成年後見人・保佐人・補助人は、選任審判が確定すると一気に業務を開始する必要があります。したがって、後見人等の候補者にとっては、とても重要な日です。それゆえ家庭裁判所には審判確定日に関する問合せが殺到して業務を逼迫していると聞きました。
そこで、このコラムでは(復習を兼ねて)家庭裁判所の事務負担を少しでも減らすべく執筆しました。
もくじ | |
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成年後見開始等の審判は、申立人や後見人に選任された方に対して、特別送達によって告知されることになっています。
特別送達は受け取った日を審判書に「メモする」又は「日付印を押しておく」ことが重要です(司法書士の方は簡裁代理でも重要ですので、クセをつけておくと良いでしょう。また、スタッフに対しては、特別送達を勝手に受け取らないように指導しておく必要もあります。)。
裁判所手続の色々な期間が、この特別送達を受け取った日からカウントスタートされるからです。
なぜ審判書(告知)を受け取った日にすぐ後見業務を開始できないのかと言いますと、審判に対して異存がある方に即時抗告する機会を与える必要があるからです。
家事事件手続法第74条(審判の告知及び効力の発生等) |
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家事事件手続法第86条(即時抗告期間) |
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論理的も何も、条文を順番に見ていくだけですが、表にして見比べてみると・・・
「後見」と「保佐・補助」とで異なるのが分かります。
後見では、「ご本人」が告知の対象外になっているのです。
その結果、ご本人が告知を受けた日は、審判確定日を考えるうえで、考慮する必要がないことになります。
後見開始審判 | 保佐開始審判 | 補助開始審判 | |
正 式 に 告 知 さ れ る 者 |
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通 知 だ け の 者 |
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なし | なし |
即 時 抗 告 で き る 者 【1】 |
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即 時 抗 告 期 間 |
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▼ | ▼ | ▼ | |
審 判 確 定 日 |
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【1】後見開始決定がなされたことに対する異議(即時抗告)は可能ですが、
後見人の人選への異議(即時抗告)は認められません。
【2】被保佐人、被補助人には「正式に告知」されるのに対して、成年被後見人に対しては「通知だけ」に留まるのが、留意点です。これにより審判確定日が異なります。
すなわち、保佐・補助の場合には、「ご本人が告知を受け取った日」又は「(保佐人若しくは補助人の)候補者が告知を受け取った日」の遅い方から2週間です。
一方、後見の場合には「後見人候補者が告知を受け取った日」から2週間となり、ご本人が通知を受け取った日は関係がありません。
成年後見開始等の審判は、家事事件手続法に従ってなされますので、まずは家事事件手続法をチェックします。
家事事件手続法第34条(期日及び期間) |
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家事事件手続法第34条第4項で民事訴訟法を参照していますので、次は民事訴訟法をチェックします。
民事訴訟法第95条(期間の計算) |
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民事訴訟法第95条第1項で民法を参照していますので、さらに民法をチェックします。
民法は第1編総則に第6章として期間の計算方法を定めています。
民法第138条(期間の計算の通則) | |
期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。 | |
民法第139条(期間の起算) |
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時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。 | |
民法第140条 | |
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。 | |
民法第141条(期間の満了) | |
前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。 | |
民法第142条 | |
期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。→民訴95条3項は民法142条の特別法なので、民訴95条3項に従います。 | |
民法第143条(暦による期間の計算) | |
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国民の祝日に関する法律第2条 |
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「国民の祝日」を次のように定める。
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国民の祝日に関する法律第3条 | |
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具体的な事例に当てはめて、計算してみましょう。
日付 | 出来事 |
R5.9.15(金) |
審判の告知を受けとった日。 2人以上が審判の告知を受けるときは最後の人が告知を受けとった日(家事123)。 |
R5.9.16(土) |
初日不算入(家事34→民訴95→民140)。 9/16の午前0時が期間計算の始期。 |
R5.9.29(金) |
2週間の末日。期間満了日。 9/29の24時で即時公告できる期間が満了。 期間の末日は金曜日なので民訴95条は不適用。 |
R5.9.30(土) |
期間満了日の翌日(家事74Ⅳ)午前0時で審判確定。 |
以下、審判を受け取った日を一日ずつ、ずらしてみます。
面白いことが分かりますよ。
日付 | 出来事 |
R5.9.16(土) |
審判の告知を受けとった日。 2人以上が審判の告知を受けるときは最後の人が告知を受けとった日(家事123)。 |
R5.9.17(日) |
初日不算入(家事34→民訴95→民140)。 9/17の午前0時が期間計算の始期。 |
R5.9.30(土) |
2週間の末日。期間満了日にみえますが・・・ 9/30は土曜日なので即時公告期間は満了せず翌日に繰り越し(家事34→民訴95Ⅲ) |
R5.10.1(日) |
10/1は日曜日なので即時抗告期間は満了せず翌日に繰り越し(家事34→民訴95Ⅲ) |
R5.10.2(月) |
10/2の24時で即時抗告期間が満了 |
R5.10.3(火) |
期間満了日の翌日(家事74Ⅳ)午前0時で審判確定 |
日付 | 出来事 |
R5.9.17(日) |
審判の告知を受けとった日。 2人以上が審判の告知を受けるときは最後の人が告知を受けとった日(家事123)。 |
R5.9.18(月) |
初日不算入(家事34→民訴95→民140)。 9/18の午前0時が期間計算の始期。 |
R5.10.1(日) |
2週間の末日。期間満了日に見えますが・・・ 10/1は日曜日なので即時抗告期間は満了せず翌日に繰り越し(家事34→民訴95Ⅲ) |
R5.10.2(月) |
10/2の24時で即時抗告期間が満了 |
R5.10.3(火) |
期間満了日の翌日(家事74Ⅳ)午前0時で審判確定 |
日付 | 出来事 |
R5.9.18 (月・祝日) |
審判の告知を受けとった日。 2人以上が審判の告知を受けるときは最後の人が告知を受けとった日(家事123)。 |
R5.9.19(火) |
初日不算入(家事34→民訴95→民140)。 9/19の午前0時が期間計算の始期。 |
R5.10.2(月) |
2週間の末日。期間満了日。 月曜日なので民法142条は不適用。 10/2の24時で即時公告できる期間が満了。 |
R5.10.3(火) |
期間満了日の翌日(家事74Ⅳ)午前0時で審判確定。 |
特別送達は「土曜日受け取っても、翌月曜日に受け取っても審判確定の日は同じ」ということです。
早く確定させたうえ、早く執務を開始しようとしていた真面目な専門職後見人の皆様、土曜日に受け取っても早くなりません。