組織再編(合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付)登記に添付する株主リスト、資本金の額の計上に関する証明書、定款の作成者は誰か?


司法書士であれば、一度は頭を悩ませることになるであろう組織再編登記の添付書類は、組織再編当事会社のいずれが作成すべきか問題。

この問題に悩む司法書士を救うべく(そして、所内のカンペにすべく)、このページを公開いたします。

もくじ
  1. 「株主リスト」の作成者
  2. 「資本金の額の計上に関する証明書」の作成者
  3. 「定款」の作成者

「株主リスト」の作成者


法務省のサイトは、PDFなので、外でスマホでちょっと確認したいときにまでダウンロードさせられてイラッとしますよね。そこで、そのまま転記しました。

また、令和3(2021)年3月1日施行された会社法の一部を改正する法律(令和元年法律70)によって追加された新制度「株式交付」を追記しました。

組織再編の種類 株主リスト作成者
 合併 吸収合併  吸収合併存続会社 吸収合併消滅会社
吸収合併存続会社の代表取締役  吸収合併存続会社の代表取締役
新設合併 新設合併設立会社 新設合併消滅会社
新設合併設立会社の代表取締役
会社分割 吸収分割 吸収分割承継会社 吸収分割会社
吸収分割承継会社の代表取締役  吸収分割会社の代表取締役
新設分割 新設分割設立会社 新設分割会社
 ー 新設分割会社の代表取締役
株式交換 株式交換完全親会社 株式交換完全子会社
株式交換完全親会社の代表取締役  株式交換完全子会社の代表取締役
株式移転 株式移転設立完全親会社 株式移転完全子会社
ー  株式移転完全子会社の代表取締役

 株式交付

株式交付親会社 株式交付子会社
株式交付親会社の代表取締役 登記自体不要 

組織変更

(株式会社→持分会社)

組織変更後の持分会社 組織変更前の株式会社
組織変更後の持分会社の代表社員   

https://www.moj.go.jp/content/001214713.pdf

「資本金の額の計上に関する証明書」の作成者


<疑問の出発点>

資本金の計上に関する証明書等の作成権者は、❶新設会社の代表取締役か、❷元の会社の代表取締役か、いずれでしょうか?

 

素直に考えると、❶商業登記法47条の適用で新設会社の代表が作るべきです(商登47Ⅱ→商登規則61Ⅸ→「金銭のみである場合には、株式会社の設立の登記の申請書には、当分の間・・・添付は要しない」H19.1.17民商91)。

ところが、❷消滅会社の法人格が消滅する新設合併の場合はともかく、新設分割や株式移転の場合、分割会社や子会社が資本金の計上証明書を作っても良いようにも思えます。

まず、商業登記法81条4号や86条4号は資本金の計上証明書をわざわざ別枠に規定しています。

また、資本金の額は契約書(両社代取名で作成される。)や計画書(元の会社の代取名で作成される。)で定められています。

さらに、法務省HP(https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001188284.pdf)では、注記には「株式移転設立完全親会社の資本金の額は、株主資本変動額の範囲内で、株式移転完全子会社が株式移転計画の定めに従い定める必要がある(会社計算規則第52条第2項)」との記載があるため子会社代表取締役が証明書を作成するようにも読めます。

 

どちらが作成者になるのでしょうか?次のとおりです。 

組織再編の種類 「資本金の額の計上に関する証明書」作成者
 合併 吸収合併  吸収合併存続会社 吸収合併消滅会社
吸収合併存続会社の代表取締役 委任状含め添付書類不要
新設合併 新設合併設立会社 新設合併消滅会社
新設合併設立会社の代表取締役【2】 委任状含め添付書類不要 
会社分割 吸収分割 吸収分割承継会社 吸収分割会社
吸収分割承継会社の代表取締役 委任状のみ(商登87Ⅲ)
新設分割 新設分割設立会社 新設分割会社
新設分割設立会社の代表取締役【2】 委任状のみ(商登87Ⅲ) 
株式交換 株式交換完全親会社 株式交換完全子会社
 株式交換完全親会社の代表取締役  原則:登記自体不要【1】 
株式移転 株式移転設立完全親会社 株式移転完全子会社
株式移転設立会社の代表取締役【2】 原則:登記自体不要【1】 
株式交付 株式交付親会社 株式交付子会社
株式交付親会社の代表取締役 登記自体不要

組織変更

(株式会社→持分会社)

組織変更後の持分会社 組織変更前の株式会社
 ー 委任状含め添付書類不要

【1】例外:新株予約権

【2-1】会社法施行時の下記通達には「新設合併設立株式会社に関する・・・書面」として「資本金の額が会社法の規定に従って計上されたことを証する書面」と記載があることから、新設会社の代表取締役が作成すべき書面であることは明らかです。大部ですので、大幅に抜粋しています。

<>内は、筆者において追記したものです。

◎平成18年3月31日法務省民商第782号法務局長、地方法務局長あて法務省民事局長通達
   第5部 組織再編<通達93頁以下。以下同じ>

 第1 組織変更

 

 第2 合併<98頁>

  1 合併の手続

  2 合併の登記の手続

   ⑴ 吸収合併による変更の登記 

   ⑵ 新設合併による設立の登記<107頁>

    ア 株式会社を設立する場合の添付書面・・・(商登法第81条)。

     (ア) 新設合併契約書

     (イ) 新設合併設立株式会社に関する次に掲げる書面

       a~g (略)

       h 資本金の額が会社法の規定に従って計上されたことを証する書面

     (ウ) 新設合併消滅会社の手続に関する次に掲げる書面

       a 新設合併消滅会社の登記事項証明書

       b 新設合併消滅会社が株式会社であるときは,合併契約の承認機関(1の

        (3)のイの(ア)参照)に応じ,新設合併契約の承認その他の手続があったこ

        とを証する書面(株主総会又は種類株主総会の議事録)

       c 新設合併消滅会社が持分会社であるときは,総社員の同意(定款に別段

        の定めがある場合にあっては,その定めによる手続)があったことを証す

        る書面

       d 債権者保護手続関係書面(合名会社又は合資会社である新設合併消滅会

        社について,各別の催告をしたことを証する書面を省略することはできな

        い )。

       e 当該会社が株券発行会社であるときは,株券提供公告等関係書面

       f 当該会社が新株予約権を発行しているときは,新株予約権証券提供公告

        等関係書面

 第3 会社分割

  1 会社分割の手続

  2 会社分割の登記の手続

   ⑴

   ⑵ 新設分割による設立の登記<117頁>

    ア 株式会社を設立する場合の添付書面・・・(商登法第86条)。

     (ア) 新設分割計画書

     (イ) 新設分割設立株式会社に関する書面

        新設合併による株式会社の設立の登記において添付すべき新設合併設立

        株式会社に関する書面と同様である(第2の2の(2)のアの(イ)参照)。

     (ウ) 新設分割会社の手続に関する次に掲げる書類

       a 新設分割会社の登記事項証明書

       b 新設分割会社が株式会社であるときは,新設分割計画の承認があった

        ことを証する書面(株主総会又は種類株主総会の議事録。簡易分割の

        場合には,その要件を満たすことを証する書面及び取締役の過半数の

        一致があったことを証する書面又は取締役会の議事録)

       c 新設分割会社が合同会社であるときは,総社員の同意(定款に別段の定

        めがある場合にあっては,その定めによる手続)があったことを証する書

        面(当該合同会社がその権利義務の一部を承継させる場合にあっては,社

        員の過半数の一致があったことを証する書面)

       d 債権者保護手続関係書面(不法行為によって生じた新設分割会社の債務

        の債権者に対する各別の催告をしたことを証する書面を省略することはで

        きない )。

       e 新設分割株式会社が新株予約権を発行している場合において,その新株

        予約権者に対して当該新株予約権に代わる新設分割設立株式会社の新株予

        約権を交付するときは,新株予約権証券提供公告等関係書面

 第4 株式交換<118頁>

  1 株式交換の手続

  2 株式交換の登記の手続<121頁>

 第5 株式移転<122頁>

  1 株式移転の手続

  2 株式移転の登記の手続<123頁>

   ⑴ 株式移転計画書

   ⑵ 完全親会社に関する書面

     新設合併による株式会社の設立の登記において添付すべき新設合併設立株式会社

     に関する書面と同様である(第2の2の(2)のアの(イ)参照)

   ⑶ 完全子会社の手続に関する書面

    ア 完全子会社の登記事項証明書

    イ 株式移転計画の承認機関に応じ,株主総会又は種類株主総会の議事録

    ウ 債権者保護手続関係書面

    エ 当該会社が株券発行会社であるときは,株券提供公告等関係書面

    オ 完全子会社が新株予約権を発行している場合において,その新株予約権者に

     対して当該新株予約権に代わる完全親株社の新株予約権を交付するときは,

     新株予約権証券提供公告等関係書面

【2-2】代表者が新設合併による設立の登記の際に登記所に届け出る印鑑を押印する必要がある(編者 登記研究編集室『商業登記書式精義[全訂第六版]』(テイハン、2019年)1532頁、1534頁)。

「定款」の作成者


組織再編の種類 「定款」作成者
 合併 吸収合併  吸収合併存続会社 吸収合併消滅会社
  委任状含め添付書類不要
新設合併 新設合併設立会社 新設合併消滅会社
新設合併消滅会社の代表取締役【2】 委任状含め添付書類不要 
会社分割 吸収分割 吸収分割承継会社 吸収分割会社
  委任状のみ(商登87Ⅲ)
新設分割 新設分割設立会社 新設分割会社
新設分割会社の代表取締役【2】 委任状のみ(商登87Ⅲ) 
株式交換 株式交換完全親会社 株式交換完全子会社
  原則:登記自体不要【1】 
株式移転 株式移転設立完全親会社 株式移転完全子会社
株式移転完全子会社の代表取締役【2】 原則:登記自体不要【1】 
株式交付 株式交付親会社 株式交付子会社
  登記自体不要

組織変更

(株式会社→持分会社)

組織変更後の持分会社 組織変更前の株式会社
 ー 委任状含め添付書類不要

【1】例外:新株予約権

【2】次のとおりです。

会社法第814条(株式会社の設立の特則)
 
  1. (略)
  2. 設立株式会社の定款は、消滅会社等が作成する。

では「消滅会社等」とは何か?

「消滅会社等」の定義は、会社法第806条第3項にあります。

会社法第806条(反対株主の株式買取請求)
  消滅株式会社等は、第804条第1項の株主総会の決議の日から2週間以内に、その株主に対し、新設合併等をする旨並びに他の新設合併消滅会社、新設分割会社又は株式移転完全子会社(以下この節において「消滅会社等」という。)及び設立会社の商号及び住所を通知しなければならない。ただし、第1項各号に掲げる場合は、この限りでない。

 

『この節』とは「第三節 新設合併等の手続」のことをいいます。

会社法もくじ

第五編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付

  第一章 組織変更

  第二章 合併

  第三章 会社分割

  第四章 株式交換及び株式移転

  第四章の二 株式交付(第七百七十四条の二―第七百七十四条の十一)

  第五章 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付の手続

    第一節 組織変更の手続

      第一款 株式会社の手続(第七百七十五条―第七百八十条)

      第二款 持分会社の手続(第七百八十一条)

    第二節 吸収合併等の手続

      第一款 吸収合併消滅会社、吸収分割会社及び株式交換完全子会社の手続

        第一目 株式会社の手続(第七百八十二条―第七百九十二条)

        第二目 持分会社の手続(第七百九十三条)

      第二款 吸収合併存続会社、吸収分割承継会社及び株式交換完全親会社の手続

        第一目 株式会社の手続(第七百九十四条―第八百一条)

        第二目 持分会社の手続(第八百二条)

     第三節 新設合併等の手続

  第一款 新設合併消滅会社、新設分割会社及び株式移転完全子会社の手続

    第一目 株式会社の手続(第八百三条―第八百十二条)

    第二目 持分会社の手続(第八百十三条)

  第二款 新設合併設立会社、新設分割設立会社及び株式移転設立完全親会社の手続

    第一目 株式会社の手続(第八百十四条・第八百十五条)

    第二目 持分会社の手続(第八百十六条)

 

    第四節 株式交付の手続(第八百十六条の二―第八百十六条の十)

第六編 外国会社(第八百十七条―第八百二十三条)

第七編 雑則

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