【図解】資金決済に関する法律(資金決済法)➊前払式支払手段(前払式証票)


事業者が回数券やギフト券を発行する際には、「資金決済法」の「前払式支払手段」に対する規制に引っかからないように注意する必要があります。

この記事では、「資金決済法」の「前払式支払手段」に対する規制を解説します。

もくじ
  1. 資金決済法は、何を定めた法律なのか?
  2. 施行時期や改正時期
  3. 前払式支払手段(前払式証票)
    1. サーバ型前払式支払手段とは
    2. デビットカードも前払式支払手段か
    3. 3条1項1号の前払式支払手段と同2号の違い
    4. 【図解】前払式支払手段
  4. 前払式支払手段に対する規制
    1. 前払式支払手段の払戻し(換金、おつり等)の禁止
    2. 発行保証金とは
    3. 自家型発行者/第三者型発行者とは
  5. 前払式支払手段に該当するか<フローチャート>
  6. 高額電子移転可能型前払式支払手段
  7. 高額電子移転可能型前払式支払手段に対する規制
  8. 参考文献等

〔凡例〕この記事では、次のとおり略記します。

  • 資金決済法:資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)
  • 資金決済令:資金決済に関する法律施行令(平成二十二年政令第十九号)
  • 出資法:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(昭和二十九年法律第百九十五号)
  • 犯収法:犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成十九年法律第二十二号)

資金決済法は、何を定めた法律なのか?


資金決済法は、次の2つのことを定めています。

  1. 前払式支払手段に対する規制
  2. 為替取引を銀行以外の一般事業者にも認める資金移動業など

この記事では「1.前払式支払手段に対する規制」を取り上げます。

「前払式支払手段」「為替取引」「資金移動業」などの用語については、追ってご説明します。

高橋康文(編著)堀天子・森毅(著)『新・逐条解説 資金決済法【第2版】』金融財政事情研究会/2023/39頁に加筆
高橋康文(編著)堀天子・森毅(著)『新・逐条解説 資金決済法【第2版】』金融財政事情研究会/2023/39頁に加筆

施行時期や改正時期は


  • 1932(昭和7)年10月(旧)商品券取締法施行
  • 1990(平成2)年10月(旧)前払式証票規制法施行
  • 2010(平成22)年4月1日資金決済に関する法律施行(前払式支払手段にサーバ型電子マネーを追加。資金移動業の創設)。
    施行に伴い「前払式証票の規制等に関する法律(前払式証票規制法)」は廃止。
  (旧)前払式証票規制法 資金決済法
サーバ型前払式支払手段 規制対象外

規制対象になった

(資金決済法3Ⅰ)

前払式証票に表示すべき項目

  • 発行者の氏名、住所
  • 証票金額等
  • 有効期限等

(旧)前払式証票規制法12条

下記を追加

  • 苦情・相談に応じる営業所
  • 事務所所在地・連絡先

(資金決済法13)

前払式支払手段の払戻 規制なし

払戻し原則禁止

(資金決済法20Ⅴ)

  • 2017年 改正資金決済法施行(仮想通貨交換業の創設
  • 2018年 改正銀行法施行(電子決済等代行業の創設
  • 2020年 改正資金決済法施行(「仮想通貨」から「暗号資産」に変更。利用者資産の原則オフライン管理など)
  • 2021年 改正資金決済法施行(資金移動業の3類型化)
  • 2023年 改正資金決済法施行(電子決済手段等取引業の創設。高額電子移転可能型前払式支払手段制度を導入)

前払式支払手段(前払式証票)とは


【前払式支払手段(前払式証票)】とは、利用者から前払いされた対価をもとに発行される有価証券のことです。

具体例を見ると、分かりやすいと思います。

  • 商品券:様々な店舗で使用できる汎用的な金券
  • ギフト券:特定の店舗や商品群に使用が限定された金券
  • カタログギフト券:カタログから商品を選んで交換できる券
  • プリペイドカード
    • 磁気型プリペイドカード:磁気ストライプに情報を記録したカード
    • IC型プリペイドカード:ICチップに情報を記録したカード
  • 電子マネー:ICカードやスマートフォンアプリなどで利用できる電子的な支払手段
  • インターネット上で使えるプリペイドカード:オンラインショッピングなどで利用可能。
  • 旅行券:旅行代金の支払いに使用できる券

などが該当します。

 

前払式支払手段は以下の4つの要件を満たす必要があります(資金決済法3Ⅰ)。

  1. 価値保存性:金額や物品・サービスの数量が証票等に記載または電磁的に記録されていること。
  2. 対価性:記載または記録されている金額や数量に応じた対価が支払われていること。
  3. 発行性:金額や数量が記載された証票等、またはこれらの財産的価値と結びついた符号が発行されること。
  4. 権利行使性:物品購入やサービス提供を受ける際に、証票等や符号が使用できるものであること。

以下は、形式上は前払式支払手段に該当しますが、資金決済法の適用が除外されています(資金決済法4、資金決済令4)。

  • 発行日から6か月以内に限って使用できるもの
  • 乗車券や美術館等の入場券
  • 社員食堂の食券
  • 国や地方公共団体が発行するもの(JRAの発行する馬券も適用除外。)

前払式支払手段の発行者は、一定の条件を満たす場合、財務局への届出・登録や発行保証金の供託などの規制を受けることがあります。

法3条1項1号の前払式支払手段と同2号の違い

前払式支払手段を定めた3条1項には、1号と2号があり、それぞれ条文が長いので分かりにくいです。ここで整理しておきます。

  第1号(金銭型) 第2号(物品・役務型)
定義  金額に応じる対価を得て発行される。 物品・役務の数量に応じる対価を得て発行される。
価値の基準

金銭単位

(例:1万円分の商品券)

物品・サービスの数量単位

(例:10回分のマッサージ券)

具体例
  • 商品券・ギフト券
  • 図書券
  • テレフォンカード
  • プリペイドカード(Suica,ICOKA,nanaco)
  • ビール券・酒券・米券
  • 回数券(エステやジム)
  • 宿泊券
資金決済法第3条(定義) ※1項のみを抜粋
  この章において「前払式支払手段」とは、次に掲げるものをいう。

一 証票、電子機器その他の物(以下この章において「証票等」という。)に記載され、又は電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。以下この項において同じ。)により記録される金額(金額を度その他の単位により換算して表示していると認められる場合の当該単位数を含む。以下この号及び第三項において同じ。)に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される金額に応ずる対価を得て当該金額の記録の加算が行われるものを含む。)であって、その発行する者又は当該発行する者が指定する者(次号において「発行者等」という。)から物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるもの

二 証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号(電磁的方法により証票等に記録される物品等又は役務の数量に応ずる対価を得て当該数量の記録の加算が行われるものを含む。)であって、発行者等に対して、提示、交付、通知その他の方法により、当該物品等の給付又は当該役務の提供を請求することができるもの

サーバ型前払式支払手段とは

【サーバ型前払式支払手段】とは、発行者のサーバで残高等のデータを管理する電子的な支払手段です。この方式は、物理的なカードや証票を必要とせず、デジタル上で価値を保存し、取引を行うことができます。

 

サーバ型前払式支払手段の主な特徴は以下の通りです(資金決済法3Ⅰ)。

  1. デジタル管理:残高や取引履歴はすべて発行者のサーバ上で管理されます。
  2. アクセス方法:ユーザーは通常、スマートフォンアプリやウェブサイトを通じて残高を確認し、取引を行います。
  3. 多様な形態:QRコード決済、各種ブランドプリペイドカード(IDをウェブで入力するタイプ)、モバイル決済などが含まれます。

具体的な例としては、以下のようなものがあります。

  • Appleギフト
  • Google Playギフト
  • Amazonギフト
  • PayPay(PayPayマネーライト)
  • LINE Pay(LINE Cash)
  • ファミペイ

サーバ型前払式支払手段は、他の形態(紙型、磁気型、IC型)と比較して、より柔軟で即時的な取引が可能であり、スマートフォンの普及とともに急速に拡大しています。ただし、オンラインでの管理であるため、セキュリティやシステム障害への対策が重要となります。

デビットカードも前払式支払手段か

デビットカードは前払式支払手段ではなく、即時払いの決済手段に分類されます。

デビットカードと前払式支払手段の異なる点は、以下の通りです。

  1. 支払いタイミング:デビットカードは利用時に即座に銀行口座から引き落とされる即時払いです。一方、前払式支払手段は事前に代金を支払う「前払い」方式です。
  2. 法規制:デビットカードは「銀行法」の規制下にあります。前払式支払手段は「資金決済法」によって規制されています。
  3. 資金の保管方法:デビットカードは利用者の銀行口座と連動しています。前払式支払手段は発行者が管理するサーバーやカード等に価値が保存されます。
  4. 利用可能額:デビットカードは銀行口座の残高内で利用可能です。前払式支払手段は事前にチャージした金額の範囲内で利用します。

【図解】前払式支払手段

文字で説明しても、分かりにくかったと思います。

金融庁資料に分かりやすい図を見つけましたのでご紹介しておきます。

(注2)一般社団法人日本資金決済業協会「第22回発行事業実態調査統計(令和元年度版)」に基づき金融庁算出。発行額ベース(自家型・第三者型の合計)。

 

上記の図及び(注2)については、「金融庁説明資料(近年の資金決済制度の動きについて)」 2023年5月24日/5頁/最終アクセス250318から抜粋しました。

前払式支払手段に対する規制


前払式支払手段の払戻し(換金、おつり)の禁止

前払式支払手段の払戻し(換金、おつり等)は、一定の場合を除き、原則として払戻しを禁止しています。

前払式支払手段の払戻しが原則として禁止されているのは、以下の2つの理由からです。

  • 出資法との関係:前払式支払手段を自由に払い戻せるようにすると、預貯金等と同様の経済的性質を持つことになり、出資法で禁止されている「預り金」に該当するおそれがあります(出資法2)。これは、銀行業との区別を明確にするためです。
  • 発行者の財務健全性の確保:払戻しを自由に認めると、発行者の資金繰りに影響を与え、財務の健全性を損なう可能性があります。これは、前払式支払手段の利用者保護の観点から望ましくありません。

例外的に払戻しが認められるのは、以下のケースです(資金決済法20Ⅰ)。

  • 発行業務の全部または一部を廃止する場合
  • 登録を取り消された場合

これらに該当して払戻手続きを行う場合、公告、財務局長への届出、60日以上の払戻申出期間の設定などが必要とされます(資金決済法20Ⅱ)。

発行保証金とは

発行保証金とは、前払式支払手段の発行者が、その発行する前払式支払手段の残高に応じて供託しなければならない保証金のことです(資金決済法14)。

目的
  • 利用者保護:発行者が破綻した場合に、前払式支払手段の保有者が発行保証金から優先的に払戻しを受けられる。
  • 信頼性確保:ギフト券や電子マネーなどの前払式支払手段に対する利用者の信頼を確保する。
供託義務 
  • 基準日(毎年3月31日と9月30日)の未使用残高が1000万円を超える場合に供託義務が発生(資金決済法14、資金決済令6)。
  • 未使用残高の2分の1以上の額を供託する必要がある(資金決済法14Ⅰ)。
保全方法
  • 金銭による供託:現金を最寄りの法務局に供託(資金決済法14Ⅰ)。
  • 債券による供託:国債証券、地方債証券などを供託(資金決済法14Ⅲ)。
  • 発行保証金保全契約:銀行等の金融機関と契約を締結(資金決済法15)。
  • 発行保証金信託契約:信託会社等と契約を締結(資金決済法16)。
特例
  • 届出により、6月30日と12月31日を加えた年4回を算定基準にできる(資金決済法29の2)。未使用残高の変動が大きい場合には、算定基準日を増やすことで、過大な額を半年間供託し続ける義務を軽減することができます。

発行保証金制度は、前払式支払手段の利用者を保護し、市場の健全性を維持するための重要な仕組みとなっています。

自家型発行者/第三者型発行者とは

「自家型前払式支払手段」と「第三者型前払式支払手段」という分類もあります。

  自家型前払式支払手段 第三者型前払式支払手段
定義  発行者(および密接関係者)からの商品やサービスの購入にのみ使用可能(資金決済法3Ⅳ) 発行者以外の第三者からの商品購入やサービス提供にも使用可能(資金決済法3Ⅴ)
具体例

自社店舗のみで使える回数券、ギフト券

オンラインゲームでの課金(ゲーム内通貨)

大手鉄道会社のICカード

電子マネー

規制該当要件 基準日未使用残高が1,000万円を超えた場合 第三者型前払式支払手段を発行しようとする場合
規制内容

内閣総理大臣への(事後)届出

(資金決済法5)

内閣総理大臣への(事前)登録

(資金決済法7)

発行保証金 基準日未使用残高が1,000万円を超えた場合には供託が必要(資金決済法14)

登録時に供託が必要

(資金決済法14)

情報提供義務 あり(資金決済法13) あり(資金決済法13)
払戻し

原則禁止

例外あり

(資金決済法20)

原則禁止

例外あり

(資金決済法20)

義務違反効果 刑事罰が規定されている(法107以下)。 刑事罰が規定されている(法107以下)。

前払式支払手段に該当するか<フローチャート>


事業者としては、できれば供託義務(資金決済法14)は回避したいところです。

内閣総理大臣への届出(資金決済法5)や、登録(資金決済法7)も避けたいですよね。

下記フローチャートを使って、前払式支払手段に該当しないようビジネスを構築するのも一つの手です。

発行の際、利用者から対価を受け取るか?   資金決済法の適用外(資金決済法3Ⅰ)
 ▼ 受け取る場合    
有効期限は発行日から6か月を越えるか?

超えない場合

資金決済法の適用外(資金決済法4②、資金決済令4Ⅱ)
 ▼ 超える場合    
発行者(又は発行者と密接な関係がある者)から商品の購入やサービスの提供を受ける場合に限り使用できるか?

限定しない場合

第三者型前払式支払手段発行者に該当します。

発行前に登録義務、供託義務が発生します。

高額電子移転可能型前払式支払手段に該当しないか確認し、該当する場合には、義務が追加されます。

 ▼ 限定して使用できる場合    
基準日(毎年3月末、9月末)未使用残高は1,000万円を超えるか?

超えない場合

現時点では資金決済法の適用外。

基準日において1,000万円を超えた場合には、自家型前払式支払手段発行者として基準日から2か月以内に届出と供託が必要。

 ▼ 超える場合    

自家型前払式支払手段発行者に該当します。

届出義務、供託義務が発生します。

   

 

上記、フローチャートについては、一般社団法人日本資金決済業協会HP「前払式支払手段発行業の概要」最終アクセス250318及び岡本直也(著)『チェックリストでわかる 実務家・企業のためのスタートアップ法務(サンプル書式ダウンロード特典付)』日本加除出版/2024/248頁を参照しました。

高額電子移転可能型前払式支払手段とその規制


高額電子移転可能型前払式支払手段は、2023年施行の改正資金決済法で新設された規制対象です。

高額取引におけるマネーロンダリング防止等を目的としています。

高額電子移転可能型前払式支払手段の要件

下記すべての要件に該当した場合には「高額電子移転可能型前払式支払手段」として規制を受けます(資金決済法3Ⅷ、前払式支払手段に関する内閣府令5の2ⅠⅡ)。

要件➊ 第三者型前払式支払手段(他店で使えるタイプ)であること。

要件➋ 未使用残高が前払式支払手段記録口座に記録されるものであって、電子情報処理組織を用いて移転をすることができるもの。

要件➌ 未使用残高が高額であるもの(下表のいずれかに該当するもの。)

  残高譲渡型 番号通知型 ブランドプリペイドカード型

アカウント間で残高を移転可能 固有番号(ID番号等)を通知すれば価値を移転可能なもの クレジットカード会社の決済システムを利用して支払いができるプリペイドカード
銀行口座連動型電子マネー

Appleギフト

Google playコード

 

下記①か②のいずれかに該当

①移動可能な未使用残が1件当たり10万円超

②1月間の未使用残総額が30万円超のいずれかに該当

下記①か②のいずれかに該当

①口座に記録可能な未使用残が1件当たり10万円超

②1月間の未使用残総額が30万円超

下記①から④の全てに該当

①記録可能な1月間の未使用残総額が30万円超

②登録商標が付与されている

③加盟店での利用可能な1月間の未使用残総額が30万円超

④証票等がなくても、使用が可能であること。

高額電子移転可能型前払式支払手段に対する規制

高額電子移転可能型前払式支払手段に該当した発行者には、次の義務が生じます。

  • 事前届出義務:業務実施計画を財務局へ提出する義務(資金決済法11の2、前払式支払手段に関する内閣府令20の2)
  • 犯罪収益移転防止法に基づく特定事業者としての義務(犯収法2Ⅱ30号の2)
    • 取引時確認等を行う義務(犯収法4)
    • 確認記録の作成義務、7年間保存する義務(犯収法6)
    • 取引記録等の作成義務、7年間保存する義務(犯収法7)
    • 疑わしい取引の届出義務(犯収法8)

参考文献等


以下の文献等を参照しました。