コロナなどで延期していた株主総会や社員総会を開催する際に注意すべき事項~基準日を定めるべきか否かの判断基準


コロナで延期していた定時株主総会を開催しようと思うけれど、何か追加の手続は必要だろうか?

ここではそんな疑問に回答します。

 

「基準日公告」

株主総会において議決権を行使できる株主は、決議の際に株主名簿に記載された方ですが、株主には変動を生じる可能性があり、こうした株主を確定するために基準日制度が設けられています(会124Ⅰ)。基準日はあらかじめ定款で定めておくこともできます。臨時総会開催のために基準日を定める場合には、会社は基準日株主が行使できる権利内容を定める必要があり(会124Ⅱ)、2週間前までに所定の事項を公告することにより基準日を定めることもできます(会124Ⅲ)。ただし、非公開会社(譲渡制限会社)では株主の変動は少なく、株式譲渡を会社に対抗するためには会社への株式譲渡承認請求を行う必要があるため、会社はいつでも株主を確定できるため、基準日を定める必要がないのが一般的です。

もくじ
  1. 定時株主総会を1回飛ばしても大丈夫か?!
  2. 定時総会を通常開催すべき時期に遅れて開催する場合、何か特別な手続は必要か?
  3. 「基準日」を定めるべきか否かの判断基準
  4. 「基準日」公告を行なってから株主総会を開催する場合の流れ

定時株主総会を1回飛ばしても大丈夫か?!


ダメだという話はコチラでさせていただきました。

通常開催すべき時期に遅れていても定時株主総会を開催しておくべきです。

定時株主総会を通常開催すべき時期に遅れて開催する場合、何か特別な手続は必要か?!


結論

  株主少数

株主多数

基準日を定めず

(株主総会当日の株主を議決権行使できる株主として)

株主総会を招集・開催すればよい。 

同左

金額も確定的で一度きりの「基準日公告をするコスト」と、

流動的で複数回ありうる「再度招集通知を送るコスト等」を

見比べて、決める

基準日を設定し、

基準日公告を行う。

のちほど、「判断基準」も含めて、詳しく解説します。

貴社定款をご覧ください。

会社によって条数は違いますが、「株主の章」又は「株式の章」の末尾、10条あたりに次のような規定があると思います。

定款第10条(基準日)

1 当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を行使することができる株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。

2 前項のほか必要があるときは、取締役の過半数の決定によりあらかじめ公告して臨時に基準日を定めることができる。

第1項は定時株主総会で議決権を行使できる株主を決算期時点で株主名簿に記載ある株主であると、定時総会の基準日を規定しています。

第2項は臨時の基準日を定める方法を規定しています。

基準日とは何か?!

会社法は、株主に権利(配当を受ける権利、株主総会に議決権を行使する権利など)を付与する場合には、何月何日時点の株主に与えるかを定めることとしています。

この「何月何日」を基準日といいます。

会社法第124条(基準日)

1

 

 

株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる。

2

 

基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から3か月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならない。

3

 

 

株式会社は、基準日を定めたときは、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び前項の規定により定めた事項を公告しなければならない。ただし、定款に当該基準日及び当該事項について定めがあるときは、この限りでない。

4

 

 

基準日株主が行使することができる権利が株主総会又は種類株主総会における議決権である場合には、株式会社は、当該基準日後に株式を取得した者の全部又は一部を当該権利を行使することができる者と定めることができる。ただし、当該株式の基準日株主の権利を害することができない。

5

(略)

基準日に関しては、間違っている常識があります!

突然ですが、以下の2つは「間違っている常識」です。

【間違い】定時株主総会で議決権を行使できる株主=事業年度末日の株主

【間違い】定時株主総会の開催時期=事業年度末日から3か月以内

正しくは、次の通りです。

【正解】株主総会で議決権を行使できる株主

=株主総会当日の株主。基準日を定めた場合のみ基準日の株主。

そして、招集通知は株主名簿に記載された(議決権を行使することができる)株主に対して行う必要があります(会130)。

 

ところで、株式譲渡制限がない株式の場合には、株式譲渡を自由に行うことができます(会127)。招集通知を送付した株主が、株主総会前に株式を譲渡してしまうと、会社は、議決権を行使できる株主に対して招集通知を送付していないことになってしまいます【1】。議決権を有している株主に対して招集通知を行っていない場合には、招集手続に瑕疵があることになり、有効に株主総会を開催することができなくなり、最悪な場合には、株主総会決議が後日取り消される可能性もあります(株主総会決議取消の訴え)。

【1】ただし、株主総会前に株主名簿の名義書き換えが未了ならば、会社は株式譲渡をなかったものとして従前の株主(譲渡人たる株主)を株主であるとして取り扱うことができます(会130)。

 

このような事態を避けるために考えられたのが「基準日」制度です。

「この権利を行使できる株主は〇月〇日の株主名簿に掲載されている株主です」と前もって決めておくのです。

基準日を定めたときには、株主(特に、名義書換未了の株主)に対して、基準日と基準日に行使できる権利内容を知る機会を与えるために、以下いずれかの方法が必要です(会124Ⅲ)。

(A)基準日を定款で定める。

(B)基準日を定めて、基準日の2週間前までに公告する。

会社は、(B)の公告には手間と費用がかかるから回避したいということで、

①開催時期が毎年変わらない「定時株主総会について、基準日を毎事業年度末日」と定款に定める実務が広がりました。具体的には、次のように定めます。

定款第10条(基準日)

1 当会社は、毎事業年度末日の最終の株主名簿に記載又は記録された議決権を行使することができる株主をもって、その事業年度に関する定時株主総会において権利を行使することができる株主とする。

また、基準日と権利行使日が離れすぎているのは良くないので、3か月以内と期間制限がなされている(会124Ⅱ)ところから、

②定時株主総会は、決算期から3か月以内という実務が広がりました。具体的には、次のように定めます。

貴社定款第9条(招集)

定時株主総会は、毎事業年度の終了後3か月以内に招集し、臨時株主総会は、必要がある場合にはいつでも招集することができる。

基準日を定めた場合、なぜ公告や定款記載する必要があるのか?!

株式の譲渡制限を設けている会社であれば、株主が株式を第三者に譲渡しようとすると会社の承認を得る必要があるので、会社も株主の変動を把握することが可能です(株式譲渡制限会社の株式譲渡の流れはコチラをご参照ください。)。

一方で、株式譲渡制限がなされていない会社であれば、株主が第三者に株式を売却していても株主名簿の名義変更を請求してこない限り、会社は株式譲渡を知ることはできません。

そこで、名義変更未了の株主に対してもお知らせするために、臨時の基準日を定めたときは公告する必要があるとされているのです。株主名簿に掲載された株主に個別通知を送ったとしても名義変更未了株主は「臨時基準日が設定されたことを」知ることが出来ないからです。

 

公告を欠いたあるいは公告日から基準日までの期間が2週間に不足する基準日の設定は、無効であると解されています(志谷匡史著/酒巻俊雄・龍田節編集代表/逐条解説会社法⑵202頁)。

また、公告を欠いた場合、代取には100万円以下の過料を課される可能性があります(会976②)。

 

一方、定款にこれらの基準日などの定めがあるときは、株主になろうとする者もこれらの情報を知ることができるので、公告は必要とされていません。

「基準日」を定めるべきか、否かの判断基準


株主総会を開催する際、基準日を定める必要性はありません。

(会社法上、基準日を定める必要があるのは「株式分割」の場合のみです〔会183Ⅱ①〕)

 

基準日を定めなければ、基準日公告をする必要もありません。

 

  株主少数

株主多数

基準日を定めず

(株主総会当日の株主を議決権行使できる株主として)

株主総会を招集・開催すればよい。 

同左【1】

金額も確定的で一度きりの「基準日公告をするコスト」と、

流動的で複数回ありうる「再度招集通知を送るコスト等」を

見比べて、決める【2】

基準日を設定し、

基準日公告を行うべき。

基準日を設けず株主総会招集通知を送った直後に・・・

 

【1】株式譲渡制限のある会社:「株式譲渡承認」請求がきた場合、どうなるか?

☛株式譲渡承認を、株主総会後にすればよい(それまでは株式譲受人は株主になっていない)から問題ない。

 

【2】株式譲渡制限のない会社:「株主名簿名義書換」請求がきた場合、どうなるか?

☛その新株主に再度招集通知を送付しても、招集通知⇔株主総会までの期間が確保できれば問題ない。そうでないときは再度株主総会の日程を調整したうえ、全株主に株主総会招集通知の再送付が必要になる。

結局、金額も確定的で一度きりの「基準日公告をするコスト」と、流動的で複数回ありうる「再度招集通知を送るコスト」を見比べて、決めることになります。

「基準日公告」を行なってから株主総会を開催する場合の流れ


取締役会決議

次の事項を決議します。

1.株主総会を招集(いつ招集するかは、官報申込み~掲載までのタイムラグも十分に検討して)

2.株主総会の議題及び議案

3.基準日をいつにするか(総会から3か月以内開かないよう注意)

公告を申込み

「会社が公告をする方法」として定款に定められた(登記簿にも記載されています)新聞に公告掲載の申込みをします。

申込み~掲載は7日程度要しますので、余裕をもって基準日を定め公告を申込みます。

基準日設定の公告(兵庫県官報販売所HPより)
基準日設定の公告(兵庫県官報販売所HPより)

公告が掲載される

公告は基準日の2週間前に掲載されている必要があります(会社法124Ⅲ)。

基準日=株主総会招集通知の発送

基準日時点の貴社株主名簿記載の株主が、次の株主総会で議決権を行使できる株主です。この株主に株主総会招集通知を発送します。

株主総会開催

基準日から3か月以内(会社法124Ⅲ)

司法書士の報酬・費用


以下は、株主総会で承認すべき議案が決算承認のみである場合の例です。

登記すべき事項がある場合、別途お見積いたします。コチラもご参照ください。

 

また、顧問契約を締結いただいている場合、割引きがございます。

業務内容 司法書士の報酬 実費
取締役会で決定すべき事項アドバイス

基準日の設定

基準日設定公告の申込み

株主総会議事録の作成

88,000円(税込)

官報で基準日公告をする場合

40,000円

招集通知原案作成

招集通知発送代行

発送報告書作成

33,000円(税込)/議案

+株主数×1,100円(税込)

株主数×特定記録郵便費用

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