令和4(2022)年10月1日労働者協同組合法が施行されました。新しい法人形態「労働者協同組合」は、働く人自らが出資して運営に携わる「協同労働」という働き方を実現するものです。
労働者協同組合では、働く人が「出資」「経営」「労働」の全てを担当することができます。
制度開始からまだ2年弱ですが、令和6年7月8日時点で、既に95法人が設立されている(厚生労働省資料)とのことです。
法人設立準備中の皆さまは「労働者協同組合」での法人設立も検討していただければ幸いです。
※ 令和7年9月30日までであれば、企業組合、特定非営利活動法人(NPO法人)も組織変更することによって労働者協同組合になることができます(労働者協同組合法附則第4条)。現に、上記95法人のうち企業組合からの組織変更(18法人)、NPO法人からの組織変更(2法人)とのことです。
企業組合や特定非営利活動法人の関係者の方で、これらの法人類型による組織運営に苦労なさっている方は、労働者協同組合への組織変更もご検討ください。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、関連する法令を次のとおり略記します。
労働者協同組合の基本ルールは、次のとおりです(法3Ⅰ)。
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労働者が、自ら出資し、自ら組合で労働する組織です。
自ら働く点において、消費生活協同組合等(出資はするが、労働することはない)とは異なります。
【1】「定款で定める」とは
定款記載例 第○条(組合員資格) | |
本組合の組合員たる資格を有する者は、組合の設立・存立に賛同し、組合の行う事業に従事し、又は従事しようとする個人とする。 |
「組合の事業に関する経験を有すること」や「事業を行う都道府県の区域に居住すること」など各組合の実情に応じて必要な事項を定めること。
労働者協同組合の事業を行うに当たり、組合員の意見が適切に反映される仕組みが必要です(法1、法3Ⅰ②、法29Ⅰ⑫、法66Ⅰ)。
したがって、お金儲けが主たる目的ではなく、チームで課題解決をするのが得意なグループが労働者協同組合を設立すれば、上手くいくと思います。
組合員が組合の行う事業に従事することが必要です(法3Ⅰ③)が、全組合員に対して事業への従事が要求されている訳ではありません。次のような基準があります。
実際には、次のような分野で「労働者協同組合」が設立されています。
(以上、労働者協同組合の設立状況(令和6年4月1日)/厚生労働省/最終アクセス240722)
上記以外でも次のような事業が考えられます。
特定就労継続支援をうける者が、5分の4要件・4分の3要件の算定基準から外されているため、可能(法附則3条、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律5条14項、29条1項、30条1項2号)。
「この労働者協同組合としての性質を有している法人が、指定管理者に指定されていることも少なくないと思われます。なぜかといえば、そうした団体のこれまでの経緯からいって、指定管理者制度と親和性があると思われるからです(立花宏・西山義裕(著)『法人登記実務から見た労働者協同組合の運営』中央経済社/2023/16頁)。」
一般の労働者協同組合の場合
特定労働者協同組合(非営利徹底法人)の場合
特定労働者協同組合については「特定労働者協同組合の設立」をご参照ください。
労働者協同組合が積み立てることとされている準備金及び就労創出等積立金並びに教育繰越金は、次のとおりです(法76)。
厚労省は、労働者協同組合制度がスタートした後に見えてきたニーズとして次のようなものを挙げています。
(以上、多様な働き方(働き口)の創設について、多様な働き方を実現し、地域社会の課題に取り組む労働者協同組合/厚生労働省/最終アクセス240722を抜粋引用。こちらの厚労省資料には、実際に設立された労働者協同組合の取り組みが分かりやすく紹介されていますので、ご一読をおすすめします。)
労働者協同組合の組合員は、対外的には、出資額に応じた有限責任しか負いません(法9Ⅴ)。
「出資額に応じた有限責任」とは、労働者協同組合が対外的に損害賠償義務を負担した場合において、組合員は出資した額を上限に責任を負えば、組合員の個人財産をもって賠償義務を負担する必要がないことを意味しています。
「民法上の組合」の場合には、組合員が、対外的に無限責任を負います(最判S36.7.31民集15.7.1982)ので、民法上の組合ではなく、労働者協同組合を設立する大きなメリットです。
○=メリット、×=デメリットを示します。
設立の認可 【1】 |
定款認証 【2】 |
財産の名義 【3】 |
出資の可否 【4】 |
事業内容 【5】 |
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こ れ ま で の 形 態 |
NPO法人 | ×必要 | ○不要 | ○法人名義 | ×不可 | ×制限あり【6】 |
一般社団法人 | ○不要 | ×必要 | ○法人名義 | ×不可 | ○制限なし | |
株式会社 | ○不要 | ×必要 | ○法人名義 | ○可能 | ○制限なし | |
個人事業主 | ○不要 | ○不要 | ×個人名義 | ×不可 | ○制限なし |
設立の認可 |
定款認証 |
財産の名義 |
出資の可否 |
事業内容 |
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労働者協同組合 | ○不要 | ○不要 | ○法人名義 | ○可能 | △少し制限あり【7】 |
【1】設立の認可は行政庁が行いますが、認可には時間(3~4か月)と費用がかかるため法人設立のハードルを上げるものです。
【2】定款認証は公証人が行いますが、認証には費用がかかるため法人設立のハードルを上げるものです。
【3】財産を代表者個人名義にしておくと事業用資産が家庭用資産と混在してしまうリスクが生じます。
【4】出資できるということは「出資者として意見が言える」ことを意味します。出資ができないということは、法人の維持のためには、会費や寄付に頼るしかないことを意味します。
【5】行って良い事業内容に制限があるか否かです。
【6】NPO法人は事業内容(事業目的)に制限があります。法律で定められた特定非営利活動20分野に限定され、当てはまらないと設立できません。
【7】労働者協同組合は、労働者派遣事業を行なうことができません(法7Ⅱ、施行令1)。
特定労働者協同組合とは、労働者協同組合のうち、非営利性を徹底した組合であることについて都道府県知事の認定を受けた組合のことで、概ねNPO法人並みの税制上の措置が講じられています。
詳細は、記事「特定労働者協同組合の設立」をご参照ください。
労働者協同組合の機関設計は、以下の三通りです。
総会のルールは次のとおりです。
適用されるルール | |||
理 事 の 選 任 方 法 |
総会において「選挙」 (法32Ⅲ) |
無記名投票の方法(法32Ⅶ) |
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指名推薦の方法(法32Ⅸ) |
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総会において「選任」 (法32Ⅻ) |
理事会に関するルールは次のとおりです。
適用されるルール | |||
監 事 の 選 任 方 法 |
総会において「選挙」(法32Ⅲ) | 無記名投票の方法(法32Ⅶ) |
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指名推薦の方法(法32Ⅸ) |
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総会において「選任」 (法32Ⅻ) |
最寄りの当グループ事務所にご相談ください。当グループでは、あなたのお話をジックリとうかがい、あなたの希望に最適な法人形態をご提案いたします。
定款に記載すべき事項(法29)は、追って詳しく説明します。
公証人による定款認証は不要です。
【1】創立総会では、定款の修正をすることもできます。ただし、組合員たる資格に関する規定については、修正できません(法23Ⅳ)。
【2】理事や監事を創立総会で選挙選任することなく「あらかじめ定款で定めること」は可能でしょうか?
「法32Ⅲただし書があるので無効」又は「創立総会で定款自体を承認するから有効」両説考えられます。またこの点について論じた論考が見つけられませんでした。実務では、リスク回避が鉄則ですので、法令通り「創立総会で選挙又は選任」するのが、無難です。
創立総会で理事が選任された後の設立事務については、理事が発起人から引き継いで行ないます(法24)。
最初の理事会では、次の事項を決定します。
理事会議事録を作成します(設立登記の添付書類にもなります。)。
理事は、組合員に第1回目の出資の払込みをさせます(法25)。
出資の払込みを行なった組合員について組合員名簿を作成し、主たる事務所に備え置きます(法10)。
出資の払込みが終了した日から2週間以内に、設立登記を申請します(登記令2Ⅰ)。
登記すべき事項については、追って詳しく説明します。
設立登記を申請した日が、労働者協同組合の設立日(成立日、誕生日)になります(法26)。
組合は、成立したときは、その成立の日から二週間以内に、登記事項証明書及び定款を添えて、その旨並びに役員の氏名及び住所を行政庁に届け出なければならない(法27)。
ここで「行政庁」とは、主たる事務所の所在地を管轄する都道府県知事のことです。
次のような手続を行う必要があります。
当グループでは、すべての専門家をご紹介することが可能です。
定款記載事項(法29)と、登記事項の関係は次のとおりです。
「定款記載事項」欄の◎○△は、それぞれ次の意味です。
◎=絶対的記載事項=記載もれでは法人が成立しない事項
○=相対的記載事項=記載しないと効力が生じない事項
△=任意的記載事項=強行規定・公序良俗に反しない限り任意に定められる事項
登記事項は、組合等登記令2条Ⅱ及び同別表によります。
一般の労働者協同組合と特定労働者協同組合とでは定款に定めるべき事項、規定すべき内容が異なりますので、安易にひな型を利用なさらないようオススメいたします。
定款記載事項 | 登記事項 | ||
事業(法29Ⅰ①、登記令2Ⅱ①)【1】 | ◎ | ◎ | |
名称(法29Ⅰ②、登記令2Ⅱ②)【2】 | ◎ | ◎ | |
事業を行なう都道府県の名称(法29Ⅰ③)【1】 | ◎ | × | |
事務所の所在地(法29Ⅰ④)、事務所の所在場所(登記令2Ⅱ③)【3】 | ◎ | ◎ | |
組合員の氏名及び住所 | △ | × | |
組合員たる資格に関する規定(法29Ⅰ⑤) | ◎ | × | |
組合員の加入及び脱退に関する規定(法29Ⅰ⑥) | ◎ | × | |
出資一口の金額及びその払込みの方法(法29Ⅰ⑦、登記令別表)【4】 | ◎ | ◎ | |
現物出資、財産引受(法29Ⅱ) | ◎ | × | |
出資の総口数及び払い込んだ出資の総額(登記令別表)【5】 |
△ | ◎ | |
剰余金の処分及び損失の処理に関する規定(法29Ⅰ⑧) | ◎ | × | |
準備金の額及びその積立ての方法(法29Ⅰ⑨) | ◎ | × | |
就労創出等積立金に関する規定(法29Ⅰ⑩) |
◎ | × | |
教育繰越金に関する規定(法29Ⅰ⑪) |
◎ | × | |
組合員の意見を反映させる方策に関する規定(法29Ⅰ⑫) |
◎ | × | |
役員の定数及びその選挙又は選任に関する規定(法29Ⅰ⑬) |
◎ | × | |
理事、監事の氏名 | △ | × | |
代表理事の資格、住所、氏名(登記令2Ⅱ④) | △ | ◎ | |
存続期間の定め又は解散の事由(法29Ⅱ、登記令2Ⅱ⑤) | 〇 | 〇 | |
公告方法(法29Ⅰ⑮、登記令別表)【6】 | ◎ | ◎ | |
電子公告を公告の方法とする旨の定めがあるときは、電子公告関係事項(法29Ⅳ、登記令別表)【7】 | △ | ◎ | |
事業年度 | ◎ | × | |
【1】定款記載事項とされている「事業を行なう都道府県の名称」は、登記事項となっていません。
もっとも登記を希望する場合には「事業」欄の冒頭に「兵庫県の地域において」などと付記することにより登記できることがあろうかと思われます。あらかじめ管轄法務局と調整ください。
【2】名称中に「労働者協同組合」という文言が必要です。
【3】定款で定めるのは「事務所の所在地(法29Ⅰ④)」すなわち最小行政区画までで良い。
登記は「事務所の所在場所(登記令2Ⅱ③)」すなわち番地まで記載する必要がある。
【4】【5】定款記載例、登記記載例は次のとおりです。
定款記載例 | 登記記載例 |
第○条 出資一口の金額は金何円とする。 |
「出資一口の金額」金何円 |
× 定款に記載すべき事項ではない。 |
「出資の総口数」何口 |
× 定款に記載すべき事項ではない。 |
「払込済出資総額」金何万円 |
第○条 出資は全額を一時に払い込むものとする。 |
「出資払込の方法」出資は全額を一時に払い込むものとする。 |
【6】組合が公告をする方法は、次の4種類のいずれかを選択して定めます(法29Ⅳ)。
私見では、官報公告や新聞紙公告は見る組合員も少なく、電子公告もコストがかかります。したがって「1.組合の事務所の店頭に掲示する方法」が適切だと思います。
【7】
組合が公告を電子公告の方法によって行うためには、定款に「当組合の公告は、電子公告の方法により行う。」旨の定めを置く必要があります。
この場合「その定款には、電子公告を公告方法とすることを定めれば足りる(法29Ⅳ)」とされていますので、ウェブページのURLまで定款に定めておく必要はありません。
一方、登記はウェブページのURLまで登記する必要があります(登記令別表)。
定款記載例 | |
電子公告により行う旨のみを定めた場合 | 第〇条 当組合の公告は、電子公告により行う。 |
予備的公告方法として「官報」に掲載する方法を定めた場合 | 第〇条 当組合の公告は、電子公告により行う。ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、官報に掲載する方法により行う。 |
予備的公告方法として「日刊新聞紙」に掲載する方法を定めた場合 | 第〇条 当組合の公告は、電子公告により行う。ただし、事故その他やむを得ない事由によって電子公告による公告をすることができない場合は、東京都において発行する〇〇新聞に掲載する方法により行う。 |
補足説明【7】について、法務省HP『電子公告制度について』最終アクセス240724を参照
業務の内容 |
司法書士の報酬 |
費用 |
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275,000円 (税込) |
設立認可:不要 定款認証:不要 登録免許税:非課税【2】 その他:2万円 |
【1】次の手続は含まれません。
これらへの対応もご要望の場合に、別途見積書を作成しますので、お伝えください。
【2】登録免許税が課税されない根拠は次のとおり
〔根拠1〕課税根拠がない。
〔根拠2〕
①労働者協同組合の登記は組合等登記令の定めに従う(組合等登記令1条、同別表)
②商業登記法24条(15号を除く)の準用(組合等登記令25条)
労働者協同組合(のほか組合等登記令が適用される団体の場合には)登録免許税を納付しないこと(商業登記法24条15号)が却下事由から除外されている。
次の書籍等を参考にいたしました。