契約は、申込と承諾によって成立します。
「この時計を〇万円で『買って』くれないか」という申込のときもあれば、
「その時計を〇万円で『売って』くれないか」という申込のときもあります。
これらに対して、「いいよ」という承諾をすることで契約が成立します。
ところが、契約当事者が遠方にいるときもあれば、回答を保留することもありえます。
そんなときに、契約は成立しているのか、成立していないのかを法律は定めています。
契約が成立していれば、売主は買主に対して売った物を渡す義務が発生していることになりますし、買主は売主に対して代金を支払う義務が発生していることになります。
意思表示が到達するまでに時間を要する者を「隔地者」と、要しない者を「対話者」と言います。
空間的な距離ではなく「時間」が判断基準となります。
目の前にいる会話の相手 | 対話者 |
電話の相手 | 対話者 |
通信販売 | 隔地者 |
郵便の相手 | 隔地者 |
承諾期間の定め | ||
無 | 有 | |
対話者間 |
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隔地者間 |
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原則 | 例外 | |
対話者間 |
商法に定めなし=民法の規定どおり【1】 |
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隔地者間 |
相当の期間が経過すれば、申込は効力を失う(商法508Ⅰ)。 申込者は、遅延した承諾を新たな申込とみなすことが可能(商法508Ⅱ、民524)。 |
「平常取引をする者からその営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは」遅滞なく回答をする必要がある。 回答しなければ承諾をしたものとみなされる (商法509)【2】 |
【1】改正民法の施行により商法507条「直ちに承諾がなければ申込は効力を失う」は削除されました。改正前の商法507条は、一般原則となって民法525条3項になっています。
【2】商法509条は、隔地者間の、承諾の期間の定めのない申込みに関するもので、対話者間の場合は、507条によって解決される(山崎悠基/別冊法学セミナー基本法コンメンタール[第4版]商法総則・商行為法/服部榮三・星川長七編/日本評論社/2001年/94頁)。
ネット通販では、消費者がこの商品を買いたいと思い、必要な情報を入力して、クリックすると売買契約を「申込」したことになり、事業者がこれを「承諾」すると契約が成立します。
電子消費者契約法が規定していますが、令和2年4月1日施行の改正民法と同時に下記改正が行われました。
民法の一般原則 | 電子消費者契約の場合の例外 | ||
民法の規定 | 法の規定 | 法律の名称 | |
改 正 前 民 法 |
隔地者間契約では承諾の意思表示を発信したときに契約が成立する。 (承諾の意思表示は相手方への到達は不要) |
電子契約では、承諾の意思表示は、到達が必要 |
電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律 |
▼意思表示は到達が原則になった | ▼例外が例外でなくなったので条文を削除 | ▼承諾通知に関する規定が削除されたので法律名も変更した | |
改 正 後 民 法 |
隔地者間契約でも承諾意思表示も到達しないと契約は成立しない。 (意思表示の到達主義の徹底) |
旧4条は削除 |
電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律 |
また、電子消費者契約法は、事業者が注文内容を確認して訂正できる画面を設けるなど、事業者が操作ミスを防止するための措置(例えば、入力完了後、確認画面を設けるなど)を講じていないときは、消費者に数字の入力ミスなど重大な過失があっても契約を無効とすることができる旨規定しています(電子消費者契約法3)。
消費者であっても次のような場合には、電子消費者契約法の保護を受けられませんのでご注意ください。