任意後見契約の効力発生「前」の解除(任意後見監督人選任前の解除)


信頼関係を築いてから結んだはずの「任意後見契約」ですが、何らかの事情で、これを解消する必要が生じることもあります。

この解消手続について、ご説明します。

もくじ
  1. 任意後見契約は解除できるのか?!
    1. 法律ではどうなっているのか?
    2. 一般的な任意後見契約ではどうなっているのか?
    3. まとめ(任意後見契約の解除方法)
    4. 解除方法が決まっている理由
  2. 解除の方法
    1. 「公証人の認証を受けた書面」とは?
    2. 公証役場における必要書類は?
    3. 一方からの解除の場合は?
  3. 解除後の手続は?
  4. 司法書士の報酬・費用
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任意後見契約は解除できるのか?!


法律ではどうなっているのか?

任意後見契約は、委任契約(民法643以下)ですから、両当事者がいつでも解除でき(民651)、その方法は自由(例えば、口頭で解除を伝えるのもOK)なような気もします。

 

ところが、任意後見契約に関する法律は、次のような規定を置いています。

任意後見契約に関する法律第9条(任意後見契約の解除)
 
  1. 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任される前においては、本人又は任意後見受任者は、いつでも公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる。
  2. 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された後においては、本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができる。

一般的な任意後見契約ではどうなっているのか?

任意後見契約の法律第9条の定めを受けて、任意後見契約でも次のとおりにします。

  1. 委任者又は受任者は,任意後見監督人が選任されるまでの間は,いつでも公証人の認証を受けた書面によって,本任意後見契約を解除することができる。 
  2. 委任者又は受任者は,任意後見監督人が選任された後は,正当な事由がある場合に限り,家庭裁判所の許可を得て,本任意後見契約を解除することができる。

まとめ(任意後見契約の解除方法)

契約の種類 タイミング 方法
任意後見契約の解除 任意後見監督人選任「前」 いつでも 公証人の認証を受けた書面 
任意後見監督人選任「後」 正当事由ある場合のみ 家裁の許可
CF.普通の委任契約の解除 いつでも 自由(口頭でもOK)

「いつでも」というのは「特に理由は必要ない」という意味です。

解除方法が決まっている理由

通常の委任契約の解除とは異なり、任意後見契約の解除方法が法律で規定されているのは、次の二つの理由です。

  1. 任意後見契約の解除についての当事者の真意を確認するため
  2. 任意後見契約が解除されることによって本人の保護が不十分になることを防止するため

 

公証人の関与を求めているのは、次の二つの理由です。

  1. 公証人に「解除の真意」を確認させるため
  2. 任意後見契約締結時に(公証人の)公正証書によることが必要なこととのバランス

解除の方法


効力発生前であれば、「いつでも」解除できる。ただし「解除方法」は法律で決められているということですので、次は、解除方法について見ていきましょう。

「公証人の認証を受けた書面」とは

内容をチェックする必要まではありませんので、合意解除証書を公正証書で作成する必要まではありません。

比較:任意後見契約に関する法律第3条(任意後見契約の方式)
  任意後見契約は、法務省令で定める様式の公正証書によってしなければならない。

法律上は、両当事者が公証人の面前に揃って出頭する必要まではありません。

しかしながら、「任意後見受任予定者」はご本人の状況に配慮する必要があります。

そこで、公証人の面前で解除することにより公証人にも証人になってもらうのが、ベストです。

具体的には、次のような解除証書を公証役場に持参し、これに公証人の認証を受ければOKです。

ちなみに・・・

  1. 公証人の面前で委任者・受任者が署名するか、署名したものを持参するかは自由です。
  2. 委任者・受任者が押印するか、しないかも自由です。

もっともこれらによって認証文言が変わりますので、予め公証人との打合せが必要です。

合意解除証書
委任者と受任者は、本日、下記契約の全部を合意解除する。  
令和年月日付け○○法務局所属公証人○○○○作成同年第○号任意後見契約公正証書による任意後見契約
令和年月日

    登記記録上の住所【1】

    現在の住所【2】

委任者 氏名            ㊞

    登記記録上の住所【1】

    現在の住所【2】

受任者 氏名            ㊞

【1】任意後見契約締結時の住所と、現在の住所が相違する場合に記載します。

変更がないときには【2】も単に「住所」と記載すれば大丈夫です。

公証役場における必要書類は?

●委任者本人の書類

□本人確認書類と□認印【1】

□印鑑証明書と□実印【2】

□(任意後見契約締結の時から住所が移転している場合は、関連のつく)住民票

□(任意後見契約締結の時から氏名が変更している場合は、関連のつく)戸籍抄謄本

□費用【5】

 

●受任者本人の書類

□本人確認書類と□認印【3】

□印鑑証明書と□実印【4】

□(任意後見契約締結の時から住所が移転している場合は、関連のつく)住民票

□(任意後見契約締結の時から氏名が変更している場合は、関連のつく)戸籍抄謄本

 

●(司法書士が受任者ではなく)委任者または受任者が終了登記の申請を司法書士に委任する場合

□司法書士への委任状


【1】【2】いずれかの組合せで結構ですが、念のために公証人と打合せください。

【3】【4】いずれかの組合せで結構ですが、念のために公証人と打合せください。

【5】次のような費用をご用意ください。

  1. 公証人費用:5,500円
  2. 任意後見登記の抹消を司法書士に依頼する場合には、その費用
  3. 任意後見契約などで費用の精算が必要な場合には、その費用 

一方からの解除の場合は?!

本来は、両当事者の間で、解除について合意が整うことが望ましいですが、次のような場合には、一方から解除することも可能です。

  • (財産管理の)受任者による経済搾取の疑いがあったので、財産管理、任意後見を解除する場合
  • 受任者の体調不良により療養中で外出できない場合

注意点

  1. 登記記録上の住所と現住所が異なる場合には、解除証書または解除通知書に、両方の併記が必要です。終了登記の際にも、住民票の添付が必要です。終了の登記の委任状にも、両者を併記します。そのため、1番初めに、現在の登記事項証明書を取得します(委任状に記載すべき登記番号も確認)。
  2.  解除通知書による一方解除の場合、通知書と「公証人認証文」との間に、公証人と解除者の両方の割印が必要です。
  3.  一方解除による終了の場合は、終了年月日は、配達証明ハガキに記載されている相手方到達日が終了年月日になります。そのため、あらかじめ委任状をいただく時は、終了年月日、委任日とも空欄にしています。

 

 

解除後の手続は?


終了の登記

誰が、任意後見登記を抹消するのでしょうか?

任意後見登記をした公証人は、抹消登記の嘱託をしてくれません。次の二通りの方法があります。

  1. 委任者又は受任者が申請する。【1】
  2. 委任者又は受任者が司法書士に登記申請のみを委任する。

 

【1】任意後見契約終了後の受任者にも「終了登記」を単独申請する権限があります。

任意後見契約終了後の受任者には「終了登記完了後の登記事項証明書」を単独申請し交付を受ける権限もあります。

 

後見登記等に関する法律第8条(終了の登記)
 
  1. (略)
  2. 任意後見契約に係る登記記録に記録されている前条第1項第4号に掲げる者は、任意後見契約の本人の死亡その他の事由により任意後見契約が終了したことを知ったときは、嘱託による登記がされる場合を除き、終了の登記を申請しなければならない。
  3. 成年被後見人等の親族、任意後見契約の本人の親族その他の利害関係人は、後見等又は任意後見契約が終了したときは、嘱託による登記がされる場合を除き、終了の登記を申請することができる。
後見登記等に関する法律第7条(変更の登記)
 
  1. 後見登記等ファイルの各記録(以下「登記記録」という。)に記録されている次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める事項に変更が生じたことを知ったときは、嘱託による登記がされる場合を除き、変更の登記を申請しなければならない。
    1. (略)

    2. (略)

    3. (略)

    4. 第5条第2号、第3号又は第6号に規定する者 同条各号に掲げる事項

    5. (略)
  2. (略)
後見登記等に関する法律第5条(任意後見契約の登記)
  任意後見契約の登記は、嘱託又は申請により、後見登記等ファイルに、次に掲げる事項を記録することによって行う。
  1. 任意後見契約に係る公正証書を作成した公証人の氏名及び所属並びにその証書の番号及び作成の年月日
  2. 任意後見契約の委任者(以下「任意後見契約の本人」という。)の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)
  3. 任意後見受任者又は任意後見人の氏名又は名称及び住所
  4. 任意後見受任者又は任意後見人の代理権の範囲
  5. 数人の任意後見人が共同して代理権を行使すべきことを定めたときは、その定め
  6. 任意後見監督人が選任されたときは、その氏名又は名称及び住所並びにその選任の審判の確定の年月日
  7. 数人の任意後見監督人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことが定められたときは、その定め
  8. 任意後見契約が終了したときは、その事由及び年月日
  9. 家事事件手続法第225条において準用する同法第127条第1項の規定により任意後見人又は任意後見監督人の職務の執行を停止する審判前の保全処分がされたときは、その旨
  10. 前号に規定する規定により任意後見監督人の職務代行者を選任する審判前の保全処分がされたときは、その氏名又は名称及び住所
  11. 登記番号

 

 

 

 

司法書士の報酬・費用


次のとおりです。

業務の種類 司法書士の報酬 費用
合意解除の場合
  • 解除証書の作成
  • 公証人との打合せ
  • 公証役場での認証当日立会
  • 後見登記の抹消登記申請

55,000円【1】

公証人認証費用5,500円

公証役場への交通費

後見登記事項証明書550円

登記手数料は無料

閉鎖後見登記事項証明書550円

申請用郵便費用520円

返信用封筒(原本還付あるとき)520円

完了謄本郵送費890円

【1】公証役場の場所により日当を頂戴することがあります。

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