お子様のいない方が増えるにつれ、兄弟姉妹ではなく、第三者(個人または団体)に遺産を寄付したいとおっしゃる方が増えてきた印象があります。
このうち特に問題になりやすい『第三者に不動産を遺贈するとき注意すべき点』について、ご説明します。
もくじ | |
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名著「税理士・公認会計士・弁護士関根稔〔著〕/相続の話をしよう/財経詳報社/R2/90頁」に、この問題を考えるのに最適な設問がありました。
【設問】
AがBに対して、次の価格の不動産を贈与する場合、A・Bがそれぞれ個人であるとき、法人であるとき課税関係はどうなるでしょうか?価格はそれぞれ次のとおりであったとします。
【正解】は次のとおりです。
贈与者A | 受贈者B | |||||
税金名 | 課税価格 | 税金名 | 課税価格 | |||
個人A | 非課税 | 0 | → | 個人B | 贈与税(相続税) | 3 |
個人A | みなし譲渡所得税 | 5-1=4 | → | 法人B | 法人税【1】 | 5 |
法人A | 法人税 | 5-1=4 | → | 個人B | 所得税 | 5 |
法人A | 法人税 | 5-1=4 | → | 法人B | 法人税 | 5 |
【1】同族法人の場合、株主に対する「みなし贈与」となる。すなわち、同族法人が贈与(遺贈)を受けた場合、株価が増加し、株主はその分の財産を贈与をされたものとみなされます(相続税法9)。
ヤヤコシイですよね。
ただし、今回は個人が、相続人以外の第三者(個人又は法人)に対して、遺贈する場合ですので、関係するのは表の上半分(下に抜粋した部分)だけです。
贈与者A | 受贈者B | |||||
税金名 | 課税価格 | 税金名 | 課税価格 | |||
個人A | 非課税 | 0 | → | 個人B | 贈与税(相続税) | 3 |
個人A | みなし譲渡所得税 | 5-1=4 | → | 法人B | 法人税 | 5 |
もう少し詳しく見ていきましょう。
相続が発生した場合に、発生する税金の種類は次のとおりです。
これらの税金は、相続人以外の第三者に不動産を遺贈した場合には、どうなるのでしょうか?
『不動産を遺贈するときに注意すべき点』を懇意の税理士さんに詳しく教えていただきました。
について、下表のような場合分けが必要です。
法定相続人が・・・ | ||
いる場合 | いない場合 | |
所得税の準確定申告義務 |
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譲渡所得税
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⑴ 受遺者が「法人」の場合
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⑵ 受遺者が「相続人以外の個人」の場合
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相続税
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⑴ 相続税の基礎控除額は 3000万円+600万円×法定相続人数 |
⑴ 相続税の基礎控除額は3000万円のみ。 |
⑵ 受遺者が「法人」の場合
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⑶ 受遺者が「相続人以外の個人」の場合
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【1】所得税の課税では、路線価を利用できない。
【2】実質所得者課税の原則(所得税法12、法人税法11、地方税法24の2の2)の適用があるかは事案による。
【3】法人税の課税では、路線価を利用できない。
次は、税金とは全く異なるお話しです。
遺産を受け取った当事者が、紛争(遺留分侵害額請求)に巻き込まれる可能性についてです。
法定相続人が・・・ | ||
いる場合 | いない場合 | |
遺留分侵害額請求 |
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遺留分侵害額請求について詳しく知りたい方は、記事「遺留分侵害額請求」をご参照ください。
遺留分対策について詳しく知りたい方は、記事「遺留分対策」、記事「遺留分放棄の許可」や記事「生命保険の活用」をご参照ください。
相続人に配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属がある場合には、これらの方は遺留分を有しています。全ての財産を相続人以外の個人や団体に渡してしまうと、遺産を受け取った個人や団体が、相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があるのです。
したがって、遺留分権利者がいる場合には、対策が必要です。対策方法は大きく分けて次の3つです。
相続人が兄弟姉妹だけの場合には、兄弟姉妹は遺留分を有していませんので、心配ありません。
相続人が兄弟姉妹だけの場合には、兄弟姉妹は遺留分を有していませんので、心配ありません。
これまで見てきたとおり、不動産の遺贈を受ける際には
があるため、不動産のままでは遺産を受け取ってくれない個人や団体が多くあります。
それでは、不動産を第三者に渡したいという場合にはどうすれば良いのでしょうか?!
不動産を第三者に受け取ってもらうための工夫は色々あります。
まず一つは、遺言書を工夫することです。
不動産ではなく、不動産を売却した現金を渡すという方法があります。
これは清算してから渡すので「清算型遺贈」といわれる方法です。
例えば、遺言書には次のとおりの文言を使います。
別紙遺産目録記載の全ての財産を換価し、一般社団法人○○に遺贈する。 |
さらに相続しない相続人に税負担だけいかないように、次の文言を加えておいても良いでしょう。
前条の遺贈する財産は、次の金員を控除した後の財産とする。
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(参照:税理士・公認会計士・弁護士関根稔[著]/相続の話をしよう/財形詳報社/令和2年/32頁以下)
同書95頁の文例も参考になります。
清算型遺贈では、一時的に相続人名義に相続登記をする必要があります。
相続人名義に登記を入れてしまいますと、当該相続人に不動産を処分される可能性があります。
そこで、これを防ぐためには「遺言で遺言執行者を選任しておく」ことが必要です。
遺言執行者が就任すると、相続人には「遺言に反する処分を禁止する効力」が発生します(民1013)。
第三者への遺贈は「法律や税金が絡み合い」とても難しいことがお分かりいただけたと思います。
これらの問題をすべて解決し、『確実に最後の希望を叶える』ために、是非、遺言書作成と遺言執行を司法書士にお任せいただきたいと思います。