ブログやSNSを通じて「自分で登記できた」「登記は簡単」などと吹聴する方がいます。確かに「抵当権抹消」など比較的容易でリスクも低い登記もあります。しかし、不動産売買に伴う登記は、簡単そうに見えて難しい論点を多数含み、かつ高いリスクがあります。
このコラムでは「自分で登記する」と買主又は売主に言われたときに、相手方である皆様がどう対応すべきか説明します。
司法書士が関与する(通常の)不動産取引の流れは、次のとおりです。
【1】測量・分筆登記、売主様の引越準備、買主様の融資の承認など。
【2】チェック項目は、当事務所で軽く200以上あります。
【3】これを「不動産取引立会」といいます。不動産取引立会ができるのは、司法書士と弁護士に限られています。
【4】司法書士が中止する必要もない取引を中止した場合、当事者から損害賠償請求を受けるリスクや懲戒請求を受けるリスクもあります。それでも必要なときには中止するのが司法書士の職責です。
【5】法務局に一目散に向かうのは、登記は先に受け付けられた方が優先するというルールがあるからです(民法177)。売主様が、第三者にも譲渡(二重譲渡)したり、売主様が差押を受けると、買主様は所有権移転登記を受けられなくなるからです。
不動産取引では、売主が買主に対して必要書類を交付し、それを司法書士がチェックして登記を行ないます。売主が、司法書士資格のない素人に対して、権利証(登記識別情報)や印鑑証明書を渡すと、次のようなリスクを背負うことになります。
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令和3年2月25日現在、法務省ひな形【1】には買主が売主様の代理をする形式が掲載されています。このような形式は不動産登記法上、理論上は可能ですが、売主様のリスクを考えると到底オススメできません。買主が「法務省のひな形だから大丈夫ですよ」と言って持ってきても、決して売主様が買主を代理人にしないようにお願いします。
なお、近くこのひな形の撤去又は変更を求め、法務省に書簡を送付予定です。
不動産を処分する必要性も売主様によって異なるでしょう。次のような対応策を提案します。
まずは・・・ |
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無理に売らなくても良い場合 |
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どうしても売りたい場合 |
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上記が全てダメなら最低限・・・ |
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【1】一般的な司法書士は、嫌がります。売主様に雇われた司法書士であっても、売主様のためにキッチリと買主に名義を引き取らせる責任を負う結果、買主本人が作成した書類のチェックをすることになるからです。つまり、本来は買主に雇われて行なうべき仕事だからです。
【2】売主様が売っていない第三者名義(買主以外の名義)で登記されることを避けるためです。書類に捨印を押印すると買主名を変更する権限を買主に与えたことになります。そして大幅な変更であった場合でも、形式的な審査権しか持たない法務局は登記を実行してしまうおそれがあります。
不動産取引では、売渡証書などを作成する司法書士報酬をも買主が負担する(関東方式)と、売主が負担する(関西方式)があります。
以下は、主に売主が負担する関西方式についての記述ですが、関東であっても、売主から「司法書士に報酬払うのなんて勿体ない。登記なんて簡単だから私がやってあげますよ」などと言われた買主様はお読みいただく必要があります。
不動産は「その物件」しかありませんので、無茶な売主に付き合う必要がある場合もあると思います。
不動産取引では、売主側が必要な前提登記(登記簿上の住所と印鑑証明書の住所が一致していないときの住所変更登記、抵当権がついているときの抵当権抹消登記)を申請し、ついで売主と買主が共同して所有権移転登記を申請することとなっています。そして、前提登記がキッチリとできないと所有権移転登記もできないことになります。
売主が司法書士を雇っていない場合には、買主様は次のようなリスクを背負うことになります。
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まずは・・・ |
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無理に買わなくても良い場合 |
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どうしても買いたい場合 |
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【1】売主による住所変更登記、抹消登記は不動産取引日の相当前に申請させなければなりません。不動産取引日にこれらの登記が完了していない場合には、登記簿が閲覧できない状態となっており、不動産取引をすることができません。登記簿が閲覧できないとは何等かの登記が処理されている途中であることを示しており、何の登記が入っているかは登記完了まで分からないからです。
また、売主が売買代金でローンを完済する場合には、事前に抵当権抹消をすることはできません。
【2】買主は、絶対に、売主に登記を依頼してはいけません。売買代金を受け取った売主が登記をせずに、行方不明になった場合、買主名義に登記しようとすると民事訴訟しかありません。しかも第三者に移転登記されてしまうと敗訴します。