剰余金の配当に関する規制


剰余金の配当を行なったところで、登記する必要はありません。

ところが、ご相談を受けることも多い項目ですので、この機会に備忘録としてマトメました。ご参照ください。

もくじ
  1. 「利益の配当」が「剰余金の配当」になった理由
  2. 剰余金の配当に関する規制
  3. 剰余金配当のタイミング・回数
  4. 剰余金配当の計算書類への反映
  5. 規制違反の効果
  6. 中小企業の社長兼株主は、役員報酬で取るべきか?配当を貰うべきか?

「利益」配当が「剰余金」配当になった理由


商法の「利益の配当」が会社法では「剰余金の配当」となった理由は、

配当原資が、利益に限定されず「その他資本剰余金が減少する場合」もあるためです。

剰余金の配当に関する法規制


  1. 剰余金の配当をするときは、
    • 原則:その都度株主総会決議を要する。
    • 例外:取締役会設置会社が、「中間配当できる」旨定款で定めたときは、年度中1回だけ取締役会決議だけで配当ができる(会454Ⅴ)。これを「中間配当」という。
  2. 配当後も、株式会社の純資産額が300万円を上回ること(会458)
  3. 配当が分配可能額の制限を超える場合には配当できない(会461)
  4. 分配可能額の計算方法は、会社法461Ⅱ、会社計算規則156-158
  5. 配当額の1/10は、資本準備金又は利益準備金に計上すること(会445Ⅳ)
  6. その他資本剰余金を処分して配当を行った場合には、資本準備金の積み立てを要する(会社計算規則22Ⅰ)
  7. その他利益剰余金を処分して配当を行った場合には、利益準備金の積み立てを要する(会社計算規則22Ⅱ)
  8. 準備金として積み立てを要する額は、以下のいずれか少ない額である(会社計算規則22)
    1. 剰余金の配当額の1/10が、資本金の額の1/4に達するまでの額
    2. 資本準備金+利益準備金の合計額が、資本金の額の1/4に達するまでの額
純資産の部   性格

株主

資本

資本金   資本(株主の出資)から出たお金 
資本剰余金 資本準備金  
その他資本剰余金  

利益剰余金

利益準備金   利益から出たお金
その他利益剰余金 任意積立金  
繰越利益剰余金  
自己株式  
評価・換算差額等   資本関連のお金
新株予約権   その他

【1】貸借対照表に関する詳細は、こちら「株式会社の計算(はじめに)」をご参照。

剰余金配当のタイミング・回数


旧商法時代の規制

  • 年1回しか配当できない(取締役会の承認による中間配当を入れても、年2回しか配当できない。)。

▼旧商法時代の規制は撤廃▼

会社法の規制

  • 株式会社は「一事業年度中に何度でも」株主総会決議で承認されれば、剰余金を配当できる(会454Ⅰ~Ⅳ)。
  • 取締役会設置会社は、定款で定めておけば、一事業年度中に一度だけ、取締役会決議で、剰余金を配当できる(中間配当:会454Ⅴ)
  • 会計監査人設置会社等一定の要件を充たす会社は、定款で定めておけば、取締役会決議で、剰余金を配当できる(会459Ⅱ)

剰余金配当の計算書類への反映


会社法445条(資本金の額及び準備金の額)4項
  剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令【1】で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に10分の1を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。 
会社法施行規則22条(会社法445条4項の規定による準備金の計上)
  1.株式会社が剰余金の配当をする場合には、剰余金の配当後の資本準備金の額は、当該剰余金の配当の直前の資本準備金の額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額を加えて得た額とする。
    ① 当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額(資本金の額に4分の1を乗じて得た額をいう。以下この条において同じ。)以上である場合 零
    ② 当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額未満である場合 イ又はロに掲げる額のうちいずれか少ない額に資本剰余金配当割合(次条第1号イに掲げる額を法第446条第6号に掲げる額で除して得た割合をいう。)を乗じて得た額 
      イ 当該剰余金の配当をする日における準備金計上限度額(基準資本金額から準備金の額を減じて得た額をいう。以下この条において同じ。)
      ロ 法第446条第6号に掲げる額に10分の1を乗じて得た額
  2.株式会社が剰余金の配当をする場合には、剰余金の配当後の利益準備金の額は、当該剰余金の配当の直前の利益準備金の額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額を加えて得た額とする。 
    ① 当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額以上である場合 零 
    ② 当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額未満である場合 イ又はロに掲げる額のうちいずれか少ない額に利益剰余金配当割合(次条第2号イに掲げる額を法第446条第6号に掲げる額で除して得た割合をいう。)を乗じて得た額 
      イ 当該剰余金の配当をする日における準備金計上限度額
      ロ 法第446条第6号に掲げる額に10分の1を乗じて得た額
会社法446条(剰余金の額)
  株式会社の剰余金の額は、第1号から第4号までに掲げる額の合計額から第5号から第7号までに掲げる額の合計額を減じて得た額とする。
  1~5 (略)
  最終事業年度の末日後に剰余金の配当をした場合における次に掲げる額の合計額
    第454条第1項第1号の配当財産の帳簿価額の総額(同条第4項第一号に規定する金銭分配請求権を行使した株主に割り当てた当該配当財産の帳簿価額を除く。)
    第454条第4項第1号に規定する金銭分配請求権を行使した株主に交付した金銭の額の合計額
    第456条に規定する基準未満株式の株主に支払った金銭の額の合計額
  (略)

違法な配当を行なった場合の効果


配当は無効?!

旧商法時代・・・「無効説」が通説となっていた。

現行会社法・・・会社法立案担当者が「有効説」を主張するも、決着はついていない。

違法配当は無効とする説【1】 違法配当も有効とする説【2】

違法配当は無効

∵決議内容が法令違反の株主総会決議・取締役会決議は無効(会社830Ⅱ:株主総会決議無効確認の訴)

違法配当も有効

∵会社法463Ⅰが「効力を生じた日における」という表現を用いていることから、違法配当が有効であることは明らか

違法配当を受領した株主は会社に対して

  1. 不当利得返還債務を負う(民703)
  2. 会社法上の特別の支払責任を負う(会462Ⅰ)

違法配当を受領した株主は

  1. 有効なので不当利得返還債務(民703)を負わない。
  2. 会社法上の特別の支払責任を負う(会462Ⅰ)

〔批判〕

不当利得返還債務と会社法上の特別の支払責任との関係性が不明瞭。

不当利得返還債務なら株主の善意・悪意の区別がある

〔批判〕

配当財源規制違反の効果は(同じ条文である以上)画一的に決すべきところ、配当財源規制に違反する取得請求権付株式・取得条項付株式の取得が無効であることに異論はない。【3】

【1】違法配当を無効とするもの

神田秀樹/会社法〔第7版〕法律学講座双書/弘文堂/248p以下

弥永真生/リーガルマインド会社法〔第9版〕/有斐閣/462p以下

宮島司/新会社法エッセンス/弘文堂/320p

【2】違法配当を有効とするもの

相澤哲・岩崎友彦/新会社法の解説⑽株式会社の計算等/商事法務1746号26頁

【3】「剰余金の配当」と同じく財源規制を受ける会社の行為は次のとおり(会社法461)。

  1. 第138条第1号ハ又は第2号ハの請求〔譲渡等不承認時の買取請求〕に応じて行う当該株式会社の株式の買取り 
  2. 第156条第1項の規定〔自己株式の合意取得〕による決定に基づく当該株式会社の株式の取得(第163条〔子会社からの自己株式の取得〕に規定する場合又は第165条第1項〔市場取引等による自己株式の取得〕に規定する場合における当該株式会社による株式の取得に限る。)
  3. 第157条第1項〔自己株式の合意取得〕の規定による決定に基づく当該株式会社の株式の取得
  4. 第173条第1項〔全部取得条項付種類株式の全部の取得〕の規定による当該株式会社の株式の取得
  5. 第176条第1項の規定による請求〔相続人等に対する売渡請求〕に基づく当該株式会社の株式の買取り
  6. 第197条第3項〔所在不明株主の株式の会社による買取り〕の規定による当該株式会社の株式の買取り
  7. 第234条第4項〔1株未満の端数処理時における会社による買取り〕(第235条第2項〔株式分割・株式併合により1株未満の端数が生じる場合〕において準用する場合を含む。)の規定による当該株式会社の株式の買取り
  8. 剰余金の配当

役員などの民事上の責任

違法配当となった場合、株主は、受け取った配当金を会社に返還しないといけません。

また、取締役も下表のとおり責任を負担します。

 

〇=義務を負う。×=義務を負わない。

  金銭支払義務【1】 欠損填補責任【2】 任務懈怠責任【3】
配当を受け取った株主 × ×
業務執行取締役
職務上関与した者として法務省令で定める者【4】 ×
議題提案取締役 ×

【1】株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う(会社法462Ⅰ)。

業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない(会社法462Ⅱ)。

業務執行者及び同項各号に定める者の負う義務は、免除することができない。ただし、前条第一項各号に掲げる行為の時における分配可能額を限度として当該義務を免除することについて総株主の同意がある場合は、この限りでない(会社法462Ⅲ)。

【2】会社が剰余金の配当を行なったことによって、事業年度末の計算書類を定時株主総会で承認した時点で分配可能額がマイナスになった場合(=欠損が生じた場合)、配当した剰余金の額を限度に欠損額の支払義務を負う(会社法465Ⅰ)。総株主の同意がなければ、免除することができない(会社法465Ⅱ)。

【3】取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(会社法423)。

【4】会社法施行規則116⑮→会社計算規則159

会社法第461条1項2号に掲げる行為 次に掲げる者

イ 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役

ロ 株主総会において株式の取得に関する事項について説明をした取締役及び執行役

ハ 取締役会において株式の取得に賛成した取締役

ニ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役

役員の刑事上の責任

  • 法令定款に違反する違法配当を行なった取締役・会計参与・監査役・執行役などは、5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(会社法963Ⅴ②:会社財産を危うくする罪)。
  • 違法配当をすることで、役員としての評価を高める(自己の利益を図る)目的や、株主の利益を図る目的であったときは、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金に処され、又はこれを併科されます(会社法960:特別背任罪)。  

上場が遅れる可能性

違法配当を行ない、それが有価証券報告書の虚偽記載に基づくものである場合には、上場が遅れることになります。どの市場も「直近2年間の虚偽記載なし」が上場基準とされているためです。

 

また、既に上場している会社の場合には上場廃止されたり、上場廃止とならなかった場合でも「特設注意市場銘柄」に指定され、株価の暴落を招く可能性もあります。

中小企業の社長兼株主は「役員報酬」で取るべきか?「配当」を貰うべきか?


配当を行なう企業が少ないのは、配当として交付すると法人税の損金にならないからだと考えていましたが、社長個人の所得税の観点から考えると、下表のとおり「上手に配当することも」節税の一つなんですね。

  法人税 社長個人の所得税

役員

報酬

法人税法上「損金」として認められる。 安くできる 高くなる
配当

税引き後の利益から支払う

→「損金にならない」

安くできない

配当控除がある

→安くなる可能性がある。

このあたりを総合的に調整して、会社にアドバイスをするのも税理士の仕事です。

そして私たちのグループでは、貴社に相応しい税理士をご紹介することも可能です。

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