない(改正法10)。

通報の対象となる情報は?


一定の対象となる法律【1】に違反する犯罪行為または最終的に刑事罰又は行政罰につながる行為である必要があります(改正法2Ⅲ①②)。

  1. 刑事罰の対象になる事実
  2. 行政罰の対象になる事実 ※令和4年6月1日追加

【1】対象でない法律に違反している事実を通報しても、その通報者は公益通報者保護法による保護の対象になりません。

対象となる法律(改正法別表〔第2条関係〕)
 
  1.  刑法(明治四十年法律第四十五号)
  2. 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)
  3. 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)
  4. 日本農林規格等に関する法律(昭和二十五年法律第百七十五号)
  5. 大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)
  6. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)
  7. 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)
  8. 前各号に掲げるもののほか、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として政令【2】で定めるもの

【2】公益通報者保護法別表第8号の法律を定める政令

各士業法をはじめ約450の法律が挙げられています。

どういう保護を受けられるか?


  1. 解雇の無効(改正法3、4)
  2. 不利益な取扱いの禁止(改正法5)
    1. 降格
    2. 減給
    3. 給与上の差別
    4. 退職の強要
    5. 訓告
    6. もっぱら雑事に従事させる
    7. 自宅待機命令
    8. 退職金の減額・没収
  3. 役員である公益通報者は、公益通報をしたことを理由として解任された場合には、事業者に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる(改正法6)。※令和4年6月1日追加
  4. 通報に伴う損害賠償責任の免除(改正法7) ※令和4年6月1日追加

通報の方法


通報先

・事業者内部

公益通報者保護制度では、事業者が内部に公益通報に関する相談窓口や担当者を置くことを求めています。そうした事業者内の窓口や担当者、事業者が契約する法律事務所などが通報先の例です。また、管理職や上司も通報先になります。

※中小事業者(従業員数300人以下)は努力義務(改正法11Ⅲ)

 

・行政機関

通報された事実について、勧告、命令できる行政機関が通報先になります。一般には、通報対象事実に関連する行政機関と考えてもよいでしょう。

もし通報しようとした行政機関が適切でなかった場合、その行政機関は適切な通報先を通報者に紹介することになっています。

 

・その他

一般的には報道機関や消費者団体、労働組合などで、そこへの通報が被害の発生や拡大を予防するために必要であると認められるものです。

(通報先について引用元:「組織の不正を未然に防止!通報者も企業も守る『公益通報者保護制度』」/内閣府大臣官房政府広報室/最終アクセス220503)

通報先に関する注意事項

  • 当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者に通報をしても良い(改正法2括弧書き内)。
  • 勤務先のライバル会社には通報してはならない(改正法2括弧書き内)。

事業者の義務


公益通報対応業務従事者(窓口担当者)を定めること

内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等(窓口設定、調査、是正措置等)が義務づけられました(改正法11Ⅰ)。

事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない(指針第3従事者の定めⅡ。窓口担当者は秘密を漏らすと罰金刑に処せられる可能性もあるため、書面で指定することによりハッキリと認識させる必要があるためです。)。

※中小事業者(従業員数300人以下)は努力義務(改正法11Ⅲ)

公益通報に適切に対応するために必要な体制の整備を行うこと

全事業者は、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない(改正法11Ⅱ)。

こちらの義務については、中小事業者(従業員300人以下)も措置をとる義務があります。

窓口担当者の責任


公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。

公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない(改正法12)。

遺漏した場合には、遺漏した窓口担当者自身が、30万円以下の罰金が処せられる可能性があります(改正法21)。