不動産売買に関して最も多い質問の一つが「売主はちょっと認知症ですが、売買できますか」です。
どういう状態であれば、売って良いのか?!
絶対ダメな状態とは?!
それでも売却しないといけないときには?!
司法書士の視点から考察しました。
もくじ | |
認知症であれば、絶対に売却できないという訳ではありませんが・・・
両方の時点で、売主さんには、不動産を売却する「行為能力」が要求されます。
判断能力がない状態にも二通りあります。
売却直後に売主様が亡くなられ「ばあちゃんは、認知症やった。不動産なんか売却できる筈がない」などと相続人が騒ぎ出した場合には、仲介不動産会社などが責任を取らざるを得ない可能性がありますので、ご注意ください。
意思能力 | 行為能力 | |
意 味 | 自らがした行為の結果を判断することができる能力 | 単独で有効な取引行為(法律行為)をすることができる能力 |
効 果 | 無効【1】 | 取消できるなど |
ないとされる例
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未就学児(小学校入学前程度の子) 泥酔者 重度の精神障害者 |
未成年者 成年被後見人 |
【1】無効。すなわち効力が発生しません。
不動産取引は、通常、次の流れで行われます。
「1.の時点」売買契約の締結時には、通常、不動産会社(宅地建物取引士業)が売主様の意思確認をしますが、微妙なときには、司法書士がこのときにも意思確認をすることがございます。コラム「不動産売買契約締結前に、売主の判断能力確認(意思確認)を司法書士にご依頼くださる不動産会社様へ」もご参照ください。
「3.の時点」売買の実行時には、司法書士が意思確認をしますが、意思確認の対象は売主さんご本人です。売主ご本人に能力がないことを確認した後に、ご家族が代理人だとご主張された場合でも、ご本人にはご家族を代理人にするための能力(委任契約を締結する能力)がないと判断せざるを得ないからです。万が一、売主さんご本人が、認知症などで判断能力が落ちてしまった場合には、他の親族全員が売ってくれと言っても、司法書士は売却の登記を行なうことが出来ません。
不動産取引時に司法書士は、次のように意思確認を行います。
売買契約時に意思確認をする不動産会社さんも、同様に行うことをオススメします。
ご本人に面談して、質問をします。
コストが掛からない方法ですので、まず一番最初に行なうことをオススメしています。
ご面談の内容は、ビデオ撮影・録音・細かいメモをして残しておきます。
主な質問項目は、次のとおりです。
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質問の中に、本当に不動産を売りたいご本人ならば、絶対に「はい」と答えないような質問を混ぜておきます。例えば
「本当は売りたくないんですよね。」
「(1億円の物件なのに)100万円で売るんですよね。」
認知症の方の中には、お気持ちが優しくて何にでも「はい」とお答えされる方がいらっしゃるからです。
質問を無事クリアした場合には、診断書を取得するようご家族にお願いします。
1.診断書には色々な形式のものがありますが、成年後見制度を利用する際に裁判所に提出する用の書式をオススメします。 裁判所HPからダウンロードしてください。
2.診断書が到着したら、「3判断能力についての意見」欄(上の赤枠で囲った部分)をご覧ください。それぞれの意味は、それぞれ次の通りです。
「3判断能力についての意見」欄への記載 | 意味 |
契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができる。 | 行為能力に問題なし=堂々と売却できますが、診断書原本はお預かりしておきましょう。 |
支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することが難しい場合がある。 | 補助相当=微妙 |
支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。 | 保佐相当=売却することは出来ません。 |
支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。 | 後見相当=売却することは出来ません。 |
念のために「登記されていないことの証明書」も取得しておきましょう。
何が登記されていないかというと、成年後見登記がされていないことの証明です。
「登記されていないことの証明書」が取得できたということは、ご本人は申請日時点では、成年被後見人などではないということが、証明できます。
登記されていないことの証明書の説明及び請求方法(東京法務局HP)
判定が「判断能力がない」となったけれど、どうしても売却したい場合には、成年後見制度を利用することになります。ただし、成年後見制度のご利用には次のような注意点があります。
⑴ ご家族ご自身を成年後見人候補者として申立てをした場合
⑵ ご家族が成年後見人に選任された場合
⑶ 司法書士・弁護士などの専門職後見人が選任された場合
⑷ その他
上記を合計すると、最短でも6か月、最長11か月ほどの時間を要することになります。
売却したい不動産がご本人の居住用不動産で、かつ、ご本人に預貯金などの財産がある場合には
売却したい不動産がご本人の非居住用不動産で、かつ、ご本人の現金預金が不足する場合には
居住用不動産とは。。。
非居住不動産とは。。。
ケース | 監督人の同意書 |
家裁の 許可 |
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後見人が本人に代わって売却 (成年後見監督人はいない) |
非居住 | 不要 | |
居住用 |
必要 (民859の3) |
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後見人が本人に代わって売却 (成年後見監督人がいる) |
非居住 |
必要(民864、13Ⅰ③) | 不要 |
居住用 |
不要(∵家裁への売却許可申立の段階で監督人の同意が必要) | 必要 | |
保佐人が本人に代わって売却 (保佐監督人はいない) |
非居住 | 不要 | |
居住用 |
必要 (民876の5) |
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保佐人が本人に代わって売却 (保佐監督人がいる) |
非居住 | 不要(民876の3Ⅱ。本人の同意又は申立により代理権付与されているから、監督人同意まで求めない趣旨) | 不要 |
居住用 |
不要(民876の3Ⅱ。本人の同意又は申立により代理権付与されているから、監督人同意まで求めない趣旨) |
必要 | |
補助人が本人に代わって売却 (補助監督人はいない) |
非居住 | 不要 | |
居住用 | 必要 | ||
補助人が本人に代わって売却 (補助監督人がいる) |
非居住 |
不要(民876の8Ⅱ。本人の同意又は申立により代理権付与されているから、監督人同意まで求めない趣旨) | 不要 |
居住用 |
不要(民876の8Ⅱ。本人の同意又は申立により代理権付与されているから、監督人同意まで求めない趣旨) 家裁からの同意書要求あれば必要 |
必要 | |
任意後見人が本人に代わって売却 (必ず任意後見監督人がいる) |
居住用 | 居住用・非居住ともに任意後見契約による | 不要 |
非居住 | |||
被後見人ご本人が売却【1】 | 居住用 | 売却不可 | |
非居住 | 売却不可 | ||
被保佐人ご本人が売却【1】 | 居住用 | ||
非居住 | |||
被補助人ご本人が売却【1】 | 居住用 | ||
非居住 |
【1】家庭裁判所において、後見・保佐・補助開始の各審判を受けていなかったとしても、司法書士がご本人に判断能力がないと判断した場合には、売却することができません。