契約書の条項は、難しいです。
ここでは、契約書における「損害賠償」の定め方を詳しく解説していきます。
もくじ | |
|
「契約自由の原則」も、今となっては昔の話。
下記の法律がそれぞれ「損害賠償の範囲」に対して法規制を設けていますので、ご注意ください。
消費者契約法(以下「消契法」といいます。)は、事業者が消費者との間で契約をするときに適用される法律です。
消契法は、下記2つの事項を規制しています。
「事業者の消費者に対する損害賠償責任を制限する条項」のうち、下記のものは無効 | |
|
|
「消費者の事業者に対する損害賠償額又は違約金を定める条項」のうち、下記を超える部分は無効 | |
|
下記関係が成り立つときには、遅延損害金が当然発生し、遅延損害金の利率も年14.6%と法定されています(下請法4の2→下請代金支払遅延等防止法第4条の2の規定による遅延利息の率を定める規則)。
親事業者 | 下請事業者 | |
ⅰ ・物品の製造委託 ・修理委託 ・情報成果物委託(プログラムの作成に限る) ・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る) |
資本金3億円超の法人事業者 | 資本金3億円以下の法人事業者(又は個人事業者) |
資本金1000万円超3億円以下の法人事業者 | 資本金1000万円以下の法人事業者(又は個人事業者) | |
ⅱ ・情報成果物委託(プログラムの作成を除く) ・役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理を除く) |
資本金5000万円超の法人事業者 | 資本金5000万円以下の法人事業者(又は個人事業者) |
資本金1000万円超5000万円以下の法人事業者 | 資本金1000万円以下の法人事業者(又は個人事業者) |
フリーランス保護法には、損害賠償の範囲を規制する規定はありません。
フリーランスに仕事を依頼するときの「支払期日」は、依頼者はフリーランスから納品を受けた日(依頼内容が商品の納品ではなく、サービスの提供の場合は、フリーランスからサービスの提供を受けた日)から起算して60日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければなりません(フリーランス保護法4)。
民法第548条の2、第2項 | |
|
そして、「信義則に反して相手方の利益を一方的に害する条項と解され得る場合」として経済産業省は、以下の3つの例を挙げています。
故意・重過失の場合に、事業者の責任を一部でも免責する条項は無効となる可能性がある。
ジェイコム株式誤発注訴訟
東京地裁H21.12.4判決(判タ1322号149頁)
東京高裁H25.7.24判決(判タ1394号93頁)
東京高裁平成25年7月24日判決(判タ1394-93) | |
|
東京高裁平成25年7月24日判決(判タ1394-93) | |
|
契約書では、立場によって望ましい条項が変わるということを何度かお話ししてきました。
各立場で望ましい条項で、なおかつ、上記の法規制をクリアした条項を次のとおりご紹介します。
委託者側は、損害賠償請求を受ける可能性は低いですので、損害賠償請求できる範囲を目一杯大きくした次のような条項が考えられます。
損害賠償請求の範囲を最大化する条項例〔ひな型①〕 | |
甲又は乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えたときは、相手方に対し、これにより生じた一切の損害(特別損害及び弁護士費用を含むが、これらに限られない。)につき賠償する責任を負う。 | |
こちらの条項例では、予見すべきとはいえない「特別損害」や、債務不履行に基づく損害賠償請求では認められない「弁護士費用」も請求できるようにしています。 |
ひな型①に違約金も設けた条項例〔ひな型②〕 | |
甲又は乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合には、相手方に対して、違約金として金●円の損害を賠償する責任を負う。ただし、相手方に当該金額を超える損害(特別損害及び弁護士費用を含むが、これらに限られない。)が発生したときは、損害を与えた当事者は、相手方に対して、当該超過額につき賠償する責任を負う。 | |
こちらの条項例では、違約金の額を定めるとともに、実際に生じた損害額が違約金の額を超えるときには、その超過分も請求できるとしています。委託者側に有利な条項です。 |
受託者側は、相手方が消費者であるか、事業者であるかによって、使い分けが必要になります。
サービス利用者に「消費者も事業者も想定」される場合(定型約款等)〔ひな型③〕 | |
|
|
こちらの例では 「第1項」で、受託者側から委託者側に対する損害賠償請求額が大きくなるようにしつつ 「第2項」で、委託者側から受託者側に対する損害賠償請求額を抑制し、 「第3項」で、委託者が事業者である(消費者でない)場合には、「第2項」よりもさらに委託者側から受託者側に対する損害賠償請求額を抑制しています。 |
サービス利用者が「消費者」である場合〔ひな型④〕 | |
|
|
こちらの条項例では、一つ上の例から「第3項」を削除しています。 |
サービス利用者が「事業者」である場合〔ひな型⑤〕 | |
|
|
こちらの条項例では、 まず「第1項本文」で①軽過失免責、②直接かつ現実に生じた「通常損害」に限定した(「特別損害」は賠償範囲外とした)うえで、 「第1項ただし書」で損害賠償額の上限を設け、 「第2項」で損害賠償請求できる期間を制限しています。 |