「親族」+「専門職」の複数後見人【事例紹介(前編)】


コラム「『親族』+『専門職』複数後見のススメ」で、複数後見人のメリットをご紹介しましたが、イメージをつかみ易いように架空の事例で流れを見てみましょう。

【事例】

Cは重度の知的障害者でグループホームで生活しています。Cの兄弟は、A・B・C・Dの4人兄弟で、とても仲が良い兄弟です。全員成年に達しており、AとBは自分の家庭を築き、Dは独身で海外赴任中です。先月、父親のXが死亡しました。母親のYは5年前に他界しています。したがって、Xの相続人は4人の子供たちです。Xの相続財産は、自宅の不動産(土地・建物)と預金の100万円だけでした。自宅に居住したい者はなく、A・B・Dの話し合いの結果、不動産を売却して売却代金と100万円を4等分するのがいいのではないかとなりました。

しかし、調べてみると、遺産分割をするにも、相続財産の不動産を売却するにもCの意思表示が必要であることがわかりました。

そこで、Aは、近所を流れる川のほとりにある司法書士事務所へ相談に行きました。事務所に行くと背が低いのに高野という名前の人物が出てきました。

司法書士髙野

状況はわかりました。いくつか質問をさせてください。  

  はい。どうぞ。

Aさん


これまでのCさんの財産管理は、どなたがされていたのですか?  

 

親父が元気なうちは親父がやっていましたけど、

親父が数年前に病気になってからは私がやっています。


なるほど。今後もAさんが支援をお続けになる予定ですか?  

  そうですね。Bは他県に住んでいますし、Dは海外在住ですからね。私はCのグループホームにも近いですし、実際にやってきたのでね。Cはかわいいやつですし、ほっとくことはできないです。

他のご兄弟は、AさんがCさんの財産を管理することに反対されていない感じですか?  

  反対?反対なんかしていません。

それよりも、これからも頼むと言われてます。

私が長男ですし。

今どき珍しいかもしれませんけど、兄弟全員、仲がいいんですよ。

もちろんCも含めてです。

Dだって日本に戻ってくれば必ずCの顔を見に行くくらいです。


そうですか。それはいいですね。相続財産の分け方も4等分ということでA・B・Dさんが納得していて、不動産を売却して現金で分けようということですね。  

  そうです。ただ、遺産分割がどうとか、売る前に登記がどうとか、そもそも後見人が必要だとか、いろいろ周りに言われまして、どうしたものかと思っていたところ、川沿いを散歩しているときに見かけた看板を思い出してここに来たのです。

ありがとうございます。私からのご提案は、このようなものです。お話を聞く限り、遺産分割や売却するためにはCさんに成年後見人が必要と思われます。ご家族の状況的にはAさんが後見人になるのが良さそうですね。  

  ええ、私もそう思っていました。そうなるでしょうね。

ただ、AさんはCさんと共に相続人なので、Aさんが後見人になるといわゆる利益相反という状態になります。  

  利益相反・・・。何となく聞いたことはあります。

そうなると、Aさんだけを後見人候補者として後見開始の申立てをした場合、第三者の弁護士や司法書士が就任する可能性があります。うまくAさんが選任されたとしても、監督人に弁護士や司法書士が就任する可能性がやはりありますね。  

  そうなんですか・・・

東京家裁は、親族後見人候補者がいる場合でも弁護士・司法書士が選任されるかもしれないケースとして、遺産分割のためとか不動産売却のための後見開始の申立てを例に挙げています。  

  家族内は全員私がやることに賛成してくれると思いますし、4等分の遺産分割なら問題ないと思うのですが?

はい、お気持ちはよくわかります。ですが、家裁の運用というのも現実です。そこで、こういうケースでよくやるのは、私とAさんが一緒に後見人になることです。複数後見なんて言い方します。  

  複数後見?

はい。後見人が複数選ばれるということです。  

  はぁ。でも、そうなると先生には報酬がかかるでしょう?

ごめんなさい。それは発生します。  

  Cはまだ50代ですから、今後、一生、先生に報酬をお支払いし続けたら破産ですよ(笑)無理無理。

そうですよね。だから、私は課題が解決したら辞任するんです。  

  え?辞任?後見人て辞任できるんですか?調べたら辞任できないって書いてありましたよ?

ええ。原則は、できません。ただし、正当な事由があれば辞任は可能です。家裁の許可は必要ですけどね。

このようなケースでは、申立ての時からそのストーリーを全部明らかにして申立てをしています。家族的にはAさんが適任、誰も反対していない、実際に支援してきた、でも利益相反になる、不動産売却もある、だから専門職との複数後見を使う、専門職は課題解決後に辞任する。大まかに言うとこのようなストーリーを書いてしまいます。

 

  それが書いてあればOKなのですか?

いえ、そうではありません。家裁にも知っておいてもらう程度のことです。そのうえで、そのとおりに順調に進め、なおかつ、『Aさんの後見業務も問題ないです、もうこれ以上私がいる必要がありません、もともと家族は全員Aさんにやってほしかたのです、私も皆さんと接した結果そうあるべきだと思いました、なので私は辞任したいと思いますので許可してください。』みたいな主張を家裁に伝えます。そうすると家裁的にも、『なるほど、最初の目論見どおり課題解決が順調に行って、親族後見人が一人でやっていけそうで、家族も望んでいるのか、ふむふむ』となるわけですね。  

  本当にそんなにうまくいくのですか?

はい、これまでも何件か同じように進めて辞任しています。

もちろん嘘を書くわけにはいかないので、後見業務を一緒にやっていくなかで、辞任すべきではないと判断したら、辞任はしませんけれども。

 

  例えば?

例えば・・・Aさんが怪しいとか・・・!?(笑)  

  はははは、それは確かに辞任しちゃダメだね!

あとは、想定外のことが起きてしまって辞任できなくなってしまったケースとかもあります。守秘義務の関係で具体的にはお話しできないのですが。  

  ふむ。時間的にはどれくらいかな?

そうですね、Cさんのケースは皆さん協力してくれそうですし、1年以内に遺産分割と不動産の売却が可能と思います。不動産の売却をすると、翌年の確定申告までお付き合いすることが多いですね。  

  あ、なるほど、確定申告しないとね。そうか。

なかには信頼をしていただいたようで、課題が解決して辞任する予定だったんですけど、そのままいてよと言ってもらえることもありました。  

  何となくわかってきたよ。他に注意点は?

この記事の執筆者


司法書士 髙野守道

川のほとり司法書士事務所

平成28年司法書士登録

葛飾生まれ、葛飾育ち、葛飾在住、事務所も葛飾

 

開業当初から、世の中の「困った」を一つでも多く解消すること、軽減させることを念頭に、先義後利の精神で今日も駆けずり回っている。

義理と人情溢れる下町の頼りになる司法書士になれたらいいな、なれるといいな。



人気の関連ページ