不動産取引で売買代金を先に支払ってはいけないワケ


不動産の売買代金は、司法書士が「書類OKです。」と宣言してからお支払いください。

(司法書士が立ち会う株式の売買代金も同様です。)

それにも関わらず、売買当日以前に支払う方、司法書士が「支払ってもOK」と言う前に支払ってしまう方がいます。

この記事では、支払ってはいけない理由をご説明します。

もくじ
  1. 売買日より前日に支払ってはいけない理由
  2. 司法書士が「支払ってもOK」と宣言する前に支払ってはいけない理由
  3. 司法書士が不動産取引に立ち会う理由

売買日より前日に支払ってはいけない理由(リスク)


「売買日より前日に支払うリスク」といっても良いと思います。

売買代金支払い日が、物件引渡し日、所有権移転登記必要書類引渡し日より離れれば離れるほど、買主様のリスクは上がります。売買日より前日に支払うリスクは、「司法書士が売買代金を支払ってOK」と宣言する前に支払うリスクよりも、より大きなリスクがあります。

主に次のようなリスクがあります。これらがリスクの全てではありません。イレギュラーなことをすると、想定外のリスクが生じるからです。

■売主様の死亡リスク

売買では、売主様が売買(最終売買残代金支払い)時点でご存命である必要があります。

万一、売買成立より前に、お亡くなりになった場合には、相続登記をしたうえで売却登記をせざるを得ません。また、相続人全員が簡単に合意できれば良いのですが、そうでない場合には、相続登記完了までにさらに時間を要します。

そして、その間、買主様の名義になるのが遅れます。

 

■売主様の代表者変更リスク

特に大きな会社の場合には、代表取締役の変更(とその会社登記)が行われる可能性があり、その場合には会社登記が完了するまで、買主様の名義になるのが遅れます。

 

■物件引渡し時期との不一致

不動産売買契約書では、原則として、売買代金全額の受領と同時に対象物件を引き渡すことが定められています。前日までに支払うと、売主様が何等かのクレームを言って、物件の引渡しが行われない可能性があり、トラブルの原因となる恐れがあります。

 

■災害リスク

支払い後、引渡し前に地震や火災などの災害で、建物が無くなってしまう(滅失してしまう)可能性があります。この場合、買主は契約を解除する権利を有しますが、代金の返還手続きに時間がかかる可能性があります。売主がすでに売買代金を使っていた場合には、返還を受けられません。

 

■その他のリスク

次にご紹介する「司法書士が売買代金を支払ってOK」と宣言する前に支払うリスクは、「前日までに支払うリスク」にも当てはまります。

 

司法書士が「支払ってもOK」と宣言する前に支払ってはいけない理由(リスク)


主に次のようなリスクがあります。これらがリスクの全てではありません。イレギュラーなことをすると、想定外のリスクが生じるからです。

 

■所有権移転登記できないリスク

所有権移転登記には多くの書類が必要です。

また、書類自体にもチェック項目があります。

司法書士が書類等を確認する前に支払うことで、所有権移転登記ができないリスクがあります。

 

■地面師リスク

地面師とは、売主様本人ではないのに、売主様になりすまして、売買代金を詐取する者(集団)のことをいいます。登記名義人である売主本人になりすましをして売買代金を持ち逃げするという犯罪に巻き込まれるリスクが高まります。

 

■悪意ある売主リスク

登記名義人である売主が売買代金を持ち逃げするリスクがあります。

また、第三者にも売却する(二重譲渡する)リスクがあります。二重譲渡が行われた場合、所有権を取得できるのは、先に登記した買主様です。

このような場合に、後日、売主に損害賠償請求をしようとしても、売主が無資力となっていると賠償を得ることはできません。

 

■差押リスク

買主様への所有権移転登記を申請するより前に差押えが入ると、買主様は完全な所有権を取得できない(差押がついたままの所有権しか取得できない)事態が発生する可能性があります。

売主様が何等かの訴訟で敗訴している場合や、税金の滞納をしている場合に差押の登記が入ります。

 

■仮差押・仮処分リスク

差押えよりも恐いのが、仮差押や仮処分の登記が入り、買主に完全な不動産の所有権を移転できない(仮差押・仮処分がついたままの所有権しか取得できない)事態が発生する可能性があります。

仮差押や仮処分が差押えよりも恐いのは、売主様自身も何も知らないままに発令されている可能性があるということです。

司法書士が不動産取引に立ち会う理由


司法書士は、買主様の上記リスクを極小にするために立会います。

具体的には、

  • しっかりと売主様がご本人であることを確認することによって【地面師リスク】
  • 取引直前に不動産登記簿謄本等を取得して、所有権が第三者へ移転登記されていないことを確認することと取引終了後直ちに登記申請することで【悪意ある売主リスク】
  • 取引直前に不動産登記簿謄本等を取得して、他者の権利が入っていないことを確認することと取引終了後直ちに登記申請することで【差押リスク、仮差押・仮処分リスク】
  • しっかり書類を確認することで【所有権移転登記できないリスク】

をそれぞれ低減しています。

 

また、イレギュラーな不動産取引の場合、司法書士は、貴社又は取引相手に対して、イレギュラーな書類の提出を求めることがございます。貴社の権利を守るためですので、ご協力くださいますようお願いいたします。

弁護士がOKと言ったらOKか?

もちろん買主様が(司法書士同様の役割を担わせるために)依頼した弁護士がOKと言えば大丈夫です【1】。

一方、売主側が依頼した弁護士であれば、その弁護士が「大丈夫」と言ったところで、何の意味もありません。売主が依頼した弁護士であれば、売主の利益だけを考えているからです【2】。

 

【1】弁護士にも、司法書士同様の登記申請に関する権限があります。

【2】弁護士が故意に買主様を騙すことは、ありません。弁護士にも司法書士同様、高度な職業倫理が求められ、これに反すると懲戒処分を受ける可能性があるからです。

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