合併に関する制限


会社の合併が制限されることがあります。

まず、合併が制限される4つのパターンをご説明したのち、関連論点についてご説明します。

清算手続き中の会社を存続会社とする合併はできません。


清算手続き中の会社を存続会社としたいときには、清算手続き中の会社を会社継続してから、合併手続きを行います。

会社法第474条(解散した株式会社の合併等の制限) 

株式会社が解散した場合には、当該株式会社は、次に掲げる行為をすることができない。

一 合併(合併により当該株式会社が存続する場合に限る。)

有限会社を存続会社とする合併はできません。


すでに新規設立ができなくなっている有限会社の数を徐々に減らしていくための制限です。

有限会社を存続会社としたいときには、有限会社を株式会社に商号変更してから、合併手続きを行います

会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律37条(合併の制限)

特例有限会社は、会社法第749条第1項に規定する吸収合併存続会社又は同法第757条に規定する吸収分割承継会社となることができない。

異なる法人間の吸収合併、新設合併の可否


異なる法人間の吸収合併・新設合併はできないことがあります。

詳細は、下記リンク先をご参照ください。

大規模な合併の場合、独禁法による事前届出が必要な場合もあります。


企業結合規制の基本的な考え方(公正取引委員会HPより)
企業結合規制の基本的な考え方(公正取引委員会HPより)

事前届出が必要な場合

企業が合併することによって、市場を支配する(価格や供給量)ことを抑止するために、合併前に公正取引委員会に届出することを求めています。

合併に関係する全ての会社が、同一の企業結合集団に属している場合は、届出は不要です。

合併する一社   かつ   別の一社
国内売上高合計額【1】200億円以上 国内売上高合計額50億円以上

【1】「国内売上高合計額」とは,会社の属する企業結合集団【3】に属する会社等の国内売上高をそれぞれ合計したものをいいます。なお,届出会社の国内売上高が存在しない場合であっても,要件を満たし,届出が必要となる場合があります。

【2】合併当事会社が3社以上ある場合であって,当事会社の中に「国内売上高合計額200億円超の会社」が最低1社と「国内売上高合計額50億円超の会社」が最低1社ある場合は,他の会社が国内売上高合計額50億円以下の会社であっても,合併当事会社全社による届出が必要となります。

【3】「企業結合集団」とは,会社及び当該会社の子会社【4】並びに当該会社の最終親会社(親会社【5】であって他の会社の子会社でないものをいいます。)及び当該最終親会社の子会社(当該会社及び当該会社の子会社を除きます。)から成る集団をいいます。ただし,当該会社に親会社がない場合には,当該会社が最終親会社となりますので,当該会社とその子会社から成る集団が企業結合集団となります。

【4】「子会社」とは,会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該他の会社等をいいます。

【5】「親会社」とは,会社が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合における当該会社をいいます。

 

以上、独禁法15Ⅱ、独禁法施行令18、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第九条から第十六条までの規定による認可の申請、報告及び届出等に関する規則5条

事前届出を怠った場合の効果

  1. 公正取引委員会は、合併無効の訴えを提起することができます(独禁法18Ⅰ)
  2. 何人も、違反事実があると思料するときは、公正取引委員会に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができます(独禁法45Ⅰ)。
  3. 200万円以下の罰金に処されることがあります(独禁法91条の2⑤)

債務超過会社を当事者とする合併は可能です。


まず、債務超過会社を「存続会社」とする合併が問題なくできることについては疑義はありません。
次に、債務超過会社を「消滅会社」とする合併については、旧商法時代は争いがあったが、現在はできると解されています。

  • 旧商法時代は、資本充実原則との関係から、債務超過会社を吸収合併できないとされていましたが、時価で債務超過でなければよいとされていました。会社法では、いかなる意味で債務超過でも組織再編に支障がないとされ(相澤ほか・論点解説672頁ほか多数)、登記実務も認めています。肯定された原因の1つには、時価での債務超過の概念がはっきりしなかった点もあると思われます。また、合併手続面においても、債務超過会社は存続会社になれるのに、消滅会社にはなれないというのも、納得できない部分がありました。いずれにせよ、企業所有者である株主の多数が『それでもよい』と決議した限りは、債権者保護手続もなされるわけですから、債務超過を問わず、合併する価値を認めて組織再編を肯定すべきでしょう。」
    (神﨑満治郎・金子登志雄・鈴木龍介 編著『商業・法人登記500問』(テイハン、2023年)444頁)
  • 平成17年改正前商法の下では,伝統的に,資本充実の原則を理由として,債務超過会社を消滅会社とする合併は認められないという考え方が通説であり,登記上の取扱いとしても,債務超過の状態にある株式会社を消滅会社とする合併については,登記申請が受理されないという取扱いがなされていた。これに対して,会社法では,債務超過の状態にある会社であって,合併差損が生じる場合でも消滅会社となり得ることを認めているが(795条2項1号),これが,(a)(従前から実務上行われていたように)簿価上は債務超過であっても評価替え等を行えば(実質的に)債務超過ではなくなる会社を消滅会社とすることを明文上認めたに過ぎないものか,それとも(b)評価替え等をしても実質的にも債務超過の会社(企業価値がマイナスの会社)についても吸収合併等が認められるのかという点については,会社法の条文からは明らかではなく,解釈に委ねられているところである。」(宍戸善一 (一橋大学教授)/監修 岩倉正和 (一橋大学教授・弁護士),佐藤丈文 (弁護士)/編著『会社法実務解説』(有斐閣、2011年)497頁)
  • 債務超過会社や収益性の悪い会社を吸収合併することにより、株価の引下げを期待することができます。もともと、債務超過会社との吸収合併は認められていませんでしたが、平成18年の会社法施行により取締役が株主総会でその旨を説明した上で株主総会の承認を得ることにより合併が可能となりました(会社795②)。債務超過の会社を吸収合併すると、合併後、存続会社は従来に比べて収益性が低下し、利益が減少します。類似業種比準価額による評価は会社の利益の伸びに応じて上昇しますので、利益が減少すれば評価額は下がります。また、債務超過会社を吸収しますから会社全体の純資産額も減少しますので、純資産額によって時価が評価される場合も株価が下がることになります。」
    (大西隆司(弁護士)著『相続対策別 法務文例作成マニュアル -遺言書・契約書・合意書・議事録」-』(新日本法規出版、2020年)235頁)
  • 「合併の当事者の問題の1つとして,債務超過会社を消滅会社とする吸収合併の可否が問題となる。
    まず,形式的債務超過の会社を消滅会社とする場合(帳簿価額ベースで存続会社が承継する債務の額が承継する資産の額を超える場合)でも,合併を行うことは認められている。会社法は,消滅会社が形式的債務超過である場合について,存続会社の株主総会における取締役の説明義務などの手続的規定(会社795条2項1号)を設けており,消滅会社が形式的債務超過である吸収合併の存在を前提としている。
    これに対し,実質的債務超過の会社を消滅会社とする場合(資産を時価で再評価した場合に債務額が資産額を超過する状態である場合)の吸収合併の可否については見解が分かれている。資本充実の観点からできないとする見解も存するが,完全親会社が存続会社となる場合のように存続会社が合併対価を交付しない形であれば,実務上のニーズもあり,認めて差し支えない(その場合,存続会社は実質的に無償の債務引受けをすることとなるが,反対株主は株式買取請求権が与えられ,また,債権者は異議を述べることができる)とする見解や,会社法の明文の規定による禁止規定が存在しないことや,会社法では,少なくとも形式的債務超過の会社を消滅会社とする吸収合併が明文で認められているところ,消滅会社の資産の評価については絶対的な基準がないことなどを考慮し,法的安定性の観点から消滅会社が実質的債務超過か否かにかかわらず,存続会社が株式を発行する類型の吸収合併を行うことも可能とする見解などが存する。
    実務上,組織再編といった組織法上の行為については,単なる取引行為以上に法的安定性が求められるところ,明文の禁止規定が存在せず,株主・債権者の保護についても一定の手当が講じられていることからすれば,実質的債務超過の会社を消滅会社とし,存続会社が合併対価を交付する合併であっても認められるものと解されるべきである。
    ただし,消滅会社の財政状態・経営成績や事業の将来予測等に鑑みて,消滅会社を吸収して消滅会社株主に対価を交付することが存続会社において経済的観点から正当化し難い場合,合併の可否の問題とは別に,存続会社において,取締役の善管注意義務上の問題がないのか,株主の賛同が得られるのか,株主の株式買取請求権や債権者の異議権が行使されることとならないのかといった観点から,慎重な検討が必要となると考えられる。」
    (森・濱田松本法律事務所/編『M&A法大系』(有斐閣、2015年)642頁以下)

人気の関連ページ