不動産登記簿上の住所非表示措置(DV等被害者の特例)


不動産登記簿には、一筆ごと(建物なら一棟ごと)に、その所有者の住所氏名が登記されています。また、不動産を売却するとき(登記簿に記録された所有者の住所が最新でないときには)最新の住所に変更登記をしたうえで売却する必要があります。

ところが、DV等の被害に遭われた方が、不動産を売買しようとする場合には、住所を秘匿する特例が用意されていますので、ご紹介いたします。

 

令和6年4月1日、不動産登記法119条に第6項が追加され、実務上の運用が法制化されました。

もくじ
  1. 売主となる場合:住所変更登記の省略
  2. 買主となる場合:前住所などで登記できる
  3. 登記申請書(及び添付書類)の閲覧制限
  4. Q&Aよくあるお問合せ
  5. 人気の関連ページ

売主となる場合:住所変更登記の省略


原則 不動産を売却するときに住所が変わっている売主は、売却直前の現住所を登記してから(住所変更登記といいます。)でないと売却登記(買主への所有権移転登記)をすることができません。

  

例外

 

DV被害者が、支援措置を受けていることを証する書面を添付した場合、住所変更登記を省略することができます(平成25年12月12日法務省民二第809号通達。ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者支援に係る住民基本台帳事務処理要綱)。

買主となる場合:前住所などで登記できる


原則 不動産を購入したときは、現住所で登記しなければなりません。

  

例外

 

下記全ての要件を充たしている場合には、前住所・前々住所等で登記できる(平成27年3月31日法務省民二第196号通知)。

  1. 支援を受けていることを証する書面の登記申請書への添付
  2. 「住民票上の住所を秘匿する必要がある」旨及び「住民票に現住所として記載されている住所地は、配偶者等からの暴力を避けるために設けた臨時的な緊急避難地であり、飽くまで申請情報として提供した住所が生活の本拠である」旨の上申書(印鑑証明書付き)
  3. 登記申請書に記載された住所が、前住所又は前々住所等として公務員が職務上作成した住所を証明する書類に記載があること。

令和6年4月1日施行|改正不動産登記法

通達が法律になりました。

不動産登記法第119条 (登記事項証明書の交付等)
 
  1. 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記記録に記録されている事項の全部又は一部を証明した書面(以下「登記事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
  2. 何人も、登記官に対し、手数料を納付して、登記記録に記録されている事項の概要を記載した書面の交付を請求することができる。
  3. (略)
  4. (略)
  5. (略)
  6. 登記官は、第1項及び第2項の規定にかかわらず、登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合又はこれに準ずる程度に心身に有害な影響を及ぼすおそれがあるものとして法務省令で定める場合において、その者からの申出があったときは、法務省令で定めるところにより、第1項及び第2項に規定する各書面に当該住所に代わるものとして法務省令で定める事項を記載しなければならない。

非表示措置を受けるための要件(不動産登記規則202条の2)

  1. ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成十二年法律第八十一号)第六条に規定するストーカー行為等に係る被害を受けた者であって更に反復して同法第二条第一項に規定するつきまとい等又は同条第三項に規定する位置情報無承諾取得等をされるおそれがあること。
  2. 児童虐待の防止等に関する法律(平成十二年法律第八十二号)第二条に規定する児童虐待(同条第一号に掲げるものを除く。以下この号において同じ。)を受けた児童であって更なる児童虐待を受けるおそれがあること。
  3. 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成十三年法律第三十一号)第一条第二項に規定する被害者であって更なる暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの(次号において「身体に対する暴力」という。)を除く。)を受けるおそれがあること。
  4. 前三号に掲げるもののほか、心身に有害な影響を及ぼす言動(身体に対する暴力に準ずるものに限る。以下この号において同じ。)を受けた者であって、更なる心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれがあること。

 

非表示措置を受けるための手続き

上記要件を満たした方が、非表示措置を受けるための具体的な手続き

  • 不動産登記規則202条の3から同202条の16に規定されています。

登記申請書(及び添付書類)の閲覧制限


登記簿上から被害者の住所を隠すことができても、登記申請書などを閲覧されてしまっては、意味がありません。そこで、登記申請書等の閲覧制限を申し出ることもできます。

Q&A よくあるお問い合わせ


Q.司法書士です。DVの被害者であることを知らずに、住所変更登記をしてしまいました。住所変更登記を抹消することは可能でしょうか?

残念ながら、一度、実行された登記を跡形もなく抹消することは困難です。

もっとも、依頼者がDV被害者であったことを証明したうえで、買主を甲区1番の所有者として移記してもらい、売主と売主の住所変更登記がなされた部分を閉鎖してもらうことができます。一度、登記官と掛け合ってください(令和元年8月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)。

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