事業者が回数券やギフト券を発行する際には、「資金決済法」の「前払式支払手段」に対する規制に引っかからないように注意する必要があります。
この記事では、「資金決済法」の「前払式支払手段」に対する規制を解説します。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、次のとおり略記します。
資金決済法は、次の2つのことを定めています。
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この記事では「1.前払式支払手段に対する規制」を取り上げます。
「前払式支払手段」「為替取引」「資金移動業」などの用語については、追ってご説明します。
(旧)前払式証票規制法 | 資金決済法 | |
サーバ型前払式支払手段 | 規制対象外 |
規制対象になった (資金決済法3Ⅰ) |
前払式証票に表示すべき項目 |
(旧)前払式証票規制法12条 |
下記を追加
(資金決済法13) |
前払式支払手段の払戻 | 規制なし |
払戻し原則禁止 (資金決済法20Ⅴ) |
【前払式支払手段(前払式証票)】とは、利用者から前払いされた対価をもとに発行される有価証券のことです。
具体例を見ると、分かりやすいと思います。
などが該当します。
前払式支払手段は以下の4つの要件を満たす必要があります(資金決済法3Ⅰ)。
以下は、形式上は前払式支払手段に該当しますが、資金決済法の適用が除外されています(資金決済法4、資金決済令4)。
前払式支払手段の発行者は、一定の条件を満たす場合、財務局への届出・登録や発行保証金の供託などの規制を受けることがあります。
前払式支払手段を定めた3条1項には、1号と2号があり、それぞれ条文が長いので分かりにくいです。ここで整理しておきます。
第1号(金銭型) | 第2号(物品・役務型) | |
定義 | 金額に応じる対価を得て発行される。 | 物品・役務の数量に応じる対価を得て発行される。 |
価値の基準 |
金銭単位 (例:1万円分の商品券) |
物品・サービスの数量単位 (例:10回分のマッサージ券) |
具体例 |
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資金決済法第3条(定義) ※1項のみを抜粋 | |
この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。
一 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの 二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品等の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの |
【サーバ型前払式支払手段】とは、発行者のサーバで残高等のデータを管理する電子的な支払手段です。この方式は、物理的なカードや証票を必要とせず、デジタル上で価値を保存し、取引を行うことができます。
サーバ型前払式支払手段の主な特徴は以下の通りです(資金決済法3Ⅰ)。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。
サーバ型前払式支払手段は、他の形態(紙型、磁気型、IC型)と比較して、より柔軟で即時的な取引が可能であり、スマートフォンの普及とともに急速に拡大しています。ただし、オンラインでの管理であるため、セキュリティやシステム障害への対策が重要となります。
デビットカードは前払式支払手段ではなく、即時払いの決済手段に分類されます。
デビットカードと前払式支払手段の異なる点は、以下の通りです。
文字で説明しても、分かりにくかったと思います。
金融庁資料に分かりやすい図を見つけましたのでご紹介しておきます。
(注2)一般社団法人日本資金決済業協会「第22回発行事業実態調査統計(令和元年度版)」に基づき金融庁算出。発行額ベース(自家型・第三者型の合計)。
上記の図及び(注2)については、「金融庁説明資料(近年の資金決済制度の動きについて)」 2023年5月24日/5頁/最終アクセス250318から抜粋しました。
前払式支払手段の払戻し(換金、おつり等)は、一定の場合を除き、原則として払戻しを禁止しています。
前払式支払手段の払戻しが原則として禁止されているのは、以下の2つの理由からです。
例外的に払戻しが認められるのは、以下のケースです(資金決済法20Ⅰ)。
これらに該当して払戻手続きを行う場合、公告、財務局長への届出、60日以上の払戻申出期間の設定などが必要とされます(資金決済法20Ⅱ)。
発行保証金とは、前払式支払手段の発行者が、その発行する前払式支払手段の残高に応じて供託しなければならない保証金のことです(資金決済法14)。
目的 |
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供託義務 |
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保全方法 |
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特例 |
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発行保証金制度は、前払式支払手段の利用者を保護し、市場の健全性を維持するための重要な仕組みとなっています。
「自家型前払式支払手段」と「第三者型前払式支払手段」という分類もあります。
自家型前払式支払手段 | 第三者型前払式支払手段 | |
定義 | 発行者(および密接関係者)からの商品やサービスの購入にのみ使用可能(資金決済法3Ⅳ) | 発行者以外の第三者からの商品購入やサービス提供にも使用可能(資金決済法3Ⅴ) |
具体例 |
自社店舗のみで使える回数券、ギフト券 オンラインゲームでの課金(ゲーム内通貨) |
大手鉄道会社のICカード 電子マネー |
規制該当要件 | 基準日未使用残高が1,000万円を超えた場合 | 第三者型前払式支払手段を発行しようとする場合 |
規制内容 |
内閣総理大臣への(事後)届出 (資金決済法5) |
内閣総理大臣への(事前)登録 (資金決済法7) |
発行保証金 | 基準日未使用残高が1,000万円を超えた場合には供託が必要(資金決済法14) |
登録時に供託が必要 (資金決済法14) |
情報提供義務 | あり(資金決済法13) | あり(資金決済法13) |
払戻し |
原則禁止 例外あり (資金決済法20) |
原則禁止 例外あり (資金決済法20) |
義務違反効果 | 刑事罰が規定されている(法107以下)。 | 刑事罰が規定されている(法107以下)。 |
事業者としては、できれば供託義務(資金決済法14)は回避したいところです。
内閣総理大臣への届出(資金決済法5)や、登録(資金決済法7)も避けたいですよね。
下記フローチャートを使って、前払式支払手段に該当しないようビジネスを構築するのも一つの手です。
発行の際、利用者から対価を受け取るか? | 資金決済法の適用外(資金決済法3Ⅰ) | |
▼ 受け取る場合 | ||
有効期限は発行日から6か月を越えるか? |
▶ 超えない場合 |
資金決済法の適用外(資金決済法4②、資金決済令4Ⅱ) |
▼ 超える場合 | ||
発行者(又は発行者と密接な関係がある者)から商品の購入やサービスの提供を受ける場合に限り使用できるか? |
▶ 限定しない場合 |
第三者型前払式支払手段発行者に該当します。 発行前に登録義務、供託義務が発生します。 高額電子移転可能型前払式支払手段に該当しないか確認し、該当する場合には、義務が追加されます。 |
▼ 限定して使用できる場合 | ||
基準日(毎年3月末、9月末)未使用残高は1,000万円を超えるか? |
▶ 超えない場合 |
現時点では資金決済法の適用外。 基準日において1,000万円を超えた場合には、自家型前払式支払手段発行者として基準日から2か月以内に届出と供託が必要。 |
▼ 超える場合 | ||
自家型前払式支払手段発行者に該当します。 届出義務、供託義務が発生します。 |
上記、フローチャートについては、一般社団法人日本資金決済業協会HP「前払式支払手段発行業の概要」最終アクセス250318及び岡本直也(著)『チェックリストでわかる 実務家・企業のためのスタートアップ法務(サンプル書式ダウンロード特典付)』日本加除出版/2024/248頁を参照しました。
高額電子移転可能型前払式支払手段は、2023年施行の改正資金決済法で新設された規制対象です。
高額取引におけるマネーロンダリング防止等を目的としています。
下記すべての要件に該当した場合には「高額電子移転可能型前払式支払手段」として規制を受けます(資金決済法3Ⅷ、前払式支払手段に関する内閣府令5の2ⅠⅡ)。
要件➊ 第三者型前払式支払手段(他店で使えるタイプ)であること。
要件➋ 未使用残高が前払式支払手段記録口座に記録されるものであって、電子情報処理組織を用いて移転をすることができるもの。
要件➌ 未使用残高が高額であるもの(下表のいずれかに該当するもの。)
残高譲渡型 | 番号通知型 | ブランドプリペイドカード型 | |
概 要 |
アカウント間で残高を移転可能 | 固有番号(ID番号等)を通知すれば価値を移転可能なもの | クレジットカード会社の決済システムを利用して支払いができるプリペイドカード |
例 | 銀行口座連動型電子マネー |
Appleギフト Google playコード |
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要 件 |
下記①か②のいずれかに該当 ①移動可能な未使用残が1件当たり10万円超 ②1月間の未使用残総額が30万円超のいずれかに該当 |
下記①か②のいずれかに該当 ①口座に記録可能な未使用残が1件当たり10万円超 ②1月間の未使用残総額が30万円超 |
下記①から④の全てに該当 ①記録可能な1月間の未使用残総額が30万円超 ②登録商標が付与されている ③加盟店での利用可能な1月間の未使用残総額が30万円超 ④証票等がなくても、使用が可能であること。 |
高額電子移転可能型前払式支払手段に該当した発行者には、次の義務が生じます。
以下の文献等を参照しました。