剰余金の配当を行なったところで、登記する必要はありません。
ところが、ご相談を受けることも多い項目ですので、この機会に備忘録としてマトメました。ご参照ください。
もくじ | |
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商法の「利益の配当」が会社法では「剰余金の配当」となった理由は、
配当原資が、利益に限定されず「その他資本剰余金が減少する場合」もあるためです。
純資産の部 | 性格 | ||||
株主 資本 |
資本金 | 資本(株主の出資)から出たお金 | |||
資本剰余金 | 資本準備金 | ||||
その他資本剰余金 | |||||
利益剰余金 |
利益準備金 | 利益から出たお金 | |||
その他利益剰余金 | 任意積立金 | ||||
繰越利益剰余金 | |||||
自己株式 | |||||
評価・換算差額等 | 資本関連のお金 | ||||
新株予約権 | その他 |
【1】貸借対照表に関する詳細は、こちら「株式会社の計算(はじめに)」をご参照。
▼旧商法時代の規制は撤廃▼
会社法445条(資本金の額及び準備金の額)4項 | |
剰余金の配当をする場合には、株式会社は、法務省令【1】で定めるところにより、当該剰余金の配当により減少する剰余金の額に10分の1を乗じて得た額を資本準備金又は利益準備金(以下「準備金」と総称する。)として計上しなければならない。 |
会社法施行規則22条(会社法445条4項の規定による準備金の計上) | |||
1.株式会社が剰余金の配当をする場合には、剰余金の配当後の資本準備金の額は、当該剰余金の配当の直前の資本準備金の額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額を加えて得た額とする。 | |||
① 当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額(資本金の額に4分の1を乗じて得た額をいう。以下この条において同じ。)以上である場合 零 | |||
② 当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額未満である場合 イ又はロに掲げる額のうちいずれか少ない額に資本剰余金配当割合(次条第1号イに掲げる額を法第446条第6号に掲げる額で除して得た割合をいう。)を乗じて得た額 | |||
イ 当該剰余金の配当をする日における準備金計上限度額(基準資本金額から準備金の額を減じて得た額をいう。以下この条において同じ。) | |||
ロ 法第446条第6号に掲げる額に10分の1を乗じて得た額 | |||
2.株式会社が剰余金の配当をする場合には、剰余金の配当後の利益準備金の額は、当該剰余金の配当の直前の利益準備金の額に、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める額を加えて得た額とする。 | |||
① 当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額以上である場合 零 | |||
② 当該剰余金の配当をする日における準備金の額が当該日における基準資本金額未満である場合 イ又はロに掲げる額のうちいずれか少ない額に利益剰余金配当割合(次条第2号イに掲げる額を法第446条第6号に掲げる額で除して得た割合をいう。)を乗じて得た額 | |||
イ 当該剰余金の配当をする日における準備金計上限度額 | |||
ロ 法第446条第6号に掲げる額に10分の1を乗じて得た額 |
会社法446条(剰余金の額) | |||
株式会社の剰余金の額は、第1号から第4号までに掲げる額の合計額から第5号から第7号までに掲げる額の合計額を減じて得た額とする。 | |||
1~5 | (略) | ||
6 | 最終事業年度の末日後に剰余金の配当をした場合における次に掲げる額の合計額 | ||
イ | 第454条第1項第1号の配当財産の帳簿価額の総額(同条第4項第一号に規定する金銭分配請求権を行使した株主に割り当てた当該配当財産の帳簿価額を除く。) | ||
ロ | 第454条第4項第1号に規定する金銭分配請求権を行使した株主に交付した金銭の額の合計額 | ||
ハ | 第456条に規定する基準未満株式の株主に支払った金銭の額の合計額 | ||
7 | (略) |
旧商法時代・・・「無効説」が通説となっていた。
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現行会社法・・・会社法立案担当者が「有効説」を主張するも、決着はついていない。
違法配当は無効とする説【1】 | 違法配当も有効とする説【2】 |
違法配当は無効 ∵決議内容が法令違反の株主総会決議・取締役会決議は無効(会社830Ⅱ:株主総会決議無効確認の訴) |
違法配当も有効 ∵会社法463Ⅰが「効力を生じた日における」という表現を用いていることから、違法配当が有効であることは明らか |
違法配当を受領した株主は会社に対して
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違法配当を受領した株主は
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〔批判〕 不当利得返還債務と会社法上の特別の支払責任との関係性が不明瞭。 不当利得返還債務なら株主の善意・悪意の区別がある |
〔批判〕 配当財源規制違反の効果は(同じ条文である以上)画一的に決すべきところ、配当財源規制に違反する取得請求権付株式・取得条項付株式の取得が無効であることに異論はない。【3】 |
【1】違法配当を無効とするもの
神田秀樹/会社法〔第7版〕法律学講座双書/弘文堂/248p以下
弥永真生/リーガルマインド会社法〔第9版〕/有斐閣/462p以下
宮島司/新会社法エッセンス/弘文堂/320p
【2】違法配当を有効とするもの
相澤哲・岩崎友彦/新会社法の解説⑽株式会社の計算等/商事法務1746号26頁
【3】「剰余金の配当」と同じく財源規制を受ける会社の行為は次のとおり(会社法461)。
違法配当となった場合、株主は、受け取った配当金を会社に返還しないといけません。
また、取締役も下表のとおり責任を負担します。
〇=義務を負う。×=義務を負わない。
金銭支払義務【1】 | 欠損填補責任【2】 | 任務懈怠責任【3】 | |
配当を受け取った株主 | 〇 | × | × |
業務執行取締役 | 〇 | 〇 | 〇 |
職務上関与した者として法務省令で定める者【4】 | 〇 | × | 〇 |
議題提案取締役 | 〇 | × | 〇 |
【1】株式会社に対し、連帯して、当該金銭等の交付を受けた者が交付を受けた金銭等の帳簿価額に相当する金銭を支払う義務を負う(会社法462Ⅰ)。
業務執行者及び同項各号に定める者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したときは、同項の義務を負わない(会社法462Ⅱ)。
業務執行者及び同項各号に定める者の負う義務は、免除することができない。ただし、前条第一項各号に掲げる行為の時における分配可能額を限度として当該義務を免除することについて総株主の同意がある場合は、この限りでない(会社法462Ⅲ)。
【2】会社が剰余金の配当を行なったことによって、事業年度末の計算書類を定時株主総会で承認した時点で分配可能額がマイナスになった場合(=欠損が生じた場合)、配当した剰余金の額を限度に欠損額の支払義務を負う(会社法465Ⅰ)。総株主の同意がなければ、免除することができない(会社法465Ⅱ)。
【3】取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(会社法423)。
【4】会社法施行規則116⑮→会社計算規則159
会社法第461条1項2号に掲げる行為 次に掲げる者
イ 株式の取得による金銭等の交付に関する職務を行った取締役及び執行役
ロ 株主総会において株式の取得に関する事項について説明をした取締役及び執行役
ハ 取締役会において株式の取得に賛成した取締役
ニ 分配可能額の計算に関する報告を監査役又は会計監査人が請求したときは、当該請求に応じて報告をした取締役及び執行役
違法配当を行ない、それが有価証券報告書の虚偽記載に基づくものである場合には、上場が遅れることになります。どの市場も「直近2年間の虚偽記載なし」が上場基準とされているためです。
また、既に上場している会社の場合には上場廃止されたり、上場廃止とならなかった場合でも「特設注意市場銘柄」に指定され、株価の暴落を招く可能性もあります。
配当を行なう企業が少ないのは、配当として交付すると法人税の損金にならないからだと考えていましたが、社長個人の所得税の観点から考えると、下表のとおり「上手に配当することも」節税の一つなんですね。
法人税 | 社長個人の所得税 | ||
役員 報酬 |
法人税法上「損金」として認められる。 | 安くできる | 高くなる |
配当 |
税引き後の利益から支払う →「損金にならない」 |
安くできない |
配当控除がある →安くなる可能性がある。 |
このあたりを総合的に調整して、会社にアドバイスをするのも税理士の仕事です。
そして私たちのグループでは、貴社に相応しい税理士をご紹介することも可能です。