平成17年からその歴史が始まった合同会社。
当初と比べると相当に社会的に認知されましたが、やはり求人には弱いなどの理由から株式会社への組織変更の依頼が増えてきました。
分かりやすく、実務上の注意点も交えてご説明します。
もくじ | |
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小規模で出資者と役員が原則一致する形態である合同会社では使うことが出来なかった会社法のスキームを全て使うことができるようになります。
合同会社では、自己株の取得が認められませんでしたが、株式会社では自己株の取得を行なうことが出来ます。
反対株主から自己株を取得するなど、議決権対策が可能になります。
合同会社では、社内留保(利益剰余金)をいくら分厚くしていたとしても、それを資本金に組入れて登記簿に表示することが出来ません。そのため、資本金を聞かれたときに、小さい資本金で恥ずかしい思いをしたこともあるかもしれません。
株式会社になれば、利益剰余金の資本組入れをすることが出来ますので、貴社を実体に合わせた規模に見せることができます。
株式会社との比較で見ていくと次のとおりです。
〇=メリット、×=デメリット
合同会社 | 株式会社 | |
設立コスト |
〇定款認証費用:不要 〇登録免許税:6万円 |
×定款認証費用:6万円ほど ×登録免許税:15万円 |
役員任期
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なし 〇役員変更コストが掛からない。 ×司法書士にあれこれ相談できる機会を失う。 |
2~10年 ×役員変更コスト(5-6万円)が任期ごとに掛かる。 〇司法書士にあれこれ相談できる機会がある。 |
決算公告 | 〇決算公告義務なし |
△決算公告義務あり(会440)。但し、実施している企業は少ない。 |
配当 |
〇出資割合ではなく、自由に割合を決めることができる。 |
×原則:持株割合に応じてしか配当できない。例外:種類株式。 もっとも、配当ではなく役員報酬でとることの方が多い。 |
知名度 | △まだ低い | 〇 |
求人 | △苦戦することもあり得る。 | 〇 |
出資者の責任 | 〇有限責任 | 〇有限責任 |
出資者の議決権 |
原則:1人1票 例外:定款で出資比率に応じて議決権を有することも可。 |
原則:1株1票 例外:種類株式 |
上場 |
×合同会社のままでは上場できない。 |
〇上場することができる。 |
一括申請:1通の申請書にまとめて記載して申請できる登記のことです。
同時申請:1通の申請書には記載できないが、別々の申請書に記載して同時に申請できる登記のこと。連件申請ともいいます。
この一括申請を出来るか否かと、一括申請できる場合に登録免許税が加算されるか否かは下表のとおりです。
登記の種類 | 一括申請の可否 | 登録免許税の加算 |
商号変更 | 可能 | 加算なし |
目的変更 | 可能 | 加算なし |
役員変更 | 可能【1】 | 加算なし【0・1】 |
株主名簿名義書換代理人 | 可能【1】 | 加算なし【1】 |
本店移転(同一管轄内) | 不可能【1】。同時申請可能【2】 | ー |
本店移転(別管轄へ) | 不可能【1】。同時申請不可【2】 | ー |
資本金の額の変更登記 | 不可能。同時申請可能【3】 | ー |
【0】愛知県司法書士会「名古屋法務局愛知県司法書士会商業・法人登記研究会協議結果等解説集」122p
【1】ところで、この代表取締役の選定手続は、組織変更とは別手続となり、登録免許税も、組織変更と代表取締役の選定の2つとなるのかという疑問が生じるが、代表取締役を選定しない限り、組織変更による設立の登記申請も不可能であるから、登録免許税法上は設立の登記として一括して差し支えない。株主名簿名義書換代理人をどこにするか、その契約手続などについても、以上と同様である。
なお、組織変更というのは、会社組織の形態を変更するものであって、本店住所は変更できない。変更した場合には、組織変更及び本店移転という2つの問題となる(金子登志雄著・商業登記全書第7巻「組織再編の手続法務企画から登記まで」神﨑満治郎編集代表・中央経済社・2007年・441頁)
本店移転が一括申請できないとされているのは、組織変更前と組織変更後の会社の連続性が、登記簿上表現できなくなるためとされています。
【2】同一管轄内での本店移転の場合→組織変更登記と同時(連件)申請可能。
異なる管轄への本店移転の場合→まず旧管轄へ本店移転登記、完了後新管轄へ組織変更登記
(青山修著・補訂版商業登記申請MEMO持分会社編・新日本法規・H27・193p)
【3】登記インターネット119号128頁。
組織変更後株式会社の資本金の額は、組織変更の直前の合同会社の資本金の額とされています(会社計算規則34)ので、当然の帰結だと考えます。
最寄りの当グループ事務所にご予約ください。
合同会社の定款、決算書、株式会社の取締役となる方の印鑑証明書をお持ちください。
合同会社の株式会社への組織変更に伴ってどのようなメリット・デメリットが発生するのかご説明します。
当グループの「ご要望のお問い合わせ」にご記入をお願いします。
債権者保護手続で「官報公告+債権者への個別催告」ではなく「官報公告+定款所定公告方法による公告」を行なう場合(いわゆる「ダブル公告」)【1】で、なおかつ、現在の「定款所定公告方法が定款に掲載である場合」には、予め「定款所定」公告方法を官報以外の日刊紙に変更しておきます。
せっかく設立した会社の名前が、同業他社と同じだった場合や商標登録されている場合には、損害を賠償させられたうえ、商号を変える必要が生じることもあります。
類似商号調査が必要な理由を参照ください。
組織変更計画へ収入印紙の貼付けは不要です(印紙税法5号文書、6号文書参照)。
株式会社の定款も作成します。この定款には、公証人による認証や収入印紙貼付けは不要です。
「社員に対して交付する組織変更後株式会社の株式の割当てに関する事項(会社746⑥)」については「組織変更計画の承認には総社員の同意が必要のため出資の価額に対応する必要はなく、自由に決定してよい(金子登志雄著・商業登記全書第7巻組織再編の手続・中央経済社・2007年・430p)とされるが、出資価額と大幅に乖離した株式の割当てを行なうときには贈与税などの問題が生じ得る。
持分会社を株式会社に組織変更する場合には、事前備置は要求されていません(会社法に規定なし)
CF.株式会社を持分会社に組織変更する場合(会775Ⅰ)
組織変更計画に対する社員全員の同意。
法律では総社員の同意は、効力発生日の前日までに取得すればよいとなっていますが、実務上はあらかじめ総社員に根回しをして同意を得ておきます。
社員が1名の場合には、官報公告の申込み(債権者保護手続の開始)を先行させることで、組織変更に要する期間を短縮することができます。
申し込んでもスグに掲載される訳ではありませんので、日程に余裕をもって申込みをします。
また、債権者保護手続として定款所定公告方法をも併用する場合【1】には、当該公告方法にも忘れず申込みします。
司法書士が①株式会社の設立登記と②合同会社の解散登記を申請します。
登記完了後、司法書士から皆様へ株式会社の登記事項証明書・印鑑証明書を送付いたします。
これらの書類をお持ちくださり、銀行や役所へのお届けをお願いします。
会社計算規則34条の条文を「純資産の部」に落とし込むと下表のようになります。
合同会社の純資産の部 (会社計算規則76Ⅰ③) |
株式会社の純資産の部 (会社計算規則76Ⅰ①) |
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社員資本(76Ⅲ) | 株主資本(76Ⅱ) | ||||||
資本金 | →そのまま引継ぎ→ | 資本金 | |||||
出資金申込証拠金 | 新株式申込証拠金 | ||||||
資本剰余金 | 資本剰余金(76Ⅳ) | ||||||
× (合)に資本準備金はなし | →ゼロ円とする→ | 資本準備金 | |||||
→【1】→ | その他資本剰余金 | ||||||
利益剰余金 | 利益剰余金(76Ⅴ) | ||||||
× (合)に利益準備金はなし | →ゼロ円とする→ | 利益準備金 | |||||
その他利益剰余金 | →【2】→ | その他利益剰余金 | |||||
任意積立金 | |||||||
繰越利益剰余金 | |||||||
× (合)に自己持分はない | 自己株式 | ||||||
自己株式申込証拠金 | |||||||
評価・換算差額等(76Ⅶ) | 評価・換算差額等(76Ⅶ) | ||||||
× (合)に新株予約権はない | 新株予約権(76Ⅷ) |
【1】株式会社の「その他資本剰余金の額」は次の額
組織変更の直前の持分会社の資本剰余金の額 |
ー マイナス |
組織変更をする持分会社の社員に対して交付する組織変更後株式会社の株式以外の財産の帳簿価額(組織変更後株式会社の社債等〔自己社債を除く〕にあっては、当該社債等に付すべき帳簿価額)のうち、組織変更をする持分会社が資本剰余金の額から減ずるべき額と定めた額 |
【2】株式会社の「その他利益剰余金の額」は次の額
組織変更の直前の持分会社の利益剰余金の額 |
ー マイナス |
組織変更をする持分会社の社員に対して交付する組織変更後株式会社の株式以外の財産の帳簿価額(組織変更後株式会社の社債等〔自己社債を除く。〕にあっては、当該社債等に付すべき帳簿価額)のうち、組織変更をする持分会社がその他利益剰余金の額から減ずるべき額と定めた額 |
標準的所要時間 | |
通常(官報公告+個別催告)の場合 | 2か月 |
ダブル公告(官報公告+定款所定公告)をするために、公告をする方法の変更を先行させる場合 | +1か月 |
業務の種類 | 司法書士の報酬・手数料 | 実費 |
合同会社から株式会社への組織変更 ・株式会社の設立登記 ・類似商号の調査 ・組織変更計画の作成 ・株式会社定款の作成 ・官報公告の申込み ・株式会社の印鑑届出 ・合同会社の解散登記 |
17.6万円(税込) |
合計10万円~ |
債権者がいる場合には個別に催告書を発送する必要があります。その場合の追加費用です。 ・個別催告書発送代行 ・発送報告書 |
+債権者数×1,100円(税込) |
債権者数×特定記録郵便費用 |
個別催告を行なわず、定款所定公告方法を官報から他の日刊紙に変更したうえで公告をする場合の追加費用 ・公告方法の変更登記 ・日刊紙公告の申込み |
+6.6万円(税込) |
登録免許税:3万円 日刊紙公告費:各紙により異なりますが、官報よりも高額です。 |
【1】
登録免許税法施行規則第12条 | 計算順序 | |||||
1.法別表第一第二十四号(一)ホに規定する財務省令で定めるものは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める額とする。 | ||||||
一 (略) | ||||||
二 組織変更により株式会社又は合同会社を設立する場合 当該組織変更をする会社のイに掲げる額にロに掲げる割合を乗じて計算した額 | ❻ 円 | |||||
イ 組織変更をする会社の当該組織変更の直前における資本金の額(当該組織変更をする会社が合名会社又は合資会社である場合にあつては、900万円) | ❶ 円 | |||||
ロ (1)に掲げる額から(2)に掲げる額を控除した額(当該控除した額が零を下回る場合にあつては、零) | ❹ 円 | |||||
が(1)に掲げる額のうちに占める割合 | ❺ 円 | |||||
(1) 組織変更をする会社の当該組織変更の直前における資産の額から負債の額を控除した額(当該控除した額がイに掲げる額以下である場合にあつては、イに掲げる額) | ❷ 円 | |||||
(2) 組織変更後の株式会社又は合同会社が当該組織変更に際して当該組織変更の直前の会社の株主又は社員に対して交付する財産(当該組織変更後の株式会社の株式及び合同会社の持分を除く。)の価額 | ❸ 円 | |||||
三 (略) |
【2】合同会社の組織変更では計算書類の公告が不要ですので、株式会社の組織変更などよりも公告費用は低額です。
【3】合同会社名義で不動産などを保有している場合、組織変更に伴う不動産名義の変更登記も必要です。その場合の費用は別途見積いたします。
その他