外国(海外)在住日本人の不動産登記手続(在留証明書・署名証明書・日本公証役場)


外国にいらっしゃる日本人の方の不動産登記手続をお手伝いすることが増えました。

外務省のホームページ「在外公館における証明」も分かりやすいですが、手続で必要な書類は、その提出先(役所)によって必要な記載事項が異なります。

不動産登記は、法務局(法務省)に登記申請書を提出して行います。登記は、行政手続きの中でも、最も厳格なものの一つです。そして、司法書士は、登記手続きの専門家です。

この記事では、司法書士が、外国在住日本人の不動産登記手続について解説しています。

もくじ
  1. 不動産登記で必要な「在留証明」
    1. 在留証明の役割Ⅰ
    2. 在留証明の役割Ⅱ(オプション)
    3. 在留証明が必要な場面
    4. 在留証明の取得方法
  2. 不動産登記で必要な「署名証明」
    1. 署名証明の役割
    2. 署名証明が必要な場面
    3. 署名証明の取得方法
  3. 必要な「在留証明書」の種類
    1. 「提出理由」欄への記入
    2. 「提出先」欄への記入
    3. 郵送で取得できる国もあります。
    4. 相続放棄申述するなら、在留証明書はなくても大丈夫です。
    5. 在留証明書があれば、日本公証役場でも手続き可能です。
  4. 法定相続情報作成のために必要な住所証明書は「在留証明書」
  5. 在外国の日本人が遺産分割協議に参加する方法(まとめ)
  6. 在外国の日本国公館で署名手続する場合
  7. 日本の公証役場で署名手続する場合
  8. 日本の裁判所へ相続放棄申述する場合

不動産登記で必要な「在留証明」


在留証明の役割Ⅰ

在留証明書は、あなたの外国における現住所を証明してくれる書類です。

 

在留証明の役割Ⅱ(オプション)

オプションで次の事項を証明することも可能です。

  • あなたの外国における「過去の住所」から「現住所」までの変遷
  • あなたの(日本の)本籍地

 

在留証明が必要な場面

次のような場合に、あなたの在留証明が必要になります。

  • あなたが日本にある不動産を購入する場合(不動産購入の登記。現住所のみで良い。)
  • あなたが日本にある財産について遺産分割協議に参加する場合(遺産分割協議。現住所と本籍地が必要)
  • あなたが日本に不動産を所有している場合において、あなたが引越をしたときに、不動産登記簿に記載されたあなたの住所を現住所に変更する場合(所有権登記名義人住所変更登記。過去の住所から現住所までの変遷が必要)

 

用途で異なる「在留証明」の証明事項

    住所
    現住所のみ 過去の住所からの変遷

  • オプションなし
  • 基本の「在留証明」です。
  • 外国の各住所で居住していたことを証明する書類を日本公館に提出する必要があります。

用途:不動産購入を購入する。

用途:所有権登記名義人住所変更登記

  • 日本の戸籍謄本を日本公館に提出する必要があります。
  • フルオプション
  • 日本の戸籍謄本を日本公館に提出する必要があります。
  • 外国の各住所で居住していたことを証明する書類を日本公館に提出する必要があります。

用途:遺産分割協議に参加する。

用途:何にでも使えます。

在留証明の取得準備

どのオプションをつけるかによって、準備しておく書類が異なります。

    住所
    現住所のみ 過去の住所からの変遷

オプションなし(現住所のみ証明)の場合

  1. 有効な日本旅券(パスポート)
  2. 有効なビザが確認できる書類(VEVO、Grant Notice等)
  3. 現住所確認書類として以下のいずれか
    1. 現住所の載がある当地の有効な運転免許証
    2. 本人の氏名及び現住所の記載がある電話・電気等の公共料金の請求書など

住所の変遷が必要な場合

  1. 左の書類全て
  2. 次の書類のいずれか(いずれもご本人の氏名・住所・日付けの3点が明確なもの)
    1. 過去住所、現住所の家屋の賃貸借契約書または売買契約書
    2. 過去住所、現住所に居住を開始した時期に発行された公共料金請求書

本籍地が必要な場合

  1. 上の書類全て
  2. 戸籍謄(抄)本(最新の本籍地が反映されているもの)
フルオプション(住所変遷、本籍地あり)の場合
  1. 左上の書類全て
  2. 次の書類のいずれか(いずれもご本人の氏名・住所・日付けの3点が明確なもの)
    1. 過去住所、現住所の家屋の賃貸借契約書または売買契約書
    2. 過去住所、現住所に居住を開始した時期に発行された公共料金請求書
  3. 戸籍謄(抄)本(最新の本籍地が反映されているもの)
  相続登記のみで使う場合 相続人ご自身の住所変更も必要な場合

形式【1】 

現住所のみを証明する形式のもの 過去の住所から現住所への変遷も証明する形式が用意されています。 

発行のために大使館へ提出必要な書類【2】

  1. 有効な日本旅券(パスポート)
  2. 有効なビザが確認できる書類(VEVO、Grant Notice等)
  3. 戸籍謄(抄)本(最新の本籍地が反映されているもの)【3、4】
  4. 現住所確認書類として以下のいずれか
    1. 現住所の載がある当地の有効な運転免許証
    2. 本人の氏名及び現住所の記載がある電話・電気等の公共料金の請求書など
  5. 居住期間が必要な場合:家屋の賃貸(売買)契約書等

 

  1. 左欄の書類すべて
  2. 次の書類のいずれか(いずれもご本人の氏名・住所・日付けの3点が明確なもの)
    1. 過去住所、現住所の家屋の賃貸借契約書または売買契約書
    2. 過去住所、現住所に居住を開始した時期に発行された公共料金請求書

 

 

在留証明の取得方法

在留証明書は、日本政府の在外公館(大使館や総領事館)において発行してもらうことができます。

不動産登記で必要な「署名証明」


署名証明の役割

署名証明はあなたの何等かの意思を証明するもので、日本における印鑑証明書に該当します。

署名証明の取得方法

必要な「在留証明書」の種類

「在留証明願」には、2種類、すなわち「現住所のみを証明する形式」と「過去の住所から現住所への変遷も証明する形式」があります。

必ず「❶目的にあった」「➋最新のもの」を「➌証明してもらう在外公館から」入手して、ご利用ください。

【1】各外国の日本公館によっても異なるかもしれませんが、①現住所のみを証明する形式と、②過去の住所から現住所への変遷も証明する形式が用意されています。 

【記入見本】

①現住所のみを証明する形式

在留証明願|現住所のみ証明できるもの(在メルボルン領事館)
在留証明願|現住所のみ証明できるもの(在メルボルン領事館)

【記入見本】

②過去の住所から現住所への変遷も証明する形式

在留証明願|住所変遷も証明できるもの(在メルボルン領事館)1頁目
在留証明願|住所変遷も証明できるもの(在メルボルン領事館)1頁目
在留証明願|住所変遷も証明できるもの(在メルボルン領事館)2頁目
在留証明願|住所変遷も証明できるもの(在メルボルン領事館)2頁目

【2】これらの書類以外に必要な書類がないか、念のため、在留国にある日本大使館にご確認ください。

【3】相続登記とは関係なく、単に住所変更登記や住所変更手続きで使う場合には、本籍地の証明は不要ですので、戸籍謄本は不要です。

【4】戸籍謄本はコピーでも大丈夫な場合もあります(在留国にある日本大使館にご確認ください)。コピーでも大丈夫な場合には日本にいる相続人に取得してもらい、メールで送ってもらいましょう。

「提出理由」欄への記入

「遺産分割協議のため」または「相続手続のため」と記載ください。

「提出先」欄への記入

「司法書士」で結構です。

郵送で取得できる国もあります。

「郵便による在留証明発行依頼書」なども提出が必要です。

また、郵送での取扱いには、遅配や不着のリスクがあります。

相続放棄申述するなら、在留証明書はなくても大丈夫です。

日本の家庭裁判所に相続放棄申述をする場合、相続人の住民票を求められないことが多いです。 

また、法定相続情報には、掲載したい方の住所のみを掲載することが可能です。

したがって、相続放棄申述をすることが最初から確定している場合には、在留証明書は不要です。

在留証明書があれば、日本公証役場でも手続可能です。

「日本公証役場での手続」とは、遺産分割協議書への調印のことです。

遺産分割協議書への調印は、実印で行い印鑑証明書の添付も必要です。しかし、外国にいるあなたは日本へ一時帰国しても印鑑証明書を発行してもらうことはできません。

そこで、公証役場にいる公証人が、あなたの本人確認と署名の認証をしてくれます。これによって、あなたは実印、印鑑証明書を用意できなくても遺産分割協議に参加することが可能になります。

公証役場での手続では、あなたの在留証明書が必要になります。

 

遺産分割協議のために来日なさる予定がある場合には、あらかじめあなたの居住している外国で在留証明書を取得しておかれると良いでしょう。

法定相続情報作成のために必要な住所証明書は「在留証明書」


「法定相続情報証明書」とは、相続手続に必要な『分厚い戸籍の束』を1通の証明書にしたものです。

法定相続情報証明書は、遺産の所在が分からない場合の「遺産探索」や、遺産分割協議終了後の「財産の名義変更」の際に、「分厚い戸籍の束」の代わりに使える大変便利なものです。詳しくはこちら「法定相続情報~ややこしい戸籍を読むのは司法書士が一回で十分です。銀行預金の相続手続前に司法書士にご依頼ください。」をご参照ください。

 

法定相続情報証明書には、住所を入れておくと便利です。住所を入れてもらうには、日本国内に住所がある方の場合には、住民票が必要です。外国に居住している場合には、何を用意すれば良いのでしょうか?

 

Q.法定相続情報に住所を記載する場合で、外国に住む日本人の場合、住所を証明する書類は、在留証明書で良いですか?

在外国の日本公館が証明した「在留証明書」で大丈夫です(平成29年8月・神戸地方法務局調べ)。

在留証明書以外のたとえば外国政府が作成した証明書は、法定相続情報の作成のために必要な住所証明書として認められていませんので、注意が必要です。 

在外国の日本人が遺産分割協議に参加する方法

(まとめ)


  在外国の日本国公館で署名手続

日本の公証役場で

署名手続

日本の裁判所へ

相続放棄申述

在留証明書の事前取得 必要 必要 不要
日本の専門家による手続代行 不可 不可 可能
手続コスト【1】 安い 安い 高い(実費は数千円。専門家に依頼すると数万円)
手続に要する期間 短い 短い 長い(数か月)
日本に帰国する予定がある場合 日本国公館が近くにあればオススメ オススメ オススメ
日本に帰国する予定がない場合 オススメ × オススメ
遺産分割協議成立後、新たな遺産が発見された場合 再度、手続が必要 再度、手続が必要 再度の手続は不要

【1】移動費用を含まない手続だけのコストです。

以下、次の順番で詳しく説明します。

  1. 在外国の日本国公館で署名手続
  2. 日本の公証役場で署名手続 
  3. 日本の裁判所へ相続放棄申述

在外国の日本国公館で署名手続する場合


遺産分割協議成立

司法書士が遺産分割協議書を作成します。

司法書士が遺産分割協議書をお送りします。

メール送信又は郵送にてお送りいたします。

外国にある日本国公館を訪問ください。

訪問のうえ、下記手続をお願いします。

【必要書類】

  1. 「未署名のまま」の遺産分割協議書
  2. パスポート
  3. 住所を確認できる書類
  4. 滞在期間を確認できる書類
  5. 戸籍謄本
  6. 詳細は、外務省のHP(https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000554.html)をご参照ください。

 

【必要手続】

  1. 在留証明書を取得ください。
  2. 「未署名のまま」の遺産分割協議書に領事の面前で署名していただき、署名証明書を取得ください。

司法書士事務所へ郵送

下記書類を司法書士事務所に郵送ください。

  1. 署名証明がなされた遺産分割協議書
  2. 在留証明書

日本の公証役場で署名手続する場合


在外国日本国公館を訪問

在留証明書を取得します。

日本の公証役場を訪問

訪問すべき公証役場は、司法書士事務所が御案内します。

公証役場に下記書類を持参ください。
普段は、外国にいらっしゃる相続人がお一人で公証役場にお越しいただければ結構です(相続人全員で公証役場を訪問する必要はございません。)。

  1. 在留証明書
  2. パスポート
  3. 費用5,500円【1】
  4. 「未署名の」遺産分割協議書

流れは次のとおりで、所要時間は概ね20~30分です。

  1. 公証人がパスポートと在留証明書を確認します。
  2. 公証人から遺産分割協議書への署名をうながされますので、指示に従い署名ください。
    ※署名は、筆記体で記載せず、戸籍通りの文字で記載ください。
  3. その後、公証人が「署名証明書」を合綴したものを交付してくれます。

【1】英文が混じっている場合には、11,000円になります。

司法書士事務所へ郵送

下記書類を司法書士事務所までご郵送ください。

  1. 署名証明がなされた遺産分割協議書
  2. 在留証明書

日本の裁判所へ相続放棄申述


面倒なら相続放棄申述も検討を

あなたがいらっしゃる国の日本国領事館が、あなたのお住まいから離れている場合で、在留証明書を取得することすらお手間というときには、「家庭裁判所に対する相続放棄申述」も検討対象として良いと思います。

  • 相続放棄申述をすると、何も財産を取得することができなくなります。コラム「相続放棄の意味と申立手続」もご参照ください。
  • 相続放棄申述は、相続開始後3か月以内に手続をする必要がありますので、ご注意ください。
  • 相続放棄申述受理申立て自体に、在留証明書(原本)やパスポート(コピー)の添付は、不要とされているので問題はありません(神戸家庭裁判所240625照会結果。家庭裁判所によって、取扱いが異なる可能性がありますので、相続放棄を管轄する家庭裁判所に確認する必要があります。)。また、送達先を司法書士事務所にするように、裁判所から依頼(指示)されることもあります。相続放棄申述の申立書作成は、当グループでも承っておりますので、是非、ご用命ください。
  • 法定相続証明情報の作成を予定して場合であっても、あなたお一人の住所欄を空欄で申請することが可能です(神戸地方法務局東神戸出張所240625照会結果。法務局によって、取扱いが異なる可能性がありますので、法定相続情報を申請する法務局に確認する必要があります。)。なお、相続放棄受理証明書を添付したとしても、法定相続情報には相続放棄申述をした方の名前は表示されます。また、法定相続情報証明には、相続放棄した旨は記載されませんが相続放棄受理通知書(証明書)を別途添付することで、不動産登記手続、銀行手続等も支障なく行うことができます。
  • 被相続人がお父様であって、相続人がお母様とあなたである場合に、子どもがあなた一人しかいないときには、あなたが相続放棄をするとお母様は、お父様の兄弟と遺産分割協議をしなければならなくなりますので、十分にご検討のうえ、手続を選択ください。
  • ただし、最後まで在留証明が絶対不要という保証はしきれません(法律が通じない馬鹿な金融機関があるためです。)