労働者協同組合の設立


令和4(2022)年10月1日労働者協同組合法が施行されました。新しい法人形態「労働者協同組合」は、働く人自らが出資して運営に携わる「協同労働」という働き方を実現するものです。

労働者協同組合では、働く人が「出資」「経営」「労働」の全てを担当することができます。

制度開始からまだ2年弱ですが、令和6年7月8日時点で、既に95法人が設立されている(厚生労働省資料)とのことです。

法人設立準備中の皆さまは「労働者協同組合」での法人設立も検討していただければ幸いです。

 

※ 令和7年9月30日までであれば、企業組合、特定非営利活動法人(NPO法人)も組織変更することによって労働者協同組合になることができます(労働者協同組合法附則第4条)。現に、上記95法人のうち企業組合からの組織変更(18法人)、NPO法人からの組織変更(2法人)とのことです。

企業組合や特定非営利活動法人の関係者の方で、これらの法人類型による組織運営に苦労なさっている方は、労働者協同組合への組織変更もご検討ください。

もくじ
  1. 労働者協同組合とは
    1. 基本ルール
    2. 出資
    3. 意思決定
    4. 労働
    5. 事業内容、業種や分野
    6. 必要な人数
    7. 組合と組合員との関係
    8. 利益の分配(剰余金の配当)
    9. 積立金・繰越金
    10. 法人に対する監督
  2. 労働者協同組合のメリット(解決した課題)
    1. 多様な働き方(働き口)を創設した。
    2. 組合員は出資額の応じた有限責任しか負わない。
    3. 法人設立と運営のハードルを下げた。
    4. 「特定」労働者協同組合になれば、税制上のメリットも
  3. 労働者協同組合の機関
    1. 必須機関(機関設計)
    2. 組合員総会
    3. 理事
    4. 理事会
    5. 監事
  4. 労働者協同組合設立の流れ
  5. 労働者協同組合「定款記載事項」と「登記事項」
  6. 司法書士の報酬・費用
  7. 人気の関連ページ
  8. 参考文献

労働者協同組合とは


基本ルール

労働者協同組合の基本ルールは、次のとおりです(法3Ⅰ)。 

  1. 組合員が出資すること(出資の原則)。
  2. その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること(意見反映の原則)。
  3. 組合員が組合の行う事業に従事すること(従事の原則)。

労働者が、自ら出資し、自ら組合で労働する組織です。

自ら働く点において、消費生活協同組合等(出資はするが、労働することはない)とは異なります。

出資

  • 組合員が出資することが必要です(法3Ⅰ①)。
  • 組合の組合員たる資格を有する者は、定款で定める【1】個人です(法6)。なお、法人は、労働者協同組合の組合員になることはできません(出資することができません。)。
  • 組合員は、出資一口以上を有しなければなりません(法9Ⅰ)。
  • 一組合員の出資口数は、出資総口数の25/100を超えてはなりません(法9Ⅲ)。
  • 組合員の持分は、他の組合員に対して譲渡することができず(法13)、労働者協同組合に対しても譲渡することができません(法79)ので、組合を脱退する際には、払い戻しを受けることになります(法16)。
  • 組合に加入しようとする者は、定款で定めるところにより加入につき組合の承諾を得て、引受出資口数に応ずる金額の払込みを完了した時に組合員となります(法12Ⅱ)。

【1】「定款で定める」とは

 

定款記載例 第○条(組合員資格)
 

本組合の組合員たる資格を有する者は、組合の設立・存立に賛同し、組合の行う事業に従事し、又は従事しようとする個人とする。

 

「組合の事業に関する経験を有すること」や「事業を行う都道府県の区域に居住すること」など各組合の実情に応じて必要な事項を定めること。

 

定款記載例/労働者協同組合法の各種提出様式等/大阪府/最終アクセス240723

意思決定

労働者協同組合の事業を行うに当たり、組合員の意見が適切に反映される仕組みが必要です(法1、法3Ⅰ②、法29Ⅰ⑫、法66Ⅰ)。

  • 具体的には、組合員全員が構成員となる「総会」と「理事会」が必須の機関です(法58以下、法39Ⅰ)。
  • 総会において、組合員は、一人一票の議決権及び役員又は総代の選挙権を有します(法11、法32Ⅷ。株式会社の株主のようにより多く出資をした人(株式を多く持つ人)の意見が通るわけではありません。)。

したがって、お金儲けが主たる目的ではなく、チームで課題解決をするのが得意なグループが労働者協同組合を設立すれば、上手くいくと思います。

労働

組合員が組合の行う事業に従事することが必要です(法3Ⅰ③)が、全組合員に対して事業への従事が要求されている訳ではありません。次のような基準があります。

  • 労働者協同組合との間で労働契約を締結する組合員が総組合員の議決権の50/100以上を保有する必要があります(法3Ⅱ④)。
  • 総組合員の80/100以上の数の組合員は、組合の行う事業に従事しなければなりません(法8Ⅰ)。
  • 組合の行う事業に従事する者の75/100以上は、組合員でなければなりません(法8Ⅱ)。

事業内容、業種や分野

  • 労働者派遣事業を行なうことはできません(法7Ⅱ、施行令1)。
  • 上記以外のあらゆる事業を行なうことが可能です。介護・福祉関連 (訪問介護等)、子育て関連(学童保育等)、地域作り関連(農産物加工品販売所等の拠点整備等)など地域における多様な需要に応じた事業を実施できます。もっとも許認可等が必要な事業については、当然にその規制を受けます。

実際には、次のような分野で「労働者協同組合」が設立されています。

  • キャンプ場の経営
  • 葬祭業、成年後見支援
  • メディア制作体験
  • 地元産鮮魚販売、給食のお弁当づくり
  • カフェ、フェスティバル運営
  • 高齢者介護
  • 生活困窮者支援
  • 子育て支援
  • 障害福祉
  • 清掃、建物管理
  • 家事代行

(以上、労働者協同組合の設立状況(令和6年4月1日)/厚生労働省/最終アクセス240722

 

上記以外でも次のような事業が考えられます。

  • 特定就労継続支援事業

特定就労継続支援をうける者が、5分の4要件・4分の3要件の算定基準から外されているため、可能(法附則3条、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律5条14項、29条1項、30条1項2号)。

 

  • 地方公共団体から、公の施設の指定管理者(地方自治法第244条の2Ⅲ)に指定されるための団体

「この労働者協同組合としての性質を有している法人が、指定管理者に指定されていることも少なくないと思われます。なぜかといえば、そうした団体のこれまでの経緯からいって、指定管理者制度と親和性があると思われるからです(立花宏・西山義裕(著)『法人登記実務から見た労働者協同組合の運営』中央経済社/2023/16頁)。」

必要な人数

  • 組合の組合員たる資格を有する者は、定款で定める個人とする(法6)。
  • 設立の際には、組合員になろうとする3人以上の者が発起人となることを要する(法22)。
  • 総組合員の80/100以上の数の組合員は、組合の行う事業に従事しなければならない(法8Ⅰ)。
  • 組合の行う事業に従事する者の75/100以上は、組合員でなければならない(法8Ⅱ)。
  • 組合員が3人未満になり、そのなった日から引き続き6月間その組合員が3人以上にならなかった場合には、労働者協同組合は解散となります(法80Ⅱ)

組合と組合員との関係

  • 組合は、組合の事業に従事する組合員との間で、労働契約を締結しなければなりません。業務執行し又は理事の職務のみを行う組合員、監事である組合員を除きます(法20Ⅰ)。組合員は労働者として、労働基準法や労働組合法、労働関係調整法などが適用され、保護の範囲は一般的な会社の従業員と変わりません。
  • 組合員が組合員を脱退しても、その組合員と組合との間の労働契約を終了させるものと解してはいけません(法20Ⅱ)。組合員が組合からの脱退とともに退職を申し出た場合以外は、通常の解雇ルールに基づいて行う必要があるということを注意的に記載したものと思われます。

利益の分配(剰余金の配当)

一般の労働者協同組合の場合

  • 非営利法人という性質上、出資額に応じた配当は禁止されています。ただし、「組合員が組合の事業に従事した程度に応じて」配当(従事分量配当)することは可能です(法3Ⅱ⑤、法77Ⅱ)。

特定労働者協同組合(非営利徹底法人)の場合

  • 剰余金の配当をすることができません(法94の15、法94の3①③、法136Ⅰ㉗)。
  • 特定労働者協同組合には、税務上のメリットがあります。追って、詳述します。

特定労働者協同組合については「特定労働者協同組合の設立」をご参照ください。

積立金・繰越金

労働者協同組合が積み立てることとされている準備金及び就労創出等積立金並びに教育繰越金は、次のとおりです(法76)。

  1. 組合は、定款で定める額に達するまでは、毎事業年度の剰余金の1/10以上を準備金として積み立てなければならない。
  2. 前項の定款で定める準備金の額は、出資総額の1/2を下ってはならない。
  3. 第一項の準備金は、損失の塡補に充てる場合を除いては、取り崩してはならない。
  4. 組合は、その事業規模又は事業活動の拡大を通じた就労の機会の創出を図るために必要な費用に充てるため、毎事業年度の剰余金の1/20以上を就労創出等積立金として積み立てなければならない。
  5. 組合は、組合員の組合の事業に関する知識の向上を図るために必要な費用に充てるため、毎事業年度の剰余金の1/20以上を教育繰越金として翌事業年度に繰り越さなければならない。

法人に対する監督

  • NPO法人(認証主義)や企業組合(認可主義)と異なり、行政庁による許認可等を必要とせず、法律に定めた要件を満し、登記をすれば法人格が付与されます(準則主義)。
  • 行政庁(都道府県知事。労働者協同組合連合会は厚生労働大臣)による監督を受けます(法132)。
  • 組合及び連合会は、毎事業年度、通常総会の終了の日から二週間以内に、貸借対照表、損益計算書、剰余金の処分又は損失の処理の方法を記載した書面及び事業報告書並びにこれらの附属明細書を行政庁に提出しなければなりません(法124)。
  • 行政庁は、組合又は連合会に対して、報告聴取する権限(法125)、業務会計検査権(法126)、法令等違反に対する措置命令権(法127)、業務の全部又は一部の停止命令権、役員改選命令権、解散命令権(法127)を有しています。
  • 組合は、行政庁に対して、各種届出義務があります。
    • 成立したとき:成立の日から2週間以内に、登記事項証明書及び定款を添えて、その旨並びに役員の氏名及び住所を(法27)。
    • 役員の氏名住所に変更があったとき:変更の日から2週間以内に(法33)。
    • 定款を変更したとき:変更の日から二週間以内に、変更に係る事項を(法63Ⅲ)。
    • 解散したとき:解散の日から二週間以内に、その旨を(法80Ⅲ)。
    • 組合が継続したとき:二週間以内に、その旨を(法82Ⅲ)。
    • 合併したとき:合併の日から二週間以内に、登記事項証明書(新設合併設立組合にあっては、登記事項証明書及び定款)を添えて、その旨(新設合併設立組合にあっては、その旨並びに役員の氏名及び住所)を(法91)。
  • 役員に欠員を生じた場合において、事務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは、行政庁は、組合員その他の利害関係人の請求により又は職権で、一時役員として役員の職務を行うべき者を選任することができる(法37Ⅱ、法42Ⅴ)。なお、一時代表理事が選任された場合、仮代表理事として登記されることとなる(登記令3Ⅰ。法務省民商第439号/13頁)。
  • 組合員による総会招集に理事会が応じなかった場合には、組合員は、行政庁の承認を得て総会を招集することができます(法60)。
  • 休眠組合(組合に関する登記が最後にあった日から五年を経過したもの)に対する公告及び通知は、行政庁が行ないます(法81)。
  • 組合は、特定労働者協同組合の基準に適合する組合であることについての行政庁の認定を受けることができます(法94の2)。詳細は、記事「特定労働者協同組合の設立」をご参照ください。
  • この法律の規定による届出の手続その他この法律を実施するため必要な事項は、厚生労働省令(労働者協同組合法施行規則のこと)で定めるとされています(法131)。

労働者協同組合のメリット(解決した課題)


多様な働き方(働き口)を創設した。

厚労省は、労働者協同組合制度がスタートした後に見えてきたニーズとして次のようなものを挙げています。

  1. 副業・兼業という働き方
    企業や組織の退職後の高齢期を生きがいを感じながら元気に仕事をしていきたいというニーズ
  2. 自治会や地域おこし協力隊による地域コミュニティ活性化
    自治会や地域おこし協力隊を中心に、地域の困り事解決のため、地域づくりを仕事にしたいというニーズ
  3. シニア世代の健康や生きがい・仕事おこし
    企業や組織の退職後の高齢期を生きがいを感じながら元気に仕事をしていきたいというニーズ
  4. ケアワーカーによる自分らしいケアの追求
    障害者福祉や高齢者ケアの専門職から、志を同じくする仲間ととともに、自分たちで運営にも関わりながら自分たちが本当にやりたいケアを行いたいというニーズ 

(以上、多様な働き方(働き口)の創設について、多様な働き方を実現し、地域社会の課題に取り組む労働者協同組合/厚生労働省/最終アクセス240722を抜粋引用。こちらの厚労省資料には、実際に設立された労働者協同組合の取り組みが分かりやすく紹介されていますので、ご一読をおすすめします。)

組合員は出資額に応じた有限責任しか負わない。

労働者協同組合の組合員は、対外的には、出資額に応じた有限責任しか負いません(法9Ⅴ)。

「出資額に応じた有限責任」とは、労働者協同組合が対外的に損害賠償義務を負担した場合において、組合員は出資した額を上限に責任を負えば、組合員の個人財産をもって賠償義務を負担する必要がないことを意味しています。

「民法上の組合」の場合には、組合員が、対外的に無限責任を負います(最判S36.7.31民集15.7.1982)ので、民法上の組合ではなく、労働者協同組合を設立する大きなメリットです。

法人設立と運営のハードルを下げた。

○=メリット、×=デメリットを示します。

   

設立の認可

【1】

定款認証

【2】

財産の名義

【3】

出資の可否

【4】

事業内容

【5】

NPO法人 ×必要 ○不要 ○法人名義 ×不可 ×制限あり【6】
一般社団法人 ○不要 ×必要 ○法人名義 ×不可 ○制限なし
株式会社 ○不要 ×必要 ○法人名義 ○可能 ○制限なし
個人事業主 ○不要 ○不要 ×個人名義 ×不可 ○制限なし

これらを全て解決したのが「労働者協同組合」です!

   

設立の認可

定款認証

財産の名義

出資の可否

事業内容

労働者協同組合 ○不要 ○不要 ○法人名義 ○可能 △少し制限あり【7】

【1】設立の認可は行政庁が行いますが、認可には時間(3~4か月)と費用がかかるため法人設立のハードルを上げるものです。

【2】定款認証は公証人が行いますが、認証には費用がかかるため法人設立のハードルを上げるものです。

【3】財産を代表者個人名義にしておくと事業用資産が家庭用資産と混在してしまうリスクが生じます。

【4】出資できるということは「出資者として意見が言える」ことを意味します。出資ができないということは、法人の維持のためには、会費や寄付に頼るしかないことを意味します。

【5】行って良い事業内容に制限があるか否かです。

【6】NPO法人は事業内容(事業目的)に制限があります。法律で定められた特定非営利活動20分野に限定され、当てはまらないと設立できません。

【7】労働者協同組合は、労働者派遣事業を行なうことができません(法7Ⅱ、施行令1)。

「特定」労働者協同組合になれば、税制上のメリットも

特定労働者協同組合とは、労働者協同組合のうち、非営利性を徹底した組合であることについて都道府県知事の認定を受けた組合のことで、概ねNPO法人並みの税制上の措置が講じられています。

詳細は、記事「特定労働者協同組合の設立」をご参照ください。

労働者協同組合の機関


必須機関(機関設計)

労働者協同組合の機関設計は、以下の三通りです。

  1. 総会+理事会+監事
    理事は組合員である必要があります(法32Ⅳ)が、監事はその必要はありません。
    なお、監事は組合の理事又は使用人にはなれません(法43)。
  2. 総会+理事会+組合員監査会(法54)
    組合員が20人を超えない場合に、定款の定めを設けることで監事の代わりに組合員による監査会を置く形式。組合員監査会は監査報告書を作成する義務を負う(法54Ⅲ)。
    小規模な組合で、監事のなり手が見つからない場合向け。
  3. 総会+総代総会(法71)+理事会+監事
    →組合員が200人を超える場合に、定款で別段の定めを設けることにより、総代会を設置することができる(=大規模組合向け)。

組合員総会

総会のルールは次のとおりです。

  • 組合員は、各一個の議決権及び役員又は総代の選挙権を有します(法11Ⅰ)。
  • 組合員は、定款で定めるところにより、書面又は代理人をもって、議決権又は選挙権を行うことができます(法11Ⅱ)。
  • 他の組合員でなければ、代理人となることができない(法11Ⅱ)。
  • 代理人は、五人以上の組合員を代理できません(法11Ⅴ)。
  • 代理人は、代理権を証する書面を組合に提出しなければなりません(法11Ⅵ)。

理事

  • 理事は、組合の職務執行を行います(法38Ⅰ)。株式会社の取締役のような地位です。
  • 理事は、3名以上必要で(法32Ⅱ)、定数の1/3超の欠員が生じたときは、3か月以内に補充が必要です(法32Ⅵ)。
  • 理事は、組合員でならなければなりません(法32Ⅳ)。
  • 次のものは理事となることができません(法35、施行規則8)
    1. 法人
    2. 精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
    3. この法律等の法令に違反し、刑に処せられてから2年を経過していない者等
    4. 暴力団の構成員等
  • 理事は、総会で選びますが、選ぶ方法が何種類かありますので、下表を参照ください。 
      適用されるルール

総会において「選挙」

(法32Ⅲ)

無記名投票の方法(法32Ⅶ)
  • 投票は、一人一票(法32Ⅷ)

指名推薦の方法(法32Ⅸ)

  • 出席者中に異議がないときは、指名推薦の方法によって行うことができる(法32Ⅸ)
  • 被指名人をもって当選人と定めるべきかどうかを総会に諮り、出席者の全員の同意があった者をもって当選人とする(32Ⅹ)。
  • 一の選挙をもって二人以上の理事又は監事を選挙する場合においては、被指名人を区分して前項の規定を適用してはならない(法32Ⅺ)。

総会において「選任」

(法32Ⅻ) 

 
  • 理事の任期は、2年以内において定款で定める期間です(法36Ⅰ)。
  • 設立時理事の任期は、1年以内において創立総会において定める期間です(法36Ⅲ)。
  • 定款によって、これらの規定の任期を任期中の最終の決算期に関する通常総会の終結の時まで伸長することができます(法36Ⅳ)。

理事会

理事会に関するルールは次のとおりです。

  • 労働者協同組合は、全ての理事で組織する理事会を必ず置かなければならず、理事会は労働者協同組合の業務執行を決定し(法39)、代表理事を選定します(法42)。
  • 理事会の決議は、議決に加わることができる理事の過半数(これを上回る割合を定款又は規約で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款又は規約で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行います(法40Ⅰ)。
  • 理事会の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができません(法40Ⅱ)。
  • 定款で定めるところにより、理事が書面又は電磁的方法により理事会の議決に加わることができるものとすることができます(法40Ⅲ)。
  • 定款で定めることにより、理事会の書面決議を行なうことができます(法40Ⅳ)。
  • 理事会への報告も書面報告で良いことになっています(法40Ⅴ)。
  • 理事会は、議事録を作成し、出席した理事及び監事は、これに署名し、又は記名押印します(法41Ⅰ)。議事録を、主たる事務所においては理事会の日から10年間、従たる事務所においては理事会の日から5年間、備え置く必要があります(法41ⅢⅣ)。組合員及び組合の債権者は、組合に対して、その業務取扱時間内は、いつでも、理事会議事録の閲覧又は謄写の請求をすることができます(法41Ⅴ)。

監事

  • 監事は、理事による職務執行を監督します(法38Ⅱ)。株式会社の監査役のような地位です。
  • 監事は、1名以上必要で(法32Ⅱ)、定数の1/3超の欠員が生じたときは、3か月以内に補充が必要です(法32Ⅵ)。
  • 監事は、組合員でなくても結構ですし、理事又は組合の使用人と兼ねてはなりません(法43)。
  • 組合員数が1000人を超える大規模な労働者協同組合の場合には、監事のうち1名以上は、次の条件をすべて充たす者である必要があります(法32Ⅴ、施行令2)。
    1. 当該労働者協同組合の組合員以外の者であること。
    2. 監事就任前5年間、当該労働者協同組合の理事、使用人又は労働者協同組合の子会社の取締役、会計参与、執行役若しくは使用人でなかったこと。
    3. 当該労働者協同組合の理事・重要な使用人の配偶者・二親等内の親族以外の者であること。
  • 次のものは監事となることができません(法35、施行規則8)
    1. 法人
    2. 精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない
    3. この法律等の法令に違反し、刑に処せられてから2年を経過していない者等
    4. 暴力団の構成員等
  • 監事は、総会で選びますが、選ぶ方法が何種類かありますので、下表を参照ください。
      適用されるルール

総会において「選挙」(法32Ⅲ) 無記名投票の方法(法32Ⅶ)
  • 投票は、一人一票(法32Ⅷ)

指名推薦の方法(法32Ⅸ)

  • 出席者中に異議がないときは、指名推薦の方法によって行うことができる(法32Ⅸ)
  • 被指名人をもって当選人と定めるべきかどうかを総会に諮り、出席者の全員の同意があった者をもって当選人とする(32Ⅹ)。
  • 一の選挙をもって二人以上の理事又は監事を選挙する場合においては、被指名人を区分して前項の規定を適用してはならない(法32Ⅺ)。

総会において「選任」

(法32Ⅻ) 

 
  • 監事の任期は、4年以内において定款で定める期間です(法36Ⅱ)。
  • 設立時監事の任期は、1年以内において創立総会において定める期間です(法36Ⅲ)。
  • 定款によって、これらの規定の任期を任期中の最終の決算期に関する通常総会の終結の時まで伸長することができます(法36Ⅳ)。

労働者協同組合設立の流れ


法人設立のご決心

ご相談

最寄りの当グループ事務所にご相談ください。当グループでは、あなたのお話をジックリとうかがい、あなたの希望に最適な法人形態をご提案いたします。

発起人集め

  • 組合員になろうとする3人以上の者が発起人となることを要します(法22)。
  • どんな事業を、どの地域で行うのか協議しましょう。
  • 理事や監事の候補を選んでおくのもよいでしょう。
  • 理事は3名、監事は1名必要です(法32Ⅱ)。
  • 理事は組合員になろうとする者から選任する必要があります(法32Ⅳ)。

定款の作成

定款に記載すべき事項(法29)は、追って詳しく説明します。

公証人による定款認証は不要です。

創立総会の公告

  1. 発起人が、次の事項を公告します(法23Ⅰ)。
    1. 定款
    2. 会議の日時及び場所
      なお、厚労省HPでは「事業計画、収支予算の概要等を記載した設立趣意書も併せて公告することが望ましいです。(厚労省HP『知りたい!労働者協同組合法/よくある質問』最終アクセス240723)」とされています。
  2. 公告は、創立総会開催日の少なくとも2週間前までにしなければなりません(法23Ⅱ)。
  3. どのような公告方法(事務所に掲示、官報、日刊紙、電子公告)を採用するかについては
    • 「その方法は法定されていないので、発起人が設立事務所に掲示し、あるいは新聞に掲載する等適宜の方法をとればよい(厚労省HP『知りたい!労働者協同組合法/よくある質問』最終アクセス240723)」
    • 「この公告は、設立に同意し、組合員となろうとする者を広く求めるために行なうものだと思われますが、その方法については、労働者協同組合法では定められていません。よって、『その方法は法定されていないので、発起人が設立事務所に掲示し、あるいは新聞に掲載する等適宜の方法をとればよい』ものと考えられます(立花宏司法書士、西山義裕司法書士(著)『法人登記実務から見た労働者協同組合の運営』中央経済社/2023/83頁)」
    • 私見ですが、定款案をも公告することを求められていますので、コスト面から官報や日刊紙への公告掲載は困難だと思われます。したがって、(主たる公告として)事務所に掲示する方法を行ない、組合員を増やす目的を達するために(従として)SNSなどで告知するのも良いと思います。なお、組合成立後に労働者協同組合が行なうべき公告については、別途法律の定め(法29Ⅳ)がありますので、それに従う必要があります。

創立総会の開催

  1. 創立総会では次の事項を決定します(法23Ⅲ)。
    1. 発起人が作成した定款の承認【1】
    2. 事業計画の設定
    3. 理事3名以上、監事1名以上の選挙又は定款に定めて選任(法32Ⅲ、法32Ⅻ)【2】
    4. その他設立に必要な事項の決定
  2. 創立総会の議事は、組合員たる資格を有する者でその会日までに発起人に対し設立の同意を申し出たものの半数以上が出席して、その議決権の2/3以上で決します(法23Ⅴ)。
  3. 組合員は、各一個の議決権及び役員又は総代の選挙権を有します(法23Ⅷ→法11)。
  4. 書面や代理人で議決権を行使できますが、代理人となれるのは組合員に限り、5人以上の組合員の代理人にはなれません(法23Ⅷ→法11)。
  5. 会社法の株主総会決議不存在確認、無効確認の訴え(法23Ⅷ→会社法830)、株主総会等の決議の取消しの訴え(法23Ⅷ→会社法831)が、創立総会に準用されています。
  6. 創立総会の延期又は続行の決議があった場合でも、創立総会のための公告を再度行う必要はありません(法23Ⅵ)。

【1】創立総会では、定款の修正をすることもできます。ただし、組合員たる資格に関する規定については、修正できません(法23Ⅳ)。

【2】理事や監事を創立総会で選挙選任することなく「あらかじめ定款で定めること」は可能でしょうか?

「法32Ⅲただし書があるので無効」又は「創立総会で定款自体を承認するから有効」両説考えられます。またこの点について論じた論考が見つけられませんでした。実務では、リスク回避が鉄則ですので、法令通り「創立総会で選挙又は選任」するのが、無難です。

創立総会議事録の作成

  1. 創立総会の議事については、厚生労働省令で定めるところにより、議事録を作成する必要があります(法23Ⅶ)。
  2. 創立総会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない(規則4Ⅲ)。
    1. 創立総会が開催された日時及び場所
    2. 創立総会の議事の経過の要領及びその結果
    3. 創立総会に出席した発起人又は設立当時の役員の氏名又は名称
    4. 創立総会の議長の氏名
    5. 議事録の作成に係る職務を行った発起人の氏名又は名称

理事会の開催

創立総会で理事が選任された後の設立事務については、理事が発起人から引き継いで行ないます(法24)。

最初の理事会では、次の事項を決定します。

  1. 主たる事務所の所在地
  2. 代表理事の選定

理事会議事録を作成します(設立登記の添付書類にもなります。)。

出資の払込み

理事は、組合員に第1回目の出資の払込みをさせます(法25)。

出資の払込みを行なった組合員について組合員名簿を作成し、主たる事務所に備え置きます(法10)。

設立登記の申請

出資の払込みが終了した日から2週間以内に、設立登記を申請します(登記令2Ⅰ)。

登記すべき事項については、追って詳しく説明します。

設立登記を申請した日が、労働者協同組合の設立日(成立日、誕生日)になります(法26)。

設立の届出

組合は、成立したときは、その成立の日から二週間以内に、登記事項証明書及び定款を添えて、その旨並びに役員の氏名及び住所を行政庁に届け出なければならない(法27)。

ここで「行政庁」とは、主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事のことです。

その他の手続

次のような手続を行う必要があります。

  1. 銀行口座の開設(ご自身で)
  2. 物件契約(ご自身で)
  3. 社会保険、労働保険、労務関係の手続き(社会保険労務士が専門です。)
  4. 税務関係各種届け出(税理士が専門です。)
  5. 許認可の申請(行政書士が専門です。)

当グループでは、すべての専門家をご紹介することが可能です。

労働者協同組合の「定款」と「登記」


定款記載事項(法29)と、登記事項の関係は次のとおりです。

 

「定款記載事項」欄の◎○△は、それぞれ次の意味です。

◎=絶対的記載事項=記載もれでは法人が成立しない事項

○=相対的記載事項=記載しないと効力が生じない事項

△=任意的記載事項=強行規定・公序良俗に反しない限り任意に定められる事項

 

登記事項は、組合等登記令2条Ⅱ及び同別表によります。


一般の労働者協同組合と特定労働者協同組合とでは定款に定めるべき事項、規定すべき内容が異なりますので、安易にひな型を利用なさらないようオススメいたします。

  定款記載事項 登記事項
事業(法29Ⅰ①、登記令2Ⅱ①)【1】
名称(法29Ⅰ②、登記令2Ⅱ②)【2】
事業を行なう都道府県の名称(法29Ⅰ③)【1】 ×
事務所の所在地(法29Ⅰ④)、事務所の所在場所(登記令2Ⅱ③)【3】
組合員の氏名及び住所 ×
組合員たる資格に関する規定(法29Ⅰ⑤) ×
組合員の加入及び脱退に関する規定(法29Ⅰ⑥) ×
出資一口の金額及びその払込みの方法(法29Ⅰ⑦、登記令別表)【4】
現物出資、財産引受(法29Ⅱ) ×

出資の総口数及び払い込んだ出資の総額(登記令別表)【5】

剰余金の処分及び損失の処理に関する規定(法29Ⅰ⑧) ×
準備金の額及びその積立ての方法(法29Ⅰ⑨) ×

就労創出等積立金に関する規定(法29Ⅰ⑩)

×

教育繰越金に関する規定(法29Ⅰ⑪) 

×

組合員の意見を反映させる方策に関する規定(法29Ⅰ⑫)

×

役員の定数及びその選挙又は選任に関する規定(法29Ⅰ⑬)

×
理事、監事の氏名 ×
代表理事の資格、住所、氏名(登記令2Ⅱ④)
存続期間の定め又は解散の事由(法29Ⅱ、登記令2Ⅱ⑤)
公告方法(法29Ⅰ⑮、登記令別表)【6】
電子公告を公告の方法とする旨の定めがあるときは、電子公告関係事項(法29Ⅳ、登記令別表)【7】
事業年度 ×
       

【1】定款記載事項とされている「事業を行なう都道府県の名称」は、登記事項となっていません。

もっとも登記を希望する場合には「事業」欄の冒頭に「兵庫県の地域において」などと付記することにより登記できることがあろうかと思われます。あらかじめ管轄法務局と調整ください。

【2】名称中に「労働者協同組合」という文言が必要です。

【3】定款で定めるのは「事務所の所在地(法29Ⅰ④)」すなわち最小行政区画までで良い。

登記は「事務所の所在場所(登記令2Ⅱ③)」すなわち番地まで記載する必要がある。

【4】【5】定款記載例、登記記載例は次のとおりです。

定款記載例 登記記載例
第○条 出資一口の金額は金何円とする。

「出資一口の金額」金何円

× 定款に記載すべき事項ではない。

「出資の総口数」何口

× 定款に記載すべき事項ではない。 

「払込済出資総額」金何万円

第○条 出資は全額を一時に払い込むものとする。

「出資払込の方法」出資は全額を一時に払い込むものとする。

【6】組合が公告をする方法は、次の4種類のいずれかを選択して定めます(法29Ⅳ)。

  1. 組合の事務所の店頭に掲示する方法
  2. 官報公告
  3. 日刊新聞紙公告
  4. 電子公告

私見では、官報公告や新聞紙公告は見る組合員も少なく、電子公告もコストがかかります。したがって「1.組合の事務所の店頭に掲示する方法」が適切だと思います。

【7】

組合が公告を電子公告の方法によって行うためには、定款に「当組合の公告は、電子公告の方法により行う。」旨の定めを置く必要があります。

この場合「その定款には、電子公告を公告方法とすることを定めれば足りる(法29Ⅳ)」とされていますので、ウェブページのURLまで定款に定めておく必要はありません。

一方、登記はウェブページのURLまで登記する必要があります(登記令別表)。

  定款記載例
電子公告により行う旨のみを定めた場合 第〇条 当組合の公告は、電子公告により行う。
予備的公告方法として「官報」に掲載する方法を定めた場合 第〇条 当組合の公告は、電子公告により行う。ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、官報に掲載する方法により行う。
予備的公告方法として「日刊新聞紙」に掲載する方法を定めた場合 第〇条 当組合の公告は、電子公告により行う。ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、東京都において発行する〇〇新聞に掲載する方法により行う。

司法書士の報酬・費用


業務の内容

司法書士の報酬

費用
  1. 類似商号調査(弁理士への登録商標調査外注費を含みます。)
  2. 創立総会2週間前までに行う公告
  3. 定款ほか登記添付書類の作成・精査
  4. 設立登記申請書の作成・申請代理
  5. 完了謄本の取得・精査
  6. その後必要な手続のお知らせ【1】

275,000円

(税込)

設立認可:不要

定款認証:不要

登録免許税:非課税【2】

その他:2万円

【1】次の手続は含まれません。

  • 創立総会への立会
  • 現地への出張

これらへの対応もご要望の場合に、別途見積書を作成しますので、お伝えください。 

【2】登録免許税が課税されない根拠は次のとおり

〔根拠1〕課税根拠がない。

〔根拠2〕

①労働者協同組合の登記は組合等登記令の定めに従う(組合等登記令1条、同別表)

②商業登記法24条(15号を除く)の準用(組合等登記令25条)

労働者協同組合(のほか組合等登記令が適用される団体の場合には)登録免許税を納付しないこと(商業登記法24条15号)が却下事由から除外されている。

人気の関連ページ

参考文献