破産手続における債権の種類(別除権付債権、財団債権、破産債権)と優先順位


配当を想定していない「同時廃止」ではあまり気にする必要はありませんが、「管財」では気になる論点「破産手続における債権の種類(別除権付債権、財団債権、破産債権)と優先順位」について、まとめました。

司法書士は、裁判所提出書類の作成を通じて、破産申立を支援します。

もくじ
  1. 債権の種類(分類)、優先順位
  2. 公租公課についての(再)整理
  3. 給与債権についての(再)整理  

債権の種類(分類)、優先順位


下表は、ご自身の用途に応じて、次のとおりご利用ください。

  • 【全体像を把握したい方】は下表の左側から見ていってください。
  • 【ご自身の債権がどの種類に分類され、優先順位がどうなっているのか知りたい方】は、「Ctrl+F」でページ内検索を立ち上げ検索ください。

別除権は破産手続によらないで行使できる(破65Ⅰ)ので、別除権付債権はその担保物権について優先弁済権を有します【0】。

特別の先取特権、質権、抵当権
商法又は会社法の留置権(商31:代理商の留置権、商521:商人間の留置権、商562:運送取扱人の留置権、商574:運送人の留置権、会20:代理商の留置権)
       

破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権(破2⑦)。 

次の順位⑴~⑷で、破産債権に対する配当に先立って(破151)弁済されます。 

破産管財人の報酬(最高裁昭和45年10月30日判決)

債権者破産申立や第三者が予納した場合の予納金の還付

破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(破148Ⅰ①、破152Ⅱ)

破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(破148Ⅰ②、破152Ⅱ)

その他の財団債権(破148Ⅰ③~⑧)【1】

  • 一定範囲の公租(国税・地方税)(国税徴収法8、地方税法14)【1-2】
  • 一定範囲の公課(国民年金や国民健康の保険料など)【1-3】
  • 一定範囲の従業員の給与等(破149)【2】

(租税等の請求権や給与等の債権には、破産債権に含まれるものもある。)

破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権(第97条各号に掲げる債権【3】を含む。)であって、財団債権に該当しない債権(破2⑤)。

次の順位⑴~⑷で、配当を受けられます(破194)。

優先的破産債権:優先的破産債権内の順位は次の通りです(破194→破98ⅠⅡ)。

①一定範囲の公租(国税・地方税)

②一定範囲の公課(国民年金や国民健康の保険料など)

③共益費用(民法306①)

④雇用関係(民法306②)

⑤葬式費用(民法306③)

⑥日用品の供給(民法306④)

一般破産債権:金融機関の貸付債権、取引先の売掛債権など
劣後的破産債権(破99Ⅰ)【4】
約定劣後破産債権(破99Ⅱ)【5】

【0】「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利をいう(破2Ⅸ・Ⅹ)。

破産法第65条(別除権)
 
  1. 別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。
  2. 担保権(特別の先取特権、質権又は抵当権をいう。以下この項において同じ。)の目的である財産が破産管財人による任意売却その他の事由により破産財団に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。

破産法第66条(留置権の取扱い)
 
  1. 破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する商法又は会社法の規定による留置権は、破産財団に対しては特別の先取特権とみなす。
  2. 前項の特別の先取特権は、民法その他の法律の規定による他の特別の先取特権に後れる。

  3. 第一項に規定するものを除き、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき存する留置権は、破産財団に対してはその効力を失う。

【1】破産法148条各号に定める債権は次の通りです。ただし、読みやすいように①法令番号を削除し、②条文に注記を加えています(注記した文字は〔〕で囲んでいます。)。

破産法第148条(財団債権となる請求権)
 
  1. 次に掲げる請求権は、財団債権とする。
    一 破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権
    二 破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権
    三 破産手続開始の原因に基づいて生じた租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権及び第97条第5号に掲げる請求権を除く。)であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの又は納期限から一年(その期間中に包括的禁止命令が発せられたことにより国税滞納処分をすることができない期間がある場合には、当該期間を除く。)を経過していないもの
    四 破産財団に関し破産管財人がした行為によって生じた請求権
    五 事務管理又は不当利得により破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
    六 委任の終了又は代理権の消滅の後、急迫の事情があるためにした行為によって破産手続開始後に破産財団に対して生じた請求権
    七 第53条〔双務契約〕第1項の規定により破産管財人が債務の履行をする場合において相手方が有する請求権
    八 破産手続の開始によって双務契約の解約の申入れ(第53条第1項又は第2項の規定による賃貸借契約の解除を含む。)があった場合において破産手続開始後その契約の終了に至るまでの間に生じた請求権
  2. 破産管財人が負担付遺贈の履行を受けたときは、その負担した義務の相手方が有する当該負担の利益を受けるべき請求権は、遺贈の目的の価額を超えない限度において、財団債権とする。
  3. 第103条第2項及び第3項の規定は、第1項第7号及び前項に規定する財団債権について準用する。この場合において、当該財団債権が無利息債権又は定期金債権であるときは、当該債権の額は、当該債権が破産債権であるとした場合に第99条第1項第2号から第4号までに掲げる劣後的破産債権となるべき部分に相当する金額を控除した額とする。
  4. 保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした行為によって生じた請求権は、財団債権とする。

【1-2】国税債権優先の原則、地方税優先の原則は、次のとおりです。

国税徴収法第8条(国税優先の原則)
   国税は、納税者の総財産について、この章に別段の定がある場合を除き、すべての公課その他の債権に先だつて徴収する。
地方税法第14条(地方税優先の原則)
   地方団体の徴収金は、納税者又は特別徴収義務者の総財産について、本節に別段の定がある場合を除き、すべての公課(滞納処分の例により徴収することができる債権に限り、かつ、地方団体の徴収金並びに国税及びその滞納処分費(以下本章において「国税」という。)を除く。以下本章において同じ。)その他の債権に先だつて徴収する。

【1-3】公租公課の「公課」の例は、次のとおりです(以下()内は優先順位を規定した条文。)。

  • 健康保険料(健康保険法182)
  • 厚生年金保険料(厚生年金法88)
  • 国民健康保険料(国民健康保険法80Ⅳ)
  • 介護保険料(介護保険法199)
  • 国民年金保険料(国民年金法98)
  • 労働保険料(労働保険の保険料の徴収等に関する法律29)
  • 駐車違反に対する放置違反金(道路交通法51の4ⅩⅣ)
  • 公共「下水道」の使用料(下水道法20Ⅰ→地方自治法231の3Ⅲ

この他にも「先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。」で検索すると82件も該当します。

【2】財団債権となる使用人の給料等は次のとおりです。

破産法第149条(使用人の給料等)
 
  1. 破産手続開始前3月間の破産者の使用人の給料の請求権は、財団債権とする。
  2. 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前3月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前3月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前3月間の給料の総額)に相当する額を財団債権とする。

【3】破産法97条各号に定める債権は次の通りです。ただし、読みやすいように①法令番号を削除し、②条文に注記を加えています(注記した文字は〔〕で囲んでいます。)。

破産法第97条(破産債権に含まれる請求権)
  次に掲げる債権(財団債権であるものを除く。)は、破産債権に含まれるものとする。
  1. 破産手続開始利息の請求権〔破99Ⅰ①で劣後的破産債権〕
  2. 破産手続開始不履行による損害賠償又は違約金の請求権〔破99Ⅰ①で劣後的破産債権〕
  3. 破産手続開始延滞税、利子税若しくは延滞金の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権〔破99Ⅰ①で劣後的破産債権〕
  4. 国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権(以下「租税等の請求権」という。)であって、破産財団に関して破産手続開始の原因に基づいて生ずるもの〔破99Ⅰ①で劣後的破産債権〕
  5. 加算税(国税通則法第2条第4号に規定する過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税をいう。)若しくは加算金(地方税法第1条第1項第14号に規定する過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金をいう。)の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権〔破99Ⅰ①で劣後的破産債権〕
  6. 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(以下「罰金等の請求権」という。)〔破99Ⅰ①で劣後的破産債権〕
  7. 破産手続参加の費用の請求権〔破99Ⅰ①で劣後的破産債権〕
  8. 第54条第1項〔破産管財人が双務契約を解除した場合〕(第58条第3項〔市場相場ある商品取引の解除みなし〕において準用する場合を含む。)に規定する相手方の損害賠償の請求権
  9. 第57条〔破産申立を知らずに委任事務を処理した受任者の報酬請求権〕に規定する債権
  10. 第59条〔交互計算〕第1項の規定による請求権であって、相手方の有するもの
  11. 第60条〔為替手形の引受又は支払等〕第1項(同条第2項において準用する場合を含む。)に規定する債権
  12. 第168条〔破産者の受けた反対給付に関する相手方の権利等〕第2項第2号又は第3号に定める権利

【4】劣後的破産債権は次のとおりです。

破産法第99条(劣後的破産債権等)
 
  1. 次に掲げる債権(以下「劣後的破産債権」という。)は、他の破産債権(次項に規定する約定劣後破産債権を除く。)に後れる。

    一 第97条第1号から第7号までに掲げる請求権

    二 破産手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のもののうち、破産手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に1年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する破産手続開始の時における法定利率による利息の額に相当する部分

    三 破産手続開始後に期限が到来すべき不確定期限付債権で無利息のもののうち、その債権額と破産手続開始の時における評価額との差額に相当する部分

    四 金額及び存続期間が確定している定期金債権のうち、各定期金につき第2号の規定に準じて算定される額の合計額(その額を各定期金の合計額から控除した額が破産手続開始の時における法定利率によりその定期金に相当する利息を生ずべき元本額を超えるときは、その超過額を加算した額)に相当する部分

  2. (略)

【5】約定劣後的破産債権は次のとおりです。

破産法第99条(劣後的破産債権等)
 
  1. (略)
  2. 破産債権者と破産者との間において、破産手続開始前に、当該債務者について破産手続が開始されたとすれば当該破産手続におけるその配当の順位が劣後的破産債権に後れる旨の合意がされた債権(以下「約定劣後破産債権」という。)は、劣後的破産債権に後れる。

公租公課についての(再)整理


財団債権

となるもの

  • 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権【6】であって、破産手続開始当時、まだ納期限の到来していないもの(破148Ⅰ③)
  • 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権【6】であって、破産手続開始当時、納期限から1年を経過していないもの(破148Ⅰ③)

優先的破産債権

となるもの 

  • 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税等の請求権【6】であって、上記以外のもの(破98Ⅰ→国税徴収法8(国税優先の原則)、地方税法14(地方税優先の原則))

劣後的破産債権

となるもの

  • 破産手続開始後の延滞税、利子税若しくは延滞金の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権(破97③→破99Ⅰ①)
  • 破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずる租税等の請求権【6】(破97④→破99Ⅰ①)
  • 加算税(国税通則法第2条第4号に規定する過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税及び重加算税をいう。)若しくは加算金(地方税法第1条第1項第14号に規定する過少申告加算金、不申告加算金及び重加算金をいう。)の請求権又はこれらに類する共助対象外国租税の請求権(破97⑤→破99Ⅰ①)
  • 罰金、科料、刑事訴訟費用、追徴金又は過料の請求権(以下「罰金等の請求権」という。)(破97⑥→破99Ⅰ①)

【6】租税等の請求権とは「国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権」のことです(破97Ⅳ)。

さらに「国税徴収法は、国税の徴収に関する手続を定めた法律であるが、単に国税の徴収についてだけ適用されるものではなく、広く地方税の徴収のほか、社会保険料などの公課の徴収についても準用されるもので、租税と公課の徴収に関する基本法(国税徴収法(基礎編)令和5年度版/税務大学校/2頁)」です。

以上を要約すると「租税等の請求権とは①国税・地方税などの『公租』と②社会保険料などの『公課』のいずれをも含む」ことになります。

公課が具体的に何を指すのかについては、【1-3】をご参照ください。

給与債権についての(再)整理


給与・退職金の保護

財団債権

となるもの

  • 破産手続開始前3月間の破産者の使用人【7】の給料【8】
  • 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当【9】の請求権(当該請求権の全額が破産債権であるとした場合に劣後的破産債権となるべき部分を除く。)は、退職前3月間の給料の総額(その総額が破産手続開始前3月間の給料の総額より少ない場合にあっては、破産手続開始前3月間の給料の総額【10】)に相当する額(破149Ⅱ)

優先的破産債権

となるもの 

  • 上記以外 (破98ⅠⅡ→民法306②、民法308)

劣後的破産債権

となるもの

  • 破産手続開始後の利息及び遅延損害金に相当する額(破97①②、破149Ⅱ第1のかっこ書)

【7】実質的に破産者との間に雇用関係があると認められれば足り、形式的な契約形態は問わず、委任や請負の形式がとられていても雇用関係を求めることは妨げない・・・また、その者の身分も問わず、パートタイマー、アルバイト、期間工なども含まれる(竹下守夫・編集代表/大コンメンタール破産法/青林書院/2007/589頁)。

【8】給料の請求権とは、労働の対価として支払われるあらゆるものをいい、名称は問題ではない(労基11条の賃金と同義)。破産手続開始前の給料とは、その期間内の労務の提供に対応する給料をいう。給料日が破産手続開始後であっても・・・その部分は、本条により財団債権となるものと解される・・・(竹下守夫・編集代表/大コンメンタール破産法/青林書院/2007/589-590頁)。

【9】退職手当とは、雇用関係の終了を理由として使用者から使用人に支払われる金員をいう(竹下守夫・編集代表/大コンメンタール破産法/青林書院/2007/590頁)。

【10】破産手続開始後に給料が引き下げられる場合が多いことを考慮して、使用人の保護を徹底する趣旨である(小川秀樹/一問一答新しい破産法/商事法務/2004/202頁)

未払賃金立替払制度

独立行政法人労働者健康安全機構が実施している「倒産企業の従業員に対して未払賃金の8割(上限:退職年齢に応じて88~296万円)を立替払をする制度」です。

立替払を実施した場合、機構が賃金債権を代位取得し、倒産企業に求償します。