類似商号・登録商標の調査は必要か?!


旧商法にあった規定「同一市町村における同一商号の使用禁止」は、平成18年に施行された会社法には引き継がれませんでした。

 

これを類似商号の調査が不要になったと言っている専門家がおられますが、間違いです。

旧商法時代の「事前規制」から、作っても良いけれどトラブルになったら自分らで解決してよという「事後救済」に変わっただけなのです。

現に、モンシュシュ事件では、堂島ロールを販売していた株式会社モンシュシュが、登録商標「モンシュシュ」を有していたゴンチャロフ製菓に訴えられ、商標使用差止と5,000万円の損害賠償が命じられました(大阪高裁H25.3.7判決、大阪地裁H23.6.30判決)。 

 

ずっと同じ商号を使い続けたいとお考えであれば、最初が肝心です。必ず類似商号・類似商標調査を行ないましょう。

もくじ
  1. 旧商法時代の規制方法(事前規制)
  2. 現在の規制方法(事後救済)
  3. 裁判例の紹介(モンシュシュ事件)
  4. 人気の関連ページ

旧商法時代の規制方法(事前規制)


旧商法第19条(商号登記の効力)

他人が登記したる商号は同市町村内に於いて同一の営業の為に之を登記することを得ず。

この規定があったために、商法の時代(会社法以前の時代)には、登記するために(会社設立登記などを登記官に却下されないために)、調査していたのです。

登記官が見落とすなどの理由で類似商号会社が登記されてしまったときのための規定まで設けられていました。

旧商法第20条【商号登記の効力】

1.商号の登記を為したる者は不正の競争の目的を以て同一又は類似の商号を使用する者に対してその使用を止むべきことを請求することを得。但し損害賠償の請求を妨げず。

2.同市町村内に於いて同一の営業の為に他人の登記したる商号を使用する者は不正の競争の目的を以て之を使用するものと推定す。

不正目的での類似商号の使用を禁止するとともに、類似商号の差止請求や損害賠償請求も用意していました。

旧商号第21条【主体を誤認させる商号選定の禁止】

1.何人といえども不正の目的を以て他人の営業なりと誤認せしむべき商号を使用することを得ず。

2.前項の規定に違反して商号を使用する者あるときは、これによって利益を害せらるる虞ある者は、その使用を止むべきことを請求することを得。但し損害賠償の請求を妨げず。 

さらに、違反者にはペナルティーまでありました。

旧商法第22条【商号不正使用に対する制裁】

不正の競争の目的を以て第20条第1項の商号を使用したる者は20万円以下の過料に処する。

前条第1項の規定に違反したる者亦同じ。

現在の規制方法(事後救済)


使用差止や損害賠償を請求する場合には、次のような方法があります。

各法律によって、細かい要件が異なります。

 

不正競争防止法

2Ⅰ①

不正競争防止法

2Ⅰ②

商標法 会社法 民法

使

条文 不正競争防止法3 商標法36

会社法8Ⅱ

商法12Ⅱ

差止請求不可

登録

不要 不要 商標登録必要 商号登記必要
周知又は著名 一部地域で知られている「周知」が必要【2】

全国的に知られている「著名」が必要【3】

不要 不要【1】 
商標 同一又は類似 同一又は類似

同一又は類似

(商標法37)

他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号
混同おそれ 必要(同一業種の必要あり 不要(同一業種の必要なし 不要

必要

不正の目的も必要【1】

         

損害賠

償請求

可能(不正競争防止法4) 可能(商標法38) なし 可能(民709)
         

刑事罰

など

5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科(不正競争防止法21Ⅲ)

10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又はこれを併科(商標法78)

100万円以下の過料(商法13、会社法978③)

過料は、刑事罰でありません。

なし

【1】不正競争防止法上の差止請求と会社法上の差止請求の違い/会社法8条の「不正の目的」の意義については、知財高判平19・6・13(裁判所ウェブサイト)が詳しいのでご参照ください。 

知財高判平19・6・13(裁判所ウェブサイト)
  (1) 「不正の目的」の意義

ア 会社法8条は不正の目的をもって他の会社である,「」と誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならないとし,当該使用行為によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれのある会社は,このような使用行為に対して差止めを請求することができる旨を規定する。

 平成17年法律第87号による改正前の商法(以下「旧商法」という。)の下において,自己の商号等と同一又は類似する商号を使用された者の救済については,旧商法20条及び21条が設けられていた。このうち,登記された商号の使用に対する救済に関する規定(旧商法20条)については,専ら不正競争防止法2条1項1号等にゆだねられるものとして廃止されたが,他方,「不正の目的」による商号使用に対する救済に関する規定(旧商法21条)については,不正競争防止法では十分に保護されない場合がなお存在するものとして,会社法8条(株式会社等につき)が引き継いだ。

 ところで,会社法8条(旧商法21条)は,故意に信用のある他人の名称又は商号を自己の商号であるかのように使用して一般公衆を欺くというような反社会的な事象に対処すること等を目的として設けられたものであること,同条は,不正競争防止法2条1項1号のように他人の名称又は商号が「周知」であることを要件とせずに,営業上の損害を受けるおそれのある者に差止請求権を付与していること,後に名称又は商号の使用を行った者が,その名称又は商号の使用を禁止される不利益も少なくないこと等の事情に照らすならば,同条にいう「不正の目的」は,他の会社の営業と誤認させる目的,他の会社と不正に競争する目的,他の会社を害する目的など,特定の目的のみに限定されるものではないが,不正な活動を行う積極的な意思を有することを要するものと解するのが相当である。

イ この点について,控訴人は,「不正の目的」について,①同一又は類似商号を使用する会社が存在すること,当該会社との同一性につき第三者が誤認混同する可能性が高いこと,それによって当該会社に何らかの不利益が生ずることを認識しつつ,あえて同一又は類似商号を使用又は登記する意思があれば足りる,②特別な理由もなく,同一又は類似商号を自己の商号として使用する者については,「不正の目的」を推定すべきである,③競業関係にある会社間であれば,同一又は類似商号の存在の認識及び競業関係の認識が存すれば足りる,などと主張するが,前記の説示に照らして,採用できない。 

【2】周知(不正競争防止法2条1項1号)

  • 周知,すなわち「需要者の間に広く認識されている」ことが必要である。
  • 周知性は全国的に認められる必要はなく,一地方において広く認識されるものであれば足りる。
  • 周知性は,差止請求については現在(事実審の口頭弁論終結時),損害賠償請求についてはこの請求の対象とされている類似表示の使用等がされた時点において具備されていることが必要であり,かつ,それで足りる。
  • 商品等表示が周知となる状態を招来するのに,商品等表示主体が不正競争の目的を有していた等の場合に,周知性要件が満たされるかどうかについては見解が分かれている。
  • 周知な商品等表示を有する企業が会社の組織変更や合併等の形式的な法人格の変更を行った場合,周知性は新企業に承継され,新企業が1号による保護を受ける。

【3】著名(不正競争防止法2条1項2号)

  • 2号は,1号と比較すると,混同が要件とされていない点,その一方,保護される商品等表示は,周知では足りず,著名であることを要する点が特徴的である。
  • 2号において保護される商品等表示は著名なものでなければならない。2号では,混同が生じるおそれがない場合にも保護が及ぶことから,著名性は周知性よりも高い知名度が必要であり,通常の経済活動において,相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度に知られていることが必要であると解されている

(「周知」と「著名」については、茶園成樹 (大阪大学教授)編『不正競争防止法 第2版』(有斐閣、2019年)を参照しました。)

法規制

不正競争防止法第3条(差止請求権)
 
  1. 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
  2. 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

不正競争防止法第4条(損害賠償)
  故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密又は限定提供データを使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。
商標法第36条
 
  1. 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
  2. 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

会社法第8条
 
  1. 何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。
  2. 前項の規定に違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
会社法第9条(自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任)
  自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
商業登記法第27条(同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止)
  商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあつては、本店。以下この条において同じ。)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない。

商業登記法27条は、事業目的の同一性を問うていません。

すなわち、商号と本店だけが一致していれば他の登記事項を見るまでもなく、登記できず登記申請したとしても却下されます(商業登記法24⑫)。

商業登記法第24条(申請の却下
 

登記官は、次の各号のいずれかに掲げる事由がある場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。ただし、当該申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人がこれを補正したときは、この限りでない。

①~⑪ (略)

⑫ 申請が第27条の規定により登記することができない商号の登記を目的とするとき。

⑬~⑮ (略)

裁判例の紹介(モンシュシュ事件)


会社設立(平成15年9月4日)当初からの商号を変更せざるを得なくなったうえ、多額の損害賠償をさせられた事例

事件番号

控訴審:大阪高裁平成25年3月7日判決(平成23(ネ)2238号)

原審:大阪地裁平成23年6月30日判決(平成22(ワ)4461号)

原告

(被控訴人)

ゴンチャロフ製菓株式会社

登録商標「MONCHOUCHOU/モンシュシュ」を有する。

被告

(控訴人)

株式会社モンシュシュ

「堂島ロール」で有名

平成24年10月1日(訴訟中)「株式会社Mon cher(モンシェール)」に商号変更

訴えの内容

原告が、自己の有する登録商標と同名の商号を名乗る被告に対して

①使用の差止めと、②使用料相当損害金の支払いを求めた事例

認められた

損害賠償額

大阪高裁:5140万円

これでも、商号などの調査が不要だと思いますか?!

例えば、「類似商号の調査をやって貰えるか」聴いてみてください。

「勿論やりましょう」という司法書士なら信頼して任せれば良いと思います。

もし「商号が同じ名前の会社も本店が完全に一致しない限り、会社法になって認められるようになりました。だから、類似商号の調査は不要になったんですよ」と説明されたときは不勉強な司法書士ですので、依頼は止めておいた方が良いでしょう。

 

確かに、会社法上は可能になりました。しかしながら・・・

 

同じ商号を名乗ることが不正競争と判断される場合においては、商号使用の差し止め、損害賠償請求その他の不具合を招く可能性があります。せっかく、お商売が成功して有名企業になっても、他社から「商号を変えろ」と訴えられる可能性があるんです。

 

当グループでは

下記4つの方法で調査することで、皆様の訴訟リスクを低減します。

  1. 登記商号の調査
  2. 登録商標の調査
  3. 不正競争防止法2条1項1号に該当しないための調査
  4. 不正競争防止法2条1項2号に該当しないための調査

 

当グループの設立登記費用には、これらの調査費用が含まれております。

会社法人の設立登記は、是非、当グループにご用命ください。

リスクをさらに下げるためには・・・

自社商号が設立から何年も経って、有名になってから不正競争だと言われないようにするためには・・・貴社自身が商標登録をしておくことをオススメいたします。

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